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会談

その翌日、早速フレアとグレイシアとの面談が行われた。場所は王の執務室。



コンコンー


「入れ」


「クロウカシスのグレイシア王とジエロ将軍をお連れしました」


「ああ、お通ししてくれ」


従者の案内で入ってきたグレイシアは入ってすぐに窓辺に立つ小柄な少女の姿に気がついた。

その少女はグレイシアが入ってきた事に気がつくとゆっくりと振り向き近づいてきた。

その顔を見た彼は少女の顔に見入ってしまった。



キラキラと朝日を浴びてかがやく金の髪が少し丸みを帯びた頬を縁取る。その顔には大きな紅の瞳が強い意志を宿してこちらを見ている。

すっと通った鼻筋の下にはぷっくりとした唇が微かに微笑みを浮かべていた。

文句なく美少女と評していい容姿だ。

だがそれ以上に惹きつけられるのはやはり珍しい紅の瞳だろう。



ふと自身が言葉もなく彼女に見入っていた事に気づいて視線をそらす。

ともすれば彼女に視線が戻るのを意志の力で抑え込む。


「早速こちらの願いを聞き入れていただき感謝する。

で、そちらにおられるのが我が妻となるフレア姫か?」



「はじめまして、フレアと申します。


クロウカシスの帝王様とは随分非情な方と伺っておりましたがこのように冗談のお好きな方でしたのね」


唇は笑みの形だがその目は全く笑っていない。そしてその目をふとグレイシアの後ろにやる。


「あら?確かジエロ殿、でしたかしら?

お怪我の具合はいかが?」


「はい。姫様に頂いた薬がよく効いたようで、ほれこの通り」


そう言って服の袖を捲って見せた。そこにはまだ薄っすらと傷跡が残っているがそれも暫くすればキレイに消えそうだ。逆にあれだけの傷がなぜここまでキレイに治ったのかと疑問に思うほどだ。



「まあ、それは良かったわ」


にっこりと微笑む様子は随分と親しげだ。先程の眼差しが嘘のようだ。


それに疑問を思ったのは周りの男たちだろう。


「フレアは将軍を知っておったのか?」


「ええ。以前街に出た時に海に誤って落ちた子を助けに飛び込まれたのをお見かけしたんです。その時岩で腕を怪我をされたので医療院までお連れしたんです。ちょうど傷薬を持っていたからお渡ししたんですけど、割と深い傷だったから治って本当に良かったわ」



若干の室内の空気がほんわかムードに包まれたがそれをぶった切る男がいた。


「………それで、結論は出たのか?」


その言葉にあからさまにムッとした表情を浮かべるフレア。


「とりあえず座りませんか?それからでも話はできるでしょう」


慌ててフェルドがソファを進める。




そして婚姻の申し出について話し合われたのだが


「私には婚約者がおりますのでこの申し出はお断りさせて頂きます」


きっぱりあっさり断られた。


「………ほお。


フレア姫は手紙を読まれましたかな?

婚姻を断る、ということは我が軍に攻め込まれても構わない、と受け取って良いということか?」


「まさか。

この国は小国ですから貴国に攻め入られてはひとたまりもありません。ですので、婚姻の申し出もお断り致しますがそちらもお断り致します」


コテンと首を傾げてお願いする姿は大変愛らしい。愛らしいがそれではこちらには何も利がないではないか。


「ふむ。婚姻も戦争も嫌とな?

それは随分とわがままではないかな?」


そう言うとクスクスと口元に手を当ててそれは楽しそうに笑う。


「まあ!大国の帝王様ともあろうお方が何を仰いますやら。

小国と言えど私は一国の姫ですよ。昔からお姫様とはわがままなものだと言うではないですか」


そんなことは誰も言ったことも聞いたこともない、と思うものの2人の舌戦に誰も口をはさめない。



フレア姫は基本とても優しく愛らしい姫だ。しかし優しいからこそ自分の大切なものを傷つけられそうになると酷く辛辣になるのだ。


小さな頃街に出て他の子ども達と仲良く遊んでいる時、少し大きな子に友をからかわれたことがあった。ほんの些細な事だがからかわれた子は酷く傷つき、それでも涙を堪えていた。それを見たフレアがいつもの優しく愛らしい表情を消し、冷たい声で正論を叩きつけて撃退したことがあった。

それ以降子ども達の間ではフレアだけは怒らせてはならない、と新たな常識として加わったのだ。実際のところ何を言ったのか、どんなやり取りがあったのか誰もが口を噛んで語ろうとしないのだ。聞くたびに顔色を悪くして首を振る子を見れば誰もそれ以上問うことはしなくなった。



(普段はとても心優しい娘なのだがなぁ)


思わず遠い目をして過去に思いを馳せている間にも話は進んでいた。



「悪いが俺は女のわがままは聞かないことにしてるんでね。


さて、俺も忙しい。ここではっきりさせておこう。

俺の側室になるか戦争をするか、だ。選択肢はそれ以外に用意するつもりはない。


側室になれば、この国は我が帝国の統治下になる。これは悪いことばかりではなく他の国が攻めてきた時には当然援助を行おう。

その見返りとしてこの国の鉱石、珍しい果物や薬草を安く仕入れさせてもらう。

弱小国が大きな力を手にするんだ。このくらいは安いものだろう。


そして婚姻を断った場合だが、これは当然戦争となる。圧倒的な力の差があるのだ。馬鹿らしいとは思うがな。

そうなると敗戦国となったこの国は名前さえも残らない。そしてフレア姫は側室ではなく、そうだな、妾程度で許してやろう。



さあ、決めるのはフレア姫だ」


黙って最後まで話を聞いていたフレアは暫し紅の瞳を閉じ何かを考えていたが、一度大きく息を吐くとしっかりとグレイシアを見据え


「わかりました。私が帝国に行くことで国が守られるなら行きましょう。ただし









後悔しても知りませんよ」


そう言って、それはそれはきれいに笑ったのだ。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




それからはあっという間だった。


会談2日後には一行は港にいた。



「フレア、本当に1人で行くのか?カーラだけでも「カーラは連れて行きません。そんなことをしたらサムが泣いてしまうわ。



それよりお父様、イグが帰ってきたらお願いね」


「ああ。どの程度抑えれるかはわからんがな。努力はしてみよう」


今生の別れとは思えないやり取りだ。デフェール王は悲しみとか申し訳なさとかそんなものではなくどちらかといえばげんなりした表情をしている。


これには帝国側の人間全てが疑問に思っていた。よく見れば周囲の国民もなぜか悲壮感はない。だが、自国の姫を守る為戦争が起こるより大国であるクロウカシスの庇護を受けることができる、というほうが国民としては有り難いのかもしれない。


そう思うしかない。何故か大失敗を犯した気がするのは気のせいだ、と自身の感情をごまかすのだった。




「フレア姫、時間だ。



ではデフェール王、フレア姫のことは何も心配いらない。大切に扱うと誓おう。

今回の交渉については正式な文章を後日送ろう。



では………」


「お父様、行ってきます」


「ああ。グレイシア王、フレアをよろしくお願いします。



ご無事をお祈りします。



フレア、行っておいで。こちらのことは任せなさい」


なんだか不思議な別れの言葉だと聞いていた者たちは思いつつと船に乗り込む。








「行ってしまったか。


さて、どう伝えるべきかな」


「どう伝えるにしてもどうせ話が終わった途端飛んで行かれるのは決まっていますよ。と言うか話が最後までできるかも疑問ですけどね」



この国の最高権力者である2人が大きく溜息をつき肩を落としている姿を周囲の国民は気の毒そうに同乗の眼差しとエールを送るのだった。

残り一話か二話で終わる予定です!一気に読みたい方は暫しお待ちを!

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