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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第1章
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第15話 〜初依頼〜

 俺と大男は冒険者達がよく使う練技場(訓練所のような所)で距離を置いて向かい合っていた。


「おい、クソガキ。逃げんなら今だぞ。それに今なら、さっきの言葉を無かった事にしてやらない事も無い」

「別に。このままやっても構わないけど」


 どうせ、結果は見えてるしな。

 俺にとって、目の前の大男は別段脅威と感じるような存在ではない。

 それどころか、どれくらいの強さで相手しようかと、手加減を考えてしまう程に俺と大男の間には壁がある。

 俺が上位者で、こいつが下位者という。


「なら望み通り、その身で悔いろ!」


 俺達が決闘まがいの事をするという事で、ギルド内にいたほとんどの冒険者達は野次馬根性丸出しでゾロゾロと付いてきていて、壁際から俺達を観戦していた。


「オイオイ、大丈夫かあいつ?」

「登録そうそう、災難だな」

「全くだ」

「あいつ、手加減ってのが出来ないからな」

「あの子も、痛い目にあう前に、さっさとやめれば良かったのに」


 などと、近くの冒険者どうしで好き放題言い合っている始末で、最終的には、どっちが勝つか賭け始めてさえいる。

 そんな野次馬冒険者達の近くにはエルシャもいるが、何とその横には受付嬢のレーナさんまでいた。


「それじゃ、いくぞ!」


 俺が周りに気を向けていた事に痺れを切らしたのか、怒りと自分を侮辱しているとでも考えたのか、大男は自分の獲物である大剣を構えながら突っ込んできた。

 動きは悪くない。魔力強化しているのか、速度も程々。

 が、戦い方がなっていない。

 大剣を力任せに振りすぎて、威力が分散されすぎている。柄の持ちも適当。

 俺はそんな相手に呆れながら、それを危なげ無くヒョイヒョイと躱す。

 外側から見れば、必死にかわしている風に見えているのか野次が飛んでくるが、俺は気にした風も無く回避を続ける。

 エルシャとレーナさんは心配そうに観ているが、俺は心配するなという思いを込めて視線を向ける。

 レーナさんは気付か無かった様だが、エルシャは俺の動きをよく見ていたからか、俺がエルシャ達に視線を向けた事に一瞬驚いた顔をしたが、そこに込められている意思を読み取れたのか直ぐに安心した顔になる。


「おいおい! どうした、クソガキ! さっきの威勢はどこに行った! その腰の剣は飾りか!!」


 俺が反撃もせず回避ばかりしているのに痺れを切らし、そう怒鳴ってくる。

 俺は、「おいおい、マジかよ」と呆れる。

 ここまで来て、この男は気付いていなかったのだ。男と俺の間に横たわる差を。


「はぁ、どんどん言動が汚くなるな。このまま続けるのも良いけど、退屈になってきたし聞くに耐えなくなってきたから、さっさと終わらせるか」

「んだと、テメエ!!」


 完全にぶちギレ、大剣を無茶苦茶に振り回している。それはまるで、斬撃の嵐のようだ。

 だが、それでも俺には届かない。

 こんな相手に神剣『エレクシア』や魔術を使うまでもないと考え、一瞬だけ魔力強化を施し、瞬時に男の懐に入り込む。大剣や槍何かの長柄で長大な武器は、懐に近いほど扱いづらくなるのだ。

 だからこそ、入り込みやすいとも言える。


「もうちっと、冷静に相手との実力差を感じられるようになってから出直せ」


 そう言って、俺は地面を踏み抜く勢いで左足を踏み出し、弓を引くかのごとく構えていた右手を掌打に構え振り抜く。


 ドゴンッッ!!


 けして人体が上げる事のない、大質量がぶつかったかのような音を響かせ、それを受けた男はバタリと倒れる。


「「「「…………………………え?」」」」


 それは誰が上げた声だったのか分からないが、それでもその光景を観ていた人達の心情を表していたのは間違い無かった。

 一方的にやられていると思われていた俺が放った一撃で、対戦相手は瞬殺された(勿論殺してはいない)。


「津我無流体術:(よん)ノ型『透頸(とうけい)』」


 それが、俺が放った一撃だ。

 この技は、俺が独自に作った我流の技だが、自分的にはなかなかの物だと思っている。

 流石に一からとはいかず、既存の技や技術を統廃合を繰り返してはいる。

 もとにしているのは、中国拳法の衝撃を逃さずダイレクトに伝える技で、何と言ったか忘れたが、それを基軸に据えて作った物だ。


「ま、こんなもんか」


 俺は掌底の残身の構えを解き、フゥと息を吐く。

 遠くから観ていた冒険者達はようやく事態を呑み込めたようで、歓声ややられた冒険者に対する野次が届くが、倒れた男は既に意識を失っているのでそれを聞く事はなく、俺はそれらを聞き流す。

 すると、その観戦していた冒険者達の中からエルシャが俺に向かって走ってきた。


「流石です。タクトさん、怪我はしていませんか?」

「はははっ。いやぁ、流石にあれじゃ怪我何かしないって」

「本当に流石です。レーナさん何て、ずっと心配そうでしたよ」

「やっぱりな」


 レーナさんはずっと心配そうな視線を俺に向けていた事から、そうではないかと思っていた。そんなに俺を心配してくるって事は、相手をしていた男はそれなりの使い手だったのかと思ったが、手加減して放った俺の一撃でやられる程度だったので全く脅威でも何でも無かった。


「さてと、そんじゃ俺は途中だった冒険者登録の続きをしてくるかな」

「あ、一緒に行きます」



      〜・・・〜      〜・・・〜



「これが、タクトさんのギルドカードになります」


 レーナさんは俺が記載した用紙の内容をもとにカードを作り、俺に渡してきた。見た目は、カードゲームのカード程の大きさと一ゼア程度の薄さの金属板で、持ち運びが楽な作りになっている。

 表面には俺の名前と登録ギルド、現在のギルドランクである『F』が記載されているという簡素なもので、裏面はおそらく冒険者ギルドのマークだろう刻印がされていた。


「次に、ギルドについて説明します」


 レーナさんは懇切丁寧に、解りやすく教えてくれた。

 ギルドが受けている依頼の種類。

 冒険者が一度に受けられる依頼の数とランク。

 依頼を失敗した場合の賠償金と、依頼を放棄した場合の違約金。

 冒険者ランクの種類と上げ方。

 ギルドカードを紛失した時に発生する再発行時に掛かる金額。


「と、こんな所ですかね。他に聞きたい事等はありますか?」

「いや。今の所は大丈夫だ」

「そうですか。なら、これでギルドに関する説明は終わりです」

「分かった。ありがとう。解りやすい説明だった」

「それは良かったです。にしても、まさかいきなり決闘なんてするから驚きと心配で大変でしたよ私」


 レーナさんと会ったのは、ついさっきの筈なのに、ここまで心配してくるのに疑問だったが、悪くないとも思った。


「ははは。いや、あれで心配されても、怪我とかする方が難しかったんだが」

「えっと、タクトさんが戦った人はランク『C』の冒険者だったのですが」


 そうは言われてもな、という思いとあの程度でランク『C』なのかという呆れの感情が湧いてくる。


「それで、この後どうします。何か依頼でも受けますか?」

「そうだはな。…………うん。一つぐらい依頼を受けてみるか」

「でしたら、あちらの一番左側にあるボードから見つけて下さい。って言っても、タクトさんは『F』ランクなのでほとんどの依頼は常備依頼なので、決めた物を報告してくれたら後はそのまま依頼に行っても大丈夫です」

「了解だ」


 俺は自分のランクである『F』と書かれたボードの前に立つ。

 確かに、貼られているのは殆んどが常備依頼だった。薬草採取や、街の中での手伝いに関する物だった。


「ランクを上げるには確か、『F』は三十個だったか」


 ランクを上げるのに数が決まっているのは『F』ランクのみ。それはこのランクは失敗の確率が低い事があげられる。

 それ以上のランクとなると、失敗する場面がある事から達成数は設けられてはいない。



 冒険者ランクを分かりやすく分けるとするならこんな感じ。


『F』は謂わば素人ランク。成り立ての冒険者だ。

『E』は少し経験を詰んだだけ素人よりは上の冒険者。

『D』はベテラン冒険者。

『C』は中堅層の冒険者。

『B』は一流とまでは言わなくても、冒険者の中でも優秀な実力者のみが成れるランク。

『A』は超人ランクと呼ばれている。が、普通の冒険者ではここまでが限界。

『S』ランク以上は誰しもが人外レベル、英傑レベルと呼ばれるらち外な存在を指す。成るためには何かしらの特別な才能でもないと上がるのは難しい。

『SS』ランクはそこからさらに厳選された強者のみが属せるランク。

『SSS』ランクはその全てが神話や伝説に語り継がれるような功績を成した者達が与えられるランク。


 という事で、俺は街から少し離れた所に自生する薬草を採取する事にした。

 ギルドを出る所で、完了手続きを終えて待っていてくれたエルシャに合流する。


「タクトさんは何か依頼を受けたんですか?」

「ちょっとな。外に出て薬草採取だ」

「薬草採取ですか? どんな」

「えっと、『マリス草』つていう薬草だな」

「成る程。では、私が案内しましょうか?」

「良いのか? 頼めるなら、お願いしたいが」

「大丈夫ですよ」


 再び俺は、エルシャに案内されて今度は薬草採取に向かう。

 その時に、門番に仮身分証を返し、銀貨一枚を還してもらった。

 採取地点は街から少し離れた場所で、その事から初心者用の依頼なのだろう。何か不測の事態になったら即座に街に駆け込み、報告出来るように。


「タクトさん。これが『マリス草』です」


 エルシャが示してくれた薬草はそこらじゅうに自生しているので規定数を設けられている事もなく、採ってきた分だけ達成料に上乗せされ支払われる。


「さあて、こんなもんで良いかな」


 俺は、規定数の二十束を腰のポーチに仕舞い、ずっとしゃがみ作業で固まっていた身体を伸ばしながら言う。


「そうですね。…………あの、タクトさん」

「……………ん?」

「タクトさんに一つ、お願い事を聞いてほしいんです。勿論、厚かましいという事は理解しているんです」

「いや、別に構わないんだが。で、お願いって何だ?」


 エルシャは一瞬、言うかどうか迷っていたが、覚悟を決めて俺に頭を下げてお願いしてくる。


「私を、タクトさんの弟子にして下さい」

 



 

 



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