プロローグ 〜悲しき夢〜
はじめまして、十織ミトです。
この度は、「最強幻想使いの異世界魔術学園」を読んでいただき、誠にありがとうございます。
言わせていただくのなら、これは私の衝動的なものでして、今までに幾つものラノベを読んできたことで、自分も書いてみようと思い、やってみた所に「ヤバい、書くのめっちゃ面白い」と思ってしまいました。
内容に対しては、私的にはそこそこ良い出来だと思っていますが、読んでいる方々としてはそうでもないかもしれません。
ですので、何かございましたら、私の所にどんどん(制限はしていないので)ご意見をお願いします。
では、ごゆっくりとお読み下さい。
追記
書いた後に、今後も多少の修正や増文はするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
気が付けば俺は真っ白な空間に居た。
自分が今どんな状態で、どんな態勢でいるのかも分からない。右も左も、上も下も、前も後も分からない。
そもそもからして、平衡感覚があるのかさえ不明だ。
周りを見回しても、ただただ白く何処までも続く空間が広がっているだけで、どこまで続いているのかも分からない。
ただ、俺はこれが何なのかを知っている。
今までに何度となく見てきた、“夢”。
身体の感覚も曖昧で、感覚があるようで無い、意識がハッキリしているような、所謂“明晰夢”と言うやつだ。
俺は、そんな場所で試しに歩き出そうと何時ものように足を動かそうと意識をすれば、意外にも、簡単に歩き出す事が出来た。
いや、もしかすると歩いている訳ではないのかもしれないが、今はそんな事は気にする事なくそのままその空間を進み行く。
何時ものように前に進む。
右でも左でも、上でも下でも、況してや後ろでも無く、ただ前に。
〜・・・〜 〜・・・〜
どれくらいの距離と時間そうして歩いて(?)進んでいたか分からない。
白い空間では時間の感覚も、進んだ距離の間隔も何も分からない。
そんな空間で唐突にその場所に変化が起きた。
足元(?)からピチャッピチャッと、まるで雨が降った後の水の張っている所を歩いてあるかの様な音がした。
俺はふと、自分の足元があると思われる場所に目を向ければ、そこには膨大な量の赤い液体が広がっていた。
知らないうちに、さっきまで白一色の空間だったはずが、地面と思ぼしき場所だけが赤く塗り潰され、それ以外はそのまま白い景色が広がっているだけだった。
後ろを振り向けば、俺がやって来たであろう方向までもその赤に塗り潰されていた。
気のせいか、その先に進もうとすると、その進みが重く、遅くなった気がする。
しかし、俺はそれを気にすることなく、再び前に向かって歩き出す。
何かに、呼び込まれるかのように、この先に何があるのかを知りながら。
〜・・・〜 〜・・・〜
また、少し進んだ先に変化が起きた。
しかし今度は、最初の地面が赤く染められた事の変化とは違って、心臓が激しい運動の後の様に激しく鼓動しているかの様な感覚に襲われ、知らず知らずのうちに早歩きから小走りくらいの速度になって、次第にその速度を上げていって、終いには全力で走るのと変わらない速度になっていた。
その間も、重苦しい感覚を感じながらも、それを振り切る様に走る。
そうして、辿り着いた場所には二人の男女と十歳頃の男の子とそれより小さい七歳くらいの女の子がいた。
目の前に広がっているのは凄惨な光景だった。
二人の男女が身体中から夥しい量の血液を流れ出して倒れ、女性にすがりつく様にして泣き付く女の子。その傍らで静かに、或いは茫然自失の様子で立ち尽くす男の子。
ここまでの間に広がっていた赤は、彼らの身体から流れ出た血によるもので、それは間違い無く致死量であるのが視てとれた。
しかし、そこで驚きの光景が起きた。
既に事切れていると思っていた男性の方がうっすらと目を開けたのだ。男性はまだ微かに意識があったのか、はたまた気合か。
男性は、ゆっくりとだが、はっきりした口調で言う。
「……………泣くな」
それは、今も泣き続ける女の子に向かって言ったのかと思ったが、どうやら違うようだった。
何故か、男性の虚ろな視線が男の子に向けられている事を外側から見ている俺には分かった。
その男の子も、倒れている男性が自分に視線を向けている事に気付く。
しかし男の子の目からは、涙は一滴たりとも流れていない。
だが男性には分かっていた。
確かに男の子は泣いていなかったが、それが外側だけであり、内側―――つまり心の方が泣いている事を。
「お前は、強い子だ」
「…………俺が、強い?」
「ああ」
「そんな事ない」
男性の言葉に男の子は首を振って否定するが、
「そんな事ないさ」
しかしそれの否定を否定されてしまう。
「お前に付けられた、名前の意味」
「名前の意味?」
「そうだ。お前の名前、拓斗は………頼り、頼られ、未来を切り開ける人になって欲しいと言う意味で俺と母さんが付けたんだから」
「未来を、切り開く」
男の子は自分の名前の意味を噛みしめるように呟く。
「だから、俺が今からするお願いはお前に対してする最初で最後のお願いだ」
男の子は何か言おうとしたが、すぐに口を閉ざして聞く姿勢になる。
「俺が……………俺逹が、お前に託す願いは―――――百合華を守れ。そして、健やかに生きてくれ。それが、俺達からのお前達が産まれてから、今この瞬間からの最後の願いだ」
それを言うと男性の瞼が閉じられ、静かに息を引き取った。
男の子は、男性の―――――父親の最後の言葉を噛みしめるように心に刻みつける。
しばし目を閉じて、ゆっくりと開く。その瞳には覚悟を決めたかのような色をしていた。
「分かったよ、父さん。百合華は、俺が守る……………何があろうとも、絶対」
死んだ父親は自分の息子の誓いの言葉を聞き届けたかの様に、口の端が軽く上がり、そのまま二度と目覚める事は無かった。
男の子――――――拓斗のその言葉を皮切りに目の前に広がっていた光景が消えると同時に俺の意識も途切れた。