第67話 〜ちょっとだけ、はっちゃけよう〜
お待たせしました。
お久しぶりです。十識ミトです。
最後に書いてから三ヶ月も経ってしまいましたね。
私としては、できるだけ早く出したかったのですが、なかなかいざ「書くぞ!」という感じにはならなかったものですから。
これは要するに、精神的に参ってしまっているのでは? と考えておる次第でして。
また、更新が少し遅れてしまうかもしれませんが、なにとぞ寛大な目で見ていただきたいと思いますので、よろしくおねがいします。
昼休憩を終え、向かったのは学園に隣接して建つ練技場。冒険者として活動している俺達が知っている物より少し小さいかな? と思えてしまうが、観客席があることから全体的な大きさとしては結構大きいかもしれない。
「確か、次は他クラスとの合同だっけ」
「はい。さっきの彼が言うにはそうでしょう」
俺達が話していると、続々と同じクラスのクラスメイトと全く面識の無い生徒達が入ってきた。
「よし、全員居るな。これから『S』及び『A』クラス合同での授業を始めるぞ」
最後に入ってきた担当教師と補佐役の教師が入ってきて指示を出す。
「今日お前たちにやってもらうのはオレたちが造るゴーレムと戦ってもらう」
生徒達はええ〜、と嫌そうな声と表情をする。
ゴーレムか、と俺は考える。ゴーレムは基本その動きが緩慢で耐久力が高く、属性によって対処が違う。
例えば、炎や光、闇を纏うゴーレムは核となる魔石が発見しづらい事から、まずはそれを見つける事から始める。
水や風、雷といったゴーレムは比較的核が見つけやすいが、常に核の位置が動くことで破壊が難しい。
そして、最もポピュラーな岩のゴーレムや、それに近い氷のゴーレムは核の位置が変わるわけでも無く、必ず身体の中心にあることから防御を抜けさえすれば、破壊は簡単だ。
そう、防御を抜けさえすれば。
岩や氷で出来たゴーレムは耐久力が他の物より頭一つ分は高く、砕けても次を砕くまでに砕けたところが再生してしまう。そんなゴーレムが時偶自然に現れる場合がある。
これらから、例えゴーレム討伐の依頼が出たとしても受けるような者はそこまで居ない、不人気討伐依頼となっている。
「それでは始めるぞ。大いなる大地よ、汝から生まれしは礫岩の尖兵、不屈の戦士なり、今ここに産声を上げよ【人形作成・地】」
担当と補佐役の教師が詠唱を唱えると八体の石でできた三、四メトスはある巨兵が生まれた。
「それでは、両クラスから四人ずつ出てコイツ等を壊せ。方法は問わん」
『S』クラスと『A』クラスからそれぞれ男女四人ずつ前に出て手を前に向ける。
「それでは、始め!」
さあ、お手並み拝見と行きますか。
〜・・・〜 〜・・・〜
「……………」
「……………」
俺と俺の横で見ているエルシャは終始無言でこれを見ていた。
何故なら、
「くそっ、いくら攻撃しても全く壊れねえぞ!?」
「いったい、どれだけ硬いんだよ!?」
がキンッ
「キャアッ」
「イッタ〜イ!」
「固すぎて、手がっ」
すでにほとんどの生徒が終わっているが、その度にこんな弱音を吐いて剣を落とすか、火力が足りず魔力不足で座り込むか。
だからこそ、俺等は内心で『『よっわ!?』』と叫ぶ。
俺は自分の力が異常チートであるからこの程度で負けはしない。エルシャも、俺が鍛えていることから、たかだか石ころ出できた人形程度壊すのは苦ではない。
「そこまで。最後はお前たちだ、全員前に出ろ」
ここまで、似たような終わり方をした生徒達は一同に『あ〜あ、またか』と凹んでいる。
呼ばれた俺とエルシャ、『A』クラスの残りの生徒達が前に出る。その中には昼休憩の時に俺達にイチャモンを付けてきたあの生徒も居る。
担当と補佐役は何度目かの同じ詠唱を唱え、ゴーレムを作り出す。
「それでは………」
「ちょっと待って下さい!」
「……ん? どうした?」
「その前に、そこの奴が付けている装飾品を外してもらいましょう」
ゼネリスは俺を見ながらそんなことを宣う。
「装飾品って、コレの事か?」
俺は左の手首に付けたシロナとアディー、ゾルドから貰った腕輪『リミッターリング』を振って示す。
「そのとおりだ。それは何かの魔術具なのだろう? なら、今すぐ外して授業を受けろ」
上から目線で偉そうな言い方で行ってくるが、こいつはさっきの教師の言葉を聞いていなかったのだろうか。
教師は、「ゴーレムを壊すのに方法は問わない」と言っていたのだが、こいつはそのことを忘れているのか、わざと言っているのか。まぁ、大方、俺の実力が魔術具だよりのものだと思いこんでいるからのものだろう。
教師の方をチラリと見れば、呆れたようにため息を吐き、何かを言おうとする前に俺は言う。
「なるほど。お前は俺がこの魔術具の腕輪で強くなっていると思っている訳か」
「そうだ。でなければ、貴様のような奴が『S』クラスになれる訳がないのだ」
『A』クラスからはゼネリスに同調するような声が上がり、『S』クラスからも多少のざわめきが起こる。
俺はその様に、はぁ、とため息を吐く。
「これはお前らが思っているような装着者を強化する様な効果はない。それどころか、逆に装着者の力を抑え込む効果がある。つまりは、これは俺の力を抑えるために使っているに過ぎないってことだ」
「はっ、そんな見え透いた嘘が通るか! さっさとはずせ!!」
今日何度目かのため息を吐く。呆れ、そして同時に、いい加減に辟易してきたので、ここいらで俺は自分の力を解放することを決めた。
「あっそ。後悔するなよ」
腕輪に触れ「解除解放」と唱える。
その瞬間、
ズドガアアアアアンンッッッッ
「「「「「「………………っっ!!!」」」」」」
腕輪が外されると同時に、俺の身体から凄まじいまでの魔力が吹き出した。
それは例えるなら嵐のように全てを薙ぎ払い、荒波のように全てを呑み込み、噴火のように身体の芯にまで響くような衝撃を齎した。
間近で受けた生徒達は腰を抜かし、恐怖から震え上がりガチガチと歯を鳴らす。
「これで理解したか? 俺の言葉が事実だって事が」
力を放出しながら周りを睥睨する。すると、その視線から逃れるように生徒だけでなく、教師までもが震え上がり縮みこむ。
俺は教師が創ったゴーレム全てに向けて魔術を放つ。
「【白光閃華】」
ゴーレムの周りに幾つもの光が瞬き、それがまるで光り輝く花びらのように見え、幻想的な光景に魅せる。
だが、それは見た目だけで、次の瞬間には、
ゴガンッ
「「「「「……………ゑっ?」」」」」
ゴーレム達が各パーツ毎に分解され破壊し尽くされていた。
俺は腕輪を嵌め直すと、今まで放たれていた魔力が嘘のように消え去る。
「言葉には気をつけろ。次はない」
〜・・・〜 〜・・・〜
どうにか平静を取り戻した教師と生徒達が授業を再開するが、その合間に俺のことをチラチラと覗き見てくる。その視線には、ありありと恐怖の色があった。
「そ、それでは、これにて授業を終了する。着替えて次の授業に行くように」
号令を受け、俺達は更衣室で着替える。
その間も俺を見てくる視線には不快感があったが、さっきの事があるから今は捨て置く。着替え終え、更衣室から出て近くの壁に寄り掛かりながら、エルシャが出てくるのを待つ。
その間に何人かは俺の前をそそくさと足速に通り過ぎていく。
数分くらい経ち、女子の更衣室の扉が開くと、中からエルシャが出てきた。
「あ、タクトさん。待っていてくれたんですか?」
「ああ」
俺達は並んで教室に向かう。
「………タクトさん」
「何だ?」
「タクトさんって、あんなに凄かったんですね」
「まあな」
俺は今の今まで、エルシャの前で本気を出したことがなかった。本気の本気で全力を出していたのは訓練時代だけで、今まではそんなことをしなくても事足りた。
だから驚いているのだろう。
自分が師事した俺がこんな力を持っていることに。
「エルシャは、俺が怖いか?」
「…………えっ?」
俺は、ふと尋ねてみた。
さっきまで居た生徒達や教師は俺に恐怖の籠もった視線を向けていた。
しかし、それは必然なものだ。人間は、自分が理解できないものに疑念や恐怖を抱く。そしてあいつらは、俺の力を間近で見たことで、そうなったのだから。
だから聞きたかった。
エルシャは俺のすぐ横に居た。故に、どう感じたのかを。
「お前は、俺のすぐ横に居た。他のあいつら以上に俺の力に当てられたことだろうからな。だから聞きたい。………お前は、俺が怖いか」
「……………………」
エルシャは足を止め、顔を俯かせる。俺も止まり、エルシャに振り向く。
少しして、ポツリと溢す。
「確かに、怖かったです」
「………っ」
一瞬、息が詰まる気がした。しかし、それをさとられないように平静を装う。
「あんな力を間近で受けて、その瞬間、心臓が握り潰される様な感覚に襲われました」
「……………」
「私が生きてきた中で、ダントツで死を覚悟しました。…………でも」
「でも?」
聞き返すと、俯かせていた顔を上げ、俺の目を真正面から見返してくる。
「私は知っています。タクトさんが優しい人だってことは。この力は、私には向かないって、確信してましたから」
それは俺に対する信頼からなのか、エルシャが言うように、確信なのかは分からない。
しかし、それでも解ることはあった。
「ふっ、そうか。なら、それに応えないとな」
「はい。これからも、頼りにしてますね。タクトさん」




