opening 悪夢のはじまり
1日、平均65回。
死にたい、と思う。
朝起きる。眼が覚めてしまったことに絶望する。死にたい。
朝のコーヒータイム。動きたくない、だけどカフェインなんて軽い毒じゃ死ねない。
シャワーを浴びる。このままお湯に溶けて消えたい。
着替えて玄関の扉を出る。太陽が眩しい。死にたい。
この調子で毎日。
朝から晩まで、平均65回。
誰か、誰か。
この世から私を消してください。
ある夜、私の願いを叶えに、窓から流れ星が降りてきた。
「そんなにも死にたい? 本当に?」
死にたいなら勝手に死ねば良いじゃない、なんて。
お星さまにあるまじき口の悪さ。
死ねるモノなら、とっくの昔にそうしてるの。
でも現代日本では、人が1人消えるって結構大変なの。
誰かに見えるところで、老衰以外で死ねば簡単に怪談になっちゃうし。
誰にも見付からないとこを探せば、女子高生が行方不明なんて警察が出動する。
「そんなの、ただの言い訳だと思うよ。要するに怖いんでしょう?」
そう言うあなたこそ、私の願いを叶えにきたんじゃないの?
なのに全然聞いてくれないじゃない。
要するに、面倒くさいんでしょ?
「そ、そういうことじゃ、ない……よ?」
ああ、なんて人間臭いお星さま!
こんな時代だから、お星さまの世界もお役所仕事なの。
「……何か本格的に面倒になってきたよ、君の存在」
あら、これはこれは。
なら、お星さま。私の願いを叶えてちょうだい。
面倒な存在なんて、この世にいない方が良いのよ。
「まあ……僕自身は、その方が世界のためにはいいかもと思うくらいだけど。物事には手続きというモノがあってね」
手続き。
流れ星に願いをかけるって、そんなに大変なこと?
「昨今は何でも、マニュアルから外れるとうるさいんだよ。良いかい? 君の願いを叶えるには1つ条件がある」
条件に、手続き。
本当にお役所仕事なお星さま。
良いわ、何をすれば良いの?
言ってみて。
「人の魂はリサイクル対象なんだ。死後、君は生まれ直して、また一生を送ることになる。条件っていうのは、君の願いを叶えたとき、つまり君が望み通り死を迎えた後に、何に生まれ変わるのかを確認すること。死ぬ前に先に見せてあげるから、それを見てもまだ、それで良い、と言えるのなら」
つまり、転生後の自分の姿を見ろ、ってことかしら。
「簡単に言えばそういうことだね」
良いわ、そのくらい。
一足先に死んだつもりになれば良いのよね?
「OK。じゃあ早速始めよう。目を閉じて」
素敵ね。
次に目を開けたときが私の最期という訳?
「……目を覚ました君が、それを望めば、ね」
望むに決まってる。
もう何もかもうんざりだから。
「うん その話は戻ってきたときに改めて聞くよ。さあ、おやすみ……」
目を閉じた私の額に、お星さまの手が乗っかる。
冷たくも温かくもない、変な感触。
ああ、早く早く。
早く――私を、殺して。