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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第35話 〜グリンザリアへ〜

 三日間の準備期間(まあ、俺達は鍛練や休暇、ちょっとした依頼をしていたが)を終え、エレーナさんと馬車の操者をする冒険者ギルドの職員を含めた俺達四人は一路ハシュバル皇国の皇都グリンザリアへ向かって馬車を走らせていた。

 馬車は冒険者ギルドが出している物で、装飾品はこれと言って無く、実利一辺倒なのが窺い知れる。窓はこの世界では一般にまで広まっているガラスを土属性魔術で強化し、襲撃された際の衝撃に耐えられる様になっており、外に速やかに出られる様に大きな入り口がつけられたりしている。


 俺はそんな窓から外の景色を眺めていた。

 視線の先を流れる木々や草原、その合間を走り抜ける動物達。空に目を向ければ、青く澄み渡った青空と風に流れる白い雲。ぽかぽか陽気を伴い照らす太陽。

 まさに、外出にはもってこいな天気だ。


 それを眺めながら、俺は三日前に言われたグリンザリアへの事に思いをはせる。


 グリンザリアはアルベンの街から二つ程の街を過ぎることになり、少なくともこちらも五日は掛かるらしい。この世界では一週間は六日の三十日が一ヶ月の計算だ。

 俺はアルベンの街しか知らないから、いきなりの大都市にしてこの国の首都に行くことになった事に、少なからずのワクワク感があった。

 皇都って、どんな所なんだろう。

 

 アルベンの街を出てから数時間経つが、今の所は非常事態に出会う事もなく、順調な道程を進んでいた。


 そこで俺はふと、皇都に行くと聞いてから皇都の事を調べては居たが、これからの予定は聞いていなかった事を思い出す。


「そういえば、皇都までの道程とその後ってどうするんだ?」

「ああ。そういえば、言ってなかったわね。まず道程だけど、このまま進んでクリフとリーラスと言う二つの街にそれぞれ通り抜ける時に一泊するわ。街に着くまでは野宿を一日ずつ挟むけど、そこは勘弁してね」

「別に、そこは気にしないが。で、皇都ではどうするんだ?」

「そうね。まずは宿を探して、その後にギルド本部に出向して、そこに居るグランドマスターと話をするよ」


 まあ、そこんところは想定内か、と考える。


 しかし、その五日後にて俺の考えていた想定が覆される事になる。



 五日後、俺達は予定通りにハシュバル皇国の皇都グリンザリアに着いた。


 堅牢で巨大な石造りな壁と門が俺達の目の前に聳え立ち、その門に向かって進む歩行者や馬車の数々。

 それは俺達が拠点として活動していたアルベンではあり得ない数だ。

 俺が初めてアルベンに入るときに並んだあの列より遥かに長かった。


「流石はこの国の首都。沢山の人が行き交っているんだな」

「それは当然ね。でなければ、ここまでの繁栄は出来なかったでしょうから」


 俺達が乗る馬車は門に向かって並ぶ列の最後尾に並んだ。

 そこから見えるだけでも、門から中に入るまでは一、二時間は覚悟しておくしかない。

 待っている間は何もする事がないので、俺は初級魔術で様々な形を作っては崩し、作っては崩しを繰り返す。それも、同時に六属性で。

 そんな事をしていると、対面に座っているエレーナさんが不思議な物を見てくるように視線を向けてくる。


「やっぱり、貴方は全属性が使えるのね」

「まあな。これは俺のアドバンテージみたいなものだし、相手や環境を選ばないから結構使い勝手が良いぞ」

「いや、そうなんだけどね。そもそも、ワタシの記憶が確かなら、全属性を持つ者なんて記録に残ってなかった。つまりは、貴方は歴史上初めての全属性持ちになるわ」


 エレーナさんを言葉に俺は「そりゃ、そうか」と思った。そもそも、この全属性の適正はシロナからのお詫びで、俺が元々持っていた物ではない(多分)。

 それにシロナが言うには、この世界では複数の属性を持つ物は基本的にその数が少なく、全属性持ち何て過去に数回しか生まれなかったと話していた。

 だから、これは俺の憶測だが、歴史に全属性を持つ者がその名が残っていないのは自分の存在が災いになるかもしれないからではないかと危惧していたからではないかと考える。

 それだけ、この力は強大なのだ。

 そして、今回を期に俺の存在は知られる事になり、俺に何かしらのアクションをとってくるやつが居るかもしれない。

 その過程で、俺の親しくしている人達に危害が及ぶのなら、徹底抗戦も厭わないが。


「それで聞きたいんだけど、貴方はどれ程の実力を持っているの」

「俺の実力、か」


 それはなかなか難しい質問だった。

 答えとしてはこの世界で神に最も近い実力を持っている、と答えれば良いのだろうが、それは当然出来ない。信じてくれるか分からないし、最悪不敬罪にされそうだ。この世界では、神様が実在していることが知られているから。

 だがら、俺は当たり障りがない台詞を言う。


「自分ではかなりのものだと思うが、それがどれくらいなのかは分からないな」

「分からない、って」

「実際そうだしな。俺が本気になったのなんて、鍛え始めた当初だけだからな。あと言うと、俺はコレだけでなく体術や武術も我流だがやっているから、本当にどのくらいの実力なのかが判断できない」

「………そう」


 こんなもんで良いだろう、と俺は考え、自己鍛練に打ち込むことにする。



      〜・・・〜      〜・・・〜



 ワタシは目の前で、自分の手の平の上で六属性(氷と雷は水と風の上位であるため、水と風に含まれる)を様々な形に変えながら魔力の循環を行っている少年に目を向ける。

 彼の実力はスタンピードの時に見たから分かるが、あれは異常だ。

 炎と水の龍。降りしきる大針の雨と雷。拡散して敵を貫く風槍と必中必殺の閃光。姿無き無数の死。全てを凍てつかせる氷。

 その全てが既に、個人が持って良い力の総量を越えていた。現在進行形で行われている自己鍛練は一世紀以上を生きる自分でさえやっとの思いで出来る芸当なのだ。

 それを、目の前に居る彼は、事も無げにやってのけ、自分以上の全属性のコントロール力をまざまざと見せつけてくる。

 そこから察せられる事だが、おそらく彼は全属性の魔術を極めている。それも、全てが高水準で。

 それでさえ驚きなのに、複数のオリジナル魔術を作り出し、更には武術さえも間違いなく達人級を越えている。

 どうやれば、ここまでの領域に至れるのか検討も付かない。


「本当に、彼は何者なのか」



      〜・・・〜      〜・・・〜



 列が流れ、並ぶ人のその数が減っていくにつれ俺達が乗る馬車も次第に大門に近づいていき俺達の番が来る。

 馬車の外では兵士とギルド職員が今回この皇都に来た理由と身分証の確認をしていた。

 すると、ギルド職員と話している兵士とは別の兵士が俺達の方に向かってくる。


「どうしました?」


 俺の横に座っていたエルシャが対応する。一言二言して、俺達にその内容を教えてくれる。


「どうやら、私達の身元確認をしたいらしいです」

「そうか。確か、ギルドカードで良かったんだっけ」

「ええ、そうよ」


 俺達はそれぞれのギルドカードを提示し、本物かの確認をしてもらう。

 と、いっても、それは正式に発行して貰った物だからまず間違いなく本物である。

 間違いなく本物である事が分かり、俺達はギルドカードを返してもらい、そのまま門をくぐて皇都内に入る。


 そして、俺は自分の目に飛び込んでくる光景に唖然とした。

 目の前に居る人、人、人。

 建ち並ぶ露店や商店の数々。

 遠目に見える巨大な城。

 その全てがアルベンの比ではなかった。


「これが、皇都」

「すごいですね」


 俺と同じようにアルベンとの違いに唖然としていたエルシャが続いて呟く。

 そんな俺達の顔が面白かったのか、エレーナさんはクスリと笑った。


「シグナートなら分からなくもないけど、貴方でも驚くことがあるんだな」

「当たり前だろう。俺が知る人が大勢居るところ何て、アルベンくらいなもんさ」


 実際そうだ。地球でさえ、ここまでの人々が往来している場所には来たことが無い。

 店の種類や数は向こうの方が多種多様だが、間違いなく活気ではこちらの方が勝っている。


「で、まずは宿を探すんだっけ」

「ええ。出来れば、本部に近い所の方がワタシとしては都合が良いけど」

「となると、もう少し進んだ方が良いか」


 馬車を走らせ、空いてそうで、本部から程近い(本部がどこかは知らないが)場所に建つ幾つかの宿を探し、見て回っていると、良い感じの宿を発見した。


「ここはどうだ」

「そうね。ここなら本部に比較的近いし、大通りに面しているからそれほど不便もない。建物も大きいから個室を借りられる確率も高いし、確かに良いかもしれないわね」

「でしたら、わたしが手続きをしてきますので、皆さんはここで待っていてください」

「それじゃ、お願い出来るかしら。リック」

「はい」


 そう言って馬車の操者をしていたギルド職員が受付をしに中に入っていく。

 少しして、その人が四部屋借りられた事を知らせに戻ってきた。リックさんの手には四つの鍵があり、それを俺達に割り振って渡してきた。


「それじゃあ、わたしは馬車を置いてきますので、皆さんは先に中に入っていて下さい」

「ありがとう、リック」

「いえいえ、コレも仕事ですから」


 嫌味一つ言うこと無くせっせと自分の仕事をこなすこの人に俺は感心と少なからずの尊敬の念を抱いた。

 向こうに居たときは、そういう事を全くしない人が居ると言う話を聞いたことがあるし、「引きこもり」や「にーと」、更には「ひも」何て言われる人が居ることも知っている。

 だから思ってしまう、「全員がとは言わすとも少しは彼みたいに勤勉になれば良いんじゃないかな」と。


「じゃあ、少し休んだらギルド本部に向かうとしよう」

「でしたら、その時にまた出しますか?」

「いいえ。貴方も疲れているでしょうから、ワタシたちがグランドマスターと話している間は自由にしていて構わないわ」

「分かりました」


 俺達は馬車を降り、身体をグーと伸ばす。


「あー、やっぱり馬車は身体が凝るな」

「そういうものですから、仕方ないですよ」


 慰められながらも、何かしら改善策は無いかと考えながら宿に入り鍵に括られた紐の先に付いた木札の番号の部屋に向かう。

 俺の部屋は三〇五号室で、エルシャとエレーナさん、そしてリックさんも同じ階にある三〇四と三〇六、三〇七号室だ。

 俺は扉を開け、部屋に入る。

 部屋は広々としていて、ベッドもなかなか大きい。清潔感もあり、壁に付けられたローブかけ、ベッドの横に置かれた机と椅子。来客用のもある。


「結構良いところだな」


 俺はその間取りを気に入り、鍵を机の上に置き、ベッドに横になる。

 少ししたら、本部の方に行かないといけないから起きていた方が良いかと考え、中断していた鍛練を再開し、声を掛けられるのを待った。


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