海自課からの要請
「あのケーキ美味しかったねーミドリ!」
「でしょー⁉︎」
ユニス少尉と山岡3曹が笑い合いながら帰ってくる。
「おっ?どうした?何か貰ってきたのか?」
「えぇ、私の好きなコンビニケーキをご馳走になりましたよ」
「ナカイ課長!あのケーキすっごく美味しかったんです!」
「そうか、月夜野海幕長にお礼しとかなきゃ」
中井は再びパソコンに向かい、作業を始める。
「日本のコンビニケーキは美味いからねぇ」
「あー、ユニス少尉いいなぁ。私も貰いに行こうかな?」
「駄目よエイミー、ズウズウしい。自分の給料で買いなさい!」
ユニス少尉は羨ましがるエイミー曹長を適当にあしらい、中井のデスクの前に立つ。
「海自課からの要請です、米海軍MH-60Rと米陸軍UH-60Mだそうです」
「了解、パイロットに"ナイトストーカーズ"でも頼むか?」
「随分豪勢なスタッフですねぇ」
"ナイトストーカーズ"
正式名称は"アメリカ陸軍第160特殊作戦航空連隊"、米陸軍のヘリコプター専門の特殊部隊である。
この部隊が参加した有名な作戦の1つに"1993年、ソマリア・モガディシオの戦闘"がある。
"希望の修復"と名付けられたこの作戦は、ソマリア内戦の原因になっていた"アイディード将軍"の側近を捕まえる為の作戦であった。
しかし作戦の最中にコールサイン"スーパー61"のテイルローターにRPG-7Vロケットランチャーが命中し、ナイトストーカーズのヘリコプターMH-60Lが墜落、続けてコールサイン"スーパー64も被弾して墜落。
米陸軍第75レンジャー連隊と第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊"デルタフォース"の99名は孤立、救出に向かった国連軍もふくめると19名の死者と70名以上の負傷者を出した。
この作戦を元に映画化された"ブラックホーク・ダウン"はミリタリーマニアの間では有名である。
それから記憶に新しい、アルカイダのトップであったビン・ラディン暗殺作戦、"海神の槍"作戦にも、ナイトストーカーズは参加した。
この際はMH-60だが、ステルス性を持たせた新型ブラックホークを使用したとの情報がある。
とりあえず、と。中井は意識を向け直す。
「MH-60Rはユニス少尉に任せる、エイミー曹長!UH-60M頼めるか?」
「大丈夫です!お任せを!」
「山岡3曹は海自課との調整役を頼みたい」
「はいっ!了解しましたっ!」
各々が仕事に手をつけ始める中、中井は米軍の最新装備を陸自に入れられないか鳴海1曹と議論し始めた。
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「資料上がりました」
「こっちもです!」
米軍人2人が資料を提出しに来る。
「どれどれ……うん。いい感じかな」
LAMPSヘリコプター MH-60Rと、米陸軍汎用ヘリコプターUH-60Mの資料をチェックする。
UH-60Mは完全にグラスコックピット化されている最新型なので、資料を丁寧にまとめる必要がある。
しかし、ブラックホークファミリーとして一定の資料は揃っているし、頭にも入っているので厳しくは無い。
そうでなくともブラックホークは中井の好きなヘリコプターだ。
「よし、これでいいな。あとこことここに修正入れて、チェックしたら山岡3曹と月夜野海幕長のところに持ってって」
「ナカイ課長、Admiralツキヨノは急ぎの案件じゃ無いと言っていましたよ?」
「あ、そう?じゃあ返事は急がなくて大丈夫ですって伝えておいてくれるとすごくありがたい」
「Yes sir!」
ユニスは笑顔で敬礼する。
「あ、そうだ。ナカイ課長、この後呑みに行きません?」
「あ、そうですよ。陸自課が立ち上がってからまだ懇親会とかやってませんしね」
エイミー曹長が提案し、山岡3曹がそれに乗る。
「いいけど俺は酒は飲めんし、割り勘だぞ?」
「またまた〜、大の男が下戸ぶっても可愛く無いですよ?」
山岡3曹が揶揄うが、ここで衝撃の発言。
「下戸じゃねぇ、法律的な問題だ。飲酒は20歳からだろ」
「え?」
「へ⁉︎」
「うっそ……⁉︎」
辛うじて声が出たのは山岡3曹、エイミー、ユニスだったが、鳴海1曹は驚き過ぎて口をパクパクしている。
最初に口を開いたのは山岡3曹だった。
「え、で、でも……陸幕長……でしょ?」
「そうだけど?」
中井は数日前、島村統合幕僚長から"陸上幕僚長"を任命されていたのだ。
「ぜ、General……もしかして……」
続いてユニスが復活する。未だ目を白黒……いや、白青させてはいるが。
「ん?未成年だけど?」
「「「ええぇーーーーー‼︎」」」
3人の絶叫が陸自課に響いた。
一方鳴海1曹は、目を白黒させ、口を開けっぱなしで驚愕していた。
……今日も陸自課は平和です。
※フィクションです。
16日 18時に更新します。