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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第37話 〜まさかの………〜

 影の中から這い出てきたグランドマスターは今までグランドマスターのフリをしていたアネットが座っていた椅子に座る。

 そのアネットは場所を譲り、俺達にソファーに座るように促し、自分は人数分の飲み物を用意する為に一度部屋を退出する。

 

「それで、本題の前に君に聞きたいんだが。確か君は、タクト・ツガナシ君だったかな」

「ああ」

「君はどうして、僕があの影の中に居るって分かったんだい? 普通の人達では気付かない筈だし、気配は出来るだけ消していたからもし勘が鋭くても、何処か別の場所に隠れているのではと考えるものじゃないのかな」

「まあ、普通はな」


 俺はその問いにそう返す。

 その返しにグランドマスターは不思議に感じたのか聞いてくる。


「それはどう言うことだい?」

「実際、慎重な者なら相手の素性が判っていても、自分の知り合いが連れてくる者までは信用できない。例え、自分が呼び出したとはいえ、相手の動向を観察しておきたい」

「それについめは否定できないかな」

「つまりは、そう言うこと」


 俺はもったいぶるかのような言い方をしているが、向こうはそれを気にせず、まるで答え合わせをしているかの様な気分になる。


「相手の観察をするなら他の部屋にいるのは非効率。何せ、目が届かないからな。なら、近くに居た方が良い。しかし、相手がどれくらいの力量かもこっそり確認したい。そして考え出した結果が二つの試験的内容。一つが自分の偽物を見破る事。コレに関しては、さっさとエレーナさんがネタばらしとして先に言ってしまったけど」


 俺はチラッとエレーナさんに視線を向ける。

 エレーナさんは少しだけ、ばつが悪そうに視線を逸らす。


「二つ目に、自分が何処に居るのかを探させる事。コレに関しては、今回は相手が悪かったとしか言えないな。あと、観察している様な視線を感じたから、かな」


 自慢するでも無く、俺は悪びれもせず、事実を告げる。


「確かに、こんな簡単にバレてしまうとは思っていなかったからね」

「レウル、それは仕方ないわ。彼はワタシが知る限りでは、この時代で唯一の全属性適性者(オールエレメンタラー)。貴方が得意としている闇属性さえも使いこなす規格外よ」


 エレーナさんの説明にグランドマスターのレウルさんは目を見開いて驚愕を露にする。


「え、エレーナさん? 今、お、オールエレメンタラーと仰いましたか?」

「ええ、そうよ」


 事も無げに告げられたレウルさんは唖然とし、俺に視線を向けてくる。


「ほ、本当なのかい?」

「ああ。これが証拠だ」


 そう言って、俺は自分の周りに拳大程の全属性の球体を作り、俺の周りを衛星の如くゆっくり回転させる。

 そのさまにレウルさんは信じられないものでも観ているかの様な表情になった。


「まさか、本当に全属性適性者なんて者が存在したなんて」

「まあ、普通なら一つか二つ有れば良い方だけど、多くても四属性くらいだからね」

「それも、種族によって違いますからね」


 同じ境遇だったエレーナと軽く喋ったからか、少しは平静を取り戻した事で、今回のアルベンの街で起きた事と俺に関する報告説明をすることになった。


「なるほど。それは災難と軽く言って良いものか迷いますが、そうですね。それほどの数の魔物をたった一つの街で押さえ込み、あまつさえ完全討伐を成した事は大々的に公表なりをしたほうがウチとしては良いかもしれませんね」

「そんな面倒な事はしたくないんだけどな」

「ワタシもそれにはどう意見ね」

「私もです」


 俺達三人の意見は一致していたが、レウルさんからしたらそうもいかない。


「そうしてあげたいのはやまやま何ですがね。この事は既に、幾つかの街や村、冒険者ギルドを経由して少なからず知られている事だから。冒険者は基本、いろんな所に赴きますから、ここらで一度、その情報が事実であることを公表するでもしないと、変な尾びれでも付けられてしまいますよ?」

「それはそれで、仕方がないんじゃないかい。人なんて、誰しもがとは言わないけど、噂好き何だから」


 確かにそうかもしれないなと考える。


「だったら、余計な噂が立たないように先手を打っておいた方が得策だよ」

 

 話し合った結果、今回の事は公表することが決まった。

 そして付け加えられるように、レウルさんからある頼み事をされた。


「ツガナシ君。君、ランクを上げる気は無いかな?」

「どういう事だ?」

「いやね。彼女(エレーナ)から上がってきた報告書を読む限りでは、君の今のランクは合っていない様に思えてね。いや、今から上げてほしいランクでさえ十分だとは思えないけど。なら、その際だから僕の立場が持つ権力で上げられる所まで上げようかと思ってね」


 まさかの自己申告での職権乱用を申告してくる事を宣言してくるとは思わなかった。


「俺は別に、ランク何て気にしないんだがな」

「そうもいかないんだよ、厄介な事に。君の実力がランクに見合わず、それによって引き起こされる事は数知れない。そもそも、弱い者が高ランクになる事は難しい。強くても、問題の絶えない者でも同じ。しかし、実力と人柄、問題らしい問題が無い者でもランクアップ試験をクリア出来るかは別問題」


 そう言って、レウルさんは俺をジッと見てくる。


「その点、君なら実力、人柄は問題無く、更には偉業と言って良いものさへ打ち出した。なら、十分に試験とランクアップの資格がある」


 などと(のたま)うが、本当にランク何て気にしないし、興味も余り無い。今回は非常事態だからランクを上げたが、そんな事をしなくても姿を偽れば何とでもなった。

 が、ランクを上げさせてくれると言うのなら、受けておくのも良いかもしれないかと考え、それならとこちらからも一つ条件を付け足す。


「分かった、その試験は受ける」

「助かるよ。それじゃあ、すぐにでも手続きを……」

「だが、条件がある」

「…………条件?」


 レウルさんは、グランドマスターの自分に条件を突き付けてくる者がいるなんて思いもしなかったのだろう。

 普通そんな事をしてくるのは、自分と同格の相手か、上の立場の物だけだ。

 だが、今条件を突き付けてくるのは、たった数日前に『C』ランクに上がったばかりの少年。

 エレーナさんから上がっているだろう報告から、俺の実力に関しての予想はしているだろう(それが当たっているかは別として)。


「流石に、君のランクで僕に条件を突き付けてくる者はこれまで居なかったが、まあ、今回はこちらからの頼みだ。聞くだけ聞こう」

「内容は簡単だ。俺だけでなく、このエルシャも受けさせてくれ」

「なっ!?」


 横で俺達の話を聞いていたエルシャが驚く。

 ギルドのグランドマスターに条件を出すだけでなく、まさか自分にもその機会を与えるだなんて。


「何故かな」

「あんたが知らないって事は、エルシャの事は報告が上がってないって事だよな」

「それがどうしたんだい」

「彼女は、俺の一番弟子だ。人柄に関しては問題ないし、このエレーナさんも知っている。問題も起こしたことはないし、実力何てもっての他だ。俺の弟子なんだから、かなりの物だと保証する」


 レウルさんから見たら、エルシャはまだまだな所はあるだろう。だがしかし、それをおしてもエルシャは強い。

 俺が一から基礎を教え鍛え、彼女自身がたゆまぬ努力で自分の物におとしこんでいく。

 そうして出来上がったのが、確固たる下地と土台。


 レウルさんはチラッとエレーナさんに視線を向け、エレーナさんはその視線に頷く。


「はぁ………分かった。その条件を呑もう」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」



      〜・・・〜      〜・・・〜



「それじゃあ、すぐにでも手続きを……」

「それなら、アタシ達が立ち合って上げる」


 突然部屋の外から声が掛かり、また言葉を遮られてしまったレウル。

 全員の視線が入り口の扉に向くと、三人の人物が扉を開けて入ってくる。

 飲み物をカートに載せて引いてきたアネットと、その後に続いてやって来る白銀に青色の線が幾重にもひかれた鎧を纏った男女。

 レウルさんは女性の方を見て、驚く。


「おやおや。まさか、貴女がこんな所に来るなんて思いもしませんでしたよ。『蒼燐(そうりん)騎士団』団長、ロザリア・グロースハック殿」

「「………え?」」


 相手の女性の素性が明かせられる。


『蒼燐騎士団』団長。


 いきなりの騎士団長の登場に唖然呆然とする俺とエルシャ。


「ちょっと、貴方に話があってきたのだけど」


 騎士団長のロザリアが俺に視線を向けてくる。


「どうやら、手間が省けたようね」

「彼に、何か用かな?」

「ええ。陛下がアルベンで起きたスタンピードをおさめ、功績を挙げた者―――タクト・ツガナシに興味を抱いたのよ。それで、貴方なら、すぐにでも呼び出せるだろうと思って来てみたのよ」

「納得だ。それは確かに、タイミングが良かったみたいだ」


 俺達を置き去りにして二人で話を進めていくので、蚊帳の外になっている俺達はソファーに座り、アネットさんが用意してくれたお茶を飲んでいる。


(陛下? という事は、皇王? この国の王様が俺に用? スタンピードの事とは言ってるが、本当かよそれ)


 俺は内心で戦々恐々としながらお茶を一口飲む。

 香り豊かで、一口飲んだ後に来るスッキリした所は飲んだことは無いが話に聴いたミントティーみたいであり、甘味と隠れる様な微かな雑味がまた癖になる。


「これ、美味しいですね」

「ありがとうございます」

「これって、何てお茶ですか?」

「こちらは私のブレンドです。シェハーザミントとクリムロンム、サラントを混ぜたものです」

「凄いですね。私、お茶には詳しく無いですが、良いものですね」


 俺達は雑談していると、話は終わったのか、俺達に声をかける。


「タクト君。君達の相手はこの彼女がすることに決まった」


 話し合いが終わり、その内容を伝えてくる。


「え、いやいや。騎士団長様が相手って」

「あら、アタシじゃ役者不足かしら?」

「いや、そういう理由じゃあ……………」


 事実、その通りだし、同時に騎士団長がどのくらいの力量を持っているのか知りたかった。

 だが、今はそんな事ではない。


「そもそも、貴女は俺を呼び出したくてここまで来たのに、そんな事をさせていいのかと思って」

「構わないわ。確かに、アタシはこの人に貴方をこの皇都に呼び出して欲しくて来たけど、その手間は無くなったし、ランクアップ試験をするにしても手間と時間が掛かりすぎる。なら、今ここで『A』ランク以上の実力を持つ者がやった方が手っ取り早いわ」


 つまりは、俺達のランクアップ試験を自分達で受ける事で、手続きに取られる時間の短縮と終わり次第そのまま俺達を城まで連れて行くって事か。まさに時間の有効活用で一石二鳥な考え方だな。


「分かりました。それでは、胸を借りるつもりでやらせてもらいます」


 その台詞を聞いたエレーナさんとエルシャは、タクトの実力をその目で見ているから知っているし、こう思っていたりする。


 やらせてもらうって、殺る方じゃ無いよね? と。

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