第7話 〜最終試験〜
こんにちは、十織ミトです。
今回は二話に分けて書く予定なので、よろしくです。
日が昇り、翌日を迎えた今日、俺とシロナはある程度の距離をとり向かい合って立って居た。
昨日は一日休養を挟んだことで、疲労も無く緊張感もほどほどで、万全な状態でポテンシャルを発揮できる状態になっている。
俺達がいる場所はシロナの権能である創造の力によって造り出した空間、もしくは他の世界とも呼べるこの世には存在しない場所だ。
足元に広がっているのは、緑色の絨毯の様に広がる草原。疎らに配置された大小様々な岩。
遠方に目を向ければ、山も海もある。
さらにその向こうにも何かある様に見えた。
まさしく、極小の世界のようだ。
しかし、この世界には生物は一匹たりとも生存していない。
まさしく、俺達だけが取り残された二人だけの世界だ。
どうして俺達がこんな所に居るのかというと、昨日の朝に言い渡された、俺の鍛練の終了宣言。それと同時に言われた、本日の最終試験。
試験内容は、当日になるまで教えてもらうことが出来ず未だに何をするのか、何をもって試験とするのかを俺は知らされていない。
だが、この状況から見て、まさかシロナとの戦闘なのかと考えてしまう。
そんな予想をたては身体が、せっかく抜いていた緊張感を呼び戻していまう。
「それでは、これより拓斗さんの訓練期間の終了とする最終試験の内容を発表します」
シロナが俺の準備が整ったのを確認し、そう言った。
「拓斗さんにはこれより、私が創造によって産み出した神獣五体と本気で戦っていただきます」
発表された内容は驚愕のものだった。
今までに何度か魔物との戦闘や迷宮、ダンジョンと呼ばれる場所に赴き挑戦、踏破してきた事はあるが神獣との戦闘は未だ未経験。
人間との戦闘も未だにした事は無いが、シロナが創った人間に近い思考を持ち合わせる人形との戦闘なら何度もした事がある。
人間に近い思考、所謂AIのような物を持つ事で人間の様な狡猾性を発揮する事ができる。
だが、神獣は違う。
神獣とは、その名の通り神に近しい存在に登り詰めた、もしくは神に連なる存在をさす。そう言われる者達は、総じて手強く厄介な力を持つのだ。
その地位に登り詰めるのは神が世界を見守る為に創り出された者か獣や魔物の中でも一握りのものだけ。シロナの様な神に産み出された者はもとから神獣の位置にいるが、獣や魔物は長年生き続けた末に人々から神聖視され人に近い思考力を得るに至る。
その神獣と本気で戦えと言うのだ。
しかも、それが五体。
「えっ、いやいや。シロナ、俺は魔物となら何度も戦った事はあるが、神獣は流石にないぞ!?」
「だからです。ここから出て、外の世界を回れば必ず経験したことの無い出来事や、厄介事が付き物。ですから、訓練の最後にこの世界で神である私や、私の眷属達の六神以外で力や能力では一番厄介な存在と戦っていただき、この世の理不尽を経験してもらいます」
確かに、俺が知っているのは、このアーテラルに来る前の地球で住んでいた街から一定の範囲だけだ。それでさえ、いくつもの理不尽を経験した事はある。
俺の両親が死んだのも、妹と引き離されたのもその内に含まれる。
アーテラルに至っては、この世界で一年間を過ごしたあの家と度々シロナに連れて行かれた魔物の生息圏くらいのものだ。
その事に思いいたり、俺は―――――――
「…………そう、だな。ああ、そうだった。この世界は理不尽が一杯だ。なら、ここで逃げるわけにはいかないな」
「その通りです。この世の全てが、我々神の手のひらの上にあるなどということわあり得ません。神で全知全能なのはほんの一握りの僅かな数のみ。それは、一柱で破壊と創造、進歩と退廃を担える者だけなのです。だから――――」
シロナは語る。神にも、絶対は無いと。
自分もまた、完全では無い。
だから、俺が神獣を倒せない理由も、また無い。
「では、今から呼び出しますね。ああ、あとこの試験の間は拓斗さんは異能を使ってはいけませんからね」
「分かってる」
俺は魔術と武術の鍛練が始まったのと同時期にシロナから異能の使用を禁止されており、封印はされていないから今までは空いた時間以外では一度も使った事が無い。
シロナが空に目を向けると、先程まで青く澄みきり晴れ渡っていた空に――――一つの渦が出現した。
その様子はまるで、空に穴が空き始めているかのようだった。
渦は次第に大きくなり、さらにはその数も二つ、三つと増えていき、最終的には五つ。
そこから五体の神獣が姿を顕す。
「あの神獣達が拓斗さんの相手です」
姿を顕した神獣達の姿は、神々しいの一言につきた。
一体目は、深紅と黄金が完璧な比率でその身を彩った鋭い鉤爪を持つ巨鳥。その姿は日本の物語に出てくる鳳凰のようだった。
翼を広げた大きさは五、六メトス(メートル)ありそうだ。
その姿から、なかなかの機動力がありそうに思えた。
二体目は、蒼窮の巨躯と純白の翼を持つ大狼。
翼だけども軽く三、四メトスはありそうで、体長はそれ以上の大きさを誇っている。
こちらも軽快で俊敏に動き回る事が出来るのが分かる。
三体目は、一言で言うなら―――巨大な亀だった。現れた五体の神獣の中では一番巨大だ。
それを地球の人間が見たら「神獣って言うか怪獣じゃねえか!? しかも、ほとんどガ◯ラじゃん!!」と言うのは確実だ。
しかし、普通の亀と違う所もあった。一目で簡単には砕くことが出来ないであろう固そうな甲羅。
すでにある頭部とは別に、本来は尾が有るべき場所から二つの頭部も見られた。
四体目は、三つの頭部を持つ蛇。
漆黒の身体に白銀の幾何学模様が刻まれ、背と三つの頭部に巨大な魔方陣がある。
そこから察するに、こいつはサポート主体か後方からの攻撃を主に行動する相手だろう。
最後に現れた五体目は、完全な獣の姿をしていなかった。確かに獣の要素は存在したが、これは―――――
「人形の、竜?」
そこには地球での西洋で語られる西洋竜を人形に落とし込み、本来の大きさがどれ程かは、わからないが人間に近い大きさにまで縮めた様な姿だった。
五体の神獣の中で一番雄壮で、優美さを纏っている。
間違い無く、この五体の中でこいつが一番の強敵。
「それではこれより、拓斗さんの訓練期間最終試験を行います。―――――始め!!」
シロナの開始宣言と同時に俺は自分の身体を魔力強化し構えを取るが
「っ!? なっ!」
すでに目の前に蒼の巨狼が迫り、その巨爪を振り切る。
「くっ!」
瞬時にその場から離れるが、その先には―――深紅の鳳が待ち構えていた。
「くそっ! いきなりかよ!?」
今の狼の攻撃が俺の隙を作るための虚撃だったのだと気付く。
鳳凰が放ってきた深紅と黄金が混ざった炎が俺に当たる寸前で何とか俺は魔術を使用した。
「【水流壁】!!」
突き出した左手の先に俺の身体が完全に隠れる程の水の壁が出現し、鳳凰の炎を防ぐが、それによって起こった大量の水蒸気により視界が塞がれた事で、「しまったっ!」と焦り直ぐに水蒸気の霧を吹き散らそうとしたが、その前に横からの衝撃によって吹き飛ばされた。
「……ガハッ!」
数度バウンドし転がっていき、離れた場所でようやく止まる。
「グヘッ………はぁ………はぁ………。まさか、あの連携が全て虚撃だったなんてな」
鈍く痛む身体に顔をしかめるが、気にしないようにして立ち上がる。
まさか魔力強化をした上から、これ程の衝撃を受けるとは思わず、一瞬だけ息が詰まってしまった。
さっきの衝撃が何かは、その姿が見えなかった。しかしこの隙に、また襲われたらたまったもんじゃないと思っていたが、一向に襲って来ない事に不思議に思い視線を向けると、神獣達は俺を警戒しているが、その場から動くことは無かった。
「何だ? どうしたんだ?」
不思議に思ったが、攻撃して来ないのならこの好機に態勢を立て直す。
「さすがに神獣なだけあって、強いな。まだ二体か三体くらいしか相手してないなのに、これはキツイ」
まだ始まったばかりだが、すでに何度かヒヤッとする場面、死を幻視しそうな場面があった。今までに何度か魔物との戦闘を経験したが、そんな事は一度も無い。
しかし、その感覚には覚えがあった。
それは、この世界に来る原因となったあの魔物との戦闘。後で知ったが、あの魔物の名前は『デル・キマイラ』と言うらしく、魔物のランクとしては上級寄りの中級程度らしい。
あの時は特別な力何て無く、何度死にそうになった事か覚えていないが、今もその時と似た感覚に襲われている。
しかし、今はあの時とは違う。
「……………ふぅ〜」
一度深く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
確かにあの時と似ているが、あの時に無く後になって得た力がある。
それは異能であり、魔術であり、我流ではあるが武術も。
しかし、一番はやっぱり―――――心の強さだ。つまりは、覚悟。
これが最終試験だというのだから、全力でやっても良いという事だ。
俺がその考えを持つと、知らず知らずの内に笑っていた。
「なら、アレを試すには丁度良いな」
俺はそう意気込み、身体の奥から力を汲み上げ、それを身体の隅々まで循環させ魔術を組み立てる。
これから始まるのは、五体の神獣と、最強の異能使いにして魔術師である俺の本気の真剣勝負。
「いくぞ」