第17話 〜パーティーと、指名依頼確保〜
俺はエルシャと共に依頼書が貼られているボードを見て、自分達に合っているだろう物を見繕う。
「あ、タクトさん。コレなんてどうですか?」
「ん? どれどれ………」
エルシャの手には二つの依頼書が掴まれていた。
俺は横から、その依頼書の内容を確認する。
依頼名 《食堂の手伝い》
依頼者 グラート食堂店主 ジン・グラート
依頼内容 食堂内の清掃と皿洗い。場合によっては料理とフロアの助っ人
報酬額 一人銀貨六枚から出来高払いで上乗せ可
但し、客もしくは当店に迷惑行為をした場合、報酬無し
更に、違約金として銀貨三枚の支払い
依頼名 《孤児院の手伝い》
依頼者 ノーラス孤児院院長 ケイラ・マーラス
依頼内容 孤児院の掃除、子供の遊び相手、食事の準備
依頼額 一人銀貨二枚
但し、孤児院もしくは教会を損壊、または子供に怪我をさせて
しまった場合、報酬無し
更に、違約金として銀貨四枚
という二枚の依頼書を俺に見せてきたエルシャ。
内容的には、どちらも手伝いの募集依頼だ。
俺はそこまで依頼を重視しないし、詳しい訳でも無い為それが高額報酬の依頼であっても無くても、経験を積めて様々な事が出来るのならそれで良いと思っている。
だからか、エルシャが見せてきた依頼書を読んでも、そこまで損得勘定をしなかった。
「…………うん。良いんじゃないか?」
「なら、この二つを受けて来ますね」
「ああ。エルシャが決まったのなら、俺もさっさと決めるか」
「…………?」
俺はエルシャがその二つの依頼を受けるのだろうと思い、俺も自分の分の依頼を探そうとすると、エルシャが不思議そうな顔をして俺を見てくる。
「ん? どうした?」
「いえ、タクトさんは何を言っているのだろうと思いまして」
「いや、だってその二つの依頼はエルシャが受けるんだろう?」
エルシャが不思議そうに聞いてくるので、俺も逆に聞き返す。
「確かに受けますけど、タクトさんも一緒に受けないんですか?」
「………え? 良いのか、それ」
「はい、別に人数制限があるわけでもありませんし。そうに、一緒に受ければ訓練の時間も取れるかも知れませんし」
「確かに、それもそうだな。エルシャが良いなら、俺も構わないが、本当に良いんだな?」
「はい」
俺達は連れだって受付に向かう。
受付はどこも多少の混雑はしているが、それでも受付嬢達は優秀なようで、並んでいる冒険者達を淀み無く流している。
こうして見ると、ギルドの受付にいる受付嬢達は全員が見た事が無い位の美女美少女揃いで、なかなかに眼福である。
さて、どこの受付に行くかと考えていると、受付の一つに昨日知り合ったレーナさんの姿があった。現時点での知り合いの数が少ない俺は、まだ面識のあるレーナさんの受付に向かう事にした。
すると丁度、俺の前にいた冒険者が受付を終えたので、俺達はレーナさんの受付の前に立つ。
「おはようございます。タクトさん、エルシャちゃん。依頼の受注ですか?」
「おはようございます。ええ、俺とエルシャの二人でこの二つの依頼を受けたい」
「孤児院と食堂の手伝いですね。ランクも問題無いので、ギルドカードの提示をお願いします」
俺達はそれぞれのギルドカードをレーナさんに渡す。
レーナさんは、受け取ったカードを受付台に取り付けられた機器のような物に入れ、何かしらの操作を行い、終わった順から返された。
「これで依頼の受注は完了です。と、そうそう、もしこれからも二人で行動をするならこの際だから、パーティーでも組んでみたらどうですか?」
「パーティー?」
確か、それはギルドで登録した時に聞かされた、仲間内で作るグループのようなものだったか。
出される依頼の中には、人数制限がされている物もあったり、難易度が高い依頼であると、仲の良い相手や知り合い、臨時でチームを組む事があるらしい。
組める数が少ない順から、パーティー、クラン、レイドとなりそれぞれ人数がパーティなら六〜八の間で、大抵は六人が基本。
クランであれば、その倍の二十〜三十で作り、レイドになればそれ以上の人数になる。
俺とエルシャは顔を見合せ、その手があったかと感嘆する。
「確かにな、エルシャを鍛えるならその方が都合が良いな」
「そうですね。パーティーを組めば一々予定を考える事も、予定を合わせる事もしなくて済みそうですね」
「あら、エルシャちゃん。タクトさんに鍛えてもらうの?」
「はい。昨日、タクトさんに弟子入りしました」
レーナさんはエルシャが俺に弟子入りしていた事が意外だったのか、驚いていた。
「そうなの。なら、尚更組んでいた方が良いんじゃないかしら。報酬の割り振りも楽になるし」
「そうだな、パーティーってどう組むんだ?」
俺がレーナさんに聞くと、台の下を漁り、一枚の用紙を出してきた。
「こちらの用紙にパーティー名とリーダーになる人の名前、そのパーティーに所属する人の名前をご記入下さい」
俺達は用紙を受け取り、まずパーティー名を考える。
「エルシャ、どんな名前が良いと思う?」
「う〜ん。私は分かりやすくて、自分で納得出来るものであれば何でも良いですけど」
そう言われると悩むんだよな、と腕を組んで考える。
パッと思い付く限りの中には、これと言った納得する物が無かった。
だが、そんな時に脳裏にある一つの単語が浮かび上がった。
それは――――――『絆』
どうしてその言葉が思い浮かんだのか。それは俺の中でまだ地球に未練があるのだろう。
今だに忘れる事の出来ない、妹や両親、友人達との楽しかった思い出。
それがあるから、この言葉が思い浮かんだのであろう。
だからこそ、ポツリと口から溢れてしまったとしても仕方の無い事なのだ。
「……………絆、か」
「絆、ですか?」
「ああ、でも、流石にそのままって訳にもいかないか」
俺は絆の別の言い方を考える。こんな時こそ、地球で習った英語の授業が役に立つ。いや、この際だから新しい言葉を作ってみようかな。
「『連なりし絆』ってのは、どうかな」
「連なりし絆ですか、良い名前だと思います」
「じゃあ、パーティー名『連なりし絆』で決まりだな。次はリーダーだな、どうするか」
「………え? 何言ってるんですか?」
俺の言葉にエルシャは不思議そうに聞いてくる。
「いや、何って」
「リーダーは、タクトさんで決まりじゃ無いですか」
「…………………は? 俺?」
「はい。だって私、タクトさんに弟子入りしている身ですから、流石にそんな私がリーダーってのは無いと思います」
「…………………はぁ。分かった、分かったよ。俺がリーダーで良いよ」
「はい、お願いします」
パーティー 『連なりし絆』
リーダー タクト・ツガナシ
メンバー エルシャ・シグナート
こうして、この日俺達はパーティーを組む事になった。
後に、世界最強のパーティを結成する、その第一歩となる。
冒険者ギルドを出た俺達は、最初に食堂の依頼を達成する事にし、明日に孤児院の依頼を受ける事にした。
俺達は真っ直ぐに依頼にあったグラート食堂へと向かう。
その道すがら、俺はエルシャにある課題を与えていた。それは、意識的に魔力を感じ取り、それに慣れたら無意識にでも魔力操作が出来る様にする事。
昨日やり方を教えてやったばかりではそう易々と出来るものではないので、すぐに失敗してしまい、何度も挑戦する事になる。
「ここだな」
目の前に建っているのは、外から見てもなかなかに繁盛している事が分かる食堂だった。
「すみません、ギルドの依頼を受けて来た者です」
入り口から入り、厨房にいる人に呼び掛ける。
すると、一人の中年男性が出てきた。
「おお、君たちがオレの依頼を受けてくれた冒険者か」
「はい。俺はタクト・ツガナシです。こっちがエルシャで、同じパーティーを組んでる子です」
「こんにちは。今日はお願いします」
「ああ、よろしく。オレがこのグラート食堂の店主で、ジン・グラートだ。早速で悪いんだが、厨房で野菜と皿洗いを頼みたい。それが終わったら、次はフロアの掃除、食べ終わった食器の片付けをしてくれ」
「分かりました」
俺達は借りたエプロンを着け、手洗いをしてから積み重ねられた食器を洗っていく。
一心不乱に野菜と皿洗いをし、全て終えたらフロアに行き、食べ終わった客のお皿を片付け、フロアのモップ掛けと台を拭いてからまた皿洗いに参加する。
「食堂って、こんなに忙しいもんなんだな。初めて知ったよ」
「そうですね。休憩以外は休み無く動き続けていますし」
俺の口からポロッと感嘆の言葉が漏れる。
外を見ると、既に空は暮れ始めている。
「グラートさん。この食堂って何時くらいまでやってるんですか?」
「そうだな。大体、朝の五時から夜の七時までだな」
それ、一日の半分以上働き積めって事では無いか。休憩は取っているようだが、それでもそんだけ働いているって事になる。
「まるで、話に聞く社畜みたいだな」
「社畜、ですか?」
「いや、何でもない。さて、ある程度は終わったかな」
「そうだな。後はこのまま行けば―――――」
大丈夫だろう、と言い終わる前に、外からガヤガヤと沢山の男の声が聞こえてきた。
俺は、まさかと思った。しかし、俺の予想は裏切られる事は無かった。
声の主であろう男達が続々と食堂に入ってきたのだ。
「まさかの、ここに来てからの団体客って」
男達は全員で十二人。それが、それぞれ六人ずつに別れ空いている席に着くと、見計らったかのように店主の奥さんが注文を取りに行く。
そこから先に待っていたのはまさに戦場とかした厨房だった。
流石に十人以上ともなると、その注文量も半端無い。
「くそっ、流石に手が足りないか」
ジンさんがそう愚痴ると、俺達の方を見てくる。
「なぁ、二人って料理出来るか? せめてどっちか手伝いに入ってくれないか?」
俺はエルシャを見ると、向こうも俺を見て首を横に振る。それから見て取るに、エルシャは料理をしたことが無いのか、出来ないかのどちらかだと察した。
ということで、自ずと決まってしまった。
「なら、俺が手伝います」
「おお、それは有難い。それじゃ、これを順番どうりに作っていってくれ」
「分かりました。エルシャ、後は頼む」
「はい」
俺はジンさんから手渡された注文表を見ながら手際良く、スムーズに包丁や鍋、フライパンを駆使しながら肉と野菜を料理に変えていく。その手際の良さは、本職のジンさんに遅れを取らないほどだった様で、ジンさんは驚いていた。
「なかなかの手際だな、確かタクトって言ったか」
「ええ、前までは結構な頻度で料理をしていたので、慣れてます」
「成る程、しかしオレも今の手際になるにはかなりの修行を積んだんだが、その年でそれならこれからも伸びるかもしれないな」
「まあ、俺が料理をするようになったのは諸事情によるものなので」
俺の料理の手際を誉めてくれるのが嬉しくて、少し気恥ずかしくもあった。
「ふむ、ちょっとそれの味見をさせてくれないか?」
「良いですよ」
俺は料理していた『コルル鳥のトマト煮込み』のトマトソースを小皿によそい、ジンさんに手渡す。ジンさんはそれを一なめし、モゴモゴと口を動かし、頷く。
「うん。このトマトソースの味の調え方も素晴らしいな」
「ありがとうございます」
俺が誉められた事に一緒に料理をしていたジンさんの奥さんとその娘さんと息子さん、そしてエルシャが驚いてこっちを見てきた。
「ふむ、これからは君に指名依頼を出すのも良いかもしれないな」
「えっ、指名依頼ですか?」
指名依頼とは、依頼者とギルドの双方からの信頼度が高い事が必須条件で、それはまさに冒険者にとっては誉れであった。それを俺は、まさかの人生二つ目の依頼でいきなりの指名依頼が確定したようなこの状況に驚く。
「良いんですか? そんな急に決めて」
「構わないさ。これだけの腕前があれば即戦力になりそうだ」
一瞬悩みそうになったが、ここでお得意様になるかも知れない相手を退かすのも勿体無いかと思った。
「分かりました。なら、時間のある時になるかもしれませんが、その時はその指名依頼を受ける事にします」
「それで構わないさ。冒険者何て、依頼を受ければ遠出する可能性だってあるんだからな」
こうして、俺は最初の指名依頼先を得たのだった。




