13話:火山の魔物
※「伝説の剣なら~」からタイトル変更致しました!
自宅へと戻ったアシリギは早速今日描いたスケッチの確認をし、同時に机の上で画材の整理を行う。意外と器用な彼はそういった難しいことも平然とやってのけるのだ。その横では、ソファに座りながら何か言いたげな表情を浮かべているクロアの姿があった。
「あー、ここからでも見えるなー。黒い火山」
「…………」
黒い火山が見える窓の方に顔を向けながらクロアはそう呟く。その喋り方は独り言にしてはやけに大きく、まるでアシリギに語り掛けているようであった。否、実際そうなのであろう。彼女はわざとアシリギに聞こえるよう大きい音量で喋っているのだ。
「まだ煙出てるよ。怖いね~、どうなってるか気になるね~」
クロアの独り言を聞きながらもアシリギは黙々と作業を続ける。だが多少は気になるのか、時々不機嫌そうに窓の方に視線を向けた。その先にある空には確かにあの不吉な煙がフワフワと漂っている。それを見てアシリギはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「…………」
机の上に置いてある画材を片付けながら彼は思考する。
確かにクロアの言う通り、昼間見た黒い火山は気になる点が多くあった。だがそれを調べるのは兵士達の仕事であり、アシリギ自身は一切興味がない。精々噴火しそうな火山を描くことしか興味が湧かないのだ。出来るならばそのタイミングを見計らって出掛けたかったのだが、こうもクロアがうるさいと気が散る。そう考えてアシリギは思考を切り替えることにした。
「わ~ったよ。行けば良いんだろう? どっちにしろ火山のスケッチはやる予定だったんだ。お前がそんなに気になるって言うなら、今日行ってやる!」
クロアの方を振り返りながらアシリギはそう言い、早速準備を始める。机の上に置いてあった画材を鞄の中に詰め、いつもきちんと保管している金の筆の確認も行った。
「その代わり何があっても自己責任だからな? ダンジョンの近くってのは危険がいっぱいなんだ。後悔するんじゃねぇぞ」
「うん、分かってる。ありがとう、アシリギ」
アシリギは脅すつもりで言ったのだが、気付いているのかいないのか、クロアは素直にお礼を言う。その純粋過ぎる姿を見てアシリギは何だか馬鹿らしくなり、短くため息を零した。
「まずは準備しろ。あの火山ダンジョンは色々面倒臭いところだからな。お前の氷魔法じゃ相性悪いから、気を付けろよ」
「ん、了解」
言うまでもなく噴火している火山は危険だ。今は落ち着いているようだが、次いつ噴火するか分からない。きちんと準備や対策をしてからでないと、命を落とすこともあるだろう。クロアもそのことは十分理解している為、噴火した際の避難方法などをきちんと計算していた。もっともアシリギの場合は創造魔法で何とでも出来る為、実は彼が一番軽く考えているのだが。
さっさと準備を終えたアシリギはいつものお気に入りの白いマントを羽織り、早速火山ダンジョンへ向かうことにする。窓から見える火山は先程より煙も少なく、落ち着いているように見える。アシリギは自分に言い聞かせるように力強く拳を握り、良い絵を描くぞ、と息込んだ。
一方隣ではアシリギから貰った帽子を被り、普段と変わらない私服姿のクロアが立っている。彼女にとって準備は心の準備だけで十分のようだ。
「よし、それじゃ行くか。覚悟は良いか?」
「もっちろん」
最後にアシリギが確認すると、クロアは両手で握り拳を作りながら鼻を鳴らす。やる気は満々のようだ。アシリギもそれを見て満足そうに頷き、扉を開いて廊下へと出た。そして二人は宿屋を後にし、真っすぐ街の門へと向かう。そこでさっさと手続きを済ませ、昼間も訪れた草原を通って火山を目指した。
火山までの道のりは普段の草道とたいして変わらない。きちんと整備もされている為、魔物も寄り付かない道だ。出たとしてもアシリギにとっては何ら脅威ではない為、二人は問題なく進んで行く。そして目的地である火山の近くへと到着した。
「ほい、ここからは火山エリアだ。足元でこぼこしてるから気を付けろよ」
「んー……わっ、ホントだ」
火山の近くは木々もなく、植物も少ない。辺りには大量の石ころが転がっており、道なりも平坦ではなく、へこんでいる部分や突起になっている部分もある。こんな所ではまともに歩くことすら出来ないだろう。そんな道でもアシリギは慣れた進んでいたが、後ろではクロアが躓いて転びそうになっていた。
「アシリギは何度かここに来たことあるの?」
「まぁ、少しだけ。依頼で様子を見に来たことはある」
「ふーん、じゃぁ慣れてるんだ」
「そういう訳じゃねぇよ」
クロアとアシリギはそんな雑談を交えながら道を進んで行く。まだ周りから脅威は感じない為、会話をしていても問題ないと二人は判断しているのだ。するとそんな二人の前にある岩陰から人影が通りかかった。
「お、アシリギじゃねーか」
それはいかにも冒険者らしい服装と装備をした無精髭を生やした男と、その仲間達であった。アシリギも面識ある人物達であった為、警戒を解いてクロアを自分の後ろへと移動させる。
「なんだお前らか。なんでこんな所に居るんだ?」
「俺らは依頼の帰りだよ。たまたま近く通ったから、噂の火山を見に来たんだ」
どうやら別件の依頼で偶然近くに居ただけで、彼らは火山の調査とは無関係らしい。それを聞いてアシリギは興味なさげに鼻を鳴らした。
「そんなこと言って、どうせダンジョンにお宝でもないかって様子を見に来たんだろ?」
「うっ……まぁ、半分くらいは……ゆ、勇者様のお手伝いをしようと思ってよ」
「はっ、そうかい。そりゃ真面目なことで」
依頼中の冒険者だからと言って噴火の火山にわざわざ様子を見るはずがない。彼らは調査中の勇者達にあやかってダンジョン内の宝を狙っていたのだ。
「ん? アシリギ。そっちの子は誰だ?」
ふと冒険者の男はアシリギの後ろに居るクロアを見てそう尋ねる。冒険者らしからぬ見た目に、変わり者として有名なアシリギと一緒に居ることに疑問を覚えたのだ。するとアシリギはチラリとクロアの事を見た後、物怖じすることなく答えた。
「あー……今の相棒だ。色々手伝ってもらってる」
「へぇ、そうかい。小さいのに凄いんだな」
「ど、どうも」
クロアはペコリとお辞儀をして出来るだけ不自然ではない素振りを見せる。実際見た目は普通の女の子の為、冒険者達もそれ以上気にすることはなかった。
「そういえば火山の方にレオンも居たぜ。あいつも調査を任されたらしい」
「はぁ? 調査はもう勇者達がしてんだろ。なんであいつまで呼ばれてんだよ」
「さぁな。ギルドも色々調べることが多いんだろうよ」
思わぬ情報にアシリギは不可解そうな表情を浮かべる。
レオンの実力は冒険者の間では平均的だ。何かに特化している訳でもない為、わざわざこんな火山の調査に向かわせるのにはいささか実力不足だろう。
レオンが自ら志願したのか、報酬金で釣られただけなのか、何にせよ面倒なことを聞いてしまったとアシリギは口を曲げた。
「まぁ俺らは退散させてもらうよ。何かダンジョンから変な雰囲気がするんでな」
「おいおい、怖いこと言うなよ」
何やら不穏なことを言う為、アシリギは面倒くさそうに頭を掻く。その時、火山ダンジョンの入り口がある上層の方から轟音が聞こえて来た。
「ッ……なんだ?」
アシリギは警戒して上を向き、冒険者達も振り返って身構える。すると山の上層から、炎を纏った怪物達が現れた。
「グルォォォァァアアアアアアアア!!」
「お、おいっ……あれって〈フレイムウォリアー〉じゃないか!」
冒険者の男が炎の怪物を指差しながらそう叫ぶ。
フレイムウォリアー。人型の魔物だが全身が炎に覆われており、人族よりも巨体で腕が長い。どちらかと言うと獣に近い種族で、強力な魔物である。
「ほら見ろ、魔物が出てきちまったじゃねぇか」
「俺のせいじゃないだろ!」
アシリギはため息を吐きながらもう一度魔物達の方に視線を向ける。
フレイムウォリアーの数は五匹、群れで活動していたのだろう。だが彼らは本来ダンジョン内の暖かい場所に生息している種族であり、こちらから敵意を向けない限り襲ってはこない。それがこんな風に外で暴れているのは、いささか不可解だ。
「悪いが俺達は逃げさせてもらうぞ! さっきの依頼で薬草を使いきっちまったんだ!」
「ああ、そうかい。どうぞどうぞ。ご勝手に」
万全な状態ではない冒険者達はすぐさま逃げ出す。フレイムウォリアーとはまだ距離がある為、この岩場なら逃げられると判断したようだ。アシリギもそれに反対することはなく、静かに魔物達のことを見据えている。その横ではクロアも同じように落ち着いた様子で立っていた。
「アシリギ、何で魔物が?」
「さぁな。暇になってダンジョンから出て来たのか、それとも中で何かあったのか……いずれにせよ、このまま奴らが平原に行っちまったら焼け野原になっちまう」
理由は考えても分からない。ならばまずは現状を確認し、事態が深刻化しないように防ぐしかない。何よりアシリギにとっては炎の塊であの美しい緑を失うのは御免であった。故に、彼はそっと魔物達を指差す。
「クロア、あいつらを冷まさせてやれ」
「はいはい、分かったよ」
アシリギがそう言うとクロアは分かっていたように肩を落とし、グルグルと腕を振るう。そして懐から鋏を取り出し、刃を輝かせて地面に突き刺した。
「凍てつく氷で美しく形作れ! 飛翔、雪月鳥!!」
叫ぶと同時に氷の塊が出現し、刃を振るって美しい氷の鳥達を形成する。そしてその氷の鳥達は真っすぐフレイムウォリアー達に向かって行き、炎の塊を吹き飛ばした。




