第53話 〜エルシャに力(異能)を見せました(少しだけね)〜
いきなり目の前に現れる奥に繋がる通路。
そこを開けるには特定の道具が必要な筈なのに、それをよういる事無く、何事も無かったかの如く開け放たれたそれ。
エルシャは、思考が追い付く事が出来ず、呆然と立ち尽くしていると、すぐさま、ハッと気を戻す。
「た、タクトさん!! 何なんですか、こ………………もごごっ!!」
「ハイハイ。エルシャちゃん? ここは敵の領域なんだから、少し静かにね」
エルシャはそれを成した俺に大声で尋ねようとしたところを、後ろから百合華に口を塞がれ、モゴモゴとしか話せなくさせられてしまう。
「ン〜〜ッ、ン〜ン〜!?」
「エルシャちゃんが落ち着いたら、離してあげるよ」
百合華がそう言うと、百合華の腕を軽く叩きながら頷く。
それを了承の意だと感じると、百合華はそっとエルシャの口元から手を退ける。
「………はぁ………はぁ、ユリカさん。いきなり口を塞がないでくださいよ」
「だって、エルシャちゃんが大声出そうとしていたんだもん」
「そ、それは、だって、仕方ないじゃ無いですか。開ける為に必要な物が無く、開ける事が出来ない筈の通路をタクトさんが開けたんですよ。それも、魔力の動きから魔術を使っていない事が解ります」
エルシャは自分が何をしようとしていたのかに気付き、ばつが悪そうにしているが、そう言い返す。
「そうだよね。全く、お兄ちゃんも事前に教えて上げれば良かったのに」
などと宣いながら百合華は呆れた顔で俺を見てくる。俺は苦笑いをしながら肩を竦める。
「そうしたかったのは山々なんだがな、それを話すには俺達の存在に触れなくてはいけなくなるんだよ」
俺は一つため息を吐く。実際、俺が魔術とは全く違う力を有している事を話すことは、どういう経緯でそれを手にしたのかを説明しなくてはいけない。
それは自ずと、俺達の出身地であり故郷である地球について話す事になる。
出来れば、それはしたくなかったのだ。
それを話せば、俺達がこの世界での異物であると認識される事となり、今まで通りの関係に戻ることが出来なくなるのではないかと俺が恐れを抱いてしまったのだ。
俺は目を伏せてしまうが、百合華がそっと俺の手を握ってくれる。
「多分だけど、大丈夫だよ。お兄ちゃん」
「百合華?」
「まだ、そこまで長い付き合いじゃないけどね、エルシャちゃんは私達を拒絶したりはしないと思うよ」
「それは、おまえの異能の力か?」
「ううん」
百合華は首を横に振る。
「単なる、勘だよ。お兄ちゃんと一緒で」
笑顔で俺を見詰める百合華に、数瞬呆けた顔になるが、俺はすぐに噴き出して笑う。
「………ぷっ、………くっくっく、……………ああ、そうだな」
エルシャは俺達のやり取りをただ見ているだけだったが、その姿を見て、俺は何を怖がっていたんだろうと考える。
何も教えていないのに、教える前から怖がっていたんじゃ、ここから先には進めない事なんて理解りきっている筈なのに。
両親を目の前で喪い、妹との関わりさえも一度は切り離されたが、今はその繋がりを再び繋ぐ事が出来た。
なら、エルシャとの繋がりを切られたとしても、また繋ぐ事が出来るかもしれないという可能性があるのだから。
「お兄ちゃん?」
「ああ、大丈夫だ。百合華」
俺は百合華の頭を軽く撫でてやると、それが気持ちいいのか、目を閉じてされるがままだった。
「エルシャ」
「はい」
名前を呼ばれ、姿勢を正すエルシャに俺は話しかける。
「お前は、俺がどうやってその通路を開いたのか不思議に思うだろうが、その事は後でということにさせてくれないか」
「後で、ですか」
「ああ。今は、子供達の救出を最優先にしたいんだ。勿論、ここで言い逃れをしたいからという訳ではない。後でちゃんと話す。俺達の事も含めて、な」
俺は出来るだけ、誠心誠意を込めて伝えると、エルシャは少し考える素振りをする。
恐らくだが、今の彼女の頭の中には、子供達を救出したいという理性と俺の使った力の事を知りたいという欲求がせめぎあっていることだろう。
だが、今がどのような状況かを忘れていないからか、エルシャはすぐに答えを出す。
「分かりました。ですが、必ず、後で今の事を教えてくださいね」
「了解だ。ありがとう」
〜・・・〜 〜・・・〜
先を急ぐ俺達は、今のところ直線の通路であった事が幸いし、速度に注意するとこ無く猛然と目的地に向けて走り抜ける。
「曲がり角は、今のところは無しか」
「ずっと真っ直ぐですね。それに、罠が一つもありません」
「でも、こっちとしてはスピードに気を付ける必要がないから好都合だよ」
「まぁな」
道中に罠が数ヵ所あったが、効力を発揮する前に俺の異能で全て潰している。
本来なら、侵入者を苦しめ、進むにしても一つ一つ解除していくか踏まない様に気を付けながら進む必要がある罠だが、俺はその罠の起動前に何処にあるのか分からないが、全て壊していく。
何処に何があるのか解らなくても、俺が『全ての罠は効力が発揮する前に壊れる』と想像し、幻想すればそれが現実になる。
それこそが俺の異能。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「何だ?」
「こういう場合ってさ、大体は罠が仕掛けられているはずだよね。それなのにさっきから、一向に罠に掛からないのって、お兄ちゃんが潰しているからなんでしょう?」
「…………まぁ」
百合華がまだ地球に居た頃、たまに友人の家やゲームセンターに行って遊んでいたり、兄の拓斗の部屋にあるラノベを読んでいたことがあるからか、そういう知識は付いていることで、ここまで一つも罠が発動しない事に不思議に思い自分以外で事前に潰す事が出来る人物を思い浮かべれば、今この場でそんな事が出来るのは自分の兄である津我無拓斗のみ。
それに思い至り、尋ねれば、ぶっきらぼうに返される。
「ほんとう、お兄ちゃんは過保護なんだから」
「う、うるさいな」
「??」
俺は少し恥ずかしくなったので視線を反らし、それを視た百合華は楽しそうに、エルシャは何がなんだか分からないと首を傾げる。
「てか、そんな事より、もうすぐ到着地点のようだぞ」
意識を切り替え、『地動探査』で確認したこの空間の規模を把握した限りでは、そう遠くない内に子供達を拐っていたと思われる男達のアジトに辿り着くはず。
だが、その前に確認しておかなくてはならない事柄がある。
「……百合華」
「何、お兄ちゃん」
「お前、人間と闘った事があるか?」
そう、この先には恐らくあの男達とその仲間達がいる事だろう。そうなれば、子供を助け出す傍ら、そいつらとの戦闘に発展する可能性が大きい。
俺は何とかなるが、エルシャは戦闘に集中させるから問題はない。俺が鍛えたからどうにか対処することは出来るだろうが、危なくなったらその都度手助けしてやれば良い。だが、俺は百合華の闘う姿をまだ見たことがない無い。
だからの確認だ。
「どうだ?」
「う〜ん。………人形の魔物や人形とかはアルディニア様やゾルド様にやらされて何度かヤリあった事があるけど、生身の人間とはまだかな」
「そうか」
俺は悩んだ。このまま進んで、どの立ち位置に百合華を配置すれば良いかと。
百合華がこの世界に居ることから、俺と同じように異能を開花させてはいる事だろうし、シロナから全属性の適性も与えられている事だろう。他にも、接近戦の技術も使えるとは思うが、どれ程のものかは不明。
流石に一人で動かすには不安があるり、そこで俺は百合華に俺が造る武器と契約魔物を貸し出す事にした。
「それじゃあ、百合華。お前にはこいつを付けておく。【契約獣召喚:暗殺蜥蜴】」
俺は走りながら自分の手のひらの上に召喚魔術の魔方陣を展開し、契約している魔物の一体を呼び出すと、そこから飛び出してきた何かは凄い速度で俺の二の腕に細長い何かを巻き付け肩まで駆け登る。
「やあ、アズ」
俺は声を掛けながら自分の肩に視線を向けると、そこには漆黒の鱗の長い尾を持つ黄金の瞳の蜥蜴だった。俺の腕に巻き付いてたのはこいつの尻尾だ。
その蜥蜴は、俺の台詞に舌をシュルシュルと出して応える。
「お兄ちゃん。その蜥蜴は?」
突然現れたそれに百合華とエルシャは目を見開いて驚く。
たが、エルシャ、お前は前にも見たことがあるだろうにと思う。
「こいつは『暗殺蜥蜴』のアズだ。アズ、こいつは俺の妹の百合華と俺の仲間のエルシャだ。あいさつしてやれ」
「しゃるる、しゅるらら」
「こ、こんにちは、アズ、さん? えっと、アサシン、リザード?」
百合華はまだそこまで魔物について詳しくはないのか、首を傾げるが、エルシャはその正体を知っていたのか唖然とし、かすれた声で「次はソレですか。というか、一体何体契約してるんですか」と呟く。
「こいつは奇襲や死角からの襲撃が得意でな、百合華のサポーターとして呼んだんだ」
「私のサポーターって、お兄ちゃん。ほんとう、過保護なんだから」
「うるさい。アズ、百合華を頼んだぞ」
「しゅるるるる」
ピョンッ、と俺の肩から百合華の肩に乗り移るアズ。
「あとは、百合華はどんな武器を使うんだ?」
「私? え〜と、ある程度は使えるようになってるけど、一番は槍かな」
槍か、と考え、俺は即席ではあるが土属性で頑丈に作った鋼鉄の槍を渡そうかと思ったが、そこでふと、百合華も俺と同じで全属性が適性だったことを思い出す。
「そう言えば、お前も全属性使えたよな。それで作らないのか?」
「必要になれば作るよ? でも今は要らないかな、と思って」
確かに、槍は長柄の武器なせいで持ち運びが面倒なのだ。
「よし、なら準備も整ったって事で良いかな。出口が見えてきたことだし、ここから先は潜入調査からの襲撃だ」
〜・・・〜 〜・・・〜
「ガキの数は、集まったか」
「はい。何時でも搬送の準備は整っています」
「そうか」
魔晶灯が煌々と灯る部屋に豪奢な椅子に座る男とその前に立ち並ぶ十数人の男女。その全員がそれぞれ得意とする武器を携えている事から、本来なら冒険者だと思われるだろうが、ここに居る者達はソレとは全く違う人種の者達だった。
「なら、さっさと作業に取り掛かれ。明後日には商談が有るんだからな」
豪奢な椅子に座る男が厳つい顔で言い放てば、配下の人間はそそくさと自分の仕事に取りかかる。
それは男にとっては、何時もの光景であった。
自分の考えと指示に従い、配下の人間達が動き、成果を出す。
商会などの商売をする者達なら当然だが、こいつらがやっているのは違法売買。それも、人身売買。
今までに何度も国の騎士団や衛兵が動いた事があるが、その都度やり過ごしてきた彼ら。
これから先も、これで大金を稼ぎ出せると考えていた。
だが今日、彼らはけして見られてはならない、敵に回してはならない存在に目を付けられていた。
ズドゴオオオオオオンッッ!!!
「「「「「「ぐべらがぎゃああ!?」」」」」」
突然、配下の者達が向かった商品が集められている集荷場に続く扉が壁共々吹き飛んできたのだ。
「なっ、何だコレは!!」
男はいきなりの事に理解が追い付かず、狼狽する。
だが、異変はソレだけではなかった。壁が吹き飛ばされた事で立ち込める砂埃の奥から複数の足音がしてきたのだ。
「けほっ、けほっ、タクトさん。少しは手加減してくださいよっ!」
「本当、それだよね」
「仕方ないだろう。子供達があんな仕打ちを受けていたんだ。少しぐらい手加減が間違ったって、それはこいつらの自業自得さ。俺の頭の中の理性の糸を簡単にぶち切ったんだからな」
声からして、としは精々十歳半ばか後半くらいの男女の者だった。
「一体、何事だ!?」
男が問いを飛ばすと、それに応える声が返ってくる。
「おっ、どうやらまだ無事なのが居るみたいだぞ」
「だね」
「それじゃ。『風よ』」
ブオンッ、と風が吹き抜ければ、立ち込めていた砂埃がきれいさっぱり吹き散らされる。
そして、その中から姿を現したのは、男の頭を過ったモノだった。
それはつまり―――――。
「……ガキ、……だと」
年は男女の二人が十六、七歳くらいで、もう一人の少女はそれより下くらいに見えた。
だが、まさか、こんな所に子供が居るわけがない。居るなら、集荷場だけ。
もしそこから抜け出したのだとしても、すぐに捕まえられる様に、数人の配下を配置している筈だ。
だから、脱走の可能性は低い。ということは――――。
「テメエ等は、一体。何者だ」
もう一度問えば、三人の男女が一瞬顔を見合わせ、同じ表情で言い放った。
「「「俺(私)達は、お前(貴方)達の敵だ(です)」」」
それはもう、素晴らしいまでの、不敵な笑みで言いのけたのだった。




