7 孤独な歌姫
夜の舞台踏んで歌う。わたしは孤独な歌姫。
舞台の端、弦をつま弾くあなたの指先を見てる。
胸を揺らす切ない高音も。
背中を走る甘い低音も。
あなたの指先に合わせて、鳴いている。
ねえ、ちらりとで良いの。
わたしを見て。
あなたの瞳とらえて、息を漏らす。わたしは恋に堕ちた歌姫。
舞台の端、弦をつま弾き続けるあなたを見てる。
与えられたどんな名声も。
囁かれるどんな醜聞も。
あなたの無言のため息に、勝てないの。
ねえ、ちらりとで良いの。
顔をあげて。
同じ舞台に立っていても、まるで聞こえていないみたい。
あなた、一度もわたしを見ないわ。
同じ曲を歌っていても、まるでわたしここにいないみたい。
あなた、一度もわたしを見ないわ。
ねえ、ちらりとで良いの。
わたしの、歌を。
――反転――
夜の舞台踏んで歌う、彼女は孤独な歌姫。
舞台の端、弦をつま弾く私の指先を見てる。
私には全て同じ音に聞こえる。
「聞いて」と繰り返す懇願の歌姫。
私は聞こえないふりをするしかない。
要求を投げかける寂しがりやの歌姫。
君の歌、君の声。
私の一言を求めて彷徨う。
私は求められていることを知りながら、答えずに目を逸らす。
名声も醜聞も、君の耳に届かない。
私の息だけで、君は身を捩る。
答えない間だけ、永遠は続くから。
私のつま弾く弦に、君の声が重なる。
交わり合う音の、この瞬間だけが永遠。
……性格悪い。
「どっちが?」
どっちって……。
「まあ、どっちも君だけどね」