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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第64話 〜手加減 拓斗Part〜

「セヤアアアア!」


 女子生徒の一人が腰に挿していたレイピアを抜き、突き刺しに来る。

 俺はそれを半歩下がる事で避け、俺の横を過ぎようとしたその娘を吹き飛ばそうとした瞬間、背後から魔力の高まりを感じ取りその場から跳んで避けると、俺がさっきまでいた所を石の槍が通り過ぎる。


「チッ、次いくぞ!」

「「おうっ」」


 癖毛な茶髪の男子生徒が掛け声をすると、その左右に居た他の生徒が同時に返事をし、魔術を唱える。


「大いなる風よ、」

「大いなる火よ、」


 二人が使おうとしているのは、火と風の魔術のようだ。

 確かに、その二つは相性の良い属性ではある。

 それによって、互いの属性が掛け合わさり相乗効果を発揮する。


「旋風渦巻き、我が敵を薙ぎ払え!【旋風禍(サイクロン)】!」

「燃え盛り、炎の息吹を解き放て!【轟炎砲(フレアロア)】!」


 旋風禍と轟炎砲か。

 どちらも中級魔術で、高位のもので威力もある。

 通常なら、それ一つでも十分なダメージを与えられるものではあるが、俺にはかすり傷程度で終わってしまう程度のものでしかない。

 しかし今、俺に向かって放たれた炎と風が轟音を響かせながら途中で重なるように合わさると、炎の勢いが増し威力も上がっている。


「ほおう。合成魔術か」


 合成魔術。

 まったく違う属性同士を掛け合わせることで使える魔術。

 相性の良いものであれば、威力は素となった魔術の倍以上も上がる。

 一人でやる場合は、十分な注意をしなくてはならない。まったく違う属性同士を掛け合わさるには、両方の力を均等にしなくてはならない。片方が弱く、もう片方が強いとたちまちのうちに術式が崩壊し、最悪の場合は暴発を起こし術者にダメージがフィードバックしてくるからだ。

 しかし、それを防ぐ方法がある。

 それが、同じ力量の者が違う属性の魔術を使う事だ。

 それはそのまま、術者が一つの魔術しか使っていない事を表し、暴発の危険性も回避できる。


「なるほど。『S』クラスと言われるだけのことはあるな」


 俺はそれを感心しながら眺める。


「何時までも、上から目線で語ってんじゃねえよ!!」

「そうだそうだ、何も出来ないからそうやって突っ立ってんだろう!」


 今魔術を使っている二人からそうな事を言われるが、俺はそれに耳を貸すことはなく、ただじっくりと目の前に迫る炎を眺め見る。

 そして、ため息を吐く。


「確かに、合成魔術ではある。が、余りにも威力にムラがあり過ぎる。これじゃあ、出てもニ.五倍が精々かな」

「ナニ!?」

「それと………」


 俺は身体に魔力強化を施し、右足を下げ左足を前に出し、拳を握り右腕を弓を引くかの如く引き―――――振り抜く。


 パアアアアン! と空気をたくさん吹き込んだ風船が破裂する様な音を響かせる。

 次の瞬間には、目の前の炎はその一撃で吹き飛ばされていた。


「「「「なっ!!」」」」


 ありえない光景に、生徒達は驚愕の声を上げる。


「こんな風に、魔術の構築や合成が甘いと簡単に破壊できる」


 俺は何でもないかのように語るが、それを聞いた生徒達は全員がこう思ったことだろう。


 そんな事ができるのはお前だけだ!! と。


「それじゃあ、お前達に手本を見せてやる」


 俺は胸の前で手のひら同士を向かい合わせ、片手ずつに違う属性を発揮する。右手に風が渦巻き、左手には水の球が現れる。

 それを見る限りでは、風と水の合成魔術かと思われるだろうが、俺の合成はまだこれからだった。

 風はその荒々しさを増し、時々ピリッピリッと発光現象を起こし、そうして風は―――――雷へと進化する。


「ば、馬鹿な!? 雷属性だと!」

「あ、あ、ありえない」

「嘘だろ? 雷属性って、風属性の上位にある属性のはず。何で、そんな簡単に」


 風が雷になった事に驚いているようだが、俺の合成はこれで終わらない。

 左手に浮ぶ透き通る程の透明さの水球が中心から少しずつ白く濁りだした。いや、これは、濁りだしたのではない―――――凍り始めたのだ。

 それにいち早く気付いたのは、レイピアで俺を攻撃してきた女子生徒だった。


「ちょっと待って、まさか、貴方………」


 雷だけでも驚いているのに、そこにさらに水球に異変が生じ、そうして―――――凍りついた。


「ま、まさか」

「そんなっ」

「あ、あり、ありえない」


 残りの生徒達は身を震わせ、恐怖し、そして理解する。

 彼には、誰も勝てない。

 俺は俺に恐怖する生徒達の姿を見届け、最後の締めを施す。

 こいつ等にもわかり易く、普段はやらない、やる必要のない詠唱を。


(たけ)(いかずち)()て付く氷、それは猛威を振るいし具現である。」


 手の中にある雷と氷が混じ合い始め、現れる。


「凍て付き砕け、氷雷。我が前にあるは無慈悲なる洗礼であり、天威である。示せ【天冰釵雷(ハイラル・メナード)】」


 顕現するは、正しく自然の猛威。はたまた、神の天威。


「「「「「キャァアアアア!!」」」」」

「「「「うわあああああ!?」」」」


 パチンっ、と生徒達に当たる前に指を鳴らすことで【天冰釵雷】を消し去る。


「どうだ? さっきまであんたらが馬鹿にしていた奴の実力は」


 煽り文句のように聞くが、誰も反応すらせず、ただただ呆然とへたり込んでいるだけだった。


「はあ、まったく情けない。これで『S』クラスって、呆れるほどに弱すぎるぞ」


 呆れ、落胆し、これからここで生活する中で学べることがあるのかと不安になる。


「ホント、先が思いやられる」






      〜・・・〜      〜・・・〜


 そこは広々とした部屋だった。大きな窓からは陽の光が射し、室内には幾つもの調度品が置かれ、本棚には難しそうな専門書が何冊も置かれていた。


「それで、ハイリナ。今回編入させた子達はどうだったかしら?」

「はい。男女両方共に、既に生徒としての力量からは逸脱しています。我々教師陣でさえもあそこまでの者は少数かと」


 タクト達を案内し『S』クラスの担任であるハイリナは部屋の主であり机に向かって積み重なった書類をサインしながら訪ね聞く。


「へえ、貴女がそこまで言うなんてね」

「わたしは事実を述べただけです。」

「そう。それで、どれくらいだったのかしら」

「エルシャ・シグナートさんは、教師がせめて二人、もしくは三人で相手しなくてはまともに戦り合えませんね。まぁ、学園長なら別でしょうけど、油断したら足元をすくわれますよ」

「へえー」


 ハイリナに学園長と呼ばれた人物は長い髪を揺らしなが顔を上げる。


「そこまでの実力者なのね」

「はい」

「ふふふっ、面白そうね」


 学園長は笑みを浮かべながら答える。


「それで、もう一人の方はどうだったのかしら?」

「……………それは」

「………?」


 突然押し黙るハイリナに学園長は首を傾げる。


「どうしたの?」

「ハッキリ言わせてもらえるのでしたら、()()()()()()()()()

「どういう事かしら」

「ですから、分からなかったのです。彼の、タクト・ツガナシという少年の力を」

「それは、」


 一体、どういう事かと訪ね返す。

 このハイリナはコルーナ魔術学園の教師の中でも上位の感知能力を持っている。

 その彼女が分からないと言っているのだ。

 これは聞かずにはいられない。


「まず、彼の魔力はあまりにも洗練され過ぎている。それこそ、学園長、貴女以上に」

「私以上、ですって!」

「はい。さらには、魔力総量さえも。彼は、生徒達との模擬戦で全くと言っていいほど本気ではなかった。攻撃したのさえたったの数回」

「それは、逆じゃないの?」

「彼は、極限まで力を絞っていました。それによって、攻撃回数を制限していたのでしょう」

「そんな事を」


 口元に指を当て考え込む学園長。


「彼は間違いなく、人類最強である事は間違いないかと」

「流石にそれは言い過ぎでは無いかしら」

「いいえ。まったくもってそんな事はありません」


 ハイリナは持っていた封筒から数枚の資料を取り出し、学園長に差し出す。


「これは?」

「最近、アルベンの街でスタンピードが起きた事はご存知でしたでしょうか?」

「ええ、知ってるわよ」


 アルベンの街で起きたスタンピードは一万にも上る大量の魔物が襲ってきたという話だった。

 急いで近辺の冒険者ギルドや国からの騎士の派遣がなされたが、どう急いでも間に合う事はなかった事は明白だった。しかし、蓋を開けてみれば、負傷者は多数居たが死者は一人も居なかったそうだ。


「それがどうしたのかしら?」

「では学園長は、どうしてアルベンの街に死者が居なかったのだと思いますか」

「それは…………」


 確かに、考えたことは無かった。

 いや、考えはしたが、解らなかったと言うべきか。

 どうあがいたとしても、一万もの魔物を街一つで捌き切れるとは思えないのだ。


「結論から言わせてもらえば、アルベンの街に死者が居なかったのはタクト・ツガナシ君の功績だと言えるでしょう」

「何ですって」


 ハイリナは渡した資料を示し、読むように促す。


 そこにはあり得ない内容が記されていた。


「これは、本当なの」

「間違いありません。彼は、たった一人で大半の魔物を討伐したそうです。街の住民や冒険者からも話は聞けていますので、間違いないかと」


 それが本当なら、確かに人類最強格ではあるだろう。


「これは、扱い方を間違えれば、危険かしらね」

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