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魔法書を作る人  作者: いくさや
ブラン編

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86/238

75 ルイン

 75


「始祖、こっちだ!」


 北の門には既に武王が来ていた。

 武骨な革製の鎧に身を包んだ偉丈夫は兵に囲まれていてもすぐにわかる。

 魔王の牙を研いで作ったという大剣を背負い、腕組みして空を睨んでいた。

 ちょっと、レイア姫までいるんですけど。


「先生!オレも戦うぞ!」

「ダメ。リエナ」

「ん」


 レイア姫はリエナに小脇に持ち上げられて運ばれていった。両手両足をバタバタと動かして抵抗していたけど、やがて無駄と悟ったのか最後はぶらーんとしていた。


 僕は武王に近寄る。


「この結界は始祖か?」

「さっきの炎弾ぐらいならびくともしませんよ。ただ、中からは出れますけど入れなくなるから注意してください」

「おう。助かる」


 戦場で冗長に話している時間なんてない。

 すぐに作戦が伝達された。


 兵たちは飛竜の対応。

 飛竜は竜の眷属だ。魔物とは違うけど、上位種族の竜にしか従わない。竜が人類を敵視すれば容赦なく襲い掛かってくる。

 竜ほどではなくても自由に空を舞う飛竜はそれだけで脅威だ。

 飛竜が数匹も集まれば魔王さえも倒しかねない。

 歴戦のブラン兵と言えど苦戦は免れまい。


 そうしてブラン兵が耐えている間に僕と武王が銀竜ルインを捕縛なり無力化なりする。

 鷲の魔王の時のように遠くへ吹っ飛ばして戦場を移せれば理想的だ。

 僕の魔法で巻き添えを出したくない。

 いくら僕の結界でも僕自身の魔法に何度も耐えられるものではないのだから。


 リエナは遊撃戦力として残す。

 僕の100倍属性魔法の魔造紙を渡してあるので、いざという場合はルインを撃破する役目だ。

 武王には悪いけど、これは全員で話し合って決めた。

 僕は死にたくなんてないし、武王にだって死なれたら困る。

 ルインを慮るばかりに僕らが死んでしまっては意味がない。

 雷の属性魔法だけど100倍ともなれば集束電子砲のようなものだ。竜と言えどもただでは済まないだろう。


 そして、僕たちは結界から出陣した。


 すぐさま空から10匹の飛竜が襲い掛かってくる。

 中空から吐き出される炎をブラン兵は結界の防御で遮った。

 残りの数匹が横合いから低空飛行で突撃をかけて防御を破ろうとするのを大盾を持った一団が正面から迎え討つ。

 壮絶な激突で盾ごと吹き飛ばされながらも飛竜も2匹が地面に落下。

 即座に斧や槍を持った屈強なブラン兵が襲い掛かった。

 竜の硬い外皮を破るのは容易ではないけど、着実にダメージを与えている。

 救援に滑空してくる飛竜を結界が阻み、その結界を急降下してきた別の飛竜が破る。


 戦局は目まぐるしく移っていく。

 前回は不意打ちのまま敗走したけど、今回は竜との戦いを想定して準備しているだけあって一方的に蹂躙されていない。

 とはいえ、それはルインが様子見している間の話だ。


 強烈な咆哮が上空から降り注いだ。

 銀の竜が不愉快そうに僕を睥睨してくる。


(結界を張ったのが僕だって見抜かれている?)


 いや、さすがにあの距離から僕を目視するのは不可能だろう。

 となれば獣の本能で僕を強敵と嗅ぎ取ったか。


 圧巻の迫力だった。

 上空で距離もあるので正確ではないだろうけど、広げた翼は10メートルを超えるのではないか。頭から尻尾まで計れば7・8メートルほど。

 大きさだけなら甲殻竜の方が大きいかもしれない。

 だけど、牙や爪。王者の眼光。白銀の竜鱗。纏う気迫。

 どれもが別格。


 生憎、竜の表情を読み取るような特殊技能は持っていないので武王が感じたという違和感のようなものはわからなかった。


「武王、今日こそ引導をくれてやる!」

「ガキが調子にのんじゃねえぞ!」


 あ、僕じゃなくて隣の武王を見てたのね。

 無視とはいい度胸だ。というか好都合だ。

 睨み合う両者を傍らに僕はバインダーから魔造紙を抜き出した。


「いけ。『力・烈砲』」


 50倍バージョン。

 赤い光の洪水がルインを飲み込んで雲の付近まで撃ち上がった。

 さすがに致命傷とはならないだろうけど有効打にはなったのではないか。足場のない空のことだ。最低でもずっと遠くに吹き飛ばされたはず。


「……あれ?」

「んだ、てめえ!」


 怒りの眼光が今度こそ僕を捕えた。

 直撃したはずのルインが先程より少し降りた位置で羽ばたいている。

 有効どころか傷ひとつない。


「なんだ、今の妙な魔法は!?」

「妙なのはお前だ!」


 魔法で驚かされる側に回ったのは久しぶりじゃないか?

 今のは完全無効化?いや、効果自体は確かにあった。打ち消されたりはしていない。

 なら、竜鱗に阻まれたのか?それとも原書?


「こいつは始祖だ!今日こそは本心吐いてもらうぞ、ガキ!」


 ちょ、ノリでばらさないでよ!

 あ、ルインの注意をこっちに集めるためなのかな?

 ルインは胡散臭そうに鼻を鳴らすと大きく息を吸い込み始める。


 そして天高く声を轟かせた。


 ただ、それだけ。

 声を合図に原書の攻撃もなにもない。

 感情表現にしては派手だな。


「おい。始祖、やるぞ」

「少しでもここから離れながらですよ」

「おう。あいつらも飛竜相手じゃ10匹が限度だ。あのガキが突っ込んで来たらまずい」


 確認しながらも20倍強化魔法を纏う。

 武王は背中の大剣を抜いた。腰の原書どころか自前のバインダーも用意しない。

 本当なら今日の午後からでも軽い手合わせをしながら呼吸を合わせるつもりだったけど、こうなれば実戦で即興するしかない。

 幸い経験豊富な武王なら僕に合わせてくれるだろう。合わせてくれるかな?合わせてよね?


 さあ、開戦だと踏み込もうとして上空を影が差した。


 既に飛竜が上空を飛来しているので不思議なことはない。

 でも、その影は多すぎた。


 なにせ20匹もの飛竜が追加で雲の上から下りてきたのだから。


「おいおいおい」

「始祖とかわけわかんねえが、武王は嘘はいわねえからな。最初から本気で掛かるぜ」


 注意を引きすぎだ。あと武王発言の信用度が異常に高い。


「武王さん?」

「わり。ミスった」


 軽い口調ながらも表情に余裕はない。

 10匹の飛竜相手にブラン兵は互角を維持していた。その倍の数が増援に来たのだから一蹴されるのは見えている。


 迷っている時間はない。

 ルインの一声で増援はブラン兵に襲い掛かるだろう。


「武王。あっちは任せても?」

「こっちは任せろってか?できるのか?」

「やるしかないでしょ」


 僕があちらに回ってもブラン兵とうまく連携は取れない。

 下手をすれば巻き込む危険性さえある。

 その点、武王なら兵をまとめて飛竜に対抗できる。


「任せた」

「任されました」


 決断は早かった。

 武王は僕の背中を乱暴に叩いて背を向けると部下の元へと駈け出す。

 させじとルインが降下しようとした鼻先に僕も跳び上がった。


「行かせるか」

「邪魔だあっ!」


 噛み砕こうと大口を開けたところに拳を叩き込んだ。


「があっ!?」


 牙の1本が砕け散って、ルインが大きくのけぞる。

 殴った反動を利用して鼻先に蹴りも入れると大きく傾いた。

 それでも足場のない攻撃では致命打にはならない。ルインは数度の羽ばたきで体勢を整えると落下中だった僕を尻尾で叩き落としてくる。

 回避もできずに直撃した。武王のような理不尽打撃ではないので衝撃は届かないけど地面にめり込みかける。


 埋もれた足を引き抜いて空を見上げればルインがひと鳴きで飛竜に襲撃を命じていた。

 そして、自身は僕に憎悪の目を向けてくる。


「俺様の牙を砕いた償い、万死でも足りねえぞ!」

「歯磨き足りないんだよ。いっそ総入れ歯にしてあげようか?」


 戦場は定まった。

 僕は銀竜ルインとの戦いに集中する。

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