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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
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第22話 〜鉄槌執行 その1〜

「おい、さっきの女はどこだ!!」

 

 ルークは配下達に襲われ、倒れ付した筈の少女の姿が無くなり、代わりに少女の居た場所に全く知らない、いつの間にか見ず知らずの少年が立っていた。

 しかし、ギロムはあの少年の事を知っている様で、それについて聞こうとしたが、先にギロムが口を開き、少年に問いただす。

 確かに、さっきまでそこに居たのに忽然とその姿が消え、全く違う存在が現れたのだ。なら、それを問うのは当然だ。


「さっきの女? ああ、もしかして、これの事か?」


 少年は自分の横に手を向けると、そこに黒い(もや)が現れ、次第に人の形になり、そして―――――


「なっ!?」


 そこに現れたのは、先程配下達に殺された筈の少女だった。

 驚いている自分達に、少年はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「驚いたか? これは闇属性魔術の【黒人形(ダークドール)】を俺が独自改良したもんで、名前を【幻夜之人形(メフィスト)】って言うんだ」


 少年は自慢するかのように、自分が作った魔術を説明してくる。本来であれば、それは自分の手の内をさらす様なもので、推奨されるべきではなかったが、そんな事は気にしないとでも言うかのように語る。


「だから、アンタ等が殺したのはエルシャの偽物さ」


 それは屈辱だった。まさか自分達が、偽物に欺かれるなんてと歯噛みする。


「さぁて、それじゃあ、改めて自己紹介といくか」



      〜・・・〜      〜・・・〜



「さぁて、それじゃあ、改めて自己紹介といくか」


 でも、その前にと俺は右手を指鉄砲の形にして、魔術を放つ。


「【閃輝弾(フォトンバレット)】」


 俺は発動が早い初級魔術の中でも、速度に秀でた光属性魔術を放つ。それは狙いたがわず、ギロムが担ぐ白金貨と利権書の入った袋を撃ち抜く。


「なっ!? テメエ、何しやがる!! この中にどれだけの白金貨が入っていると思って……………っ!!」

「はははっ、なぁ〜に慌ててんだよ。よお〜く見てみろよ」

「何を言って………」


 ギロムとルークは自分達の足元に()()()()()()()()()()()()()()に目を向け、そこで二人は、ハッとする。

 そう、普通であれば袋が破け、その中から落下した硬貨であれば、音を上げて辺りに散らばっていく筈なのにそうはならず、袋の中身を覗いた時と変わらず地面の上にあった。

 つまり、それは―――――


「偽物っ!!」


 ニヤッと笑い、「正解」と答える。 今の俺の顔は、多分だがイタズラが成功した子供の様なあくどい顔をしている事だろう。もしくは悪者顔とも言うが。

 そんな俺の顔を見た『グルスファミリー』の組合員と腹心二人は顔が赤く成る程に怒り心頭となった。


「クソガキが、舐めたことしやがりやがってっ!! ぶっ殺してやる!!!」


 ぶちギレたギロムを筆頭に、この場に居る組合員が総掛かりで魔術や剣、槍等の武器で殺しにかかってきた。

 しかし、こいつらは気付いていない。いや、頭から抜け落ちているのだろう。自分達が偽物の白金貨を掴まされた事も、そしてエルシャが偽物であった事も、そして、俺が気付かれる事無く、現れたことも。

 つまりは、俺は誰にも気付かれる事無く、この場に居る者達を一掃する事が可能な実力を持っている。


「大いなる風よ、彼の者を切り裂く刃となりて、吹き荒れろ【烈風刃(ウィンドエッジ)】」

「大いなる大地よ、彼の者を圧殺せし巨岩となりて、轟砕せよ【巨岩散弾(ロックブラスト)】」

「大いなる水流よ、彼の者を打ち据えし流鞭(りゅうべん)となりて、荒れ狂え【水流鞭(ウォーターウィップ)】」

「大いなる炎よ、彼の者を焼き尽くす炎閃となりて、焼き払え【炎閃(ファイヤーレーザー)】」

「大いなる光よ、彼の者を穿ちし閃光となりて、光滅せよ【閃光線(ホーリーレーザー)】」

「大いなる闇よ、彼の者を貫きし黒槍となりて、射殺(いごろ)せ【黒連槍(ダークジャベリン)】」


 魔術の詠唱と発動。

 それは優に数百を超え、放たれ続け、俺を殺そうと殺到し、直撃する。


 ズドドドドドドドドドドオオオオオオォォォォォォンンンッッ


 凄まじい轟音を発てて、地響きが起きる。衝撃により、室内は見るも無惨な物となって、今にも崩れ去りそうであった。

 直撃する瞬間まで、回避や魔術を使った動作も気配もしなかった。常人であれば、今ので死んでいてもおかしくはない。

 ルーク達も、そう思っていたが、次の瞬間にはその思いもふきとんでしまった。


「風よ」


 俺は自分の中心に風を起こし、もうもうと舞う砂塵を吹き飛ばす。ルーク達は、風に煽られながらも砂塵が晴れた後の魔術の着弾地点に目を向ける。

 普通であれば、そこには魔術を受け、その身を見るも無惨な状態にしている筈の者が居る事だろう。あれ程の数の魔術を回避行動も、魔術による防御もしていないのであれば、最低でも身体のどこかしらが吹っ飛んでいるか、間違いなく死んでいた事だろう。


「そんじゃあ、自己紹介しよう。俺はタクト・ツガナシ。しがない『F』ランク冒険者さ」


 だが、今回は相手が悪かった。

 傷一つ負わず、毅然とした態度で立っている。

『F』ランクという肩書きではあるが、その実力は低ランクに納まるものでは無い。

 いや、そもそもからして冒険者ランクで俺の実力を測る事は不可能だと言えるだろう。


「おいおい、どうした。そんな驚いた顔をして。もしかして、今のが全力か?」


 砂塵が晴れたそこには、髪や衣服、そして身体にそえ汚れの無い無傷な状態の拓斗がいた。


「…………マジかよ」

「あり得ねえ、だろ」

「あんだけ撃ち込んで、かすり傷も無いなんて」


 防いだ仕草も、そんな気配さえもなかった。なのに、あれだけの攻撃を受け、無事で居られる事が異常。


「別に、そう驚く事でも無いだろう。単に、魔力強化しただけなんだから」

「魔力強化、だと?」


 魔力強化は、身体能力の強化をする手段では一番ポピュラーで、簡単なものだった。しかし、それは簡易的なもので、そこまでの強化率ではなかった。それこそ、しないよりはマシといったところで、それが常識であった。

 だが、それは誤りで、魔力循環を疎かにして最低限の強化しかしていなかったからで、やろうと思えば何処までも強化が出来る優れものだ。

 欠点としては、常に魔力を消費し続けている状態であること。それ以外では、即時の強化でこれ以上無いくらい使い勝手が良い。

 

 で、俺がやれば、その常識と強化の上限さえも覆る。


「さぁ、次はどう来る? 来ないんなら、こっちからいくぞ」


 俺が促したからか、もしくは未知に対する恐怖からか、再び魔術の詠唱に入った。詠唱が終わり次第、順次にか、同時に撃ち出されてくるが、俺は自分の身体を覆う魔力強化の魔力でその全ての魔術を傷を負う事無く、防ぎきる。


「……………終わりか?」

「くそがあぁぁぁぁぁ!!」


 一人の組員が叫びながら俺に向かって突進してくる。

 まるで自暴自棄になったかの様な突貫。そんなものは俺にとっては簡単に対処が出来る行動だが、今回は殺さないように手加減する。


(こいつらをさっさと抑えて、()()()()に戻らないとな)


 胸中で呟き、腰に挿していた剣―――――神剣『エレクシア』を引き抜く。


「やるぞ、『エレクシア』」

「承知しました。マイ・マスター」


 俺は神剣に呼び掛けると、それに応える声が神剣からかえって来る。

 そのあり得ざる光景に『グルス・ファミリー』の組員達が唖然とし、目を見開く。


「何だ、その剣!?」


 組合員の一人が問うて来るが、俺はそれに答える事はせず、一息で問うて来たそいつの目の前に現れ、横凪ぎの一閃を仕掛ける。


「がっ」


 一閃をもって吹き飛ばす事で、起き上がる事も、今この時に戦闘復帰もする事が出来ない状態にする。

 勿論、殺さずにだ。

『エレクシア』を鞘から抜いた時点で、既に刀身の刃は潰され、後で衛兵なり、騎士なりに突き出すため殺さないようにしていたのだ。

 まあ、それでも痛いし、最悪骨に(ひび)が入るか折れるかはするだろう。

 だがこれも、今までこいつ等が行ってきた悪事に比べれば軽く小さい事だろう。


 俺はそいつが動く気配が無いのを感じ取り、次の標的に向かって突撃する。俺にとっても、次なる標的にとってもその動きは一瞬の出来事であり、そいつは自分の前に突然現れた俺に驚き、そのまま吹き飛ばされ意識を失った。

 それを皮切りに、続々と組員達が倒されていき、総勢三十人弱は居たであろう、組員を傷を負う事無く一撃のもとに気絶させていく。


「くっ、何だってんだよ、アイツは!」


 焦りの声を上げながらも、必死にこの状況を打破する策を考えるが思考が空回りし、一向に最善策が思い付かないルーク。

 そうしている間も一人、また一人と組員達が倒されていき、遂に、最後の一人がやられる。


「残るは、お前達二人だけだが。これからどうするよ?」


 降伏か、続行か、どちらにするかを二人に示す。

 が、流石は『グルスファミリー』首領の腹心達だけはあり、その目に驚愕と警戒は浮かんでいるものの、そのほとんどが自分達を虚仮にした俺に対する怒りと、抵抗の意思が感じられた。


「このまま良いようにされたらな、俺達の沽券にかかわるんだ。それにな、テメエの得意な戦い方が接近戦だって事が分かったからな。その距離は、」


 ギロムは腰に挿していた剣を引き抜き、俺の目の前に現れ、振り下ろしてきた。


「―――――俺の得意分野なんだよ!!」


 ブオンッ、と風切りの音を伴うその一振りを俺は危なげなく、紙一重でかわす。が、ギロムは構う事無く剣を振り続け、時々当たりそうな物だけを『エレクシア』で弾く。


「らあっ」


 キィン、キィン、キィン


 甲高い金属の打ち合う音を伴い、その間も相手を無力化する隙を探す。


「クソガキが、いつまでも逃げ回ってんじゃねえっ!!」


 再び上段からの振り下ろしを剣を翳す事で防ぎ、そのまま一旦距離を取るが、ギロムはそれを見て口の端がニヤリとつり上がる。

 しかもそれに合わせるかのようにギロムの後方と、俺の後ろから魔術を撃ち込まれた。

 ギロムはすんでの所で後ろに下がり難を逃れる。


「蓮獄の槍よ、【蓮獄炎槍(クリムゾンジャベリン)】!」

「颶風の渦よ、【颶風嵐禍(テンペストブラスト)】!」


  ゴアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!


  風と炎の相乗効果により、超広範囲攻撃となったそれは、俺だけでなく周りのものも呑み込み破壊しつくそうと暴れ狂う。

  外からでは見ることの出来ないその中で、俺は自分が纏う魔力を少し増やすだけで軽くしのいでいた。

  だが、流石に周りを巻き込むそれは見過ごせないと俺は、館の周りを結界で覆う。勿論、こいつ等には気付かれる事無く。


「これで殺ったか」

「そうありたいものだ。これでもダメとなったら、流石に最上位魔術を使わざるをえない」

「これでさえ、かなりの被害がでるのに、流石にそれはヤバいだろうが」


  全く、こいつ等は既に俺が死んだと思っているのか、余裕そうに話しているので、そろそろ()()()()()も終わっているだろうからここから出る事にする。ついでに、驚かせる意味合いも込めて。


「風よ」


 俺はまた、砂塵を払った時と同じように風を吹かせるだけの魔術で、炎の嵐を吹き飛ばす。

 

「なっ!?」

「………やっぱりか」


 ルークの方は予想していたのか、驚きはしたが、予想通りだとでもいうかの様な反応に対して、ギロムは盛大に驚いている。


「おいおい。まさか、こんなので俺を殺れたとでも思ったのか? それは流石に、俺を甘く見すぎだ。でもまあ、さっきのは不意を突かれたけどな」


 俺はやれやれと、肩を竦め呆れるジェスチャーをする。

 後ろを振り向けば、今まさに崩れ落ちる所だった男がいた。恐らくは魔力切れか、他の要因かは分からないが、それでも俺の一撃を受けて意識を保ち、魔術を使えた事には称賛の意識を向けたい。


「お前は、一体」


 ルーク達には、俺が得たいの知れない存在だと認識されたのか、そんな事を聞いてくるが、俺はどう答えたもんかと考え、「ふっ」と笑う。


「俺が、誰かか。そんなものは、簡単な答えさ」


  ―――――――――――お前達の敵さ、と


「さぁ、これで、終わらせるか」


 俺は『エレクシア』を切っ先を斜め左後方に流し、ルークの目前に現れる。移動する兆候さえも、見せる事無く。

 風を切る音も、衣擦れの音も、動く動作さえ見せる事無く、一瞬で。

 これは俺が、地球の武術を基に考案、作成し完成した体術。


「津我無流体術:()ノ型 『無形(むぎょう)』」


 形の無いもののように、相手の意識のほんの少しの隙間に滑り込み、範囲を詰める。

 そこから、意識を刈り取るのに数分もかからず、腹心の二人の意識を失い、倒れ伏す。


「津我無流剣術:無纏 (いち)ノ太刀 『天燐(てんりん)』」


 我流の剣術だが、そこにあったのは、まさに一つの(わざ)

 一つの頂きであり、芸術。

 積み重ねを経て、敵を倒す事のみを突き詰めた技術。

 こいつ等が、今倒れているのは、一重に相手が俺であったから。

 だが、こいつ等には二つ言って無い事がある。

 

「まさか、自分達の目の前に居る俺が、本当は()()()()()()()()()()()()()だなんて思わないだろうな。それに」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 



 




 


 

 


 


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