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8 スイッチング

 手の届かないヒトだなんて、最初から分かってたの。

 あなた、私のことなんか知りもしないでしょう。


 高嶺の花? 学園のアイドル? 期待の星?

 いいえ、いいえ。

 本当は、あなたが寂しいヒトだって、私だけが知っているの。


 艷やかな黒髪を下ろした時の香りも。

 細いうなじの日に焼けていない色も。


 廊下に貼り出された成績表。

 トップを飾るのはあなたの名前。


 グラウンドの400m走。

 誰よりも前をあなたが走る。


 あなたは周り中から祝福されて、いつものように笑顔で応える。

 あなたから全員の視線が外れたその一瞬に、は、と息を吐き絞るまで。


 吐き出された息の甘さ。

 頬に当てられた指先の薄いピンク色のツメ。


 あなたの言葉、クラス中が聞いているわ。

 あなたの挙動、学園中が見ているの。


 私はあなたの後ろの席、教科書の影から。

 一瞬だけ窓辺の空を見上げたあなたを見てる。

 光当たる道を真っ直ぐに進むあなたを。

 時折道端に視線を移しながら、それでも前を向くあなたを。


 手の届かないヒトだと思ってたの、本当よ。

 私、ただあなたのことを見てただけなの。

 きれい、きれい。

 何てきれいで……可哀想なヒト。


 成り代わりたいなんて、思っていなかったの。

 ただ、辛そうなあなたを見ていられなかっただけよ。


 成り代わりたいなんて、成り代わりたいなんて。

 あなたに、成りたいなんて。


 廊下に貼り出された成績表。

 2番目に書かれた私の名前。


 グラウンドの400m走。

 あなたの背中まであと1歩なのに。


 手の届かないヒトだと思ってたの、本当よ。

 あなたに成りたいなんて、思っていなかったの。

 成り代わりたいなんて。


 きっと。

 窓から流れ星が降りてきた、この瞬間まで。


 ――ねえ、お星さま。

 私の願いを叶えてくれるのなら。

 お願いよ、私と彼女を入れ替えて。

 もっと知りたいの、あのヒトのこと。


 シャンプーは何を使っているの?

 夜はどんな姿で眠るの?

 自分で自分を慰めたりするの?

 いつか誰かの腕の中で、あなたはどんな姿で乱れるの――?


 ねえ、お星さま。

 どうか、どうか。お願いよ。

 あのヒトの全てを、私にちょうだい――

 ねえ、お星さま。

 私、このヒトのこと、知ってるの。


「知ってるだろうね」


 廊下に貼り出された成績表。

 いつだって、トップを飾るのは私の名前だわ。


「そうだろうね」


 つまり、こういうこと?

 お星さまは彼女と私を入れ替える為に来たの?


「そういうことだね」


 じゃあ、あれね。

 ついに準備が整ったから――満を持して、私を入れ替えようってことね?


「……そういうことだね」

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