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●山口雄大、三日目(後)
風が強い夜だった。でも、心地よくはなかった。梅雨明けの空気はまだ湿っていて、不快に肌にまとわりつく。一服して、缶の灰皿に吸殻を入れた。もう、だいぶ溜まっているようだった。まだ部屋には戻りづらかったので、ついでに一階のゴミ捨て場に捨てようと、灰皿を持ち出した。
到着すると、蓋を取って缶を逆さにした。ぼとぼとと、滝のように吸殻が流れ落ちた。一本、箱から取り出して、火を点けた。少し、落とした吸殻を見ていた。
なぜか、おぞましいなにかの幼虫が、こちらを見ながら蠢いているように見えた。気持ちが悪いので踏み潰し、星の見えない夜空を見ることにした。
その一本が終わって、戻ろうと振り返ると、恵理が立っていた。
「……どこか行っちゃったかと思った」と、涙を流しながら、笑っていた。
愛おしかった。
恵理を抱きしめながら、大イベントなんて、まぁいらないかと思った。これが、俺の結論だった。