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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第59話 〜拓斗達の秘密〜

 子供を誘拐し違法な商売をしていた誘拐組織を一つ潰した俺達は、その翌日は途中で切り上げた街の散策を再開し立ち寄ったお店で気にいった物があれば買ったり、そうでなければたんに冷やかしたりとそこそこ充実した一日を過ごしていた。

 次の日も、何処かに行こうかと宿泊している宿屋『クレリック』の部屋で話し合っていると、突然扉をノックされた。

 誰だろうかと扉を開けると、そこには宿の従業員の女性が立っていた。


「お休み中に申し訳ございません。先程、冒険者ギルドの方がお見えになられまして、明日、時間がある時で良いのでギルドまで来てもらえないかと」

「冒険者ギルドですか? 分かりました、それじゃあ明日の午前中に伺うと伝えておいて下さい」

「承知しました」


 それだけ言うと、従業員の女性は一階に降りていき、今の話しを来ているギルド職員に伝えに行く。


「と言うわけだから、明日の午前中は冒険者ギルドに行くことになったから。悪いけど、出かけるのはそれが終わってからだな」

「そうなりますね」

「いったい、何の話だろうね」


 俺はそれに肩をすくめる事で返す。


「まぁ、何はともあれ、呼ぶってことはそれだけに大事な用事だってことだな」

「もしかすると、前に言っていた学園への編入の件では?」


 ああ〜、そう言えばそんなのもあったっけと天井を見上げて思い出す。


「確かに、その可能性はあるな」

「なら、行かない訳にはいきませんよね」


 エルシャの返事に俺は頷く。


「よし、それじゃあこの話はここらで終わりだ。次の話をしよう」

「次の話ですか?」


 エルシャは他に話す事があっただろうかと考える。


「おいおい、忘れたのか。あの時言ったろ、俺達の事を教えるって」

「………あっ!」


 どうやらエルシャは、本当に頭から抜けていたらしい。


「まさか、忘れてたのか? なら、この事は無かったことに………」

「まっ、待ってください!? 忘れていたのは謝ります。ですから、二人の事を教えて下さい」


 俺がこの事を無かった事にしようとすると、エルシャは慌てて止め、お願いしてくる。

 横で椅子に座っていた百合華に視線を向けると、百合華も頷いてくる。


「分かった。教えるよ、俺達の事を全てな」


 俺は覚悟を決め、自分達がこの世界でどの様な立ち位置で、どの様な存在なのかを語る。


「まず始めに、俺達はこの世界の人間じゃない」

「……………………え??」


 突然の俺のこの世界の人間じゃない発言に数瞬の間を置くエルシャ。


「ど、どう言う事ですか、それ」

「俺とこっちの百合華は、このアーテラルとはまったく別の世界からやって来た存在なんだ。所謂、異世界人って奴だ」

「別の、世界?」

「そうだ、この世界にはこの(せかい)の他にも幾つもの星がある。俺達はその内の一つからとある事情でこの世界にやって来たんだ」

「とある事情ですか」

「……ああ」


 俺は当時の事をポツリポツリとエルシャに語る。

 どうして俺と、妹がこの世界に来ることになったのか、その理由を。



      〜・・・〜      〜・・・〜



 元居た世界では、学校、この世界での学園に該当する施設、もしくは機関に所属していた事。

 俺がアーテラルに来る事になったその日に、俺の所属していたクラスを含めた同学級の生徒と担任の教師達は学校が計画していた毎年行われる宿泊学習の予定地に向かっていた。

 その道中に、不思議な現象に逢い、次の瞬間に現れた俺達の世界には本来存在しない生物ーーー魔物に遭遇する。

 襲ってきた魔物から、俺は自分の身を囮にして、どうにか引き離す事に成功した。


「………………という訳で、俺はクラスメート達を逃がす為に自分から囮になって、闘った末にこの異能に覚醒めたのさ」

「な、なるほど」


 エルシャは拓斗が話す内容を必死に呑み込み、理解しようとする。

 そうしないと、頭がついていかないからだ。

 今出た話だけでも、理解しずらく、頭を抱えてしまいそうになる。

 異世界と言うものには聞き覚えがあった。

 こことは違う法則で廻る世界だと。

 そして、この世界(アーテラル)に危機が迫ったとき、その世界から勇者の素質がある者を呼び出すからだ。

 そこを鑑みるに、自分が師事していること少年は、その世界からやって来た(正確には、(いのう)を獲得したことによりその世界に居られなくなった)のだ。


「な、何とも、壮大な話ですね」

「そうかね?」


 拓斗は首を傾げる。


「でも、異能ですか。それって、一体どんな力なんですか?」

「見てみるか?」

「いいんですか!?」

「ああ、軽いモノなら大丈夫だろ」


 そう言って、拓斗は空に手を出し、何かを唱えだした。 


「我が想像にして創造、幻想にして仮想の中にのみ存在せる者よ。今ここに、我は汝に器と名を授ける。その名を持って、我が前にとく馳せ参ぜよ【幻想具現オーバー・ザ・リライト】」


 すると、拓斗が翳す手の先に光の球体が忽然と現れる。

 それだけを見るのなら、ただの【光源球(ライトボ―ル)】の様に見えるだろうが、そこからの変化が劇的すぎた。


 ピシッ、と球体の表面に幾つもの罅が走った、次の瞬間。


 パリィィンッ


「クキュウウッ!」

「えっ!!」


 罅割れた球体から小さな生物が飛び出して来たのだ。

 それは、青空の様な澄んだ青い毛並みを持ち、その背中からは白鳥の如き純白の翼を生やした狼だった。


「こ、これは……」

「これが、俺の持つ異能。俺が思い描いたモノを生み出したり、逆に既にあるモノを消し去る事もできる力。【幻想具現】だ」

「幻想、具現」


 何だそれは、と唖然とするエルシャ。

 思い描いたモノ生み出し、既に存在するモノを消し去る事が出来る力。

 それは、今、目の前に居る生物の様に、この世に存在しない生き物でも一度(ひとたび)、拓斗がソレを思い描けばその瞬間、この世界に新たな種が生み落とされる事となる。

 そうで無くとも、例えば『けして尽きない矢筒』というのを思い浮かべ、異能を行使すれば、それが現実になり、幾ら撃っても矢が尽きることの無い矢筒が、『全てを絶ち切る剣』を思えば空間すら切り裂く剣が生まれる。

 その逆に、既にあるモノを消し去る。

 これは、言ってしまえば、過去への干渉とも取れる絶技。

 山が邪魔だと思えば消し去り、闘う相手が楯を構えればそれを消し、剣を振るえば消し去る。

 つまりは、攻撃も防御も、この力の前には無意味と化す。


「反則ですよ、そんなの」

「はははっ、まぁ、俺もこの異能に覚醒めた時にはそう思ったが、使えないよりかは良いだろう?」

「そうかもしれませんが」


 エルシャは釈然としない表情をするが、問題ないだろう。

 それはそうと、俺は俺の周りを走り回る子狼を抱き上げ、顔の前に持ってくる。


「そんじゃ、お前に名前を付けてやろう」

「ワウン」

「そうだなあ……………よし。お前は今日から“フェリオ”だ」

「ワウン!」


 フェリオと名付けられたその子狼は尻尾をブンブンと振り回す。


「あははっ、そうかそうか! 嬉しいか」

「ワウフッ」

「よしよし。それじゃ、この空間の中で遊んでくると良い。この中には、お前の()()が何人も居るからな。仲良くするんだぞ」


 そう言って拓斗は、自分の横に開いた異空間への出入り口からフェリオを入れてやると、元気に走り回り始めた。


「おうおう、元気だな。それでだ、エルシャ。話の続きだが、そんで俺がこの世界に来た一年後に百合華も来たってことだ。それが、俺達がこの街に戻って来た一昨日の事だ」

「な、なるほど」

「まあ、俺もまさかこんな所で妹と再会する事になるとは夢にも思わなかったからな。驚いたもんだ」


 これは嘘偽りの無い拓斗の本音であった。

 異能を得た事で、元の世界との縁は切れ、二度と戻る事のできないものとなった。

 そんな場所に居るはずの最愛の妹が、どういう訳か拓斗の前に現れたのだ。

 これに驚かない訳がない。


「私としては、久しぶりに再会出来た事は嬉しかったけど、私との約束を破った事はまだ思う所がないわけではないかな」

「約束?」

「そ、約束。無事に帰ってきてねっていう」


 拓斗と百合華の両親は既に死んでおり、親戚や祖父母は生きては居るが、そこまで深く関わっているわけではない。

 多少の生活の援助はお願いしているが、それもずっとでは無い。

 拓斗が成人して、しっかりと働ける様になれば、借りたお金は少しづつ返そうとは考えていた。

 だがそれも、俺達がこちら側に来てしまった事で不可能となってしまった。


「そういう事だから、俺達はこの世界では異分子だ。どう思われようと、それは仕方のない事かな」

「そうだね」


 拓斗と百合華は少し寂しそうな表情をする。

 当然だろう。あちらの世界には、共に過ごした友人達が居るのだから。

 アーテラルに来るという事は、それらとの縁を切ることになってしまうのだ。


「だが、そんな俺にも一つの目的がある」

「目的?」

「そうだ」


 拓斗の眼には、そこまで長く一緒に居たエルシャにとっては初めての、今まで一緒に過ごしてきた百合華にとっては珍しいと感じてしまうくらいに怒りに燃えている。


「俺の目的。それは……………」


 怒りをたたえた眼で吐き出される言葉。


「俺達の世界に、魔物を送り込んだクソ野郎をぶっ潰すことだ」


 それは明確な敵意であり、怒気。

 自分達に敵対した者に、制裁を下す事は決定されていた。

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