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1 蒼い宝玉

 宝石の姫は夢を見る。

 ずっと前に失われた四肢でも、夢の中では伸びやかに。


 もう現実には存在しない指先が、愛しい人の頬を撫でる。

 くすくすと、秘めやかな笑い声。


 そこにはない薔薇色の頬。

 よく熟れた果物のような唇。


 宝石の姫は夢を見る。

 自分を眠らせたその人、信頼し愛する恋人の夢。

 もぎ取られた身体はすべて、恋人の手で削られたことなど知らないままに。


 「君と暮らしたい」と言った、その言葉は嘘ではなく。

 「心より愛している」と誓った、その眼差しは嘘ではなかった。

 少なくとも、姫が眠りにつくまでは。


 身分違いの恋、結ばれ得ぬ定め。

 ともに生きるには、姫の両親を欺かねばならない。

 生きながらに手足が固まり、宝石となるというその薬を。

 恋人に渡された姫は、躊躇いもなく呑み込んだ。


 疑いもせず。


 そして恋人はまんまと、突然の病で命を落とした姫の身体を手に入れた。

 2人身を隠した森の小屋で、姫は息を吹き返すはずだった。


 直前で、男の気が変わったのは何故なのか。

 愛したはずの姫の身体を、切り売りすることにしたのはどうしてか。


 答えはもう、誰も知らない。


 宝石の姫は夢を見る。

 既にこの世にはいない恋人の夢を。


 うっとりと、夢の中で微笑みながら。

 彼女に最後まで残された、蒼い瞳だけを輝かせて。

 これが最初の悪夢?

 私が生まれ変わった後のお話?


「そういうことになるね」


 瞳だけになっても生きてるなんて、結局彼女は――どうやって死ぬの?


「今のこれはお試し版みたいなものさ。知りたければ、宝石の姫としての生を全うすることだね」


 知りたいか、と言われると……そうね。こうして恋人の裏切りも知らずに、まどろんでいられるのは、何だか幸せそうな気もするの……。

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