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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
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第24話 〜救出のその後〜

 無事に子供達を救出した後も俺とエルシャは何事も無いように振る舞って過ごしていた。

 だがその間、流石に誘拐されたばかりという事で、ちょくちょく孤児院に顔を出しに行くと、最初の初対面の頃の警戒していた子供達も今では警戒の「け」の字すらする事無く、今や俺やエルシャの姿を見や否や、司祭やシスターのリリスさん達にするように走り寄って来て、笑顔を見せてくる。

 この姿を見て、俺は内心で「こいつ等を助けたのは正解だったな」と、孤児達が無事だった事に安堵した。

 しかし、それで問題が無かったわけでは無く、問題が有るとするなら、それは男女問わず俺に対して「魔術を見せて」、「魔術を教えて」とひっきりなしにお願いしてくるのだ。それも、子供らしい純粋な瞳で。

 これには流石に断りを入れたり、ケイラ司祭達に止めてもらうかしないと手はなくて、少し辟易してしたりする。なので、軽く殺傷力の無いもの、もしくは低い魔術を使って見せてやる。

 勿論、ケイラ司祭達に許可は取っている。


 その魔術を見ている子供達の瞳は好奇心か憧れに近いキラキラとした視線で凝視していた。


 どうしてこんなにこの子達が魔術に興味を持つのかシスターのリリスさんに聞くと、


「この子達がここまで、真剣に見ているのは、全て貴方が理由ですよ」


 と言われ首を傾げる。

 それにリリスさんは、俺が理解出来ていない事が分かり、クスッと笑う。


「あの子達は、自分達を助けてくれた貴方が魔術や剣を使って戦っていた姿に憧れて、いつか自分達もタクトさんみたいになりたいと言っていたんですよ」


 それを聞いて俺は、憧れられて恥ずかしいような、目標にしてもらって嬉しいような何とも取れる表情をしてしまう。


 それから数日後、何時ものように冒険者ギルドに出向く為街に出ると、街のあちこちで人がたむろし話し込んでいる光景が目についた。


「皆して、何の話をしているんだ?」

「さぁ? ですが、皆が話し込んでいる事から、それなりに大事なのではないでしょうか」


 隣を歩くエルシャに聞くが、エルシャもその理由に思い当たる物が無いらしく首を傾げる。

 冒険者ギルドに向かって歩いている間、買い物をしながらや、知り合いがいたからなどと様々だが、どうやら話されている話題はどれも同じ物のようだ。これ程の住民が話し込んでいる事から見るに、かなりの大きな話題のようだ。

 それから少しして冒険者ギルドにやって来ると、ギルドの中も街中と同じ雰囲気に包まれていた。本来であれば、それは普通の事のように思われるが、今日は何時もより少し浮わついた雰囲気になっていたので、依頼を見る前に出勤していて受付に座っているレーナの下に向かう。


「おはよう。レーナさん」

「おはようございます」

「ああ、おはようございます。タクトさん、エルシャちゃん。今日も何か依頼を探しに来たのですか?」

「まあ、そう思ったんだがな」


 俺はチラッと室内を見渡し、ギルド内のざわついている理由を聞く。


「何か、街でもギルドでも、そこら中で何か話し込んでいる人がいっぱい居るんだが、何か知っているか?」

「ああ、その事ですか」


 レーナさんは一瞬だけ困った顔をして、こちら側に身を乗り出して小声で話す。


「実は、ついこの間、この街の領主のリンガルト子爵が逮捕されまして、それが理由ですね」


 俺達はその名前に聞き覚えがある。というか、それは数日前にあった孤児院の子供達を誘拐した『グルスファミリー』と結託していた、あの屋敷にいた貴族であった。


「子爵ですか。それは、また。一体、何をやらかしたんですか?」


 エルシャは知らない振りをしながらレーナさんに聞く。

 本当はその理由を知っているが、それを言う訳にもいかず、ただただ知らない振りをするしかないのだ。


「それが、どうもこの街に根を張っていたあの『グルスファミリー』と繋がっていたらしく、『グルスファミリー』が拐ってきた人達を屋敷の方で閉じ込めいたそうなんです」


 勿論それも知っている。だが、言わない。


「そりゃまた」


 わざとらしくならないようにしながら、驚き呆れた表情を作る。


「それで、それを知った衛兵達が領主邸に向かって、領主とその場に居た『グルスファミリー』の構成員を捕縛したらしいんです」

「流石はこの街のの衛兵達だ」


 わざとらしくならないようにしながら、称賛を贈る。


「……………ですが、」

「……………ん?」


 レーナさんは何か言い淀むようにしていたので、聞いてみると―――


「衛兵達が言っていたんですが、領主邸に行くと、そこには既に戦闘がされた後のような様相だったらしいんです」

「…………………」

「…………………」

「しかも、急いで領主邸内に入ってくまなく探し回ったら、大広間で領主を含めた『グルスファミリー』の構成員達が捕まった状態で見付かったそうなんです」

「…………………」

「…………………」

「それで、衛兵達が自分達が来る前に彼等が何者かと戦闘していた様なんです」

「…………………」

「…………………」

「それに誘拐された人達も誰も居なくて、もしかしたら領主達を倒した人が保護なり何かしたのではないか、と衛兵達は考えているらしく、そっちの捜索もしているらしいのですが、流石にその人、もしくはその人達を見つけるのは至難の業ではないかと思うんですけどね」

「…………………………………………」

「…………………………………………」

「……………というか、さっきから黙ってどうしたんですか?」

「ん、いや?」

「はい、何でもありませんよ」


 レーナさんが俺達が黙っているのに不思議に思って聞いてくるが、俺達は問題ないと返す。

 本当は、内心が荒れに荒れまくっているが、絶対に悟られないようにしていたのだ。


(言えない。言えねえぞ、これは)

(そうですよね。絶対に大事になります)


 自分では良いことをしたと思っているが、流石にそこまで大っぴらに広める事はしたくないのだ。もしかすると、何かの要因で、俺がこの世界の人間ではない事や、俺の異能の事がバレる可能性すらあるのだから。

 それ以前に、俺達がしたのは、貴族邸への不法侵入からのそこの家主えの傷害。

 これだけでも、普通なら罪に問われる。が、今回はその可能性は低いと考えている。

 何故なら、最初に罪を犯したのはあちらなのだから。


「それにしても、まさかそんな事があったなんてな。それなら、今の街やギルドの雰囲気も納得だな」

「そうですね」

「それじゃあ、俺達は依頼を見てくるから、持ってきたら受付を頼みます」

「ええ」


 俺はそう言って、そそくさとその場を離れ、依頼ボードの前にいつも通りを装いながら立つ。

 依頼を見ていると、隣に立ったエルシャが小声で聞いてくる。


「それで、どうするんですか。タクトさん」

「…………何がだ?」

「今回の人知れずやった領主達の捕縛。これをタクトさんが、自分がやったと供述すれば、少なからずの報償金が支払われる筈です」

「何だ、その事か」


 エルシャに向けていた視線を前に戻し、張り出された依頼を見ながら答える。

 ついでに言うと、今俺達が見ているのはここ数日の間に冒険者ランクが上がって『D』ランクの依頼だ。『F』ランクどころか、『E』ランクの依頼は何ら障害になる事は無く、さっさとトントン拍子にランクを上げていた。

 その時の手続きは特段無く、ギルドの方でやってくれるらしい。

 そもそもからして、『D』ランクまでは簡単に上げることが可能で、その上の『C』ランクからはそのランクに相応しいかどうかを判断する為の試験があるそうだ。


「別段、今はお金に困っている訳でもないし、称賛を浴びたい訳でもない」

「というと?」

「つまりだ。俺は今のままで十分だって事だ。………………それに」

「それに?」

「俺には、目的がある」


 俺の目的。地球に魔物を送り込んだクソ野郎をぶちのめす事。

 シロナ曰く、それは勇者を呼び込む為の行いらしい。そして、それが出来る、もしくはする国や組織はたったの一つだけ。

 

 巨大宗教国家にして、八大国家の一つ。初代勇者パーティが作り上げた国。『クハリス神聖国』。


 シロナ曰く、現在は人間至上主義を掲げる国であるらしく、他の種族には生きずらい国らしい。初代勇者パーティには他の種族も居たと言うのに。どうしてそうなったのかは知らない。

 ラノベでも良くある展開だが、俺としては気に食わない。


「今はまだ言えないが、もしかすると、何かのきっかけに話すかもしれないな。と、これが良いかな」


 俺は手に取った一枚の依頼書をエルシャに見せる。

 ここ最近は時間をずらしながら依頼を受けていたから冒険者ランクも一つ上がって『D』ランクになっているので、依頼も『D』もしくは『C』の物を受けられる。そのランクになってくると少しずつ討伐系の依頼も増えてくるので、エルシャの特訓に丁度良い。



      〜・・・〜      〜・・・〜



 今日受けた依頼は、ラノベの定番『ゴブリンの討伐』だ。

 近くの農村,クルリ村に度々ゴブリンが確認されているらしく、その討伐が依頼されたものだ。


「クルリ村までは片道三刻(三時間)程でしょうか」

「まあ、そのくらいなら近場ではあるな。それじゃあ、エルシャ。魔力強化してその農村まで向かって走るぞ」

「はい」


 エルシャの特訓が始まる前に俺はまず、どのように鍛えるかを聞いた。

 するとエルシャは―――――


「私は、タクトさんみたいになりたいです」


 真剣な表情と雰囲気に、それが本気である事が理解させられた。

 アーテラルでの戦闘スタイルは大きく分けて三つ。

 一つは魔術をメインにした固定砲台な遠距離タイプ。

 生粋の魔術師型。

 二つ目は、武器や徒手空拳で闘う近距離タイプ。

 こっちは戦士型。

 そして三つ目が、俺がやっている魔術と武術の双方を極めて戦うタイプ。

 つまりは魔術戦士型。

 しかし、これをやるのは至難の業であり、良く言ってはオールマイティー、悪く言えば器用貧乏と称される戦闘スタイルなのだ。


 俺に関しては中途半端ではなく、きっちりと双方極めている。

 エルシャはこれを習いたいと言っているのだ。普通であれば遠距離か近距離のどちらかを極めるのが正しいと思う。

 何せこれは、多大な時間を消費するのだ。

 俺はシロナが居たのと、おれ自身がどちらにも適性があったことと、厳しい修練の成果として一年という短時間で修める事が出来たが、エルシャはどうか分からない。

 本人の希望と、俺が弟子にしたという事でその方面に鍛える事にした。

 まずは基礎の魔力操作と循環による魔力強化。更には俺が使う我流の武術の中でもどれに合っているのかを探る。それによると、エルシャは剣に比較的適性があった事からそれを教えてやる事にした。

 これからどうなるのか分からないが、ワクワクする気持ちと、不安な気持ちとが俺の中に居座っている。

 俺は瞬時に魔力強化し、エルシャが終わるのを待つ。

 エルシャはまだ、魔力操作が拙いので俺の何倍も時間を要するが、俺が教えている事もあるのかそれなりにスムーズに行う事は出来ているが、まだまだ合格はやれないが、及第点ではあった。


「よし、出来たな。それじゃあ、行くとするか」

「はい」


 返事を返したエルシャと共に俺達は、クルリ村へ向けて走り出したのだ。


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