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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第56話 〜異能の妹と、弟子の新魔術〜

長らくお待たせしました。

お久しぶりでございます。十織ミトです。

ココ最近、なかなか投稿の時間が取る事が出来ず、こんな時間になってしまいました。

待っていてくれた方には申し訳無かったと思います。

今後は、何とか早めの投稿を心掛けて行きたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

「クソっ、何なんだよこいつは!?」


 そう叫んぶのは、めちゃくちゃに剣を振り回し、私を斬り殺そうとしている男だった。

 いや、良く周りに耳を傾ければ、そこかしこから似たような声が上がっている。

 そちらに視線を向ければ、そこに居る男達はナニカと戦い、私に近寄る事を阻まれているところだった。

 他にも、身動きの取れなくなった者も、そこら中に転がされ、声を上げて藻掻いている。


「何って、そんなの、貴方達の影に決まっているじゃない。それと、転がされている人は、私が命じて創った空気の縄ね」

「俺達の、影だと!?」


 今まさに、男達が戦っているのは自分達の影から這い出してくるようにして現れた存在だった。

 見た目は黒いのっぺりとしていて、目も鼻も、耳も無い。しかし、その身体の形状から人間と同じである事がわかる。

 その手に持つのは、その黒い存在と相対している男達が持っている武器と同じ形状のそれであった。

 そこで、男はある事を思い出す。

 それは、こうなる直前にあの少女が唱えた、自分達の知らない、聴いたことの無い呪文。


「汝は、影。その者が歩みし生を共に背負う者。それを拒絶するなら、我に従え。反逆の時は今。『魂命真権アブソリュート・オブ・レガリア』」


 少女がそれを唱え終えると、男達の足元にある影が突然波打ち、そこからこの黒いのっぺりとした影絵、もしくは影法師と呼べるような存在が現れる。

 さらに厄介なのが、その影法師達の力が自分達と互角。いや、互角どころかまったく同じで、動き方も寸分の誤差無く同じ動きをしてくる。


「クソがっ、やりにくいったらねえ!!」


 愚痴る者もいれば、稀に自分の影を切り裂く事が出来た者も居た。だが、そこは影。

 実体があるように見えて無い。

 手応えなんて皆無。

 切られたそこが、何事も無かったかの様にくっき、再び襲いかかる。


「ねぇ、そっちばかり気にしていて良いのかな?」

「…………ッ!!」


 私がそう言うと、男達は「ハッ」とこちらに視線を向けてくる。が、それは悪手であった。

 そもそもからして、自分と同格の相手と本気で相対していながら他所に視線を向けるなど自殺行為にも程がある。

 そうなれば、


「ぐきゃあっ!」

「ゲバあはあっ」

「おべえっ!」

「ごバアっ!」


 視線を外したそばから、自分達の影に斬られたり、突かれたりして倒れ伏していく。

 中には、私の言葉に反応せず、目の前に集中していた事で難を逃れた者も何人かは居たが、そこは自前の魔術で攻撃する。


「『衝撃弾(ショックバレット)』」


 風魔術にある衝撃を撃ち出す魔術でもって、残った誘拐犯達を地に沈める。


「ま、こんなもんかな?」


 こっちが終わった事で、周りに視線を流す。


「エルシャちゃん達はどうかな?」


 視線の先には、未だに健在の誘拐犯達とそれに立ち向かう一人と一匹。


「ヤァッ」


 かわいい掛け声を出して剣を振るうエルシャちゃん。だが、そこから放たれる攻撃の一つ一つがそれとは反して可愛げが無い、鋭いものであった。

 太刀筋は鋭く、しっかりとした鍛錬をしてきた事が覗え、一度に三人くらいは切っている。

 その合間に、魔術を行使して足留めや戦線離脱させていく。


「あっちは大丈夫かな。となると、」


 エルシャの方はそこまで問題にはならないようなので、もう片方に目を向ける。

 そちらには、


「うギッ」

「がっ」


 一人、また一人と腕や足を抑えて屈み込む男達。

 よく見ると、押さえている所から血が流れ出している。

 それを成したのは、男達の間を駆け巡り、隙きを見せた者に奇襲仕掛ける暗殺蜥蜴(アサシン・リザード)のアズだった。

 それによって、少しづつではあるが、確実に相手の戦力を削っていってはいるがそれでもまだ多く残っている。

 だから、私が取るべき行動は、


「アズの手伝いかな」


 私は魔力強化してその場から飛び上がり、風を起こして一時的に空中に留まり、そこから魔術を放つ。


「『旋風(ハイウィンド)』」


 突然の強風に吹き飛ばされた者や、まともに動く事の出来なくなった者達の中に自ら飛び込む。


「大地よ、我が振るいし武器を作れ。『魂命真権』」


 地に手を付け、異能を行使すれば幾つもの武器が地面から浮き上がってくる。その中で比較的近くにあった棒を手に取れば、簡単に持つことが出来、そのまま振るう。


「セヤァッ」


 掛け声を上げ、土でできた棒を横一線に薙げば、冗談のように男達は近くの仲間を巻き込んで薙ぎ倒されていく。

 持ち手である私はそこまで重くは感じてはいないが、この棒は土属性でできている事からかなりの重さがある事が窺える。

 もし、そんな物で殴られでもしたら、良くても骨にヒビが入っているか折れている事だろう。


「ぐぼおっ」

「げべえっ」


 情けない悲鳴を上げて倒れていく仲間達と、それを成した私達にようやく恐怖を抱いたのか、何人かは腰が引けている。


「何なんだ、お前らはっ!?」


 今更そんな事を聞いてきて、意味があるのだろうか。

 そもそもからして、最初に言ったはずなんだけどね。


「私達が何者か? そんなの、最初に言ったと思うんだけどね」


 呆れたように、白い視線を向けて言う。


「私達は、貴方達の敵ですよ」



      〜・・・〜      〜・・・〜



「セヤァッ」


 私―――エルシャは剣と魔術を同時発動して誘拐犯達を殺さないように倒していく。

 私が使える魔術は火属性のみ。

 火属性は殺傷能力が高い属性なので、使う時は気を付けなくてはならない。


(まあ、タクトさんならそんな事は無いのでしょうけど。それに、)


 チラッと視線をズラしてある方を見る。

 そこでは、既に自分の持ち分の相手を倒し終え、タクトさんが自分達(特に妹の百合華)の為に置いて行ってくれた召喚獣のアズと一緒に他の誘拐犯達と戦っている。

 さっきまでユリカさんが戦っていた相手はというと、死んではいないだろうが、重傷な者と身動きが取れないように縛り上げられた者が転がされている。


「オレたちを前に、よそ見とは余裕だなあ!」


 怒髪天をついて斬りかかってくる男の剣を後ろに跳んで躱すと数本の髪の毛が宙を舞う。

 だがそれを気にする事なく、魔術でもって反撃する。


「大いなる炎よ、我が敵を穿つ矢となれ。『火炎矢(ファイアーアロー)』」


 エルシャが放った二本の炎の矢は狙い違わず男の右肩と左足を穿つ。


「ギャアアアア!!」


 汚い悲鳴を上げる男は焼け爛れた肩と足を押さえ、まともに動くこともままならない状態になった。

 が、これでもまだ氷山の一角といった所で、このままではジリ貧だ。

 確実にやっていけば、何とかはなるが、それでは時間がかかる。


「ちょっと、本気をだすかな」


 エルシャは自身の中にある魔力を循環させ高めていく。


「今から使うのは、まだ特訓中の魔術なので、死にたくなければ投降を推奨しますよ」


 まあ、そんなこと言っても従わないだろうけど。


「従わないのでしたら、見せてあげますよ。タクトさん直伝の魔術を」


 循環させ高めた魔力を火属性に変質させていく。

 それがエルシャを中心に渦を巻いていく。


「燃え上がれ紅蓮、照らし出せ日輪」


 口を吐いて紡がれるは詠唱。されど、それは既存のものでは無い、誰も知ることの無いある人物が新たにこの世に生み出した魔術。


「汝は日が纏いし衣」


 詠唱が成される時に頭に思い浮かんだのはタクトの言葉。


『良いか、エルシャ。お前にこれから教える魔術はこの世界にある魔術からはかけ離れた力を発揮する物だ。まだ未熟なお前には、本来なら教えてやるのも躊躇われる物だが、そうも言ってられないからな』


 その時のタクトはそう言って、エルシャに三本の指を立てて見せる。


『今からエルシャに教える魔術は三つ。一つは膨大にして強大な熱量を持つ剣を生み出す魔術。これは二種類あるが、今回教えてやるのは片方だけな』


 タクトは見本となる炎剣を創り出して見せながら説明する。


『二つ目は、今までエルシャが見て、使っていた赤い炎よりさらに強力な炎だ』


 炎剣を消して、消した手からエルシャが見た事も無い色の炎を燃え上がらせる。


『そして、三つ目がコレだ』


 その時のタクトの姿は、今でも忘れる事の出来無い物であり、エルシャが目指し未だに到達する事が出来ていないものだった。

 最初は何度もやけどをして苦労したが、今では短時間だけならコントロール出来るようになってはいる。


「触れるモノ全てを灰燼に」


 エルシャの周りを取り巻く炎がエルシャを包み込んでいく。


「纏う者に祝福を、災厄を与えし者に制裁を」


 徐々に炎が帯状に変体していき、その形状がまるで―――――羽衣の様に変わる。


「限り無き栄光を我は纏わん。『陽焔之羽衣(コロナ)』」


 ブワッというエルシャを中心にした熱風によって、一瞬にしてその空間の温度を数度、もしくはそれ以上まで上げられた。

 突然の高温地帯化により、身体がついてこず、倒れ込む者達が続出する。


「チクショー、一体、何だって…………」


 言うんだ、と言い切ろうとした、何とか意識を保っていたメイスを持つ男は自分の目の前に立つ存在に視線を釘付けにされた。

 薄桃色の髪が赤い炎に照らし出され、朱色に染め上げられ、その身を炎の羽衣を纏うことで神秘性を宿し、まさしく女神の如き異様を示していた。


「これはまだ、特訓中の魔術なので、ちょっと手加減が難しいんですが、死なないようには気を付けますが、そちらも気を付けてくださいね」


 エルシャはその場からあたかも陽炎の如く揺らめき消え、次に現れたのは残る全ての誘拐犯達の意識を刈り取られ、エルシャを囲んでいた集団の少し離れた外側だった。

 誘拐犯達は、自分達がどうしてそうなったのか気付くことも理解する事も無く倒れ伏していく。


「『陽焔之羽衣』解除」


 その身に纏っていた陽焔によってエルシャの周囲は空気が熱せられた事により、揺らめいて見える。それはまさしく、陽炎。


「やっぱり、まだ慣れませんね。コレ、コントロールが全くできていません」


 そう言って、エルシャは自分の手と、剣を見る。

 手は炎で軽く炙られる様に赤く焼けている。だが、そんなのは少しすればしぜんに治癒するし、最悪の場合は光属性の治癒魔術が使える者に治してもらうなりすれば住む事だ。が、それよりも問題があった。

 それは――――


「はぁ、タクトさんから貰った剣が壊れちゃった」


 今の彼女の手の中にあるのは、タクトから市販で売られている物に出来る限りの強化をし、今まで使い続けてきた剣のなれの果てとも言える、鍔から少しだけ刃が残ったガラクタだった。


「どうしよう」

「どうしたの?」


 この後の事を考えていると、前から声がかかる。


「ユリカさん。ええ、ちょっと問題がありまして」

「問題?」


 ユリカは首を傾げ、視線をエルシャの手元に向けると、ああと納得する。


「もしかして、その剣ですか?」

「ええ。この剣は、タクトさんから貰ったものでして、それが壊れてしまったんです」

「そうなんだ。でも、道具って使っているうちに消耗する物なんだから、仕方無いんじゃないかな?」

「そうですね。そろそろ、ガタが来ていたところなので、ここまで保っていてくれた事に感謝です」


 そうは言うが、この剣は今まで使い続けてきた事でかなり愛着がある品なのである。


「何だったら、後でお兄ちゃんに直せないか聞いてみれば良いんじゃないかな?」

「それもそうですね。もし、それで無理だったなら他の剣を買うしか無いのでしょうけど」


 残念ではあるが、物である限りいづれはこうなる運命だったのだ。ただ、それが今日だっただけ。


「それじゃあ、ここは終わった事だし、お兄ちゃんの方にでも行きますか」

「そうですね。まあ、タクトさんの事ですから、私達が着くまでに全て終わらせている可能性が高いですけどね」


 エルシャは苦笑して言い、百合華と伴って拓斗が居るであろう場所に向かう。

 残されたのは、鋼色の細い紐状の物で縛り上げられ転がされ、意識を失っている誘拐犯達だけだった。

 そこで百合華は何かを忘れている様な気がして誘拐犯達を見回すと、


「………………あっ」

「どうしたんですか?」


 突然声を上げた百合華にエルシャが聞く。


「あのボスの男は、何処?」

「えっ、あれ? いない!?」


 そこでエルシャもボスの男が居なくなっていることに気が付く。


「まさか、逃げた!」

「たぶんね」

「ど、どうしますか!? このままだと!」

「エルシャちゃん、ちょっと落ち着いて」


 慌てだすエルシャに百合華は落ち着いた声でなだめる。


「で、でも!?」

「そんな慌てなくても、私とお兄ちゃんからは逃げられないよ」

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