第68話 〜和解します〜
お久しぶりです。
十織ミトです。
久しぶりの投稿となりました。
遅くなりすぎて申し訳ありません。
『A』クラスとの合同授業の翌日、俺は何時ものように百合華に「行ってきます」を言って、エルシャと一緒にコルーナ魔術学園に向かう。
学園までの道すがらは特にこれといった事は無かったのだが、校門を抜け校舎に向かっていると、周りから今まで感じていなかった数え切れ無い程の視線が俺達に向けられた。
俺はチラッとそちらに目を向けると、そこには何人もの生徒達が集まったグループが幾つもあり、その生徒達が俺達、特に俺に畏怖と畏敬を込めた視線で見てくる。
「何だ、いったい?」
俺はそんな視線を向けられるような事をした覚えも、見てくる生徒達にも見覚えが全く無かった。
それにどうやら、生徒同士で何か話しているみたいだが、ここからでは聞き取れないので、悪いとは思うが少し気になったので魔力で聴力を強化する。
すると、
「ねえ、あの人だよね?」
「ええ、聞いた話だと編入してきた生徒がやったって言ってたし」
(うん、一体何の話だ?)
「昨日の午後の授業中に感じた魔力のプレッシャー、凄かったよね」
(魔力のプレッシャー? ………あっ)
生徒の一人が言った『昨日』という単語と『魔力』という言葉で、彼らが何を話題にしているのか察することができた。
「うん。あれ感じてさ、危うく気絶しちゃいそうだったよ」
「オレなんか、速攻で意識飛んじまったよ」
「あたしはそこまでじゃなかったけど、腰が抜けて少しの間動けなかった」
(うわ~。やっちまったか?)
それを聞いて渋い顔になる。
隣を歩いていたエルシャが俺の顔を見て首を傾げる。
「どうしたんですか、そんな顔して?」
「いや、あそこで話している生徒達の会話を聞いてな」
今も話し込んでいる生徒達の方を指差して示す。
「何か、不快なことでも? でしたら私が」
エルシャはその会話が俺の気分を害するものだと感じたのか、眉間に皺を寄せて険しい顔をする。
「いや、そういうわけじゃなくて昨日の午後の合同授業の時に俺が『コレ』を外して魔力を発した影響が少なからず出ているみたいでな。少し申し訳なく感じていただけだ」
俺は手首に嵌めた腕輪『リミッターリング』を見せて言う。
「なるほど。そうでしたか」
それで、俺の気を害したものではないと分かったのか、エルシャは何時もの穏やかな表情に戻る。
俺達は校舎に入り、下駄箱で上履きに履き替え『S』クラスに向かうが、その道中もこちらを見てくる視線と話し声が聞こえてくるが、努めて気にしないようにする。
程なくして俺達は自分達のクラスに着き、扉を開ける。
するとさっきまで扉越しにも聞こえていた声が俺達が入ってくるとピタリと止まり、こちらを観察するような視線を向けてくる。
流石に、そういう視線を向けられるのはあまりいい気がしないので、少し威圧込みで俺は全員に言う。
「何か言いたいことがあるならはっきり言え。そんな眼を向けられていい気がする奴なんて居ないんだからな」
『『『『『…………………っ!』』』』』
ビクッと全員が方を震わせる。
全員の雰囲気が畏怖や畏敬、恐怖、嫉妬、他にも色々と混ざっているように思えるが大体はそんなところか。
そんなモノを向けられていい気はしないが、少しだけ待っていると、代表して一人の生徒が話し出す。
「………あ、あの」
「何だ」
「その………………すみませんでした!!」
「………は?」
突然謝られたことにどう返していいのか分からず、気の抜けた声を出す。
一体何を謝っているのだろう。
「それは、何に対しての謝罪だ?」
「そ、その…………編入してから今まで貴方が不快に感じるような扱いをしてしまったことに対してです」
「不快、ねぇ」
俺はこれまでのことを思い出し、確かに面倒ではあったが、そこまで気にしていなかったというのが本心だ。
だから、それに対して「ふう〜ん」とだけ返す。
「えっと、それだけですか?」
「それだけって?」
不思議に思い、首を傾げる。
「その、他にも言うことがあるのではないかと思いまして」
「他に言うことねぇ?」
数瞬考えるが、別にこれといったモノは思いつかなかった。
「別に?」
「べ、別にって」
「だって、そこまで気にしてなかったからな。てか、気にする必要も、理由もないし」
「私は、それなりに気に障る場面がありましたげどね」
横から少し不機嫌そうな声が聞こえた。
「エルシャは許さないのか?」
「別に、許さないとは言ってませんが、今後は控えてもらえるのでしたら構いません」
「だとさ」
俺達がそう言うと、全員が隣の生徒達と顔を見合わせて、全員が立ち上がり頭を下げる。
突然の行動に俺とエルシャは目を見開く。
「すみませんでした」
「「「「「「「「「「すみませんでした」」」」」」」」」」
「お、おう」
「は、はい」
こうして、俺達と『S』クラスは和解を成したのだった。
〜・・・〜 〜・・・〜
『S』クラスと和解した今日、俺達は朝から担任教師のハイリナからあることを伝えられていた。
「皆さん。まもなく我が『コルーナ魔術学園』を含む八大魔術学園で行われる『魔闘交流戦』が開催される時期となりました」
唐突にハイリナ先生から放たれた言葉に、クラス全員が見るからにやる気になり始めたのが分かった。しかも、チラチラと俺達、特に俺への視線が凄い向けられている。
だが、ここで一つ問題がある。
それは俺が、『魔闘交流戦』と言われるそれを知らないことだ。なので、俺は手を挙げる。
「ハイリナ先生、良いでしょうか?」
「ツガナシ君。何でしょう」
「俺は、その『魔闘交流戦』というのを全く知らないのですが、一体何をするものなんですか?」
「そうですね。『魔闘交流戦』は年に一回行われる八大魔術学園が各々の威信を掛けて戦う試合です」
ほう、つまり地球で言うところの、野球なんかの各校を交えた交流試合みたいなもんか。
まあ、此方のほうがその規模や出るであろう被害は上であるだろうが。
「そして、この交流戦は必ず六人のメンバーからなるチームを組んで参加します」
「なるほど。もし、人数が足らなければさんかできないのですか?」
「出来なくはありませんが、間違いなく敗戦は濃厚でしょう」
まあ、当然か。一人ひとりの戦力が拮抗している場合、モノを言うのは数なのだから。
「それで、他に聞きたいことはありますか?」
「いえ、ありがとうございます」
俺はそう言って先生の声に耳を傾ける。
「そう言うことですので、明後日から十日後までに組みたい人とチームを組み、それを職員室まで報告してください。そこで、チームに所属する生徒の名前とチーム名、リーダー及びサブリーダーを決めてもらいます」
ハイリナ先生からのある程度の取り決めを聞き、俺はチラッとエルシャの方を見ると向こうもこっちを見ていたので頷きあう。
「それでは、授業を始めます」
授業が粗方終わり、昼休みになったと同時に俺とエルシャのもとにクラスの生徒達が詰め掛けてきた。
「なあ、ツガナシ、シグナート。俺達とチームを組まないか?」
「待て待て、そっちより俺らと組もうぜ!」
「待った、そっちじゃなくて私達と組みましょう!」
「此方のほうが組みがいがあるから、一緒に組もうよ!」
俺達は全方位から勧誘の声がかかり、どうすればいいか戸惑ってしまう。
エルシもどうしたらいいのか分からないのか、俺に縋るような視線を向ける。
これはどうしたらいいのだろうか、悩むが一旦落ち着くために声を放つ。
「あ~、悪いんだが、今すぐにお前等と組む事を決めることはできない。だから、少し考えさせてくれないか」
今はこの台詞が精一杯だった。
だが、それでも自分達を売り込んでくるので、面倒になってきた俺はエルシャの手を取ってクラス全員に魔術を使う。
「『意識暗転』」
すると、今まで話しかけていた全員がまるで時が止まったかのように動きを止める。
「あの、タクトさん。皆さんは一体?」
「ああ、問題ない。こいつらの意識を一時的に切っているんだ」
「それって、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。少ししたら元に戻る」
そうですか、と安堵するエルシャ。
「そんなわけだから、俺らはゆっくりするとしよう」
「分かりました」




