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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第66話 〜クハリス神光国〜

 拓斗に敵対心を持たれているクハリス神光国はその頃、召喚した者たちに関しての会議をしていた。


「それで、ビュートよ。勇者様達の様子はどうだ?」


 そこは円形の会議場で、集められているのは国の運営に携わる貴族とクハリス神聖国を起点として波及(はきゅう)している宗教、星光教の教皇を含めた高位司祭や司教、更には枢機卿であった。

 そこな場所で声をかけたのは、クハリス神聖国国王ディレイリート・クバイル・クハイリンスであり、声をかけられてのはその国王ディレイリートの補佐をしている宰相であるビュート・ナシエンスだ。

 国王のディレイリートは今年で齢五十を超え、髪も髭も白に染まりかけている。背も平均的でけして筋肉質でもない平凡極まりない。実際、彼は戦闘はそこそこ出来わするが、そこまで秀でているわけではない。

 ビュート・ナシエンスは口元にだけ髭を残し、それを外側に向かってカールしている目つきの悪い陰湿な感じの男であった。


「はっ。召喚されました勇者様達ですが、現在は我が国の学園に通いながらこの国と世界情勢に対しての認識を深めている次第でございます」

「ふむ。それで、戦闘の面はどうだ」

「元が戦闘経験が無く、平和な世界の出身であるからか、最初は戸惑っていましたが、現在ではそれも多少なりとも治まり、一生懸命に鍛えています」


 ビュートは手元にある資料と、部下から確認が取れた情報を提示する。


「ふむ。そうか。それは、何よりだ」


 ディレイリート達は報告に気を良くし頷く。


「それにしても、彼らの適性と適応力は素晴らしいですな」


 そう言うのは、ディレイリートの向かい側に座っているディレイリートよりさらに年老いた男だった。

 彼こそ、星光教教皇シュバイル三一世である。

 シュバイル三一世は、見た目は好々爺とした雰囲気を醸し出した人物ではあるが、数多の教徒を従えている事から指導者としては一定の素質はあると思われる。


「最初は戦ったことなんて無いから無理だと言われた時はどうしたものかと思いましたが、これならそう遠くない内に魔族討伐に向かわせてもよろしいかと思いますな」


 教皇の言葉に何人かは頷いたが、残りの数人はそうではなく思考を巡らせている。

 その内の一人が話し出す。


「確かに、彼らは戦いから時が経った平和な世界からやって来ました。それを鑑みれば、確かに彼らは戦うことに高い適性を有していることでしょう。しかし、未だ戦うことを覚えて一年間と少しです。ここは、もう少し慎重になるべきでは?」


 そう言うのは勇者達の教育係を務めている魔術師団の者だった。

 それに追従するかのように軍部の者も声を上げる。


(しか)り。彼の者達は、確かにここ一年で騎士達や魔術師団の者たちを超える成長速度を持って強くなっている。現在では、それぞれの上位者でもなければ相手にならない。しかし、彼の者達には決定的に足りないものがある」

「戦闘経験、でしょ?」

「然り」


 それを聞いた貴族や教会は、ならば魔物と戦わせて積ませれば良いではないかと言うが、そんな簡単なものではないのだ。


「そうは言いますが、経験を積ませるのはそう簡単なものではないのです。初の戦闘では恐怖が勝り、魔物とはいえ生き物の命を奪う事に慣れなくてはなりません」

「数をこなせるのはどうだ?」

「そんな事をしてしまえば、彼の者達の心が壊れてしまい、使い物にならなくなってしまいます」


 貴族や教会側はそう言われてしまえば、無理強いさせる事はできないと考える。

 しかし何人かは、使えなくなったのなら次の勇者を喚べば良いではないかと考えている。


「それで、如何でしょうか? もう少しだけ様子見をしみては」

「ふむ」


 そう言ってディレイリートに奏上すると、ディレイリートは数瞬瞑目し思考を巡らせ、目を開く。


「良かろう。勇者達に関してはソナタ等に一任する」

「「御意」」





 〜・・・〜      〜・・・〜



 そこは様々な機材が置かれた部屋で、五人の男女が座って話をしていた。


「これで、少しは猶予が得られたか」

「そうね」

「まさか、こんな事を強行するとはあの時は思いもしなかった」

「仕方ないわ。彼らだって、現状の打破を願っている事でしょうからね」

「然り。だが、それでも我らがした事は立派な誘拐と変わらない犯罪だ」


 そこに居たのは会議に出席していた勇者達の教育係を務めるために選ばれた軍部に所属する男性、ダニスと魔術師団に所属する女性ナタリア、そして高位貴族に名を連ねるメギストス家当主、サルバトス・クリエル・メギストス伯爵。

 そこに教会に所属するリスマス枢機卿とマヘンドラ司教も居る。

 彼等には、そこまでの接点は無く、もともとは名前を知っているか顔を少し合わせるくらいでしか無かったが、今回の事で彼らはその関係を大きく変えることになった。

 それこそ、ここにいる者達は全員が勇者召喚に()()()()()者達はなのだから。


「それで、そちらの方はどうだ。何か、わかったか?」

「いいえ。なにぶん、あの術式は古すぎて深くは探ることができなかったわ」

「こちらも同じだ。教会に所蔵されている蔵書にはいくつかは勇者に関する物は見つかったが、帰還に関してのものは見つかっていない」

「わたしの方もだな。いろいろなツテを当たっては見たが、今の所収穫はない」

「ふむ」


 方々から聞かされる内容に、頭を悩ませるダニス。


「どうにかして、彼らを元の世界に返してやりたいのだが、その為の方法が無いとなると」

「帰還の為の魔術を新しく作るしかないということね」

「しかし、新たな魔術の創造は困難を極めます。それも、異世界に送り返す何て」


 マヘンドラ司教の言葉に彼らは押し黙るしかなかった。


「仕方が無いとはいえ、こちらの世界の事情に関係の無い彼らを巻き込んでしまった事には変わりなく、心苦しいな」

「そうですね」


 頭を悩ませていると、ナタリアが何かを思いついたかのように声を上げる。


「あっ、そうだわ!? 聖女様ならどうかしら?」

「聖女様だと?」

「ええ」

「何故、ここで聖女様が出てくる」


 ダニスは首を傾げる。


「聖女様って、確か創造神シェルヴェローナ様と交信が出来たはずよね。そのお力を借りて、何かしらのヒントでも貰えないかしら」

「「「「!?」」」」


 彼らにとってはそれは福音でもあった。

 この世界では神の声を聞くことができる者がいる。

 それが聖女と呼ばれる存在。

 神の声を聴ける者は誰しもがなれる訳ではなく、一定の基準を超えなくてはなれないのだ。


「た、確かに、聖女様なら創造神様にお尋ね出来るだろうが、聖女様はある意味教皇様とは別で特別なのだぞ」

「そうですよ。だから、謁見を取り付けるのにどれだけの時間がかかるか」


 教会に属する彼らはそれがどれほど恐れ多い事か自覚している。しかし同時に、ナタリアの言っていることにも一理あるとさえ思っている。


「そうね。確かに時間はかかるかも知れないけど、やらないよりはマシではないかしら」


 そう宣言するナタリアに全員が押し黙る様に黙考する。

 その中で、最初に思考の海から浮上したのはサルバトス伯爵だった。


「そうだな。出来ることはやっておくに越したことはないか」

「ですね」

「うむ」

「分かった。その事は、こちらで何とかしよ。だから、少しだけ時間をくれないか」

「ええ、構わないは。こちらも、まだ周りには悟られないようにしなくてはいけないからね」


 後に、いくつか話した彼らはその場を去っていった。



      〜・・・〜      〜・・・〜



「セヤアッ」

「ハアッ」

「フッ!」


 カン、カン、カン、カン


 騎士団や魔術師団が訓練をする訓練場に六人の若い男女とダニス、ナタリアが居た。

 男女六人の若者、年の頃は十七くらいだろうか。それぞれ男女で別れ、男子組はダニスと剣の稽古。

 女子組はナタリアと魔術の訓練をしていた。


「絞め上げろ【闇黒縛(ダークバインド)】」

「切り裂け【烈空刃(ウィンドカッター)】」

「貫き、穿て【水流槍(ウオータージャベリン)】」


 それぞれの魔術が目標の的に当たり、絞め上げられ、切り裂かれ、穿たれる。


「なかなかいい調子ね。そろそろ休憩にしましょうか」

「はい」

「分かりました」


 ナタリアからの休憩を言い渡された彼らは、それぞれ近くにあったベンチに座って水分補給とかいた汗をタオルで拭く。


「もう少しやったら、今日の訓練は終わりだっけ」

「ああ、そうだな」


 少年が隣に座った少年に問う。


「にしても、この世界に来てもう一年を過ぎたのか」

「早いもんだよな」

「だな。最初は、おおいに戸惑ってはいたが、今じゃ何とかなっているしな」


 そこに加わるように一人の少女が会話に加わる。


「そんな事言って、あんた達が喜んでいたことは知ってるのよ」

「うっ、だってな」

「そうだぜ、如月。誰しもが一度は異世界に行ってみたいと思うもんだろう? だから、こんな経験をできた事に喜んじゃてな」

「まったく」


 如月と呼ばれた少女は、本名を如月久遠と言う。

 それは、あの一年と半年くらい前、この世界に召喚される直前にあった魔物の襲撃現場に居た生徒の一人であり、拓斗のクラスメイトであり、クラス委員長である。

 その如月、改め久遠は呆れを多分に含んだため息を吐く。


「あんた達ね。私達がこうして生きていられるのは誰のおかげだと思っているのかしら」

「………そんなの、忘れるわけが無いだろ」

「………ああ」


 久遠の言葉に、二人の少年は苦虫を噛み潰したがのように顔をしかめる。


「俺達があの時は生きていられたのは、あいつの、()()()()()()だってことは」


 もしこれを聞いた地球の人間がいるのであれば驚いていることだろう。

 何せ、異世界アーテラルに召喚された彼らは一度たりとも彼を忘れたことが無いのだから。

 何故、拓斗の事を覚えているのかと言うと、世界から拓斗に関する記憶及び記録が消える前にこのアーテラルに召喚された事により難を逃れたのだ。


「あの後、あいつは無事に逃げ切れたかな」


 一人の少年が呟く。彼は光属性の適性を持つ故に『閃光の勇者』と呼ばれている人物であり、名前を千道(せんどう)睦月(むつき)という。


「さあな。でも、あんなのが相手じゃ、生きてる確率なんて絶望的じゃないか」


 暗澹(あんたん)たる思いを含んだ声で言うのは召喚された際火属性の適性を与えられた少年で、名前は加我見(かがみ)雄二(ゆうじ)。『灼熱の勇者』と呼ばれる少年だ。


「もしかすると、私達みたいにこの世界に来ているかも知れないわね」

「流石に、それは無いんじゃないかな」

「確かにね。あの人たちが言うには、召喚されるには適性が高くないといけないって言ってたし」


 そう言って近づいてきたのは、残りの勇者三人だった。

 一人はショートカットにした髪型と垂れ目でのんびりした雰囲気の人物。名前は(きさき)陽菜(ひな)

 土属性の適性を持つことから『大地の勇者』と呼ばれている。

 一人はサイドテールに髪を結った活発な雰囲気の、というより実際活発な女の子で、身長が勇者の中で一番低い。名前は(ひじり)刹那(せつな)。風属性の適性を持つ事から『烈空の勇者』と呼ばれる。

 一人は片眼にかかりそうな長さの髪をした少年。名前を朝比奈(あさひな)(れい)。闇属性の適性を持つ事から『黒幻の勇者』と呼ばれている。

 そして、水属性の適性を持つ『水星の勇者』の名がついた如月久遠。


 計六名が勇者としてクハリス神光国に召喚されたのだった。






 しかし、彼らは知らない。

 あの時現れた魔物が、その国、クハリス神光国によるものだという事を………。


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