いつもの陸自課
パソコンのキーボードを打つ音と、ペンでカリカリと何かを書き込む音が響く。
島村統幕長に、一応広くして貰った陸自課の部屋で、それぞれがそれぞれの仕事をしていた。
「よしっ、出来た」
最初に声を上げたのは中井だ。
「ちょっとこれ見てくんないか?」
メールでURLを一斉送信し、それぞれのパソコンにメールが届く。
「……ワンクリック詐欺じゃ無いですよね?」
疑り深そうな声で中井に問う鳴海1曹。
「大丈夫だからね⁉︎本当に!」
4人が一斉にクリック、中身を開く。
「それね、"ライトミリタリー"のタグ付けようと思ってんだけど、どうかな?」
………………………………………
暫くすると、陸自隊員の2人からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「いや、課長。これ"ライト"じゃ無くて"ヘヴィーミリタリー"です」
「まぁ、確かに"ライトミリタリー"じゃ無いですよね」
順に鳴海1曹、山岡3曹の意見だ。
「そうかな?あたいはこういうのすきだよ?爆発とか戦闘とか凄いの!」
「私もこういうの好きですね、やっぱり母国がこういうのが盛んだからじゃないですかね?」
こちらはエイミー曹長とユニス少尉だ。
やはりハリウッドの本場というか、こういったものは好きらしい。
今読んで貰ったのは中井の小説だ。
見た感じは戦闘シーンが多く、爆発・銃撃・ミサイル増し増し仕様だ。
「う〜、でもやっぱりどうしても日本人をラプターに乗せたい……」
「良いですよねー、ラプター。この間横田に来ましたし……もう嘉手納に行きましたっけ?」
「あ、もう嘉手納ですよ」
ユニス少尉は米空軍所属なので、空軍の動向は掴んでいる。
「まだ未完成だけど、それで"ライトミリタリー"のタグがつけられるか島村統幕長に聞いてくる」
「ち、ちょっと⁉︎」
「それで⁉︎」
「あぁ、うん。ちょっと行ってくる」
パタム……と、データを入れたUSBメモリを持って、中井は統幕長室へ行ってしまった。
「う〜ん……これは中井課長の暴走かなぁ……」
「〆ますか」
「「No⁉︎」」
中井への制裁を、と燃える鳴海1曹と山岡3曹を必死に止めるユニス少尉とエイミー曹長がそこに居たのだった。
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「う〜ん、やっぱり"ライト"と言うよりは"ヘヴィー"だったわ……でも兵器愛は伝わったみたい」
「自分で言いますか」
「い"でででででででで⁉︎」
中井を床に組み伏せながら鳴海1曹は腕の関節を極め、山岡3曹は重心を抑えて起き上がれない様にする。
鳴海1曹は調子に乗るなとばかりにギリギリとさらにきつくする。
ユニスとエイミーは周りでオロオロしており、ユニスは「oh……ニンジャ……」と何やら呟いている。
「え、エイミー……助けて……」
「む、無理ですぅ……」
「は、外れる……」
「そ、そろそろ解いてあげればどうですか……?」
ユニスが見かねて止めると、関節技が解かれ、山岡3曹が上から退く。
「ふぅ〜……いててて……」
中井は極められていた腕を回しながらデスクに着く。
「そうだ、ユニス少尉。月夜野海幕長から頼まれてたブラックホークの資料出来た?」
「ええ、汎用のUH-60M、特殊部隊用のMH-60K、対潜用のMH-60R、海兵隊仕様のMH-60S。何でも準備出来ますよ」
「よし分かった、山岡3曹と一緒に月夜野海幕長のところへ頼む」
「「了解」」
2人は出来立ての資料を抱え、海幕へ向かって行った。
「んで、エイミー。これ陸自に納入出来ないか?」
「どれですか?」
中井はエイミーに紙を見せる。
「EOTech553ホロサイト……ちょっと無理ですね……」
ホロサイトというのは光学照準器の一種だ。
銃の上に搭載し、光点を的に合わせて撃つと命中する、命中精度を上げる為の銃器アクセサリーである。
ダットサイトと違い、戦闘機のHUDと同じ原理で対物レンズに光点が投影される為、レンズが多少傷付いて割れたりしても続けて使用でき、頑丈というメリットがある。
「アメリカ政府の武器輸出規定に引っかかりますよ。商務省か国務省の許可がない限りは持ち出せません」
「そうかぁ〜……」
エイミーの反応を見て肩を落とす中井。
今日も陸自課は平和です。
出てくる兵器や規定は本物ですが、他は全てフィクションです。