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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
32/72

第31話 〜『C』ランク昇格と魔物進軍〜

 試験が始まった。


 ギルド職員に名前を呼ばれた三人が、『三連聖』のそれぞれの相手の前に立つ。

 互いに、武器を構えたのを確認し、審判も兼任している職員が開始の合図を出す。


「――――――始め!」


 最初に動いたのは鍛えぬいた肉体を持つ、ガチムチの少年? 青年? のアラムが対戦相手のキースに向かって突っ込む。

 

「はあああっ」


 気合いの入った掛け声と共に右こぶしを突き出す。彼はこれといった武器を持っておらず、その手に嵌めたナックルもしくはガントレットと呼ばれる防具を装備している事から、彼が近接戦闘をする者の中でもあまりやらない、格闘術を主に使う拳闘士であることが伺える。

 その彼の技量は地球であれば格闘家として確実に上位に食い込める力はありそうではあったが、それだけでこれといった特筆すべき事はなかった。魔力視で視ただけでも、魔力の扱いが(つたな)い。

 呆れるくらいに、魔力が周りに垂れ流しにされ、必要な所に魔力が行き届いていない。それでよく、拳闘士何かしているものだ。

 こいつは駄目だな、と考え他の二人の受験者に視線を向ける。

 そちらでは、この拳闘士の男アラムよりかはマシであったが、俺からしたらあまりにもお粗末なものであった。

 魔力を完全に扱いきれておらず、例えるなら蛇口を最初から全開にして、そこから整備されていない水の通り道を流れているかのようだった。

 蛇口から流れ出る水、つまりは魔力を全開で駄々漏れにしていることで、短時間で魔力が足りなくなり戦闘続行が出来なくなる。さらに、流れる魔力が整備されていない道―――魔道脈(魔力が流れる場所)に流れてくることで使われる頻度が少ないか、使う魔力が少ないかのどちらかの原因で魔道脈に不純物が詰まることで正常に流れることがなく、多くの魔力が拡散されてしまう。

 その点、俺は魔力を切らす事無く、起きてるときも、寝ているときも無意識で魔力を循環させ続けている(現在もだが)。これによって、魔道脈は正常に保たれ、魔力の流れが滑らかに、素早く扱う事が出来る。

 勿論、これはエルシャにもやらせており、始めた頃に比べて魔力が緩やかに清流の如く扱えるようになっていた。

 

 他はどうかと、他の冒険者達を流し視るが、特筆すべき事はなかった。多少の魔力の量の違いがあるだけで、全くなっていなかった。

 もし俺が、魔力に関する試験をするのであれば、ここに居る奴等の中でエルシャ以外は絶対に合格させる事は無い。それどころか、及第点さえ与える事は無い程だ。

 試験をするのであれば、せめてそういう鍛練もしてくるべきではないのか。

 この世界では魔術が発展しているのだから、魔力の扱いを習熟させるべきではないかと考えてしまう。




 時間が過ぎた。


 俺とエルシャ、そして最後の一人である女の子以外は試験が終わり、残すは俺達だけ。

 そして、その時がやって来た。


「それでは、これより本日最後のランクアップ試験を行います。呼ばれた人は前に」


 そして俺達はそれぞれの名前を呼ばれ、自分が戦う相手の前に二メトス程の幅を取り、向かい合う。


「それでは、最終試験を開始します。――――始め!」


 合図と同時に受験者のコナン・アンデルが詠唱を始めた。


「大いなる炎よ、灼熱を纏いし、火球を放たん。【轟火球(ファイア・ボール)】っ」


 放たれるは火属性中級魔術の【轟火球】だった。

 威力を視る限り、まさに中級に相応しい物でしかなく、弾速もそこそこの速さではあるが、戯れて来ているのかと思えてしまう程度のものだった。

 相手側のヘザーは難なく避け、緩急を付けながらの突撃を敢行する。

 対するコナンは、避けられる事を事前に分かっていたのか、すぐさま次の魔術を用居る。


「大いなる炎よ、彼の者を貫きし炎槍となりて、射殺せ【紅蓮槍(フレイムジャベリン)】っ」

「今度も中級か」


【紅蓮槍】は中級に該当する魔術で、性能面ではなかなかのものだと考えられる。

 だが、やはりというか、威力と弾速共に遅く弱い。

 それを証明するかのようにヘザーも魔術を放つ。


「大いなる風よ、彼の者を貫きし風槍となりて、射殺せ【疾風槍(ウィンドジャベリン)】」


 コナンの放った炎の槍に真っ正面からぶつかるように風の槍を放てば、ぶつかった所から発生する衝撃と風と炎がコナンの方に流れてくる。

 流石のそれに、コナンも面食らったのか、驚いて一瞬、動作が遅れ、避けた先に待ち構えていたヘザーに首に短剣を突き付けられて終わった。


 やっぱり駄目だったな、と当然の結果にすぐに視線を外し、俺はエルシャに向ける。

 が、こちらは心配するまでもなかった。


 何せ、既に勝負は決していたのだ。


 対戦相手のクシュナが倒れ、エルシャが剣を片手に立っている。

 これで既に、勝負がどう付いたのか分かるというものだ。


 牽制しながらの接近戦でもっての決着。


 相手のクシュナは魔術師であり、幾つもの魔術を唱えて来るが、エルシャはそれを俺が教えた体術と剣術、そして少しの魔術でもって対処し圧倒したのだ。


 エルシャの顔を見れば、意外な自分の強さと相手の弱さに唖然として、しげしげと自分の剣を持っている手を見る。


 そして、残るは俺と『三連聖』のキースの対戦だけ。

 キースはどうやらエルシャの戦闘を最初から観ていたのか、エルシャの強さに愕然としていた。


「おいおい、何だよアイツ。あれでまだ『D』ランクだってのか? あり得ねえだろ」


 だが、これは現実である。


「さあて、そんじゃこっちも始めますか」

「え、あ、ああ」


 一瞬、呆けていたが、すぐにまだ自分の相手が居る事を思い出した。


 キースはすぐさま武器を構えるが、俺は構えるどころか自然体でただただ立っているだけだった。

 それに対して訝しんでいたが、すぐに意識を切り替え、俺に斬りかかってくる。

 俺は半歩下がり、(かわ)す。手応えが無かった事に驚き、だがすぐさま切り返しを放ってくるが、それも半歩下がる事で難なく避ける。

 

「何なんだ、お前。さっきからのらりくらりと、反撃もしないで。やる気あんのか?」

「いや、そこまででもないな。別に俺は、ランク何かに興味があるわけでもないし、たんにランクを上げる機会があっただけだからな」

「お前、それ、本気で言ってんのか」

「当然だろう」


 俺がそう言うと、キースの身体から少なからず怒気が発せられてくる。

 それで俺は、何かやってしまっただろうからと首を傾げる。


「オレたちがどれだけ必死にランクを上げているのか、どれだけ力を欲しているか知っているか」

「さあな。それに、単なる逆ギレで俺に当たらないでくれるか? 迷惑だ」


 それが余計に火に油を注ぐ事になったのか、猛烈な勢いで斬りかかってくる。

 俺は「平常心を無くしちゃ駄目だろう」とため息をつき、足元の地面を靴の爪先で軽く叩く事で、そこから蒼銀色の光を伴いながら一振りの剣がせり上がってきた。


「【武具創造(アースクリエイト)】【剣】」


 それを掴み取ると、一瞬にしてキースの目の前に現れ振り抜く。


「がはっ」


 肺から空気を吐き出されながらも、キースは咄嗟に剣で防いだ様だが、その上から襲ってくる衝撃に吹き飛ばされる。瞬時に起き上がろうとするが、その前に俺が【水流槍(ウォータージャベリン)】を全方位から突き付ける。


「これが、ランク何て物を気にしてばかりの奴と、気にしていなくて強くなる努力だけをしてきた俺の実力差だ」




 無事にランクアップ試験が終わり、俺達は待合室で待つことになった。

 何故、俺達がこんな所に居るのかというと、この後に試験の合格者を発表するからだ。

 少しすると、手続きなり何なりを終えたギルド職員が入って来た。


「では、これより試験合格者を発表いたします」


 職員は手元にある資料を確認し、そこから『C』ランクに上がる者の名前を呼ぶようだ。


「まず、今回の合格者は五人です。名前を呼ばれた者はギルドカードを提示してください。それでは呼びます。タクト・ツガナシ、ガイ・サイル、バラック・アンレル、ベネス・テッド、エルシャ・シグナート以上五名が試験合格者とします」


 呼ばれた名前の中には当然ながら俺とエルシャの名前があったが、呼ばれなかった者の中には納得出来ない者が居るようで再試験を要求している。

 その呼ばれなかった奴らの中には、開始前に俺達に突っかかって来たアイツらも含まれていたが、そんな時間は無いとキッパリ断られた事で引き下がることしか出来なかった。

 それでも、アイツらは恨みがましい視線を試験官の冒険者とギルド職員、そして俺達に向けてくる。


「まったく、逆恨みにも程がある」

「ホントですね」


 『C』に上がる俺達はその手続きをするために受付に向かい、そこでギルドカードのランクを上げてもらう。

 さて、この後どうするかとエルシャと話合おうとしたところに受付嬢から俺とエルシャに声がかかった。


「すみません。タクトさん、エルシャさん。この後時間が御有りでしたらギルドマスターが執務室まで来てほしいそうです」


 俺達は何かあったのかと顔を見合せ、受付嬢に従い、俺達は執務室に向かう。



 コン、コン、コン


「どうぞ」

「失礼します」


 ドアをノックすると、室内からエレーナさんが入室の許可を出したので、そのまま扉を開けて入る。

 室内ではこの間と変わらずエレーナさんが机に向かって書類仕事をしていた。


「少し待っていてくれるかい。これと、これを確認しなくてはいけないので、そこのソファーに座っていてくれるかい」

「分かった」


 俺達は言われた通りに四人掛けと一人掛けのソファーがあるので、四人掛けの方に座る事にした。

 少しして書類の確認が終わったのか、エレーナさんがこちらに視線を向ける。


「よし、これで良いだらう。悪かったね、突然の呼び出しに応じてくれてありがとう。それと、『C』ランク試験の合格おめでとう」

「ありがとうございます」


 エレーナさんからの突然の謝罪と祝いの言葉に、俺は普通に応じる。


「それで、今日はどの様な用件で俺達が呼ばれたんですか?」

「そうね。まずはこれを」


 そう言って俺達にさっきまで見ていた書類を渡してくる。

 一瞬、良いのだろうかとも思ったが、渡してくるという事は見ても構わないということだ。

 俺達は書類に目を通す。

 そこには今回のスタンピードに関する詳しく纏められた、魔物を種類や数の戦力分布図であり、こちら側投入可能な人員でもって行える作戦立案が書かれた物だった。


「これって、かなり重要な物じゃないのか?」

「まあね。でも、貴方達には関係の無い事でしょう?」

「まあ、そうだが」


 実際、俺はこんなものに興味は無い。

 俺が指揮をするわけでもなく、単に戦力として参加するだけなんだから。

 だが、この魔物の総戦力に関してはずっと気にはしていた。

 エルシャの目を盗んで確認してくることも出来たが、それをするなら、まず夜になってからじゃないと動けない。

 確認が出来て、魔物の総数が俺だけで対処可能であれば処理していた。

 が、流石の俺でも万に到達する数の魔物を相手にするのは骨がおれる。確実に討ち漏らしが出る。


「貴方達が報告を上げてくれた後に、指名以来で三つ程の冒険者パーティーをその確認に向かわせた。報告が纏まり次第、皇国や他の冒険者ギルドに救援要請をしたのが約十日前。そこからここまで来るのに少なく見積もっても、一週間〜十日と言ったところかしら」

「それ、間に合うのかよ」

「分からないわ。もしかすると、本当にギリギリか、もしくは―――」


 その時、通路を走ってくる複数の足音がこの部屋に向かってくるのが聴こえた。


「何だ?」


 そして、ノックも無く、勢い良く扉が開かれた。

 そこにいたのは、ギルドの受付嬢と二人の冒険者だった。


「何事、今は彼等との大事な話を……………」

「そんな事より!」


 エレーナさんの言葉を遮る様に、冒険者の一人が声を上げる。

 それも、かなりの切迫した声で。

 俺はそれで、彼等が何をしに来たのかを理解した。


 そう、それも―――――悪い意味で。


「―――――魔物達が進行を始めました!!」


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