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魔法書を作る人  作者: いくさや
ブラン編
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84 魔神の影

 84


 泣き止んだルインが語るところでは竜王がおかしくなったそうだ。

 元々、老齢と度重なる魔族との戦いで衰弱はしていたらしい。そこで後継としてルインを生んだというのだから余程、追い詰められていたのだろう。

 っていうか竜って本当に雌雄同体なんだ。まあ、生物として色々おかしいし人間とは違う構造をしているのかもしれない。それとも竜王だけは特別なのか?生まれ変わりという方が正解という可能性もありか。


「おかしくってどうおかしいんだ」

「母さん、何も話さなくなって俺たちを襲ってきたんだ」

「いや、それはおかしいってレベルじゃないでしょ」

「ひい!ごめんなさい!」


 つっこみに全力謝罪された。

 僕が話に加わると内容が進まなくなるな。

 武王とヴェルは何やら難しい顔で頷き合っていた。


「始祖は黙ってろ。で、それ以外は?」

「そしたら魔神が来た」

「………どんな魔神だ?」


 武王の雰囲気が変わった。

 ピリピリした空気に僕も息を飲む。


「背中から8本の虫みたいな足が出てる奴で、体中まっ黒の毛皮で、尻尾が蛇だった」


 ぶっちゃけ想像ができない。

 ルインの説明も悪いだろうけど、その魔神自体がかなり異形だ。

 魔神の基本として人体と同じような構造はしているのだろうけど……。

 武王はひとつ首を振って違うかと呟いた。どうも武王には目当ての魔神がいるらしい。なにかしら因縁があるのか。


「そいつが襲ってきたのか?」

「違う。母さんが連れてかれた」


 錯乱した竜王を誘拐?魔神が?殺すのではなくて?

 魔物でも魔王でも魔神でも、魔族は他生物を無差別に殺傷するのが常だ。

 ごくまれに魔物と野生の動物が共存した例もあるらしいけど、それの方が例外。


「俺も皆も戦った。でも、負けた。負けて、殺されて、俺だけが生かされた」

「おいおいおい。まさか……」


 竜は全滅した?

 竜王とルインを残して?

 言葉にしづらい疑問はルインの続く言葉で解決した。


「あ、他の若い兄ちゃんと姉ちゃんは先に逃げたんだ」

「そうか。まあ、よかったな」


 バジスで竜が魔物と戦っているからアルトリーア大陸は被害が減少しているのだ。

 こういう言い方は残酷だけど、人類にとって竜は魔物からの防波堤としての役割を意味している。

 全滅となれば戦況は確実に悪化するだろう。

 とはいえ、竜が魔物側につくのはそれ以上の事態なのだけど。


「それにしてもよく魔神から逃げれたな」

「逃げてない」


 意地でも張っているのかと思ったけど、悔しそうに唇を噛む姿から単純に逃げられなかっただけという意味と悟った。

 でも、これも不可解だ。

 打ち破った相手を殺さない魔神?


「母さんを返してほしかったら人を襲えって言われた」


 絶句した。

 脅迫内容にではない。

 魔神が言葉を話して、竜を利用しようとした事実に驚愕したのだ。

 魔神には知性がある。といっても戦いに関する程度。言っても戦術とかのレベル。本能に基づいた判断ぐらいしかできない。

 そう言われてきた。

 その前提が崩れる発言だった。


「……話がでかくなってきたな」

「考えられる可能性はいくつかありますね」


 ヴェルが顔を押さえながら冷静に、いや、冷静であろうとしながら意見を述べる。


「まず、竜の若君が嘘をついている」

「本当だ!俺は確かに魔神と戦って……負けて、そう言われたんだ!」


 それを頭から信用していては国を任せられない。

 若干、1名例外がいるけど。

 例外の武王が何か言おうとするのをヴェルは後ろから抑えて止めた。


「何かの勘違いという可能性もあります」

「……とりあえず、ルイン」


 僕はバインダーから『流星雨・集束鏡』を取り出した。

 真っ青になって震えだすルインの目を正面から見つめて尋ねる。


「これはお前を丸焼きにしかけた魔法よりもずっと強力な魔法だ。確実に相手を消し飛ばせる。お前が嘘をついていると僕が思ったら……わかるな?」


 あれ、ルインの足元でだけ地震でも起きてる?

 脅し過ぎたかなあ。

 とりあえず、震えているのか頷いているのかわからない具合だけどルインが理解を示した。

 ひとつひとつ確認していこう。


「お前は魔神を見た?」

「は、はい」

「戦って負けた?」

「……はい」

「そして、人を襲うように命令された?」

「………………は、いぃぃ」


 もう失神寸前のルイン。

 魔造紙をバインダーに戻して全員に視線を戻す。


「ルインの嘘ではないと思いますよ」

「……でしょうね」


 恐ろしいものを見たみたいな視線を送ってくるヴェル。

 いや、ルインの証言の信憑性を確かめるために心を鬼にしてだからね?信じて?


 追及されると面倒なので話を続ける。


「勘違いの線は?」

「ねえだろ。ルーと他の竜がまとめてかかって返り討ち。魔神以外に何がいるってんだ。特徴から見ても確実に3体が食い合った魔神だぞ」


 魔神は魔王が喰い合って生まれる。スレイアを襲った腐蝕の魔神は植物とスライムの魔王だったけど、それが3体以上のケースだと同じ魔神でも強さが格段に上がるらしい。

 あの腐蝕もかなりの反則技だと思ったけど、それ以上の能力を持つ魔神がいるのか。

 そして、武王の口ぶりからすれば実際に知っている様子だ。


「そんなのブランで対処できたの?」

「原書持ちが全員参戦して、竜の連中も協力してやっとだった。もし、4体以上が元になった魔神がいたとしたら手におえねえだろうな……始祖ならいけっか?」


 どうなんだろう。

 正直、崩壊魔法で消しきれない相手というのがイメージできないけど。

 100倍の合成魔法を何発か叩き込んでもいけるのではないだろうか?


 ともかく嘘や勘違いの線は薄いと判断する。


「では、本当に魔神が言葉を解して竜を脅したと?」

「……にわかに信じられねえがな。ともかく、俺たちだけで話し合っても始まらねえ。城に戻るぞ。と、その前にルーはどうする」

「その監視はすぐに戻るのでしょうか?」


 いや、僕に聞かれても。

 ヴェルの疑問をそのままルインに視線でパス。


「たぶん、バジスに戻ったら、またつく」


 どうやら魔神によってかなり小さい蜘蛛がルインにはつけられているらしい。さすがに戦闘時などは離れているようだけど、それ以外では常に近くにいたのだとか。

 ヴェルは少し考えてからひとつ頷いた。


「竜の若君にはバジスに戻ってもらいましょう。捕まったのは知られていますが、監視がいなくなっていることに気が付かなかったので、我々に話はしていない。原書を出したところで隙をついて逃げた、という筋書きで」

「回りくどいな。そんなことする必要あんのか?」


 武王らしい意見だ。

 でも、ヴェルにも考えはあるらしい。


「その魔神に関して検証するにも対策するにも時間が必要でしょう。それなら襲撃が竜のみである内がチャンスです。若君にはいましばらく向こうの言うことを聞いてもらい時間を稼いでもらいます。実際に被害が出てもまずいので原書は奪われたことにすれば、火力不足は疑われないでしょう。あと、戦うのは兄さんと1対1。そこは竜のプライドで押し切ってしまいましょう」


 スラスラと説明するヴェル。

 武王はよくわかってないようだけど要するに時間稼ぎだ。

 確かに魔神対策をするには時間がいる。僕としても第6始祖の研究のためにも原書を調べる時間が欲しい。

 研究とか言っている場合ではないかもしれないけど、こちらも師匠の最期の言葉だ。できるだけ大事にしたいのだ。

 ヴェルがルインに指示を出し終えるのを待って声をかける。


「ルイン、原書はどこに持ってるんだ?」

「え、はい。出します。すぐ出します!」


 普通に聞いてるだけだから怯えないでよ。

 というか戦っている時から不思議だったけど、どこに持っているのだろう?人化の前も後も完全に無手なんだけど。


 答え、腹の中。


 しばらく新しくできた湖を眺める。

 我ながら綺麗な景色を生み出したものだ。

 魚もいないただの水の貯水池だけど、そのうち養殖とか試すのもいいのではないだろうか。

 うん。現実逃避だよ。幼女が生物にあるまじき形態でポコペンポコペンする様は直視するものじゃない。


 事が終わって吐き出された原書は溶けていたりはしないものの触りたくなかった。

 ルインに開けさせて目的の文章を確認する。

 うーん。やはりヒントはないか。それでもメモだけはしておこう。


「じゃあ、これで最後だな」


 武王が腰を上げてルインの前に立つ。


「ルー。竜の姿に戻れ」

「武王?」


 口を出すなと目で制された。

 ルインは言われた通り本来の銀竜の姿に戻る。

 武王は手振りで頭を下げさせると容赦なくその鼻先を殴り飛ばした。全力の一撃だ。ルインの頭が大きく揺らいだ。


「ガンズのぶん!テリアのぶん!エイムのぶん!トマスのぶん!ライのぶん!ゴルラスのぶん!ホースのぶん!」


 武王が誰かの名前を宣誓しながら拳を振るう。

 18の名前と拳がルインを打ちのめした。全てが武王の全力だった。殴った武王自身の拳が竜鱗の硬さに傷ついているのに、ひとつとして手を抜いた様子はない。

 打ちひしがれるルインを強い視線で射抜き、武王は声を落とした。


「けじめだ。勘違いすんなよ。これで許されたわけじゃねえ。死んだ奴らの家族や友人たちはお前を許さねえ。だが、これからお前の戦力は必要だ。だから、償いとして死なせた奴の100倍救え。いいな?」


 ルインは最初の襲撃でブラン兵に被害を出している。

 襲撃の規模に反して死者が少なかったのはルインが無意識に手加減したのか、武王の対応が速かったからか。

 それでも確かに死者は出ているのだ。

 王として何もなしにはできないだろう。

 武王は言っていた。

 罰も与えるし、償いもさせる、と。


 武王の判断が適切なのか甘いのか僕にはわからない。

 僕だって少し違えば味方に被害を出していた。


 用事は済んだと兵の元に戻る武王。

 何かを感じ取ったのかルインは言葉なくその背中を見送っていた。

すいません。

コメントでもたびたびご指摘をいただいておりますがクオリティが下がっていると自分でも思います。

そろそろこの更新ペースも限界だと思っていましたので、少しお休みを頂戴してもよろしいでしょうか。

既にラストまでの構想はあるのですが、そこに至るプロットが完全に0なのでちょっと考える時間が必要だと判断した次第です。

このままのペースで書くことも可能だとは思うのですが確実に破綻しそうなので……。

エタるような事態にはしませんので、その点はご安心ください。


約1か月半の無茶進行にお付き合いいただきありがとうございました。

そう遠くないうちに皆さんに納得いただける作品を用意して復帰できれば幸いです。

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