80 再戦
80
用意するもの。
50倍の強化魔法の魔造紙、1枚。
北へまっすぐに伸びる直線の道、1本。
※進路上の家屋には被害が予想されるので事前に避難して頂いております。
※スタッフが安全に気を配っているので一般の方は決して真似しないでください。
ルインは北の空で武王と何か言い合っているようだ。
後ろには20体の飛竜を従えている。
まだ戦端は開かれていない。
多分、僕の所在を問答しているのだと思う。
改めてルインの姿を見る。
あの時のリエナへの言動を思い出すと激情が胃の底から湧きあがるように噴出した。
いっそのこと『流星雨・収束鏡』で狙撃してやろうかと思い浮かんでくる。
だけど、飲み込め。
魔神相手に暴走した時を思い出せ。怒りのままに拳をふるうのは師匠の教えじゃない。
怒りは原動力だ。無駄に発散するな。腹の底に収めて熱く滾らせておけばいい。
まずは武王の依頼を完遂させる。
正直、あれのどこに見どころがあるのかわからないけど、それは武王やブランが判断することだ。
その上できっちり道理を込めて殴り飛ばすんだ。
僕は武王との修行ですでに温まっている体の具合を確かめて、ひとつ頷いた。
強化の赤い光を纏って位置に着く。
距離よし。
風よし
狙いよし。
誰が聞いているわけでもないけどこういうのは勢いだ。
片手を上げて声に出す。
「第8始祖、シズ。いきまーす!」
最初の1歩目でホップ。
続く2歩目でステップ。
そして、3歩目で空に向かってジャンプ!
音は既に遥か後ろ。
残像すら置き去りに。
衝撃波で通り沿いの家屋が倒壊しかけた。
事前に防御の結界を展開してなければ大惨事だったろう。
踏み込んだ辺りは結構なクレーターになってしまったのは仕方ない。
僕は超高速の弾丸となって城壁を飛び越え、大気を切り裂き、狙い通りルインに突撃して抱き着いた。
「きちゃった」
「ごはああああっ!?」
完全に不意打ちがきまって勢いのままルインごと吹っ飛んでいく。
武王もブラン兵も、飛竜の群れも全てその場に置き去りだ。
さすがに着地は決めようもなく2人まとめて地面に落ちて転げまわった。
ブランから10キロは離れただろうか。
すかさずルインから離れる。竜とはいえオスに抱き着く趣味はない。
バインダーから魔造紙を取り出して杖で打った。
「いけ。『紫電峡谷』」
100倍、合成魔法が発動する。
雷の属性魔法と法則魔法の結界に、範囲強化を付与した合成魔法だ。
地平線の彼方まで。
天上の向こうまで。
竜であっても越えられない境界線を築き上げる。
巻き込まないためにブラン内の流通を一時ストップしてもらったほどだ。 ルインであっても迂回することはできない。
まだ地面で倒れたままのルインに声をかける。
軽い感じを意識しておこう。すぐに怒りに飲まれるからな。僕は。
「久しぶり。元気してた?」
「てめええっ!」
身を起こすなり炎のブレスを放ってくるけど50倍強化の装甲を舐めるだけ。熱は伝わってこない。
……軽すぎだったろうか。
激昂するルインに手をかざして呼びかける。
「まあ、待てって」
「ああん!?お前には牙と鱗と、飛竜どもの借りがあんだ!ごちゃごちゃと……」
「借りがあるのはこっちも同じだ」
おっと、いけない。感情が漏れちゃった。
ほら、フランクな感じで行くんだ。
「元気かって聞いただろ。前の怪我は治ったのか?」
見たところ折れた牙も竜鱗も傷ひとつ見当たらない。
殴ったところも完全に癒えているように見える。
とはいえ、竜の生態は詳しく知られていない。外見上は無傷でも中身がボロボロでもわからないのだ。
「竜の回復力を舐めんな。あれぐらいで死にやしねえ」
「それは僥倖」
強がりではない、かな。
言質が取れたのだからそこまで気遣うこともない。
鼻を鳴らしたルインに微笑みかける。
「じゃあ、後から調子悪かったとか文句言えないな?」
ルインの全身が深紅の魔力に包まれた。
おっと、強化の全頁解放だ。以前よりもかなり強い閃光を放っている。これが完全状態の全頁解放だな。
「死ね」
怒りのメーターが振り切ったのか、むしろ静かな声で爪を振り下ろしてくる。
颶風を纏う一撃は苛烈だった。まともに受ければ五体が弾けかねない脅威を秘めている。
僕は同じく片手で受け止めた。
衝撃が全身を駆け抜け、足元の荒野は陥没するけど、僕の強化が破られるほどではない。
全身のばねを駆使して衝撃を逃がすのだ。
この3週間近く散々武王に殴られたんだから受け方ぐらい自然と身につくさ。
驚愕するルインににやりと笑って見せて、そのまま提案した。
「ルイン。僕と賭けをしないか?」
「賭けだあ?」
「負けたら僕を好きにしていい。部下にでもなんでもなってやるよ。その代わり、勝ったらどうしてブランを襲ったのか聞かせてもらう。どうだ?」
ルインが目を細めて僕を睨んでくる。
警戒しているな。不意打ちでここまで連れ出したから仕方ない。
うーん。ちょっと煽るか?
「ビビったならいいけど。ビビりなら仕方ないしな。ビビりと賭けてもつまんないし」
「誰がビビりだ!やってやらあ!」
北側の大陸は脳筋の集まりだね。
竜のプライドというのも面倒なものだ。
プライドがないよりはずっといいけど。
さて、ルインは乗ってくれたけど、炉心に火が入ったからな。気合を入れていくか。
「じゃあ、始めようか?」
「その前に条件を変更だ。負けたら話してやる。だが、こっちも好きにしていい」
対等の条件で、か。
いいね。
確かにそういうのは武王も好きそうだ。
飛龍のことも借りに含めているあたり仲間思いでもあるのかな。
まあ、そこは僕の知ったことではない。
今は賭けの話だ。
「乗った」
受け止めていたルインの手を殴り返す。
衝撃にのけぞった内に間合いを取った。
宣言しよう。
「ルイン。お前の全部を超えてやる」
「上等だ!叩き潰してやんよ!」
ブランでは武王が飛竜たちの相手をしてくれているだろう。
結界で遮断されたのでお互いに援軍は来ない。
1対1の決闘を始めよう。




