第14話 〜冒険者登録と、ハプニング(定番?)〜
俺達は沢山の人が並んでいる門に向かい、最後尾にいる人の後ろに並ぶ。前を見るが、門の越えて街に入るにはかなりの時間が掛かりそうだ。
「なあ、ここって何時もこんなに並んでいるのか?」
「まあ、多い少ないはありますが、平均的にはこの位でしょうか」
「そりゃまた」
毎日この位の人達がアルベンに向かっていると聞いて感嘆する。
何せ、ここから見えているだけでも、百人近くは要るのではないだろうか。もしくはそれ以上。
遠くに目を向ければ、門の前に二人組の人が立って、門を潜ろうとしている人達相手に何か作業をしている。
「エルシャ。門の前で二人組の人が何かしているんだが。あれは?」
「え、タクトさん。知らないんですか? あれは、街に入る人が犯罪を犯していないかの確認と身分証の確認ですよ」
へぇ、と俺は納得し、また門の前に立つ二人組―――改めて、おそらくは門番か衛兵に目を向ける。
さすがに、あの二人だけでは無いだろうが、毎日この数の人を見て、審査をしているのだから大変だろうなと尊敬の念を抱く。
俺がまだ日本に居たときに見たテレビで、空港の窓口がどんな事をしているか、という番組を観たが、あれに近いかもしれない。
と、そこで「あっ」と俺は声を上げた。
「どうしました?」
「あ、いやな。そういえば、俺って身分証持ってなかったなと思って」
ここで俺はシロナからは当面の資金を少しだけ貰っていたが、身分証になる物は貰っていなかった事を思い出す。
このままでは、街に入る事が出来ない。どうしたら良いかと悩んでいると、
「それなら大丈夫ですよ。身分証を提示出来なかった場合、その場で犯罪歴の有無を確認後に、何もなければ仮の身分証が発行されます」
「そうなのか。良かった」
なら一安心だ、と安堵する。
「一応、その時に手数料として銀貨二枚を払います。その後で、役所やギルドで身分証を発行して貰ったら、その仮の身分証を衛兵の詰所に設置されている回収ボックスに入れるんです」
「へぇ、それって使い回しているってことか。なかなかにエコな事をしているな」
「エコ?」
「あ、ああ。いや、何でもない。それより、手数料で渡した銀貨二枚は還ってこないのか?」
この世界にはエコって言葉は存在しないようで、エルシャが俺に聞いてくるが俺は余計な事を言ってしまったと思い誤魔化す。
エルシャは少し不思議がっていたが、触れない方が良いと思ってくれたのか、何も聞かずに引き下がり俺の咄嗟に出た質問に答えてくれる。
「銀貨でしたら、全部ではなく半額の銀貨一枚が還ってきます」
「成る程ね」
それから一時間以上(この世界でも時間の数えは日本と同じだった)を列に並んでいると、次は俺達の番になった。
「では、次の人。前に進んでくれ」
俺達は一緒に前に進んで審査を受ける。
エルシャは既に冒険者登録をしているので、軽く確認をして終わっていたが、俺は身分証自体が無いので少しだけ時間が掛かった。
「ん? 何だ。君、身分証を持ってないのか?」
「ああ。身分証とかあまり使わない場所から来たから、これから必要になるなら作ろうかと思っていた所だったんだ」
本当は異世界から来たからこの世界の身分証を持ってないとは言えない。そもそも、そんな事を言っても信じてくれるか疑問だがな。
「成る程な。じゃあ、これに手を当ててくれ」
「………これは?」
門番が腰に提げていた袋から、木の板の中心に綺麗に半分に割った水晶玉を付けた物を差し出してきた。
「これはな、この水晶玉に触った者が犯罪を犯しているかどうかを色で判断する魔術具何だ」
「へぇ。そりゃまた、便利な物があるな」
俺はそんな魔術具があった事に感心し、手を水晶部分に触れる。一瞬、水晶内が光ったかと思ったら、次には水晶内に緑色の光が瞬いた。
それを見て門番が一つ頷く。
「うん。犯罪歴は無いな。それじゃ、これが仮の身分証だ」
今のでどうやって、犯罪歴の有無を確認したのか分からないが、門番にはそれが判断出来たようだ。
実際、今までに一度足りとも犯罪を犯した事が無かったので当たり前だ。
そして、門番は腰の袋にそれを仕舞うと、新たに一枚の金属板を差し出してきた。
それが仮の身分証との事だった。
「手数料として銀貨二枚を払ってもらう。この仮の身分証は、有効期限が一週間しかないから、出来るだけ早めに新しい永続身分証を作ってくれ。作ったら、そこの詰所か衛兵の詰所に持ってきてくれたら、半額の銀貨一枚を返金する」
「分かった。なら、出来るだけ早めに作る事にするよ」
俺は門番の前を通りすぎ、先に入って待っていてくれたエルシャの下に向かう。
「それで、これからどうしますか? 一応、街までの案内との事ですが。私はこれからギルドに行って、依頼の完了報告をしに行きますが」
一瞬悩みそうになったが、さっきの門番が言っていた永続身分証を作らなければならない事を考えれば、一緒に付いて行った方が良いかもしれないと思い至る。
「そうだな。なら、俺も一緒に付いて行って良いか? 早めに身分証を作りたい」
「分かりました。確かに、ギルドカードは身分証としての役割も果たしますからね」
「そういう事だから、冒険者ギルドまで案内を頼めないか」
「良いですよ。こっちです」
俺はエルシャに続いて街の大通りを歩く。
至る所から客引きの声や、出店から風と一緒に流れて来る食べ物の香りに俺は興味を引かれ、キョロキョロとまるでお上りさんのように周りを見る。
「かなりの賑わいだな」
「そりゃあ、この街は色んな街との中継地点になる場所ですからね。その分、人の出入りが激しくて活気に溢れているんです」
そういう事ならあの門の前に並ぶ人達の列も納得だ。
街の中をを歩きながら観ていると、そう時間も掛からずに冒険者ギルドに到着する。
「ここが冒険者ギルドです」
「ほぇー」
俺は見上げる程に大きい建物が目の前にあった。三階建ての建物で、横は周りにある民家が数件は入りそうな程に大きい。
建物内に入れば、そこは広々と広がるフロアと左側には酒場があり既にお酒を飲んでいる人も何人かいる。右側には六枚のボードに貼られた紙を真剣に眺めている人達がいた。
そして、出入り口正面に受付嬢が何人も座っているカウンターが設けられている。
そんなギルド内にいた人達は、ギルドに入ってきた俺達に視線を向けてくる。視線はエルシャと俺に向けられるが、主に俺に向いていて、それには俺を観察するようなものや、侮蔑や蔑んだようなものも含まれていた。
そのような視線を向けられる覚えは無いんだけどな、と呆れながら比較的空いているカウンターに向かう。
「タクトさん。あまり気にしない方が良いですよ。こういうのは良くあることらしいですから」
「ふーん」
俺は気にしてない風を装いながらも、周りに気を配ってカウンターの前に立つ。
「こんにちは、レーナさん。依頼の報告に来ました」
「あら、エルシャちゃん。分かったわ、直ぐに手続きをするわね。それと、お隣の彼は?」
エルシャと目の前にいる受付嬢――レーナさんは知り合いらしく、親しげに話していると、レーナさんがエルシャに俺の事を聞いてきた。
「この人は、タクト・ツガナシさん。受けていた依頼で、森に薬草採取に行っていた時に魔物に襲われていた所を助けてもらったの」
「えっ、大丈夫だったの!」
エルシャが魔物に襲われたと知りレーナさんは驚くが、今こうして無事である事に安堵していた。
「はい。間一髪の所でタクトさんに助けてもらいましたので」
「そう、良かったわ。えっと、ツガナシさんで良かったかしら」
「ああ。どうせだったら、タクトって呼んでくれても良いぞ」
「そうですか。では、タクトさん。彼女を助けてくれてありがとうございます」
「気にしなくて良い。単に通りかかっただけだしな」
「ふふっ。謙虚なんですね」
別にそういう訳では無いのだが、レーナさんにはその様に見えたようだ。
「それで、タクトさんはどのようなご用件でしょうか?」
「俺の冒険者登録をしてもらいたいんだ」
「冒険者登録ですね。でしたら、こちらの用紙に………」
「おいおい。まさかこんなガキを冒険者登録させようって訳じゃ無いよな?」
突然、俺達の後ろ、レーナさんにとっては前方から侮蔑の含まれている声を掛けられてきた。
「………げっ」
俺の目の前にいるレーナさんが嫌そうな顔と声を出す。
そんな顔と声を出すようなやつが俺の後ろに居るのかと思うと辟易するが、何も反応しないと後々面倒になりそうなので振り返る。
そこにいたのは、俺よりも身長の高いがっしりとした筋肉に包まれた大男がいた。
「おう、ガキ。ここはてめえのようなやつが来るような場所じゃねえから、さっさと帰んな」
めっちゃ凄んで来るが、全く威圧感が感じられない。どころか、お酒を飲んでいたのか、顔が赤らんでいた。
「いや、あんたの方が帰った方が良いんじゃないか? 絡み酒とか、ダサいぞ」
「た、タクトさん!? その人は……」
レーナさんが咄嗟に止めようとしたが、時既に遅く言い切られてしまった。
「このクソガキが、優しく忠告してやったていうのに、それを棒に降るとは良い度胸じゃねえか。だったらよ、俺様が実力差ってもんを教えてやるよ!」
言いがかりをされ、俺はため息をつき、内心で愚痴る。
(街に着いてそうそうにコレとか、頭が痛いんだが)
俺は呆れと辟易さを隠さずに溜め息を吐く。




