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八七月短編集

眠りの精はノルマを達成したい?

作者: 八七月

「おい早く寝やがれってんだ、この童貞変態野郎」


散々な言われようで目を向けた先には12歳前後の勝気な少女の姿。

赤茶色のツインテールで、その赤く燃えるような双眸は侮蔑と蔑みを兼ね備えていた。

対して僕はと言えば名を小無谷蒂楼こむたにへたろうと言い、今年23になるキャリア五年の立派な自宅警備員である。

何、好きでこの職業を選んだわけではない。世間一般の荒波にもまれ、泣く泣くこの職に就いたのだ。

全く就職難とはよくいったものだな。やりたくもない仕事をやらなければならないなんて、世の中腐ってる。



「腐ってるのは、てめえの脳みそじゃっコノヤロー!!」



勝気な少女が放つ顔面パンチに僕は避けられず(というか避けようとも思わず)まともに食らってしまう。

…が痛くない。というか全く感触もないのでご褒美のない僕は戸惑いを隠せずにいた。



「っち。やっぱ物理干渉は不可能ってことかよ。腹立つ!!」



そう彼女は腹立たしそうに地団駄を踏むが、こちらとしてはなんのこっちゃ分かりませんな!?

僕は諸々理解不能に陥ってしまって、取りあえず一日を振り返ってみることにする。

まず昼3時程に起床。それからネットゲームや掲示板を漁り、某笑顔動画に弾幕を打ちつつネット仲間とスカイプ通信。

ここまでやって夜の9時で、ご飯食って再びネトゲとサーフィンを延々と今までやっていたはずだ。

そして声がすると思い振り返れば奴がいる。…なんてけしてホラー的な幽体ではなかったが

兎に角身に覚えが全くない。少女を監禁する趣味もないし(イエスロリータノータッチ)二次元と三次元の境が分からなくなったわけではない…と思う。

そうなったらなったで幸せなんだろうが、そこまでの猛者ではないし。魔法もまだ使えないしね。

だったら一層わからん。なんでこの子は僕の楽園エデンへと足を運ぶことが出来たのだろう。

ここは選ばれし者しか入ることを許されない禁忌の場であるというのに、まっまさか彼女こそがこの楽園エデンのイヴであるとそういうことなのか!?

どうなんだらいでん!



「…死ねや、この皮被り助!」



かっかぶってねぇし!?ちゃんと剥けてるし!?

なんなんだ、なんだよこの糞生意気な餓鬼は!!こういうのは二次元だけでええやろ!リアルだと色々、きついわ!!

ホント何の用だよ、何の用でここに来たんだよ!早く用事済まして帰っちゃいな!?色々僕も忙しいんだよ色々。



「…兎に角お前は今すぐ『寝ろ』、俺が言いたいのはそれだけだ。それ以外スンナこの皮豚めちょろめちょろ野郎」



めちょろめちょろって何!?

なんて思う僕だったが、頭の隅で「はっはーんこいつ睡眠を司る眠りの精とかだったりするのかもね。」と思った。



「…理解が早いようで結構。じゃあさっさと寝な。俺のノルマが掛かってんだからよ」



何故か口に出してもいないのに会話しているこちら不思議わーるど。

だがしかし伊達に同級生に「頭の中がファンタジー少年」って言われ続けていたわけじゃあねぇぜ?

こんなことで驚くような玉じゃねぇよあちきは!

でもそれとこれとはまた別で、今全く眠くないから無理。他を当たれ俺っ子ちゃん



「ちっそれが出来たらそうしてんだよ。今の時間近くに寝てねぇ奴がいないからこうしてお前のとこに出張ってきたんじゃねぇか。口答えとかうぜぇぞ、ふめちょろりふめちょろり」



とうとう擬音だけだ!?

…まあそれは兎も角として、なるほどなるほど。今の時間、僕はモニターの隅にある時刻に視線を合わせるとそこには『3時14分』のデジタル数字が表示されている。

確かにこれでは起きている者も限られてくる。そもそもここは都会ではなく辺鄙な田舎町。

緑の多い以外取り柄すらない辺境の地だから、この時間に起きている人なんていたらそれは奇跡に近いだろうよ。

だがしかし、それでも僕はまだ寝るわけにはいかなかった。まだ、まだ読みたいスレがあんなにも沢山・・・



「そんなものは消してしまえ。」



ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ

彼女の指は完全にパソコンを貫いており、よってパソコンから不快な音が聞こえてくる。

白い煙が出て、完全にご臨終ですよ僕のアルトアーノちゃん(歳は3年と少し)。

ううっこんなのってないよこんなのってないよ…あんまりだぁぁぁ



「…よし、これで邪魔者はいなくなったから存分に寝られるぞ。感謝しろよな、めしゅーちゃめしゅーちゃ野郎!」



月より輝いているようなドヤ顔の彼女。

でも僕は未だに立ち直れず項垂れてばかりいる。あれ高かったんだからね。

幾多の試練ウイルスと天災(強制シャットダウン)に見舞われ、幾多の絆を築き上げたアルトアーノちゃん。。。

お金があればいいってもんじゃない、新品だからいいってもんじゃ、ないんだ。

掛け替えのない人を失ってしまって今日はもう、何もする気が起きな・・・



「おうようやく寝る気になったか。じゃあお休み!糞野郎」



いと思いましたがやっぱり目は覚めたままです。

こうなったら意地でも寝てやらないんだからね!?僕を怒らせたことを後悔してさせてやる(そっと隣に積んでいた本を片手に取る)



「 い い か げ ん に ね ろ よ 」



が ん こ と し て きょ ひ す る !!

もし眠らせたいなら膝枕して、本読んだりお歌を歌ったりしてくれたら考えてやってもいいよ。(寝るとは言っていない)



「…ちっまあそれくらいならしてやっても、ってこれ官能小説じゃねぇか!何読ませようとしてんじゃボケ!」



ばれたか。そっと渡した小説を彼女が通しで呼んでいる内に赤くなっていくのが分かる。

その様はとってもかわいい。思わずよしよしって頭なでなでしちゃうところだった。

あぶないあぶない、危うく彼女にほだされるところであった。気をしっかり持たなくちゃこの先も生き残れんだろう。

俺は生きるぜ、この深夜を向けた先の朝日を俺はこの目で見るんだ!



「…何だか疲れちまったぜ。はあもういい。ノルマ達成しなかったから神様に怒られちゃうけど、もうおうちかえる。」



おうおう、帰れ帰れ。お前みたいな奴こっちから願い下げだ。次に来るときはもっと可愛い妹キャラよこせよな!?

なんて言ったところで彼女の姿は何処からともなくまるで霧のように消え去り、姿形も今はない。

これで静かになったなと改めて積み本を減らそうと読書を開始するが、突如瞼がとろりと落ちてきた。

書かれていた文字が目の前で回り始め、意味不明な文として頭の中でミキサーされる。

これではまずいなと思いつつもやがては両目共々塞がってしまい、心地よい眠りの世界へと



「…もう、寝た?ねぇ寝たのか?うし、これで俺のノルマも達成だぜ。やったぜ!」



誘われなかった。

いつの間にか上半身だけこちらの部屋に侵入してガッツポーズを決めた彼女の姿が見える。

彼は思った。「あっこれ、絶対寝れない奴だ」と








後日結局僕は眠ることなく朝日を迎え、彼女は眠りの精としてのノルマを達成できなかったとして厳しい刑罰が下ったそうだ。

人に睡眠は大事だ。しかしそれを勿体ないと考え、極端に睡眠時間を減らしたり寝ない人も多々いることだろう。

そんな人たちの元へ彼女たちはやってくる。

人々の睡眠を誘う眠りの精は今日も何処かで誰かの眠りを囁いている、かもしれない。

※他の眠りの精も近々登場予定。よろしく

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