第5話 〜魔術と神の加護〜
お久しぶりです。十織ミトです。
今回も入りが同じですが、そこは気にしないで下さい。
という訳で、今回も早めの投稿が出来て幸いです。
今後とも、よろしくお願いします。
俺は自分の身体を包み込む暖かい光と温もり、まるで布団かベッドに寝かされているかのようだ。
身体は大きな疲労に犯されているのだから、この温もりには抗いがたいものがあった。
と、そこで俺はふと疑問に思う。
何故、俺はそんな事を考えている?
というか、俺は何時の間に寝たんだ?
「………ん………んん?」
俺はゆっくりと目を開けていけば、最初に視界に写ったのは、木目の天井だった。
だが、俺の部屋の天井は木目調ではなかったはず。
まだ眠っている頭ながら、不思議に思い周りを見回す。
部屋の広さは俺の部屋より一回り以上は大きく、置かれている調度品や内装も派手さは無く、落ち着いた感じを醸し出している。
窓の外に目を向ければ、そこに広がっているのは青々と茂った芝生と疎らながらに生える何かの木の実を付けた木々。
そこで俺は、眠りについた―――――――いや、意識を失う前の事を思い出した。
「そうだ、俺はあの後意識を失って………………それで、何処なんだ、ここ? というか、あの後どうなったんだ?」
「ここは、世界と世界の間に創られた『境界』。そこに存在する『狭間の世界』です」
上半身を起こし外を見ていると、突然後ろから声が掛かり、ハッと振り返る。
そこに居たのは俺に施された封印を解いてくれた、異世界の神シェルヴェローナ様だった。
その後ろには扉があり、彼女はそこから入ってきたのだろう。
「どうやら、無事に目を覚まされた様ですね。あの後、貴方様は気を失ったのですが、お身体の調子はどうですか?」
「え、ああ。うん、問題ない。ただ、まだ、少しだけ疲労が残っている気はするが…………って言うか、いきなり入って来て脅かすなよ。驚くだろう」
「ふふふっ。それは申し訳ございません。この事は私のちょっとしたオチャメな悪戯だと思って下さい」
彼女は優しく微笑んで言う。
シェルヴェローナ様の印象が最初に会った時とは違い、今の彼女は何処にでもいるからかい上手な年上の女性といった感じで、これが本来の性格なのかもしれない。
「まぁ良いけどさ。それより、さっき言ってた『境界』と『狭間の世界』って何だ」
「それを答える前に、貴方様に会っていただきたい方達がいます」
「……………俺に?」
「はい」
一体誰だろうか、俺が今会わないといけない方達って。
方達って事は、少なくとも二人はいるという事か。
「誰かは知らないけど、分かった。その人達に会おう」
「ありがとうございます。では、案内します」
ベットから起き出した俺とシェルヴェローナ様は連れだって部屋を出る。
部屋の外の通路は軽く四人は並んで歩ける程に広く、扉と扉の間隔もそれなりにあった。合間に置かれている調度品にも目を向ければ、どれ程の価値が有るのか解らないが、かなり高価な物だろうとは思う。
周りにも目を向けるが、これと言って派手派手しい物は無く、逆に全体的に落ち着いた雰囲気を放っている。
階段が見えてくると、そこには降りる階段の他に、上っていく階段があった。
つまりここには、少なくとも三階はあるわけで、完全にお金持ちが住んでそうなお屋敷である。
「こっちです」
シェルヴェローナ様に付いて行き、階段を降りると、そこは吹き抜けのフロアになっていた。
「ヤベェ、完全にお金持ちの家だ」
と、緊張するがシェルヴェローナは気にする事無く、一つの扉の前に立った。
「この中に、拓斗様に会っていただきたい方達がいます」
「あ、ああ」
コン、コン、コン
「どうぞ」
「失礼致します」
ノックをし、入って行くシェルヴェローナ様の後を俺は緊張しながら付いて行く。
室内の内装は暖かみのある談話室という趣があってなかなか良いと思う。
その室内にはすでに二人の男女が片側のソファーに座っていた。どちらも年齢的に二十〜三十代と言ったところだろう。
女性の方は、腰まで届きそうな程に長い黒髪にひとふさだけ銀髪が流れている。瞳は吸い込まれてしまいそうな深い藍色をしている。服装は桜を模した柄をした着物を着ていた。
男性の方は、金色が混ざった白髪に、夕日の様な茜色の瞳。こちらは、作務衣だったか? を着ていて、二人とも俺と一緒に入って来たシェルヴェローナ様と同じくらいに整った顔立ちをしている。
と、観察していると女性の方がおもむろにソファーから立ち上がる。
「はじめまして。津我無拓斗さん、私の名前はアルディニア。こちらは、ゾルドです」
「はじめまして。津我無拓斗です。その、俺の事を知っているのですか? 俺としては、初対面だと思うんですが」
「ええ。ですが、その前にそちらにお座りになってください。立ち話もなんですから」
俺達は女性に言われるがまま、向かい合うように座る。
「ではまず、拓斗さんが気になっているであろう私達の事を説明しましょう」
「そこにいる、シェルヴェローナが異世界の創造神だってことは知っているな?」
「はい」
「単刀直入に言うなら、俺達はお前さんがいた世界を管理する神だ」
「ッ!」
衝撃の事実だった。
まさか、自分の前に座っていたのが、今まで生きてきた世界の神様だったなんて。
「驚くのも仕方ないでしょうね」
「そうですね。…………ん? てことは、俺に、あの世界の人間に《根源の種》を植え付けたのって」
「はい、私達です。今からそれを含めて全てを話します」
そこから始まった説明を含めた話し合い。
俺達が今まで生きてきた地球に生きる人間に、何故《根源の種》何て物を植え付けたのか。
その理由と、何故植え付けた後に封印を施したのか。
魔物との戦闘時に俺に施された封印を解かれたことで使えるようになった異能こと。
俺達が今いる『境界』と『狭間の世界』という場所のこと。
俺の今後の立ち位置と将来のこと。
「と、言うことです」
「そうですか。なら、俺はこの後、シェルヴェローナ様の世界に行く事になるんですね」
「ええ。ですが、その前に私達から最後の贈り物をさせていただきます」
「贈り物?」
「ええ。まあ、言い換えるなら、お詫びという事でしょうか」
お詫びと言われても、俺にはこの三人(柱?)から何かを貰うつもりはない。
そんな事を考える対象は、こっちの世界に魔物なんて存在を送り込んできやがったクソ野郎に対してだけだ。
だが、この神様達はそんな事は関係無い、と言うだろうから大人しく受け取る事にする。
「分かりました。それで、一体、俺に何をくれるのですか?」
「私からは、《創世神の加護》を、ゾルドからは《破戒神の加護》を与えます」
「そして、私からは私の世界に存在する魔術の全適性を差し上げます」
三柱の神様からのお詫びの内容があまりにも濃すぎ、想像を超えた俺は絶句した。
「え、え、い、いや。それはさすがに」
「遠慮する事はないぞ。俺達はそれだけの事をお前にしてしまった。だからこそのお詫びだ」
だからって、それは貰いすぎだと断るが相手は取り合わず、俺は渋々受け取る事にする。
「それと、お前が居なくなった後の世界に関する記憶操作もしておく」
俺はふと頭に百合華の顔が思い浮かぶ。
たった二人の家族であった俺達。兄の俺が居なくなれば、百合華は独りだ。
しかし、百合華には悪いがそれは俺が覚悟していた事だった。
「その記憶操作は、どれくらい持ちますか?」
「どれくらいって、そりゃあ死ぬまでだが、何かに強く刺激されたら思い出すかもしれないがな。そこまで俺たちも完璧ではないのでな」
「そうですか。なら、百合華に―――妹には強めにお願い出来ないでしょうか?」
「確か、拓斗さんには妹さんが居ましたね」
俺は頷く。
「あいつには、俺の事を思い出す事無く、幸せに生きて欲しいんです」
「………………寂しくは、無いのですか?」
「寂しく無い訳ないじゃないですか。なんだったら、今すぐにでもあいつの所に帰ってやりたい。けど、それが出来ないのなら、それしか方法がないじゃないですか」
気付けば、知らず知らずのうちに、俺は涙を流していった。
アルディニア様の言葉に荒れそうになる心を鎮めていると、するとおもむろに対面に座っていたアルディニア様がテーブルを迂回して、俺の前に立ち―――抱きしめていた。
突然の事に驚いて、涙が引っ込んだ。
「大丈夫ですよ。貴方の気持ちは痛い程伝わりましたから」
「えっと、あの、アルディニア様?」
「私の事はアディーと呼んで下さい」
「アディー様?」
「様は要りません」
「………………アディー?」
「はい、そうです。今後は加護を通して話す事も出来るでしょう。なので、こちらの事が気になったのでしたら、いつでも声を掛けてくださいね」
俺は抱きしめられながら頷く。
アルディニア改めてアディーは、ゆっくりと俺から離れて行く。
「それでは、少し休憩を挟んだ後、私達から加護の付与をした後、そのまま彼女の管理世界に転移してもらいますが大丈夫ですか?」
「…………ああ。お願いする」
こうして、この瞬間、俺の異世界転移が決まったのだった。