24話:会議
アルファルマの街は連日お祭り騒ぎ。竜を倒したという英雄のような物語に皆が興奮し、溢れ出る喜びを発散させる為に騒いでいる。
そんな中、アルファルマの街にあるギルドではある会議が行われていた。それは竜討伐に対しての報告と、これらの事件に対しての詳細を確認し合う会議。そこにはギルド長、各役員が揃い、テーブルを囲んで話し合いを行っている。
「伝説の竜、マガフレギアの討伐か……まさか火山の底に眠っていたとはな」
ギルド長である髭を生やした男性が手に持った書類を見ながらそう言葉を零す。
今回、炎竜マガフレギアは火山の奥底で冬眠しており、何十年も前からアルファルマの街の近くに居たことが分かった。竜の生態はまだまだ分かっていないことが多い為、火山の異常現象に竜が関係していると気付けなかったのだ。討伐出来たから良かったものの、一歩間違えれば街は火の海と化していただろう。皆がお祭り騒ぎになっているのも、その恐ろしい事実から目を逸らしているからなのかも知れない。
「勇者様が居て助かりましたな。調査に向かわせて正解でした」
一人の役員がそう言うと周りの役員もうんうんと頷き、安堵の表情を浮かべる。
今回の事件は全て勇者達が対処してくれたと報告されており、冒険者であるレオンが証言者となっている。勇者達を調査に向かわせた役員達は自分達の指示が街を救ったと自慢げだった。
「だが本当に勇者達だけで竜を倒したのか? 怪しいものだ」
そこに一人の役員がそう口を挟んだ。怪しむように目を細め、報告書をパラパラとめくりながら内容を確認する。
「どういう意味です?」
「あの勇者だぞ? 確かに実力はそこらの冒険者達よりはあるが、まだ経験の浅い若造だ。とても竜を倒せる器とは思えんがな」
役員達も勇者のことはもちろん知っている。事件がある度に彼は率先して参加する為、報告は全て受けているのだ。だからこそ想像が出来ない。あのおっちょこちょいで空回りばかりし、聖剣の力に過信し過ぎている未熟な勇者が、伝説の竜であるマガフレギアを討ったという事実を。
「でも証言者は居るぞ。ウチの冒険者のレオンがその場に居た」
ギルド長である男性が役員にそう反論する。
きちんと証言者は存在し、勇者が竜を討伐したと報告されているのだ。彼にとってレオンは自分の組織に所属している者。その証言を疑われると言うのは、ギルド自体を疑われるのと同義であった。
「確かに冒険者は彼だけだったかも知れない」
すると役員の男は一度頷き、ギルド長の言葉を同意する。だがわざとらしく手を振るうと、更に言葉を続けた。
「だが火山周辺に居た連中の目撃情報から、他にも居たことが分かった。芸術師アシリギ、及びその助手。あの変わり者の芸術師が火山に居たのだよ」
アシリギ、という名前を聞いた瞬間役員達がざわめき始める。彼らにとってもその名前はそれなりに有名であり、各々思う所のあるものだったのだ。
「確かに彼の性格ならば、火山の絵を描くとでも言って行きそうですな」
「ああ確かに。私も前に高難度ダンジョンのマップ作製を彼に頼んだことがある。冗談半分だったが、見事完成させてくれたよ。あの芸術師は本気で狂ってる」
役員達もアシリギと接触したことがあり、依頼を頼んだこともある者も居た。アシリギの名前は色々な意味でアルファルマの街に広まっており、役員の中ではからかうつもりでわざと難しい依頼を頼むこともあった。だが当のアシリギはそんなこと全く気にせず、簡単に依頼をこなしてしまったのである。それ以降、役員やギルドの間では変わり者の芸術師の噂はより広まるようになった。
「それが何だと言うんだ? 確かにあいつならばあの時火山に向かっていたかも知れないが、皆の言う通り絵描きをしていただけだろう。奴は芸術師なんだから」
ギルド長はあくまで芸術師のアシリギが火山に居たところでそれを問題視しようとしない。彼にとって芸術師など変わり者の職業であり、絵を描くだけの生産職と捉えている。他の役員達も、街の人達も多くがそう思っている。故にアシリギという存在を戦力と認識することすらない。
「皆さん芸術師という肩書に惑わされている。あいつは高難度の依頼も易々とこなし、遠足感覚で未開の地を探索する程の力を持っているのですぞ? ギルドに所属していれば間違いなく上級ランクの実力だ」
ドンとテーブルを叩き、役員の男はそう主張する。
普段のアシリギの態度と芸術師という職業で埋もれがちだが、彼は高い実力を持っている。ギルドのように報告する過程がないせいで誰にも知られないが、アシリギは冒険者達が苦戦する魔物も簡単に倒せてしまうのだ。
「ならば君はこう言いたいのか? あの芸術師が勇者の代わりに竜を倒した、と」
「そこまでは言わんが……何らかの助力はあったと推測する。そもそも現場の痕跡からして竜に致命傷を負わせたのは剣や魔法ではない。鋭い爪や炎……」
ギルド長の質問に対して役員の男は立ち上がり、大袈裟に手を振りながら説明を始める。だがその言葉は突如扉を叩く音によって止められる。
「会議中失礼します。報告したいことが……」
扉が開くとそこから制服を着た男が現れ、幾つかの書類を持ってギルド長の傍に寄る。そして小声で何かを伝えると、ギルド長は深く頷いた。
「うむ。ああ、そうか。分かった」
会議の最中にも関わらず伝えに来たのだから何か重要な報告であったのだろう。ギルド長は話を聞き終わると男を下がらせ、椅子から立ち上がった。
「諸君、今回の会議はこれで終了とする」
「おい、話はまだ終わっとらんぞ!」
「それは次回に持ち越しだ。では私はこれで……」
何か問題でも起こったのか、ギルド長はそう言うとさっさと部屋から出て行ってしまった。他の役員達も解散と知って席から立ち上がり、各々帰り始めてしまう。その様子を見て疑問を口にしていた役員はため息を吐いた。仕方なく彼も書類を纏め、部屋を後にした。
「全く、これだから会議というものは……」
「お疲れ様です」
通路で部下の女性と合流し、役員の男は歩きながら会議の不満を零す。
会議とは重要なことを話し合う場だというのに、ただの報告だけで終わってしまった。これならば書類や報告書に目を通すだけと一緒である。何の意味もない。
「あまり実りのない会議でしたか?」
「ああ、予想通りな。どいつもこいつも勇者が凄いだのなんだの……お祭り気分になりたい連中ばかりだ」
集まった役員、ギルド長共に皆勇者が竜を倒したことに盛り上がっていた。あれでは報告というよりも褒め合いの場のようなものだ。役員の男はもう一度深くため息を吐き、頭を抑えた。
「仕方ありません。今の世の中、他国の脅威に対しての抑止力として勇者の存在は必要不可欠です。少しでもイメージアップしておきたいのだが皆さんの本音なのでしょう」
部下の女性がそうフォローし、勇者の必要性を訴える。役員の男もそれは理解しており、短く頷いた。
「私だって勇者を陥れたい訳ではない。人々が英雄を求めている理由も分かっている。だがそれでも、それが贋作では意味がないのだ」
勇者は希望の光だ。邪悪な魔族、凶暴な獣人族、残忍な魚人族、人族の国の外にはそんな恐ろしい種族がたくさん居る。それに対抗しうる戦力として、勇者は何よりも必要なものであった。民を安心させ、戦士を鼓舞し、勝利へと導く絶対的な光が。だがその光が紛い物ならば、意味をなさない。
「本当に強い者達が必要だ。ギルドでちまちまランクを上げ、数値で評価されただけの連中ではない。圧倒的で、万能で、どんな敵をも倒す事が出来る絶対たる強者が!」
故に必要なのは絶対的な力。肩書や称号などで評価されているものではなく、個人が極めた力こそが真に必要なもの。その勇者よりも頼りになる絶対的な力が、すぐ近くにあるかも知れないのである。
「芸術師アシリギ、奴は高難度過ぎてハズレ魔法と言われている〈創造魔法〉を使いこなし、確かな実力を持っている。変わり者過ぎて軽視されているが、彼は本来立派な戦士となるだけの力を秘めているんだ。これからはそのような戦力がもっと必要となる」
そう言って役員の男は拳を強く握り締め、瞳に強い光を灯す。その迫力は隣に居る部下の女性が思わず怯んでしまう程であった。
「竜を倒したのは彼に間違いない。それに現場では魔素の濃い氷魔法の痕跡があった。恐らく芸術師の助手のものだろう。二人のことを調査しろ」
「はっ、承知致しました」
男は部下の女性に指示を出すとスタスタと通路の先へと進んで行く。女性はそれをお辞儀して見送り、自身の仕事をこなす為に別の通路へと進んで行った。
「……必ずこの間違った世界を、変えてやる」
男は静かに自身の野望を呟く。
この虚像と欺瞞で満ちた世界を、本来の正しい世界に戻す為、勇者など必要としなくても人々が立ちあがれる国にする為、まずは絶対の強者を手に入れる。そして象徴を壊せば、眼の雲った者達も現実を受け入れるしかなくだるだろう。
その時こそ、世界が変革する時だ。




