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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第58話 〜閃鐘〜

 今俺の前に居る魔物、グレルドラコは『A』ランクに該当する魔物だ。

 その手足や尾から来る薙ぎ払いは脅威となり、周囲の建物を倒壊させていく。

 そこに、風属性も加わり甚大な被害を出していく。


「ったくよ、少しは大人しくしとけよ」


 そう愚痴りながらも、俺は油断無くグレルドラコの隙きを狙い続ける。

 何故、即座に斬り殺さないのかと言うと、風属性を持つ魔物の大半は、その身を目に見え無い風の流れで外部からの衝撃を殺す事が出来るのだ。

 だが、これは必ずしも風属性の魔物だけでは無く、他の属性を得ている魔物達にも言える。

 世間ではそれを、『自動魔障壁(オート・グロウス)』と呼ばれている。

 なので、必ず『A』ランク以上の魔物と戦う時は、それを想定して当たらなくてはならないのだ。


 まあ、俺には意味が無いのだが。


 例え、どれだけ強固な防壁であったとしても俺の手にあるのは創造神のシロナと破戒神のゾルド、そして創世神のアディーが俺の為に造ってくれた神剣だ。

 この神剣に、その程度の防壁で防げる訳が無い。

 では何故、すぐに殺さないのかと言うと、それは周りが住宅街だからだ。そこには多くの人が住んでいる。

 俺とこいつの戦闘に巻き込まれでもしたら目も当てられない。

 それに、そろそろ、心強い助っ人が駆けつけてくれる予定ではあるのだ。

 それまでは、被害を最小限にし、隙きを見出し、そこを突くつもりである。

 その時だった。


「ギャラアアアアアアアァァァァァ!!」


 咆哮を上げたグレルドラコが身に纏う風が風刃を伴う暴風となって荒れ狂った。

 唐突な強風に煽られた人々は足を縺れさせ、転倒する者が続出する。

 その中には小さな女の子も居た。

 そこに、崩壊した建物の残骸が飛び、降りかかろうとした、その瞬間、俺は声を上げる。


「エルシャ!」

「任せてくださいっ!」


 ザンッ!


 倒れ込んでいた女の子に降り掛かった瓦礫を、戻って来たエルシャが難無くと切り払う。


「………ふぅ、大丈夫だった?」

「う、うん」

「そう。なら、早く安全な場所に避難してね」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん!」


 女の子はエルシャにお礼を言うと、タタタッと走り去っていく。

 それを見送ったエルシャに俺は声をかける。


「どうやら、間に合ったようだな」

「ええ、本当ですよ」


 エルシャはジトッ、とした視線を向けてくる。


「タクトさんがしっかりしていたら、こんな事にはならなかったのでわ?」

「あっははは。言葉も無いな。でも仕方なかったんだよ、何せ、あのボスの男が封魔晶石何て物を持っていたなんて思いもしなかったんだから」

「封魔晶石っ、という事は、あの魔物はそれから?」


 驚くエルシャに、俺はそれに頷く。


「だからさ、これは仕方なくだったんだ。理解したか?」

「分かりました。でも、それでもタクトさんなら何とかなったんじゃ」


 エルシャは胡乱な視線を向けてくる。

 事実、そうだったとしても、俺ならそう時間を掛けることなく始末出来た。

 では何故、そうしなかったのか。その理由は、簡単に言えば集団心理と言うものだ。

 この魔物を呼び出したのは、誘拐組織のボスであると言う事を周りに知らしめ、俺達がそれを抑え込もうと対抗していたと理解させる為だ。

 そうすれば、俺に対する風当たりも強くはならない、はず。

 まぁ、それは脇に置いといて、何故、俺はエルシャが近くまで来ていることを知っていたのかというと、エルシャの魔力を感じていたからだ。

 ここまで、魔力強化をして急いで来たのだろう。その時に発せられる魔力を俺の感知が感じ取ったのだ。


「それはそうと、エルシャ。百合華はどうした?」


 さっきから姿が見えない妹の姿を探す。


「ユリカさんなら」

「私ならここだよ、お兄ちゃん」


 後ろから声が掛かり、振り返るとこちらに歩いてくる百合華が居た。


「何処に居たんだよ」

「ちょっと、周りの避難を手伝ってたの」

「そうか」


 俺は納得して、グレルドラコに意識を向ける。


「なら、二人は周りの人達の避難と、被害が広がらない様にしてくれ」

「分かりました」

「了解だよ」


 二人が手分けして逃げ遅れた人が居ないか探しに行くのを見送って、俺は剣を構える。


「そんじゃ、まあ。―――さっさと片付けますか」



      〜・・・〜      〜・・・〜



「まずは、動きを封じる」


 俺は手の平を向け、魔術を唱える。


「【黒影縛(シャドウバインド)】」


 グレルドラコの足元の影から幾重もの縄状のものが飛び出し、その身を縛り上げる。


「ギュアアアアアアアアア!!」


 身を縛る戒めから逃れようと藻掻くが、俺の【黒影縛】はそう簡単に切れることはなかった。

 藻掻けば藻掻くほど、その身をキツく縛り、戒めが身体に喰い込み動けなくしていく。


「あとは、これで終い」


 右手に持つエレクシアを片刃直刀に形状変化させ、左に剣先を引き、その刀身に眩い光を纏わせていく。


「津我無流剣術:光纏(こうてん) (いち)ノ太刀『閃鐘(せんしょう)』」


 一瞬、光が瞬いた様にグレルドラコには見えた事だろう。そして、それが、グレルドラコが見た最後の光景となる。

 グレルドラコは、自分に何が起きたのか、理解できなかっただろう。

 外側からそれを観ていた者なら、どうなったのか微かにだが理解(わか)った事だろう。

 俺が反時計回りに引いていた剣を霞んで見えるくらいに速く振り抜き、グレルドラコが視認し、認識出来ない速度で首を切り落としたのだ。その際に、グレルドラコを覆う『自動魔障壁』さえもまるで紙かバターの様に抵抗無く、撫で斬って見せた。

 あとに残ったのは、時間差で首が落ちた魔物の死骸と、倒壊した建物の残骸が残るだけだった。


「こんなもんかな」


 エレクシアを一振りし、腰の鞘に収める。


「これ、どうしたもんか」


 周りに散乱した建物の残骸をどう処理したらいいのか、頭を悩ませる。

 が、その時、それ以上に重大な事を思い出した。


「あ! そう言えばアイツは!」


 俺は辺りを見回す。今、俺が探しているのは封魔晶石でアレを呼び出した誘拐組織の首領の男だ。

 だが、どこを見ても見当たらず、まさか逃げられたのかと愕然とする。

 しかしその時、


「お兄ちゃんの探してるのって、()()?」

「え?」


 左の路地裏からボロボロの何かを引きずってやって来る妹の百合華が居た。


「それって………あっ!?」


 百合華が持ってきたモノをよく見ると、それは俺が今探していた人物だった。


「そいつ、どうしたんだ?」

「これ? あっち側で倒れてたから持ってきた」


 百合華は事も無げにそう言った。


「そ、そっか。まあ、捕まったんなら良かったよ。悪かったな、手間をとらせて」


 俺は苦笑いをして謝る。


「ううん。大丈夫だよ」


 笑顔で応える百合華に俺も笑って返す。

 それから少しして、城から騎士団がやって来て、俺達は事の詳細を聴かれる事となった。


「となると、君達は自分達の独断で誘拐組織を潰したと言う事かな?」

「ええ、そうなります」


 それを聴いた騎士の人は頭を抱える。


「そういう事は、俺たち騎士団の仕事なんだが」

「あの時は、ほとんど衝動的に動いてしまったもので。それに、貴方方に報告しに行っている間に見失う可能性もあったので」

「確かに、それもあるか」


 騎士の人は納得してくれたのか、頷く。


「まぁ、だがな、たった三人でそんな危ない事をするのはどうかと思うぞ」

「はい。もし、また同じ様な事があったら、次はちゃんと伝えます」

「そうしてくれ」


 騎士団の聴取を終えた俺は、後に続くエルシャと百合華の聴取が終わるのを待つ。


「お兄ちゃん、おまたせ」

「おまたせしました。タクトさん」


 二人は、一緒に聴取されたのか、二、三十分くらいで終わり、出てくる。


「そう言えばお兄ちゃん、保護した子供達はどうしたの?」

「それなら、騎士団に頼んで、親が居る子は親元へ、いない子は孤児院に預けられる事になっている。あと、奴隷にされた子供がいれば、それが違法なら解呪したりな」

「そうなんだ」

「それなら、大丈夫ですね」


 二人の顔に笑顔が浮かび、俺達も宿に戻る事にした。

 それから二日後、遂に城から編入手続きが終わったと連絡がやって来た。

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