第43話 〜皇都観光〜
皇王との謁見を終えて数日。
俺達は未だに皇都に残っていた。
「さぁ、タクトさん! 今日は何処に行きましょうか!」
俺の横で今日はテンションを上げながら話しかけてくるのは、同じパーティーを組んでいるエルシャだ。
そして、俺達が未だに皇都に残っている理由でもある。
「まったく、皇都を堪能してから帰りたい何て、お前もなかなかの子供っぽい要求をしてくれる」
「何言ってるんですか。これは、私がタクトさんにする正当な権利であり、お願いですよ。それに、忘れたんですか? タクトさんは、私のお願い事を聞くって約束をしたんですよ」
エルシャは当然の如く言ってくるが、けして間違ってはいない。事実、俺はその約束をしているのだから。
発端はアルベンの街に迫ってきたスタンピードを壊滅させる為とエルシャの訓練に使えるからと、エルシャにも前線で戦ってもらうための口実の為に言った事ではある。最初は渋っていたがその時に、俺が出した条件「何でも、三つお願いを聞く」をもって、参加してもらっていたのだ。
勿論、口実とは言うが最終的には叶えてやるつもりではあったが。
その一つ目のお願い事が今回の皇都散策のお供だったりする。
しかし、別の考え方をすれば、これは良かったのかもしれない。
これまで休暇を与えてはいたが、ちゃんと息抜きが出来ていたのかはさっぱりで、この期にちゃんとした休みを過ごすのも良いかも知れないと考えたからだ。
それに、エルシャは俺から見ても可愛らしく、このまま行けば誰もが見てみぬフリが出来ない美女美少女に成ることだろう。現に、今でさえ周りからの視線がちょくちょく向けられては、その隣に俺が居るのを見て落胆しているのが分かる。
その光景に少しだけ優越感を抱く。
が、ソレとは別に、俺は謁見の後に行われは個人的な話し合いの場で俺がリンガルト子爵とグルス・ファミリーをコテンパンにし、国に突き出したことがバレてしまった。
何が原因でバレてしまったのか訪ねてみると、
「簡単な事だ。あやつが自分を下し捕らえたのが黒髪黒目をした少年だと自白したのだ」
それを聞いて、確かにあの時の俺は姿を偽る事はしていなかった。
理由としては、救出する際に拐われた子供達を安心させるためと言う意味合いもあり、そのままにしていたが、子爵達の口止めをしておくのを忘れていたことに思い当たり、頭を抱える。
で、話し合いが終わり「こちらの準備が整ったらギルド本部に伝えておく」と言い残して退出した後に、エレーナさんからの聞き取り調査と言うなの尋問と説教が待ち受けていた。
その時の光景と鬱屈とした思考を頭を振ることで振り払う。
「どうかしたんですか?」
「何でもない。そんで、何処か行きたい場所の目星でも付けてるのか? 無いんだったら、適当に散策するのでも良いんじゃないか」
「それも良いんですけど、何となくでも、目的地がある方が良いじゃないですか」
「そうかもしれないがな、どうせまた戻ってくるんだから。そん時でも良いじゃないか」
本来は既に俺達はアルベンに戻って、この皇都に戻ってくる予定だった。が、俺はエルシャとの約束をしていたので、そのお願いを聞くしかなくエレーナさんをそれに巻き込むのも心苦しいので、先に帰らしたのがある程度の息抜きをした昨日だった。
何故、エレーナさんも帰りが遅くなっていたのかというと、
「向こうに戻ったら、また書類仕事ばかりだから少しは心身共に休養させておきたいのよ。それに、ここにはワタシを越える実力者が居るのだから、鍛練に付き合ってもらうのも悪くないしね」
との事だった。
ゆっくりと休養をとりながら、皇都を堪能し、合間に俺との模擬戦をギルド本部の練技場で行ったりしていた。
そこで分かったことだが、エレーナさんはかなり強かった。
風と闇の二属性しか適正が無くても、それを組み合わせた戦術は見事の一言につきる。
闇属性魔術で俺を欺き、風属性魔術で動きを阻害し、大打撃を与える攻撃を仕掛けてくる。
その魔術の発動タイミングや詠唱速度は凄まじく、回避や反撃の際に少しばかり驚く場面があった。
だが、その時の俺は水属性のみと力も一割だけという制限を設けての模擬戦をしていたのでそんな感じてはあったが、実際エレーナさんは強く、手強かった。
「そんじゃ、今日は職人街の方に行って見ないか? 何か良いものが有るかもしれないし」
「良いですね。昨日までは服屋や食品を売ってる所しか見ていませんでしたからね」
そんな訳で、今日は南の職人街を観光する事となった。
〜・・・〜 〜・・・〜
至る所から金属を叩く音や野太い男性の声、物を削る音、髪飾り何かの金物を売る出店の店員の呼び声が響いてくる。
「やっぱり国の首都なだけあって活気があるな」
「ですね。…………あ、見てくださいタクトさん。あそこの出店に売ってる装飾品、綺麗じゃないですか?」
「ん? ああ、確かに。ちょっと見ていくか」
「はい!」
俺はエルシャが見つけた出店の一つに近づいていく。
「おお、お兄さんにお嬢さん。どうだい、ちょっと見ていかないか」
「そうだな。少し見させてもらうか」
そこに並べられている装飾品はどれもがきらびやかな品々で地球で出品すれば、確実に数十万から数百万はしそうなものを、フリーマーケットの様に広げている。どれも金属、木製問わず細工が細かく、嵌め込まれている宝石もキラキラと輝き綺麗だった。
「へえ、どれも良さそうだな。細工の細やかさやそれにより醸し出される優美さが良いな。特に、これなんか」
「おっ! お兄さん、お目が高いね。それは職人が作った物じゃなく、ある遺跡から出てきたって話だ」
「遺跡? どんな遺跡何だ?」
「いや、詳しくは知らないが、もしかしてお兄さん。冒険者かい?」
「ああ、そうだ」
「やっぱりか。遺跡何てもんに興味を示すのは冒険者か探索屋くらいなもんさ。そのネックレスは共和国の少し先にあるらしい平原に出土した遺跡から発掘されたらしい、って話だけしか知らないな。何だったら、それの出てきた遺跡について調べるか?」
「そうですか。いや、ちょっと気になっただけですから。それじゃ、このネックレスとその髪飾りを下さい」
そう言って、俺は手に持つ銀細工を三日月形に成形し、その中心に赤い宝石が嵌め込まれたネックレスと敷かれた布の上に置かれた白と蒼色が美しい髪飾りを選ぶ。
「まいど! 二つ合わせて三十七ギルだ」
俺は銀貨三枚と銅貨七枚を渡す。少し高かったが、良いものだから良いだろうと考え、支払いをする。
そこで、俺は今まで一言も喋らず静かにしていたエルシャの方を見る。
「エルシャ、さっきから静かだが。どうしたんだ?」
「……………え? あ、いえ、何でもないんです。ただ、これが綺麗だったもので」
エルシャが気になっている物に目を向けると、赤、青、茶、緑、黄色、水色、白、黒に彩られた八つの花弁と中心に黒曜石のような石でありながら見方を変えれば星が瞬いているかの様に見える宝玉が嵌め込まれた花飾りだった。
それを見て、確かにエルシャの服か髪にワンポイントで付けるのも良いかもしれないな。
「おじさん。これも頂戴」
「おっ、何だい、お嬢さんへのプレゼントかい!?」
「ええ」
「ちょっ! タクトさん、私は別に!?」
「それじゃあ、少し負けてやるか。五十五ギルでどうだ?」
「買った」
エルシャが横から声を発するが、俺とおじさんは聞いてないフリをしてトントン拍子で会計を済ませていく。
呆然とするエルシャにおじさんから受け取った花飾りを渡す。
「ほら」
「え、でも」
「良いから。折角買ったんだから、着けてみろって」
「あの、その…………」
エルシャの煮え切らないない態度にムカッとしたので、無理矢理着けることにした。
つまりは―――――実力行使である。
「あ〜、もう! さっさと着けろ!」
「えっ、きゃっ」
俺は花飾りの裏の留め金を弄り、落ちない様にエルシャの髪に着けてやる。
「ほら、着けられたぞ」
そう言って少し距離を取って見ると、花飾り一つ着けただけで印象が変わっていた訳ではないが、可愛らしさが引き立った様に思える。
「その、ありがとうございます」
「どういたしまして」
お礼を言われたので、問題ないと返す。
「その、似合いますか?」
「ふっ」
俺は一つ笑い。
「当然だろ」
少し気恥ずかしくしながらも、そう答えてやったら、エルシャも少し頬を赤くさせ恥ずかしがりながらも、嬉しそうにはにかんでいた。
〜・・・〜 〜・・・〜
職人街を進んでいくと、
「…………ん?」
俺はふと、脇道の奥からただならぬ気配を感じ、立ち止まり振り向く。
そんな行動をした俺にエルシャは不思議に思い、尋ねてくる。
「どうしたんですか?」
「いや、この道の奥が気になってな」
「この奥、ですか」
エルシャも俺が見ている脇道の奥に視線を向ける。
「何かあるようには見えませんが」
「そうなんだかな。何故か、気になるんだ」
路地奥が気になって仕方がない俺にエルシャは言ってくる。
「なら、行ってみますか?」
「良いのか? 言っちゃあ何だが、これは俺の個人的な興味でしかないぞ」
それに今日はエルシャとの約束で街を見て回っているのだから、こんなことで時間を取らせるのは、と考えていたが―――
「これも皇都観光ですから」
笑顔で言ってくれた。
だが、俺は思った。
(これは観光ではなく、探検になるのでは?)と。
という訳で、俺達は俺が気になった路地裏の奥に向かって進んでいく。
「特に、コレと行って何かがあるわけでは無いですね」
「みたいだな」
そこにあるのは、木箱や転がるビン。あとは、店で使う道具か何かくらいだ。
しかし、そんな何も無い場所が気になって仕方がなかった。
すると、
「ん? あれは」
今まで気にしていなかったが、ある一角にほどほどの大きさのテントが張られていた。
近くで見てみると、人が四、五人は入れそうな広さがある。
入り口の布を避けて中に入ると、そこはまるで、
「占い屋?」
「ええ。そうですよ」
テントの中には、一つの机とその上に置かれた水晶玉。三脚の椅子が置かれ、その内の一つに薄い紫の服とベールを纏った女性が座っていた。
「えっと、ここは」
「ふふふ、あなたが言ったように、ここでは占いをしているのよ」
「そうなんですか」
どうして、こんな所で? と不審がるが、もしもの時はどうにでもなるからと考え中に入る。
「それで、貴方達は何か占って欲しいのかしら?」
「いや、俺達は別に……」
「なら、こっちでやらせてもらうわね」
そう言って占い師の女性は勝手に水晶に向き合って占いだす。
「あらあら。お二人さんの相性は最高みたいね」
「「なっ!!」」
突然の発言に俺とエルシャは驚愕する。
なに言ってるんだこの人!?
彼女は俺とエルシャの恋愛の相性を占ったのかもしれない。
確かにエルシャは誰もが可愛く思えるだろう美少女で、俺もふとした瞬間にドキッとする場面があるし、少なからず好意は抱いてはいる。
だから相性が良いのは嬉しいが、突然の発言に驚愕するしかなかった。
「それと、あら? ふふっ、貴方はこれから彼女だけでなく、複数の女の子と付き合うかもしれないわね」
「「何だってぇえ!!」」
俺は何処かのハーレム野郎か!?
「それと、貴方はこれから今までその力で救ってきた人達以上を更に助ける事になるわね」
「なんじゃ、そりゃ」
今まで以上に多くの人達を救う?
まぁ、困っているのであれば、悪人ではないのなら手を差し伸べても良いかもしれないし、するかもしれない。勿論、悪人には制裁を下すだろうけどな。
「これで終わりかしらね。ああ、代金は要らないわよ。こっちで勝手にやったことだから」
「…………はあ」
何が何だか分からないがここに居ると俺の中の何がおかしくなりそうなのでそのまま帰る事にする。
踵を返して出ていこうとすると、後ろから占い師の女性が声を掛ける。
「これが本当に最後の内容だけど」
「何です?」
「貴方はこれから大きな試練と運命の出会いに逢うかもしれない。それは近くかもしれないし、遠い未来かも知れない。でも、それは確実にやって来るわ」
そんな忠告とも警告とも、もしくは予言ともとれる内容であった。
俺とエルシャは顔を見合わせ、占い師の女性にどういう事かと聞き返そうと振り返ると、女性は口元しか見えないベールの向こうで笑う。
「気にしなくても、そのうち分かるわ」
それから数日、俺達は様々な名所を見て回りある程度満足し、俺達はアルベンに戻る帰路についた。
あの時の占い師の女性の言葉がトゲの様に刺さっているのを感じながら。




