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悪役に気付いたのは私だけじゃない!  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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12/13

12 告白。




 放課後。日暮れが射し込む寮の部屋。


「だからエミリー様やジェラルド様達に近付きたくないんだね」

「そうなのよ……」


 アルティにもっと早く話せばよかった。


「でもその乙女ゲームの世界だからって、別に避けることないんじゃないかな。シェリエル様はたくさんの人に、好かれればいいと思う!」


 前言撤回。


「アルティ……私はエミリーに関わりたくないのよ」

「ジェラルド様と関わるイコールエミリー様と関わることになるわけじゃないよ」

「いいえ、イコールそうなるの」

「悪役にされるのが怖いからでしょう? 大丈夫だよ。間違ったことになったりしない。安心して。シェリエル様は独りじゃない」


 私は自分のベッドに倒れ込んだ。

 そういうことではないと嘆く。


「シェリエル様。好きになったら、それはその人のものだよ。ゲームとか関係ない。主人公とか悪役とかもね。関係ないよ。いっぱい好きになってほしい!」

「いっぱいは困るわ……」


 好きになったら、その感情はその人のものか。

 それはそうだけれど、だからと言って好きになってほしいとは思っていない。特に攻略対象達には。


「大丈夫! ボク、ジェレミー様に相談してくる!」

「え。ちょっと待ってアルティ!」


 アルティは日向の光の玉を落としていって、消えた。

 男子寮のジェレミーの元に行ったのだろう。

 それは困る。ジェレミーのニヤついた顔が、嫌でも浮かんだ。


「戻ってきてアルティ!」


 呼んだけれど、日向は現れなかった。

 ああ、と顔を覆う。今頃、相談しているに違いない。


「どうかしたの? シェリエル様」

「ひゃっ! アルティ!」


 不思議そうに小首を傾げたアルティが、私を見ている。戻ったのなら、ただいまを言ってちょうだい。


「まぁいいわ。ジェレミーと何を話したの?」


 聞きたくないけれど、尋ねてみた。


「また今度相談しようって」

「……ああ」


 額を押さえる。


「アルティ。何もしないで、お願いよ」

「んぅ……わかった」

「あれ……あっさりしているのね」

「嫌ならボクは何もしないよ。見守る」


 でもね、とアルティは続けた。


「さっきも言ったけれど、好きになったらその人のものだよ。ボクらが何かしても、しなくてもね」


 不吉な発言だ。


「ボクはシェリエル様を、いっぱいの人が好きになってほしいと思っているよ」

「……それはありがとう」


 そう思ってくれている人がそばにいるのは、幸せなのかもしれない。それだけで十分。なのだけれどね。



 翌朝、アイリーンとアルティと朝食をとる。


「ごちそうさま」


 食器を片付けようとカウンターに向かう。

 そこで事件が起きた。

 ベチャッと熱いものがかかる。


「あつっ」


 思わず食器を落としてしまった。

 見れば、愕然とした様子で立ち尽くすエミリーがいる。

 エミリーがぶつかって、シチューをかけられたのだと理解した。


「あ、あの、わ、わたし……」


 口をパクパクさせるエミリー。

 私も唖然とするしか出来なかった。


「ちょっと! 謝りなさいよ!」


 声を上げたのは、アイリーンだ。


「わたし……」

「いいのよ、アイリーン」


 私は慌てて我に返る。制服にかかっただけだし、大丈夫だ。

 アイリーンに笑って見せたのだけれど、険しい顔のまま。


「よくないわよ! 火傷してたらどうしてくれるの!?」

「私は大丈夫」

「謝りなさいよ!!」


 アイリーンはエミリーに掴みかかろうとした。

 けれど、割って入ったのは、クラウド。


「アイリーン。エミリーもわざとじゃなかったんだ、そんなに責めるな」

「クラウド!? シェリエルが火傷してたらどうするのよ!?」

「落ち着いて、アイリーン」


 アーウィンも席を立ち上がり、エミリーを庇うようにした。

 それがアイリーンを煽っていることも知らず。

 エミリーが一言謝ればすむことなのに、クラウドとアーウィンの後ろにいる彼女は俯いているだけ。


「おい、シェリエル。大丈夫なのか?」

「ジェラルド殿下……大丈夫ですわ」


 ジェラルドが私の腕を取るけれど、大丈夫だと笑って見せる。ジェラルドは顔をしかめた。


「あたしは謝りなさいって言ってるのよ! 大怪我負うところだったんだから!」

「アイリーン」


 私のために怒ってくれているアイリーンを呼んだけれど、こっちを振り向いてくれない。ただエミリー睨み付けている。

「シェリエル?」とジェレミーも私を覗く。それより、仲裁をしてほしい。

 状況は、最悪だ。

 エミリー逆ハーレム対アイリーンになっている。

 直接対決は早すぎだ。まだ試験も始まってもいないのに。


「退いて! わからせてやるんだから!」

「アイリーン!」


 アイリーンの手に魔力を感じた。何かを放つつもりだとわかって、私は割って入る。

 次の瞬間、私は衝撃を受けて暗闇の中に倒れた。


 フェリュンの夢を見る。

 私を見据える真紅の瞳。

 美しいガーネット。

 三つの尻尾を揺らす。

 鬣の短いライオン。

 とても美しい生物。

 心穏やかに見えーー……。


「何を寝ている! 起きろ小娘!!」


 ただけで、怒っていた。牙を剥き出しにして今にも噛みつきそう。


「ごめんなさい!」


 私は飛び起きる。そこは医務室のベッドだった。

 周りには、アイリーン、クラウド、ジェイコブ、ジェレミー、ジェラルド、アーウィン、ジャスパーがいる。そして、アロガン先生がいた。


「何謝っているんだ……シェリエル」

「シェリー! 起きないかと思ったよ! ごめん! 本当にごめんね!」


 クラウドが呆れて笑みを溢すと、アイリーンが抱き付く。


「治癒をしたから大丈夫だと思うが、起きないから心配したぞ。シェリエル嬢」


 アロガン先生が笑いかけた。

 それより、この状況は何でしょう。


「なんだか心配をおかけしたようで、すみません」

「謝らないでよ! もう! 本当にごめんね!」


 アイリーンがムギューとしてきた。身体が重いかと思えば、アイリーンの他に抱き付いている。掛けられた布団を捲れば、アルティがいた。


「守れなくてごめんなさい、シェリエル様」

「アルティ。私は大丈夫」

「またそう大丈夫って笑う! やめてよ!」


 私は本当に大丈夫なのに。

 アイリーンは怒った。


「ちょっとは怒ってよ! エミリーのことも!」

「……その、エミリー様はどちらに?」


 私の問いに答えたのはアーウィン。


「いるよ。エミリー、おいで」

「……シェリエル様。ごめんなさい、わたしのせいで」


 ひぃっと思ってしまった。条件反射だ。

 エミリーの姿が目に入る。アーウィンに促されて、やっと謝罪の言葉をくれた。

 アイリーンは「遅い!」と怒るけれど、それを宥める。


「私も不注意でしたわ。これからは気を付けてくださいませ」

「……はい」


 反省した様子で俯くエミリー。

 これからは火種を付けないでくださいませ。


「仲直りもすんだことだし、授業に出ろよ。試験が近い、しっかり勉強するんだ」


 アロガン先生がパンパンと手を叩く。

 私達は解散して、それぞれの授業に向かった。

 ずっと、ひしっとアルティは私にしがみ付いたまま。よしよしとあやした。

 それから暫く、アルティは周囲に気を配って私の護衛に努める。そんなアルティを眺めながら、試験に向けて勉強に励んだ。

 まぁ、私がどんなに励んでも、上位にはエミリーの逆ハーレムが居座る。順位はなんだったかしら。

 総合成績一位はクラウド。二位はジェラルド。これは僅差。

 三位はジェレミー。四位はアーウィン。五位はジャスパーだ。

 六位になれたら、上々だ。召喚獣はトリアだし、剣術の授業は、女子生徒の中ではトップ。

 目指すは六位だ。それが私にとっての一位だ。

 試験当日も、アルティは護衛を務めた。そんなアルティのそばで試験に集中する。筆記試験から剣術や召喚の試験を乗り越えた。

 そして迎えた試験順位の発表。アルティと仲良く手を繋いで、アイリーンと廊下の壁に大きく張り出されたそれを見た。

 私は驚愕してしまう。

 何故かと言えば、順位が予想外だったからだ。

 総合一位がーー……ジェレミー・ダンビルだった。

 私はアイリーンを置いて、庭に出る。手を繋いだままのアルティは一緒。


「ジェレミー!」


 私は呼んだ。きっとお気に入りの木の上にいると思った。

 それは的中して、黒髪を靡かせる彼を上で見付ける。


「なぁに? オレ、また怒らせるようなことした?」


 ご機嫌そうな笑みで、小首を傾げた。


「あれは何!?」

「あれはと言われても、わからないんだけれど」

「試験の総合順位! 何故あなたが一位なの!?」


 問い詰めたら、ジェレミーは「ああ……」と漏らした。


「何って本気を出して、一位を獲った」

「シナリオではあなたは総合三位よ!」

「そうだっけ、そこまでは知らないや。でも一位が獲りたかったから獲った。じゃないとかっこがつかないからね」


 ジェレミーが木の上から降りてきて、猫のように軽やかに着地する。

 私より少し背の高いジェレミーと視線が合う。


「かっこつかない?」

「そう。かっこつけたかったんだよね。告白するから」


 ジェレミーはそう言って、私を覗き込むようにして笑いかけてきた。それから、傅く。私の右手を取って。


「こく、はく?」


 何をするのだと瞠目していれば、その右手に口付けされた。


「お慕いしております、シェリエル様」

「えっ?」

「君が好きです」


 ジュワッと顔が熱くなる。唇が触れた箇所も熱を灯す。


「え? な、なんの悪戯?」

「悪戯じゃないぜ。多分、きっと一目惚れかな」


 手を引っ込めたら、ジェレミーは猫のような笑みで見上げてきた。


「入学式の前日、本当は君を捜し出して話しかけた。だって、実は好みだったからなんだ。ゲームの頃から。それで、からかってみたり追いかけっこしてみたりして……あーオレって君が好きなんだなって思った」

「……」

「だから、試験で一位を獲ってかっこつけて告白。他の攻略対象者に奪われたくないから、先手必勝」


 べーっと舌を出して見せる。

 熱は耳の隅っこまで広がって、胸の中では心臓が高鳴っていた。


「オレと一緒にこの世界を……いや、この人生を楽しもう?」

「っ……!」


 告白というより求婚。いくら実力主義な世界でも、貴族に告白をするということは結婚前提と言っても過言ではない。

 それを理解した上の告白。

 そして、想い。

 ただ立ち尽くして胸を高鳴らせてしまう私の頭の上に、アルティは色とりどりの花を降らせた。精霊の祝福。私はただちにやめさせた。




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