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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
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第20話 〜誘拐、なら捜索だ〜

 司祭様からの『グルスファミリー』に関する事情説明と、その後の孤児達との遊びを楽しみ、一緒に掃除や料理をした事で心身に少なからずの疲労が溜まっていたが、今日も無事に依頼完遂が出来た。

 その報告に冒険者ギルドに向かい、完了報告と報酬を受け取り、俺達は宿に帰る事にした。

 エルシャの訓練に関しては明後日に開始する予定だ。

 

 そうそう、エルシャは訓練開始の前に俺が泊まっている宿、『上月(じょうげつ)』に引っ越す事になっている。一緒の方が何かと便利だからな。

 しかし、今日だけは孤児院の事で話したい事があるので、一日だけ『上月』に泊まるか、俺の借りている部屋に泊まるかする予定ではある。


「それで、タクトさんはどう思いましたか?」

「院長さんの話の事か?」

「はい。私には、どうしてもあの司祭様達が嘘をついている様には見えなかったので」


 それは俺も同感だった。

 あの人の良さそうな司祭や、シスター達が俺達を騙す為にあんな手の込んだ事をするとは思えないし、そもそもどんな奴が依頼を受けるのか分かったもんでは無い。


(もしアレが、俺達を欺く為の芝居だったのなら考えものだがな)


 そう考えると、話を聞いた直後に考えていた可能性の一つである、司祭達が嘘をついている可能性だが、この可能性は低い事になる。だが、流石にゼロでも無い。


「今の所考えられる事は四つ。一つは司祭達が嘘をついている可能性」

「タクトさんっ、それは…………」


 エルシャが何か言おうとしたが、恐らくそれに反論しようとしたのだろうが、俺はそれを途中で手で遮る。


「勿論、この可能性は低い。だが、全てを理解している訳でもない事から、ゼロと言う訳でもない」

「それは………そうですが」


 釈然としないのか、エルシャは少し憮然とした顔になる。

 だが、俺はそれ以上何も言わず、残りの三つの可能性を告げる。


「次に二つ目。これは、ケイラ司祭が教会総本山に連絡をしたと言っていたが、その総本山、もしくはそこの一部の人間が嘘をついている可能性。これも、事実確認が出来ていない事から、どうしようも無いな」


 俺はそっとため息をつき、話を続ける。


「三つ目が、総本山の方が言っていたという『グルスファミリー』の狂言だな。俺としてはこれが一番楽なんだがな」


『グルスファミリー』の狂言なら、俺の方でバレずにやる事も出来なくも無い。


「最後に四つ目。これが一番厄介でな」

「厄介ですか?」


 エルシャは俺の今までの説明を含め、これまででさえなかなかに厳しいのに、それ以上に厄介な事があるのか不思議だった。


「ああ、それはな、『グルスファミリー』や教会では無い第三者が関わっている可能性だ。もしそうなれば、その関わっている奴を捜すのは一筋縄ではいかない」

「確かに」

「もしもだ、この第三者と『グルスファミリー』に繋がりがあるのならどちらか、もしくは両方を捕まえて事情を吐かせることを出来るんだがな」


 自分達が把握していない存在を知るという事は、なかなかに困難を極める。

 もし居るのなら、そういう奴は自分が関わっている事を知られない様に動くことだろう。

 まあ、それでも微かに痕跡は残るが。

 どうしたもんかと、頭を悩ませるが、妙案は思い浮かばないが、結実と言って良い方法はある。

 それは、最も基礎的な事である情報収集。しかし、この広い街の中から自分達が欲する情報を的確に得られるか不明だし、闇雲に駆け回るのも非効率。

 なら、他から手を借りれば良いではないかと考え付く。


「エルシャ、宿に戻ったら食事の後で俺の部屋に来てくれ」

「え、タクトさんの部屋にですか?」

「ああ、そこで情報収集をする」

「部屋の中でですか? でも、どうやって」

「方法は、今は秘密だ」


 人差し指を口の前に立てて、ニヤッと笑う。



      〜・・・〜      〜・・・〜



『上月』に戻り、ハーラに一部屋借りられるか聞いてみたところ、丁度一部屋空いていたようなのでそこを借りる事にした。

 もともとエルシャが泊まっていた宿の残りの宿泊費宿の回収は明日にし、食堂で食事を済ませた俺達は、俺の部屋に集まりそこで話の続きをする。


「それで、秘密の方法って、一体何ですか?」

「それはな………これだ」


 俺は部屋の床に直径三十ゼア(三十センチ)程の魔術陣が浮かび上がる。

 突然現れた魔術陣にエルシャは驚愕し、凝視する。


「た、タクトさん!? 何ですか、これ!」

「これは、闇属性に含まれる魔術でな。召喚魔術ってんだ」

「召喚魔術、ですか?」

「そうだ。召喚魔術ってのは、この魔術陣に魔力を込めて、召喚に応えてくれた存在と契約する事で使える物なんだ」

「そんな魔術まであるんですね」


 エルシャは感嘆しながら見てくるので、俺はそのまま魔術陣に魔力を流し、起動させる。

 呼び出すのは、情報収集に長けた存在。

 俺が契約している者達の中には、そういう事が得意な者達が何体かおり、そこから選び出す。

 選び出す条件としては、さっき言った様に情報収集が得意で、あまり目立たず騒ぎにならない者。

 そして、選び出した者を呼び出す。


「【契約獣召喚(サモンスレイヴ)幻影猫(ファントム・キャット)】」


 陣に魔力を流し込むと、一瞬の光が瞬き、消えたそこには魔術陣の中央に一匹の黒猫がちょこんと座っていた。


「久しぶりだな。ファル、おいで」


 俺は黒猫―――ファルの名前を呼び、手を出すとそこを伝う様にして俺の肩の上に上がって頭を擦り付けてくる。


「あはは、元気にしてたか」

「ニャー」


 俺が声をかけると一鳴きするファル。

 エルシャは突然現れた黒猫に驚き、呆然と見ている。


「あの、タクトさん。その子は?」

「こいつの名前はファル。俺が契約している魔物だ。種族は『幻影猫(ファントム・キャット)』な」

「ふぁ、ファントム・キャット!?」


 エルシャは俺が述べた種族名に驚愕し、俺の肩に乗るファルを凝視する。

 まあ、それは普通の反応だわな、と苦笑する。

 この『幻影猫(ファントム・キャット)』は冒険者ギルドが定める魔物の脅威ランクで言うところの『A』に近い『B』ランクとして知られている。

 魔物の脅威ランクはある一定の場所からはね上がるとされている。それが、『D』ランクと『C』ランクだ。

『D』ランクまでであれば、六人パーティ一つで対処出来るが、『C』ランクからはそれが難しくなる。何故なら、そのランクから上にいる魔物は特殊な攻撃や魔術を使ってくるからだ。

 そして、この魔物『幻影猫(ファントム・キャット)』も魔術を使える魔物だ。見た目は普通の黒猫に見えるが、この魔物が使う魔術は闇属性で、名前の通りに幻影を操る事で奇襲を得意としている。


「ファル。悪いんだが、お前の力を貸してくれないか?」

「ニャー」


 何となくだが、それが了承の意を伝える鳴き声なのが分かった。


「それじゃあ、お前にはこれからノーラス孤児院と『グルスファミリー』の繋がりを探って欲しい。出来るか?」

「ニャー、ニャー」


 任せろと言っている様で、そのまま窓から外に飛び出していった。


「本当に大丈夫なのでしょうか」

「ふっ、あいつに任せておけば、数日中には内情は把握出来るさ」


 エルシャが不安そうにファルを心配していたが、俺はファルの優秀さを知っているので安心させる様に言い聞かせる。


「分かりました。確かに、今は信じて情報が集まるのを待つしかありませんしね」


 納得してくれたエルシャを一旦部屋に返し、もう少し小細工でもしておくかと考えたが、そこで、俺はシロナに言われていた()()の確認をまだしていない事に気付く。

 俺は、それの確認を一通りすると、そのまま眠りに付いた。


 それから数日後、冒険者ギルドにある事件の知らせがもたらされた。


 俺は約束通りに、エルシャに魔術と基礎的な戦い方を伝授しながら依頼を受けながら過ごしていた。

 その日も、依頼を受けにギルドにやって来ていて、依頼ボードから適当な依頼を探す。

 昨日受けた依頼でランクは『E』に上がっているので、今は『E』ランクの依頼ボードをみていた。

 すると、受付カウンターの方から言い争うかの様な必死な声が聞こえてくる。それも、俺とエルシャが聞いた事のある声で。


「ん?」


 俺は振り返り、受付の方を見ると、そこにはノーラス孤児院で会ったシスターのリリスさんが必死に何かを伝えていた。


「あれって、リリスさんですよね?」

「ああ、何かあったみたいだな」

「行ってみますか?」

「そうだな」


 俺達は一旦、依頼を探すのを止め、受付にいるリリスさんの下へ向かう。


「ですから、それは衛兵や騎士の管轄ですので、わたくし達が動く事はありません。それこそ、衛兵や騎士の方から助っ人の依頼が来でもしないと」

「そこを何とか! お願いですから、あの子達を捜すのを手伝ってください! お願いします!」


 必死にお願いしてくるリリスさんに、どうしたら良いか、と途方にくれているので、そこで俺は声を掛ける。


「どうしたんですか、リリスさん」


 突然、後ろから声を掛けられた事に驚いたリリスさんは、一瞬ビクッとしたが、それが聞いた事のある声だったので、ハッと振り返る。


「あなたは、確かタクトさんとエルシャさん」

「ええ、お久しぶりです。それで、どうかしたんですか? 何か、焦っていた様ですが」


 エルシャがそう聞くと、そこで思い出したかの様に俺達に頭を下げてくる。


「お願いです! あの子達を助けてください!!」


 俺達はリリスに一旦落ち着く様に伝え、ここでは注目が集まってしまうので、隅のテーブルに連れていき、その時に受付をしていた女性に頭を下げる。

 二人には先に席に着いているように言って、俺は三人分の果実水を頼み、持っていく。

 俺が席に着くのを見計らって、エルシャがリリスさんから事情説明をお願いした。


「それで、子供達を助けて欲しいとは、どういう事ですか?」

「………これを読んで下さい」


 そう言って、リリスはポケットから折り畳まれた一通の手紙を差し出す。

 そこにはこう書かれていた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


  ガキ共は預かった、返して欲しかったら今日中に


 六十万ギルを持って『グルスファミリー』が所有す


 る館まで来い。


  もしそれが守られなければ、ガキ共の命は無いと思


 え。


  期限は今日の十九の鐘がなるまでだ。


  『グルスファミリー』首領 グーム・ローム


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 完全に脅迫状であった。


「成る程」

「お願いです。あの子達を助けてください」


 確かに、こんなものがあれば、あんな風にもなるはと思った。

 しかも、十九の鐘は地球の時間と同じで、十九時をさす。現在が、十時を過ぎた辺りであるから、残りは半日も無い。

 シロナに教わった事の中には当然の事ながら、お金の価値も教わっていた。それを思い出し、銅貨十枚=銀貨一枚、銀貨十枚=金貨一枚、金貨十枚=白金貨一枚となる。


 銅貨一枚=一ギル=百円、銀貨一枚=十ギル=千円、金貨一枚=百ギル=一万円、白金貨一枚=千ギル=十万円と対比と等価の価値を教えられた。


 つまりは、六十万ギル=白金貨六百枚=六千万円。大金だ。

 と言うか、あの孤児院にそんな額をつける価値があるのだろうか?

 しかも確か、この金額は司祭が事情を教えてくれた時に『グルスファミリー』が提示した金額だった筈。

 そんな大金を半日以下で集めきるなんて到底無理な事だ。

 どうしたもんか、と悩みエルシャを流し見ると、エルシャはこっちを真っ直ぐな視線で見ていた。

 まるで、「タクトさんの思うがままに」とでも言ってるかの様だった。

 そこまで信頼されているのは嬉しいが、こっちとしては間違った選択が出来無い。

 なので、はぁ、とため息を吐く。


「分かった。俺の方で何とかしよう」

「本当ですか! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 子供達の捜索を引き受けてもらった事に感激したのか、何度もお礼と頭を下げてくる。

 

 俺達は『グルスファミリー』の館の場所を知らないので、何か手掛かりは無いか聞くと、


「確か、この手紙と一緒に簡素な地図がありました」


 と言うので、俺達は再びノーラス孤児院に向かった。


「リリス、戻ったのね。………あら? あなた方は」


 ノーラス孤児院に着くと、ケイラ司祭様が俺達を迎えてくれた。


「ケイラ司祭様! このお二人が、子供達を捜すのを手伝ってくださるそうです!」

「あら、そうなの! お二人共、ありがとうございます!」

「いえ、あの子達とは知らない仲でもないので」


 俺達はリリスさんが持ってきてくれた地図を見る。場所はここからかなり離れているが、この街の範囲内であるのが分かる。

 あとは、これが本当なのかどうかだ。

 なので、俺は再び召喚魔術を使う事にする。

 俺はケイラ司祭達を伴い、庭に出ると、そこで魔術は発動する。


「【契約獣召喚(サモンスレイヴ)】:白氷狼(フロストウルフ)漆黒狼(ブラックウルフ)


 召喚魔術が発動し、その魔術陣が光ると、その中から白と黒二匹の狼が姿を現した。


「ひっ、ま、魔物!」


 それにケイラ司祭様とリリスさんが恐慌状態になりそうだった所を、俺が咄嗟に止める。


「二人共、こいつらは大丈夫です。この二匹は俺と契約している魔物ですから、襲ったりしません」

「ほ、本当ですか?」


 怖がりながらもリリスが聞いてくるが、それも仕方の無い事だ。

 こいつらはそれぞれ白氷狼(フロスト・ウルフ)漆黒狼(ブラック・ウルフ)というれっきとした『B』ランクに名を列ねる魔物だ。

 だが、俺にとっては単なるカッコいい犬の様なものだったので、無害である事を証明する為に俺の近くに呼ぶ。


「おいで、フィル、ブラウ」

「「ガウッ」」


 やって来た二匹の首筋を撫でてやると、気持ちいいのかもっと撫でろと頭を押し付けてくる。

 それを見たケイラ司祭やリリス、エルシャは信じられないものを見たかのように、目を見開いて驚く。


「ほ、本当に大丈夫なんですね」

「そうみたいね」


 未だに呆然とする二人に俺は声を掛ける。


「あの、お二人共。ちょっと良いですか?」

「な、何でしょう」

「何か、子供達の臭いの付いた物とかありませんか? こいつらに嗅がせて、捜させます」

「それでしたら、あの子達のベッドのシーツがあります」


 俺達は孤児院の中に入り、子供達が何時も寝ている寝室に向かい、ベッドに掛けられたシーツを二匹に嗅がせる。


「フィル、ブラウ。良く嗅いで、臭いを覚えるんだ」


 フンフン フンフン


「どうだ、行けそうか?」

「「ガウッ」」


 二匹は同時に返事をしていた。


「良し、捜せ!」


 二匹の魔物は、自分達の主人の合図に駆け出し、街へと繰り出す。

 







 


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