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魔法書を作る人  作者: いくさや
ブラン編

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96/238

85 作戦

学園編の最後に番外編を増やしました。

わかりづらい更新になって申し訳ありません。

よろしければご覧ください。

 85


「バジス奪還作戦?」


 おう、と武王は頷いた。

 僕は例のバルコニーで武王に捕まっていた。


 ルインの襲撃から2週間。武王との特訓は続けている。

 なんちゃって武術のおかげで少しは差が縮まったかと期待したりもしたのだけど、僕が身に着ける以上に習熟してしまう武王との差は開く一方で今日の戦績も100戦100敗だった。

 あんだけ強いのにまだ成長するのだから手におえない。

 それでもいつか絶対に勝ってやる。


「えらく大がかりな話になってないか?」

「そりゃあなるだろ。竜族が実質、滅亡寸前なんだ。手を打たねえとジリ貧だ」


 確かに現状では竜の戦力は厳しい。

 ルイン以外は若い竜と飛竜のみ。今までのように魔物の侵略を止められるか疑問だった。

 魔神にどういう意図があってルインにのみ侵略を任せているのかわからない。戦力温存か、人と竜の同士討ちか。いずれにせよ本格的な侵略が始まれば今までの比ではないだろう。

 にしても、そこでバジス奪還って。


「できるの?」

「やるんだよ」

「いや、根性論じゃなくて。やるしかないかもしれないけど、勝算はあるの?」


 ないんだろうなあと不安だったけど、武王はあると断言した。


「始祖がいるだろ」

「そうなりますよねー」


 僕が戦わないという選択はない。

 そうでなくても強力な魔造紙を用意しておくべきだろう。

 だから、そっちは構わない。


「でも、僕1人で大陸ひとつ守るとか不可能でしょう」


 いっそバジスを沈めろというなら今からでも崩壊魔法でひと撫でしてくるけど。

 僕がいないところを襲われても対処できないのだ。何ヶ所も同時に襲撃されたり、いなくなった後を襲われたり、やり方はいくらでもある。

 始祖は6人いたからそれなりに戦線を構築できただろうけど、1人には限界がある。


「だから、2面作戦だな」


 武王は懐から世界地図を出した。

 北西の位置にある峻険な山の多いバジス。

 その西端はアルトリーアに。南端は魔族の大陸、テナートに繋がっている。


「まずは境界線上でルインと俺が戦うふりから、協力して一気に押し込む」


 なるほど、武王とルインのタッグなら魔神でも出ない限りは蹂躙できるだろう。


「で、一方は竜の里を目指す。そこが1番拠点にしやすいからな」


 ふむ。魔神に落とされはしたものの竜の里は数百年以上も魔物の侵攻から耐えた里だ。拠点には最適というのもわかる。


「んで、もう一方が南に向かい、テナートからの増援を断つ」

「いや、そんな簡単に言うなって」

「始祖ならいけるだろ」


 確かにバジスとテナートの繋がる地点は幅が狭い。防衛線を張るならこれも最適と言えると思う。

 とはいえ、狭いと言えど大陸の地峡だ。地図上では数センチでも現実には100キロはある。『流星雨』ならそれでも範囲を埋め尽くせるかもしれないけど、延々と光の雨を降らせているわけにもいかない。

 いや、いっそ切断して地峡を海峡にしてしまうというのもありだろうか?

 うーん。そうなると襲撃が分散して守るのが難しくなるのかな?素人考えではわからない。


「ともかく、難しいって」

「心配するな。里を取り戻したら俺も部下連れて手伝いに行くからよ」


 ブランの最前線を守り続けた武王たちなら戦線維持できるのか?

 いや、次の相手はバジスで竜の妨害を受けてきた魔物と違って、テナートからの直接戦力だ。それに奪い返した(と仮定した)バジスの維持にも兵力がいる。

 魔神が5体でも40年前はスレイアの原書が必要になった。テナートの魔神がそれ以下とは考えられない。それこそ100体でも現れればどうなるのか。或いは3種の魔神が現れればどうなるのか。

 現状の戦力では困難と言わざるを得ない。

 僕が最前線に立つとしてもだ。


「だから、準備に時間が掛かるんだよ」

「準備ってなんの?」

「まず、スレイアに協力要請だな」

「それ、大丈夫?」


 なにせブランの使者には前科がある。信用してもらえるか甚だ不安だった。


「始祖も協力してくれるだろ?」

「まあ、勝算が立つなら」


 呼び出しをかければおじいちゃんとか学長先生とか老兵部隊が喜び勇んで来そうな気がする。

 騎士も軍も協力して……足手まといになるんじゃない?あれから2ヶ月ぐらいで簡単に立て直せているとは思えないなあ。いや、僕の作った100倍合成魔法という切り札はあるけど。

 たぶん、下手に使えばバジスが吹っ飛ぶ。味方ごと。全部。更地も残らない。

 100倍の『流星雨』とか悲惨な結末しか思い浮かばないし。


「あと、原書の収集だ」

「……興味あるね」


 第6始祖の研究に必要になる。既に約束通りブランの原書は6冊全て目を通させてもらっているけど、目覚ましい成果は得られなかった。

 それでも進展もある。

 例の文章はそれぞれ繋がるのではないかという予測が立ったのだ。

 付与魔法の原書でスレイアの物とルインの物が意味のある文になった。原書にわざわざ凝った記載をしたのだ。第6始祖のことかはわからないけど何も意味がないとは思えない。

 まさか原書で交換日記とかしてないでしょ?


「始祖は原書の数は知ってるか?」

「学園で最初に習ったよ。属性魔法で16冊。回復魔法で3冊。付与魔法で5冊。召喚魔法で4冊。法則魔法で5冊。基礎魔法も2冊あるらしいけどそっちは正式に原書とは言わないんだっけ?だから、全部で33冊」


 原書を残せって第1始祖のエレメンタルが呼びかけてこの数字なのだ。エレメンタルの苦労が偲ばれる。


「じゃあ、所在が確定しているのは?」

「スレイアの2冊。ブランの6冊。で、今はルインの2冊ぐらいだね」

「竜王も1冊持ってるぞ。それと魔神に奪われた原書もある。こっちは3冊、確認されてる」


 ぐう。魔神の話が出た瞬間に武王からかなりの殺気が放出された。ほんの僅かな瞬間で霧散するけど、その原書を奪った魔神というのに因縁があるのか。

 軽々しく聞ける雰囲気ではないので話を本題のまま続ける。


「他は?」

「噂程度ならスレイアの貴族が隠し持ってるとかあるな」

「……あー、そうですねー」

「あたりか。誤魔化さんでいい。寄越せとか言わねえよ。必要にならなきゃ」


 『黒刃』と呼ばれる暗殺者からリエナが回収した3冊の原書のことは対外的には秘密になっている。

 結局、誰が隠し持っていたのかは判明しなかったのだ。

 人類を支えるための原書を私欲で秘匿していたなんてあまりに外聞が悪すぎた。


「それ、王様として?」

「いいぞ。正直、今は少しでも戦力が増える方が助かるんだ。それぐらい気にせん」


 武王はそうだけどね。

 まあ、外聞を気にしている場合でもないのは確かだ。


「それでも17冊。やっと半分か」

「噂でよけりゃもうひとつある」


 スレイアの隠匿原書が噂になっていたのだ。

 頭から否定できなかったので続きを促す。


「妖精が原書を集めているって話だ」

「妖精ってソプラウトの妖精?」


 おう、と武王は頷いた。


 先程の地図に目を落とす。

 アルトリーアと海峡で隔たれた豊かな植生の大地。

 妖精の故郷――ソプラウト。


(師匠の故郷)


 正直に言えば妖精が原書を集めているという噂は知っていた。

 クレアが知っていたのだ。あくまで噂で信憑性はないと言っていたけど。

 だから、原書探しを始めて在り処が確定しているブランからあたるのは正しい。

 でも、ソプラウトを後回しにした理由がそれだけかと問われれば違うと言わざるを得ない。


 樹妖精は長命だ。

 師匠は特別長生きだったし、子供もいないと言っていたから肉親に会うということはないと思う。

 だけど、血縁者の子供とかならいるかもしれない。


 僕はその人に師匠の死を伝える勇気が持てなかった。

 どのつらを下げて、僕のために師匠は亡くなりましたと報告すればいいのだ。


 でも、いつまでも避けていい問題でもない。

 師匠の恋人だったシエラさんの杖のこともある。


「……わかった。僕が行く」

「そうしてもらえると助かるがよ、いいのか?あんまりいい顔してねえぞ?」

「そっちこそ、僕がいないで前線守れるの?」

「はん、なめんな。伊達に開国から数百年と前線張ってねえよ。いいぜ。こっちの心配はいらねえから行って来いよ」


 感情は飲み込んで互いに拳をぶつけあう。

 そして、次の行き先が決まった。

次の更新は少し空きます。

とりあえず、ブラン編を終わらせておきたくて。

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