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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
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第21話 〜悪党を成敗するのは、当然です〜

 日も暮れ始めた頃、アルベンの街も昼から夜の活気に移り変わる中、その街の裏路地を疾駆する二つの影があった。片や汚れを知らない純白の獣、片や闇に紛れる程に暗い、漆黒の獣。

 その二匹の獣―――狼は、拓斗が拐われた子供と拐った人物達を捜させる為に召喚魔術で呼び出した契約獣達だ。

 この二匹は、それぞれ『白氷狼(フロスト・ウルフ)』と『漆黒狼(ブラック・ウルフ)』と言い、共に嗅覚が優れている種の魔物であり、孤児院で嗅いだ子供達の臭いを辿るその足に迷いはなかった。

 途中で合流した『幻影猫(ファントム・キャット)』のファルと共に捜索を続け、遂に、拐われた子供達が居るであろう場所―――『グルスファミリー』のアジトを突き止めた。

 そして三匹は、各々の役目を果たすために行動する。

 幻影猫のファルはいの一番に駆け出し、建物内部の情報収集に向かい、漆黒狼のブラウは自分達の主人にこの場所を報せるために、そして白氷狼のフィルはこの場所の周辺確認をし、そこから主達との合流地点を見繕う為に。三匹の魔物達の動きに淀みは無く、彼らはただ一つの気持ちで動いている。

 そう、ただ―――――自分達の主である津我無 拓斗(つがなし たくと)の為だけに。

 路地裏で、程好く広く、子供達が拐われた建物が見える場所を見つけ、目印になるように空に向けて氷塊(ひょうかい)を放ち、爆砕する。

 それから程無くして、路地の暗がりから複数の駆けてくる足音がしてくるが、白氷狼のフィルは慌てる事無く、その場から動かず足音の主達がやって来るのを待つ。何故フィルは逃げる事無く、その場に留まっているのか、それは足音の主が姿を現した事でその疑問が氷解する。


「フィル、子供達の居場所が分かったのか?」


 路地の暗がりからやって来たのは、ブラウに先導されてやって来た自分達の主である津我無拓斗であった。その後に続いてエルシャ、ケイラ司祭もやって来る。

 

「ガウ」


 フィルは一声発し、顔を自分の視線の先にある建物に向け、子供達は彼処に居ると伝える。

 拓斗はフィルのその動作で、フィルの視線の先にある建物―――――どこからどう見ても貴族や豪商人が住んでいそうな大きな屋敷に子供達が囚われている事を理解した。


「成る程、あそこか」


 拓斗の視線を追ったのか、その先にある建物を見て、ケイラ司祭は唖然とする。

 まるで、その屋敷が誰の所有する建物なのかを知っているかのように。


「ケイラ司祭。あなたはあの屋敷が誰の所有物か知っているのですね?」

「え、ええ。あれは、このアルベンの街を管理している子爵様の邸宅です」


 あの建物から、かなりの権力なり、金なりを所有しているだろう事は分かっていたが、まさかの貴族。それも子爵の屋敷とは。

 シロナが言っていたが、この世界での身分制は地球の英国(イギリス)のものと変わらないらしい。

 つまり、子爵とは、名誉爵位を含めれば下から数えて四番目。多少なりとも富と権力を持っている。

 だが、貴族の爵位はその国の王からの賜り物であり、罪を犯していれば即座に爵位剥奪が成される。

 その貴族の子爵が、まさか『グルスファミリー』と繋がっていたとは。


「でも、まさか、そんな」


 ケイラ司祭は未だに信じられないと言う表情であったが、必ずしも子爵が今回の事に関わりを持っているかは不明。

 子爵にも、何かしらの事情があって仕方無く従っているだけかもしれない。

 屋敷に視線を向けて考えている、その時だった。


「ニャー」


 屋根の上から一匹の黒猫が飛び降りてきた。

 

「ファルご苦労様。どうだった、そっちは」


 降ってきた黒猫―――幻影猫のファルは拓斗との間にある契約の繋がりを使い、自分が得てきた情報を伝える。

 そこには、あの建物の中に間違いなく子供達が居る事と、それを囲む様に何人もの恐らくは『グルスファミリー』の人間、そして鎧を着た兵士が複数と貴族が着るような豪華な服を着込んだ男が二人。このどちらかが子爵で間違い無いだろう。


「これは、確定かな」

「何か、分かりましたか」

「どうも、このお屋敷のお貴族様も今回の件に関わりがありそうだな」

「…………そんな」


 ケイラ司祭はショックを受けたようにへたりこみ、呆然とする。そうするって事は少なからず、その子爵とは知り合いなのだろう。

 そこでふと、拓斗は残されていた地図がこことは別方向なのを思い出した。


(もしかして、この場所が知られたくなかったから全く違う場所を指定したのか。そもそも、そこには子供達が居ない。そうするって事は、子爵や『グルスファミリー』は子供達を返す気がない? もしくは、他にも何かがある?)


 これは憶測でしかないから、何とも言えないが、その憶測を捨てないで取って置く。


「で、どうする?」

「どうするとは?」

「そんなのは当然、俺はこれからはあそこに潜入するが、それに付いてくるかどうかだ」


 拓斗は振り返り、二人に問う。


「でしたら、私は付いていかせて貰いたいです。乗り掛かった舟ですからね」


 エルシャは拓斗からの問いに最後まで付き合うと返し、拓斗は次にケイラ司祭に目を向ける。

 ケイラ司祭は戸惑っていたが、最後には頷く。


「そんじゃ、全員で行くって事で決まりだな。あと、ちょっと手も加えとくか」


 拓斗の言葉に二人は首を傾げる。



      〜・・・〜      〜・・・〜



「そろそろ時間だな」

「そうですね」


 そこは『グルスファミリー』が所有する館で、普段は組合員達が居るが、今はその姿も疎らにしか見る事は出来ない。

 しかし、その場にはその組合員を束ねる者が二人いた。それこそがこの二人。

 『グルスファミリー』の(かしら)のグーム・ロームの腹心、ギロム・ケールとルーク・ソート。

 この二人は『グルスファミリー』がグーム・ロームに代替わりした時から支える腹心中の腹心であり、その実力も冒険者ランクで言うところの『A』に匹敵する程の実力者。

『A』ランクに至る事が出来る者は、一握りのみで、それを称えるように『超人』と呼ばれている。

 その二人は、今か今かと孤児院の経営者のケイラ司祭、もしくはそこで暮らすシスターの誰かが来るのを待っていた。

 あそこの土地は、『クハリス神聖国』が正式に保有しているだろう土地で、本来なら今回の様な『グルスファミリー』が行っている事は意味を成さない。それどころか、向こうは身に覚えが無いと突っぱねる事だって出来る。

 しかし、今回は実際に孤児院のある土地を自分達に渡す契約を結んだ書類もある――――勿論、偽物であるが。

 だが、何故『グルスファミリー』がそんな事が出来たのか、その秘密は、この街『アルベン』を取り仕切るリンガルト子爵と『グルスファミリー』が孤児院の土地を奪い取る為だけに作った偽の書類に教会関係者がサインをした事にした事でそれはなった。

 つまりは、教会総本山が言った通りに全ては彼等の自作自演の狂言であったという事。

 そして、程無くして館の扉が外側から開かれ、一人の少女が入ってきた。薄桃色の髪と翡翠の瞳、女性的な身体に成り変わりつつある初々しい身体、そんな少女がやって来たのだ。

 しかし、あの孤児院にこんな少女は居なかった筈で、もし新しく雇ったり、総本山から派遣されたとしても、『グルスファミリー』の組合員か領主から何かしらの報告か来る筈で、見落としが有るとは考えにくい。なら、今回の事で新しく、もしくは一時的に雇っている可能性が高い。


「誰だ、お前」

「私は、冒険者ギルド、アルベン支部で冒険者をしている者で、エルシャと言います」


 やはり雇われか、と考えたが、まさか冒険者に依頼するとは思いもしなかった。


「それで、此処へは何しに?」

「ノーラス孤児院のケイラ司祭からの依頼で、あなた方にお金の支払い分と利権書を持ってきました」


 それを聞いてギロムは口の端を吊り上げ歓喜した。

 これで漸く、あの目障りな孤児院が消え、自分達がその土地の新たな経営者となり、更なる事業を展開する事が出来る。


「それで、金と利権書は」

「これです」


 エルシャはなにも言わず背負っていた袋と、そこに入っていた利権書を差し出す。

 ルークは近くにいた配下に持ってこさせる様に顎で指示し、エルシャに手渡された袋を受け取り、それを持ってルーク達の下へ向かう。

 中身を確認し、全てが白金貨である事を見て、ルークとギロムは笑みを浮かべる。


「さあ、お金と利権書は渡しました。早く子供達を返して下さい!」


 エルシャの言葉に二人と周囲を囲んでいた組員達が嘲笑うかのように笑い、真実を告げる。


「悪いが、それは出来ない。そもそも、此処には居ないんだからな」

「なっ」


 エルシャの驚きようにギロムはゲラゲラと下品に嗤う。


「残念だったな。これを受け取ったからには、お前はもう、よう済みだ」


 ギロムは手でサインをし、殺れ、と指示を出した。

 それを受けると同時に目に見えている所に居る配下だけでなく、隠れていた奴等も一斉に魔術を放ち、遅れて飛び出して止めとばかりに武器を振り下ろしてきた。


「ふん。油断しているからだ」

「ギロム、行くぞ。さっさとボスと合流する」

「ああ、了解した」


 踵を返し、配下達を引き連れてその場から立ち去ろうとした、その瞬間。


「おいおい。いきなり殺しに来るとはな。流石に殺意が高すぎるぞ」


 突然響いた男の声に、全員が後ろを振り返る。

 そこにあったのは、今さっき配下達に殺された少女の死体だけ、の筈が―――――少女の死体の代わりに、先までいた少女と同じ位の少年が一人立っていた。


「何者だ、テメエ!?」

「おいおい、俺を忘れたのか? なぁ、ギロム・ケール」


 少年が自分の名前を言った事で警戒し、じっくりと観察し、その顔に見覚えがあったのを思い出す。


「テメエは、あの時の!!」


 ギロムはその時になってから、相手が自分が孤児院のシスターと接触していた時に邪魔をしてきたガキである事に気が付いた。

 それに対して、少年――――津我無 拓斗(つがなし たくと)は不敵に笑う。

 端から見れば、悪役のように見えるが、これから起こるのは全くの真逆。

 子供を拐い、ケイラ司祭やシスター達から教会と孤児院を奪い取ろうとする領主と『グルスファミリー』への制裁。

 それをなすのは、自由の意思にあり、何よりも理不尽を嫌う少年の鉄槌。

 この日、彼等は知るだろう。自分達が何を敵に回し、敵対したのか。

 それは、理不尽を嫌い、理不尽に奪われた事で力を手にした理不尽の権化にして、最強。

 ここに、二柱の神から加護と一柱の神から全属性の適性を与えられた男の審判が下る。


「お前らがやって来た報い、その身をもってあがなえ」

 






 

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