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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
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第28話 〜スタンピード〜

 クルリ村の村長宅に戻り、俺達が見たものを知らせ、早急に避難することを伝えた俺達はすぐさまアルベンの街に戻り、一目散にギルドを目指し、今まさに受付をしていたレーナさんの下へ行く。


「あれ、タクトさんにエルシャちゃん。どうしたんですか? 今はクルリ村の依頼をしているのでは」

「今はそんな事を話している場合じゃないんだ」

「え?」


 俺達はクルリ村で受けたゴブリン討伐の依頼で森に入り、ゴブリンを探していると森の奥で複数の魔物が集っていたのを発見した事を報告する。

 

「………………まさか、それって」


 絶句するレーナに俺は頷く。


「すぐに、ギルドマスターに報告してきます」


 そう言ってレーナさんは駆け足で上の階に上がっていく。

 慌ただしく二階に上がっていくレーナの姿に同僚の受付嬢や冒険者達が、何事だと見てくるが努めて無視の姿勢でレーナの帰りを待つ。


 数分してレーナさんが俺達を呼びに戻ってくる。


「タクトさん、エルシャちゃん。報告について、ギルドマスターが話したいそうです」

「分かった」


 それを聞いていた冒険者達が、何でギルドに所属してそんなに経っていない新人を呼び出すのか不思議であり、驚きでもあった。


 俺達はレーナさんの先導で二階に上がり、そのまま奥の他とは違う厳重で実用的であり、少しだけ豪奢な扉の前にやって来る。


「この先に、このアルベンのギルドマスターがいらっしゃいます」


 コン、コン、コン


「ギルドマスター、タクトさんとエルシャちゃんの二人をお連れしました」

「入って」

「承知しました。どうぞ、中へ」


 中から聞こえてきたのは、意外にも若い女の人の声だった。

 ノックの後の短いやり取り、レーナさんは扉を開けて俺達を室内へ迎え入れる。

 

 室内は広々としていて、俺が見た限りでは学校の教室が二部屋は余裕で入りそうな広さであった。

 

 しかし、そんな部屋でありながらも、余り物は置かれてはいなかった。多くの資料や本を仕舞っているであろう本棚、書類作業をするための大きな机、来客が来た時に座らせる二脚のソファー、ティーセットを仕舞う棚とお茶を淹れる魔術具、壁に掛けられたローブと杖、そしてカーペット、これしかなかった。

 余りにも実用的て物が少なかった。


 そして、この部屋の主であろう女性は椅子に座り俺達が入ってくるのを待っていた。

 俺は女性の姿を見て、さっきの若い声に納得がいった。

 

「エルフか」


 そう、そこにいたのは地球でも有名所な想像上の存在。森の民とも呼ばれる美男美女で有名な種族。


「ふふ、確かにワタシにはエルフの血が流れているが、半分だけさ」

「半分? という事はハーフですか」

「そうさ」


『ハーフ』―――


 それは、両親がどちらも同じ種族ではない事によって産まれる子供の事。

 例を上げるなら、母親が人間、父親が犬の獣人の夫婦であれば、産まれる子供は両親の強い特徴が顕著に現れる。この場合は、父親の特徴である耳と尻尾、母親からは髪や瞳の色といったように。もしくはその逆。

 はたまた、そのどちらかの特徴だけを持った子供が。


 今俺達の目の前にいるギルドマスターは片親―――つまりは、エルフとしての特徴が強く現れているのだ。


 しかし、このハーフは一部の地域では差別の対象とされている。そこには当然と言っていいが、あのクハリス神聖国も含まれる。

 だが、俺達の目の前にいるこの人は毅然とした姿勢をしている。それは、自分の種族をけして卑下していない事を差している様に俺には思えた。


「時間が無いけど、まずは自己紹介からね。ワタシはこのアルベンの街の冒険者ギルドを預かるギルドマスター、エレーナ・オルティスよ」

「俺は、『D』ランク冒険者『連なりし絆(ネクサス)』のリーダーをしているタクト・ツガナシです」

「同じく、『D』ランク冒険者、『連なりし絆』のエルシャ・シグナートです」

「うん。それで、君たちが見たものを報告してくれ」


 俺達は、それを発見するまでの事情を説明する。


「成程、規模としては千に届くか、もしくはそれ以上という訳か。それは、間違いないかな」

「はい。しかし、しっかりと確認した訳では無いので、確かなことは言えませんが」

「いや、この場合はしっかりと情報を持ち帰った事で、被害が未然に防げるんだ。責めはしないどころか、無事に報告してくれた事に感謝するよ」


 そこからの段取りはトントン拍子で進んでいった。

 まずは現場の確認と、敵の総数の確認。そして、敵戦力の把握する人員の確保。

 次に、本来であればこの事を領主と打ち合い、住民に説明し、避難勧告したりするのだが―――――――――


「今回は、こっちで全部やらなくちゃいけないからね」


 ため息を一つ吐き、疲れた様に呟くエレーナさん。


 俺はそれを見て、内心で俺が叩き潰した『グルスファミリー』と結託して誘拐した子供を売りさばいていたあのクソ領主の罵り貶す。


(くそっ、こんなことなら脅迫だけにとどめて、後で告発なり何なりすれば良かったか)


 何も関係ないこの人に迷惑をかけてしまったことに少しばかりの後悔や申し訳なさが沸き上がる。

 

 だからか、俺はこんな事を申し出た。


「ギルドマスター、今回の魔物との大規模戦、俺にも参加させてくれないだろうか?」

「何だって?」


 エレーナさんは突然の俺の申し出に、驚いて聞き返す。


「俺は、まだ冒険者ランクは低いですが、戦力としてならこの街に居る誰よりも成れる筈です」

「…………………それは、本気で言っているのかい?」

「はい」


 事実、この世界で俺と()りあえる奴は居ない。それは、力を制限されている今でさえ、手加減しないと一瞬で終わってしまうのだ。

 俺が冒険者登録しに来た時に絡んできた、あの酔っぱらいの大男のように。


「…………はあ、だったら、今すぐその発言を取り消すかしないといけないね」

「何故です? 俺は単に事実を言っただけですけど」

「もし、それが本心からのものなら、流石のワタシでも看過出来ないんだよ。この街を含め、この国には強い者が多く居る」

「まあ、でしょうね」

「だからこそ、看過出来ないんだよ。君みたいな子供を前線に出すことも、ましてやこのアルベンで一番強いのはワタシだよ。だから、今のは聞かなかったことに………………」

「それは、(おご)りですよ」

「………………………………え?」


 そう、それは(おご)りであり、傲慢(ごうまん)だ。


「だから、見せてあげますよ。俺の力の一端を。それがどれ程の傲りで、俺を過小評価しているのか」


 そう言って、俺は一瞬にして部屋と同サイズの結界を貼り、ちょっとだけ魔力を放出する。それは相手に自分との力の差を知らしめる行為であると同時に、相手を威圧するものでもあった。

 本来であれば、俺はこんな事をするような性格ではなかったが、今回は時間と戦力が足りなくなりそうだから力ずくでいかせてもらう。


「っ!? 何、これ」


 そうして俺の魔力を感じ取ったエレーナさんは、顔中から脂汗か冷や汗をかき、身体を微かに震わせていた。

 いや、どうやら俺の魔力を感じ取ったのはエレーナさんだけでは無く、俺の隣に居るエルシャと、俺達を案内して一緒に室内に居たレーナさんも一歩も動く事ができずに震え上がっていた。


「悪いな。でも、これが一番手っ取り早かったんでな」


 そう、この世界では魔力は生物の生命維持に使用されているのが通説であり、事実である。

 魔力を使い過ぎれば、過度な疲労を覚え、意識を失う事でそれ以上の魔力消費を押さえる様に身体は出来ている。それを超えて無理をすれば、当然と命にかかわる。

 同時に、魔力保有量の大小により、自然界にある魔力や相手の魔力を感じ取る事も出来る。

 それによって、相手との力量差を把握する事も可能。

 今回は、そこを刺激するために俺の魔力を少しだけ解放している。


「こ、この、魔力は一体」

「何、今あんたらが感じ取った魔力は、俺の魔力の一部でしかない。さっき言った通り、これが一番手っ取り早かったんでな」

「あ、あり得ない。こんな濃度の魔力が、君にとっての一端だって?」


 エレーナさんは信じたくは無いだろう。

 たったの一個人がこの街に居る全ての冒険者の総魔力量を超えている何て。

 それは恐怖でしかなく、畏怖の対象になる。

 それも、これでまだ俺の総魔力保有量の一割に届くかどうかと言う位なのだから。


「そういうことさ。だから言ったろう。俺がこの街で一番の戦力になるって」


 これを見せたことで、エレーナさんも否定出来ないだろう。

 自分を超える逸材。

 自身が全力を出して戦えるか分からない存在。

 目の前に自分たちを完全な勝利へ導く者が居る。


 これを見せても拒むのなら、その時はしょうがない。


「もし、俺の申し出を拒むのなら、()()冒険者を辞めて、勝手に戦闘に加わらせてもらいます」


 俺は魔力の放出を止め、結界を解き部屋から退出しようとする。


「待ってください」


 ドアノブに手を掛けた瞬間、エレーナさんからストップの声が掛かった。


「何か」

「…………分かりました」


 エレーナさんはそう言って、立ち上がる。


「今回は、異例として、君()()の参戦を許可します」

「な、ギルドマスター! しかし、それは」


 エレーナさんが俺達の参戦を許可すると、レーナさんがまさか許すとは思っていなかったのか、驚いていた。


「分かっているよ。でもね、レーナ。今回は異常事態だ。なら、戦力は多い事にこしたことはない」

「ですが、それなら今力を見せたタクトさんだけでよろしいのでわ? これ程の力があるのなら、確かに戦力になるでしょう。ですが、何故、エルシャちゃんまで」

「それわね…………」

「私は構いません」

「エルシャちゃん!」


 俺と一緒に参加する事が許された事に不思議だったレーナさんはエレーナさんに訪ね、それが答えられる前にエルシャ本人から了承の声が上がった。


「良いのかい。ワタシが許可した事とは言え、ワタシの見立てでは、君はそこの規格外な彼より断然弱い」

「はい、承知しています。私はまだ、タクトさんに弟子入りして日が浅いですからね。ですが、それでも私は――――――――この方の弟子ですから」


 俺はエルシャの方をチラ見すると、エルシャは誇らしげに言っていた。

 その姿に俺は軽く笑いそうになってしまった。


「と、言う事さ。つまりは、止めても無駄。ワタシ達の目の届かない所で何かされるより、彼の近くに居た方が何倍もマシというわけさ」

「………………………分かりました。ですが、エルシャちゃんを知る者としては不承不承と言う事だけは覚えていてください」

「分かっているよ。で、君たちはどうするんだい」


 そんな事を聞いてくるが、エルシャは参加するし、俺の答えはさっき言った通りだ。


「ふっ、誠心誠意、やらせてもらうさ」


 俺は扉を開けて言い放つ。


「俺が居る場所で、理不尽はさせない」


 

 




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