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魔法書を作る人  作者: いくさや
王宮編
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69 謁見

 69


 翌日、僕は学長先生と2人で王宮(仮)に向かった。

 テュール王子とレイア姫の案内という形だけど、実際は僕らも今回の謁見に立ち会って欲しいという要請があったのでついでだ。

 テュール王子は僕をニコニコと見て来るし、レイア姫は兄の背中に隠れながらも僕のことをチラチラ見てくる。


 一国の姫君を公衆の面前で尻叩き。

 始祖の肩書がなかったら問答無用で打ち首だ。

 というか覚悟を持って始祖を名乗ったのに被る苦労よりも助けられていることの方が多いような気がして微妙な気持ちになる。

 なんにしても始祖とか以前に女の子の臀部を衆目に曝した段階で僕が悪い。


 さすがに土下座はやりすぎだったのか、逆に恐縮させてしまって許してもらえたのだけど許させたような印象が拭えない。

 改めて謝罪するべきなのかもと思うけど、忘れようとしている所を蒸し返すのもよろしくないかと葛藤している。

 しっかりした人間になろうと思って頑張っているけど、僕は人を観察する力が足りないのだろうか?

 溜息をもらすなんて情けない姿は見られないよう、内心でその分落ち込んでいた。


 そんなことを悩んでいる内に王宮(仮)屋敷に着いた。

 ここから2人とは別行動だ。

 あちらも謁見前の準備があるし、僕たちはそれを待ち受ける側に回る必要がある。


 ブランの護衛に囲まれて用意された部屋に向かう2人を見送った。なにやら護衛たちは荷馬車を連れている。随分と重そうだけど何を載せているのだろう?

 和平ならお詫びの品というところだけど、宣戦布告なら脱出のための兵力とか?

 いや、そんなもの王宮に入れてもらえるわけがない。武器とかも同じだ。


 疑問に思いながらも僕と学長先生も謁見の間(大きめの広間)に移動する。


「どう思いますか?」

「敵対の意思はないように見えるが、あまりに奇抜で読めんな」

「同感です」


 テュール王子も普通なら始祖にあんな態度を取れば粛清されかねないのに、あまりに独特な雰囲気に押されて気にならなくなるというか。

 天然だとは思うけど、狙ってやってるなら恐ろしいスキルだ。


(あー、でも、ちょっとわかってきたな。あの2人は直球勝負なんだ)


 回りくどい言い方もせずまっすぐに。

 全霊でぶつかってくるというか。

 あれこれと考えるの馬鹿らしくなってしまう。


 そうなると、そんな2人の親の武王がよくわからない。

 原書を借りパクして、弱みに付け込んで追加要求とかするのだろうか?

 欲しいなら率直に貸してくれ、とか言ってきそうだ。或いは原書をかけて勝負だ!とか。

 やはりイメージと合わない。


 全ては謁見でテュール王子の発言次第か。

 一応、バインダーだけは確認しておこう。

 謁見の間は近衛以外、武器の持ち込みが禁止だけど、僕だけは杖もバインダーも取り上げられない。というか崩壊魔法が凶悪すぎるので禁止しても意味がない。

 20倍の強化魔法を先頭ページに移動させておく。これで最悪、杖がなくてもバインダーの中から発動可能だ。


 本来、僕は王様よりも後に入室するのが正しい序列だけど、仰々しいのは嫌なので部屋の隅の方に先に待機させてもらった。

 今回はあくまでブランの出方を見るための参加だ。見学に徹しよう。


 そうしている内にスレイアの家臣団が配置につき、質実剛健という言葉をイメージしたような礼装に着替えたテュール王子とレイア姫が入室した。

 って、レイア姫もドレスとか着ればいいのになんで護衛の人の服着てるのよ。

 ジロジロ観察する物でもないのでスルーしよう。この兄弟に常識を当てはめる方が間違ってるんだ。

 ブラン一行も玉座(立派な椅子)の前に跪いて、最後に王様の登場だ。

 目が合ったので軽く目礼。王様は深々と頭を下げてきた。あー、町の人に崇められるのも疲れるけど、貴族以上の人に恐れられるのも同じぐらい疲れる。

 王様も今日の相手は僕ではないとわかっているので、早々に玉座についてテュール王子に頭を上げるよう告げた。

 謁見が始まる。


「わたくしはブラン国第2王子、テュール・ブラン・ガルズと申します。スレイア王、この度はわたくしの貴国魔法学園への留学と謁見の機会を頂きありがたく存じ上げます。」


 うわ。テュール王子がまともに話している。TPOは弁えるのか。

 初対面の印象が強すぎて違和感があるけど、王族としてはこちらが正常だ。普段からああしていれば普通にイケメンなのに。美形の無駄遣いだよ。

 まあ、ブランが脳筋だけではないようなのでほっとした。

 諸肌脱いで拳で語り合いになったらどうしようかと、わりかし真剣に考えていたのだ。

 互いの挨拶が終わり、話が先日の話に移っていく。


「原書を要求したのは武王の本意ではないと?」

「はい。確かに40年前、我が王は貴国に原書を借り受けたい旨、使者に託しましたが、帰還した使者より『譲渡された』と伝わっております」


 さあて、雲行きが怪しくなってきたぞ。

 家臣団も騒ぎこそしないまでも剣呑な雰囲気になっている。

 王様も目つきを鋭くテュールを見下ろした。


「つまり、返すつもりはない、と?」

「いえ、お返しいたします」


 返すんだ!?

 いや、返してくれるならそれが1番いいんだけどさ!拍子抜けというか肩透かしというか。


 テュール王子は背後の部下に指示して木箱を取り出し、それを近衛隊長(元副長さん)が受け取り、中身を確認してから王様に見せる。


「……確かに、余が幼き頃に見た原書であるな。始祖様、ご確認いただけますか?」


 え?僕?原書かどうかなんて使って魔造紙が消費しないかどうか確認しないとわからないんだけどなあ。

 とはいえ、指名されたので受け取って眺める。

 うん。以前見た原書と似た雰囲気だ。これが師匠の恩人、初代学長が使っていた原書か。

 これがあれば、と考え始める思考を止めた。過ぎたことは戻らない。


「恐らく、原書でしょう」


 さりげなく表紙の裏を確認。

 やはり文章が入っている。でも、第6始祖に関することじゃなさそうだ。

 原書を王様に返してそっと元の位置に戻った。


「確かに受け取った。つまり、貴国は原書に関する齟齬があったというのだな?」

「いえ、齟齬ではありません。我が国の不義でございます」


 認めるのかい。

 本当に真っ直ぐすぎて裏を読もうとすると外されてしまうな。


「先だって我が王の使者が貴国に訪れた件ですが、我が王は使者を送ってはおりません。ガルズ王家とは別の王族一派が独断で送り出したものです」


 おっと、前提から崩れてきたぞ。

 40年前の原書は本当に借りたかっただけ?

 先日のも別の王族が独断専行で原書を手に入れようとしただけ?

 あー、確かにあの使者『我が主』とは言ってたけど、『武王』とは言ってないなあ。

 当然、頭からその言葉を信じるわけにはいかない、のだけどなあ。テュール王子の人柄を見ると考え過ぎるほど自滅しそうなんだよな。


「先日、その使者を名乗った男が首都近郊に不時着しました」


 あ、僕のドライブシュートのことね。


「見たところただの法則魔法の結界でありながら誰にも解除することは叶わず、衆目に長く曝されたことで我らも初めて事態を把握した次第。家臣の企みに気づかなかったこと、面目次第もありません」


 そこから武王の調査が始まったという。聞く限りそれは調査ではなく尋問なのではないかと思ったけど、ブランではそういうものなのだろう。

 調査の結果、出てきたのがその王族。


「ニルヒム家は長く武王を排出できぬ弱卒の一族故に我が国では文官を務めることが多い一族でした。御存じの通り我が国は武に生きる者の国。政は少数の文官に任せておりましたが、その者らの一部がこのようなたくらみを起こした次第。武王の本意ではありません」


 信じていいのか。いや、信じられない。

 それがこちら側の統一意見だろう。

 テュール王子もわかっているのか、言葉を続けた。


「証を示させていただきたい」

「証?」

「この場に持ち込むには不適切ゆえ、どなたか確認いただきたい」


 顔を見合わせた結果、ガンドールの新当主アレルが進み出た。

 アレルと数人の近衛兵がブランの案内で連れて行かれ、しばらくして真っ青な顔で戻ってくる。

 今にも吐きそうな顔色のアレルが王の前に跪いて報告した。


「30名以上の、首の、塩漬けが」

「ニルヒム家、全員の首でございます」


 苛烈。

 果たしてそれが本当にニルヒム家のものなのか、この場にいる誰にも判断ができない。

 だけど、国交のためにそれだけのことをするのだというブランの本気は見える。

 加えて、テュール王子は王様の前に両手両膝をついた。


「不足ならばわたくしの首をどうぞ刎ねていただいて結構」

「……その意味の『留学』か」

「それでもまだ足りぬならば我が父も王位を退いた後、首を進呈すると申しております」

「武王がそう言ったのか?」

「非は我が国にあります。その責を負うのが王族の役目だと」


 好きにしていい人質に第2王子。

 役目を終えれば自らの命は要らぬという武王。


「率直に申し上げ、我が国は国土こそ広大であるものの日々の魔物との戦いで開発は進まぬまま困窮しております。また、魔物の侵攻はこの数年で激しさを増しており、貴国からの援助なくしては民も生きてゆけません」


 え、そんな状況なの?

 もっと活気のある国をイメージしてたんだけどな。

 じゃあ、あの偽使者の言っていたことははったりなのか。

 まあ、今日の礼服も普段着も華美な装飾とか全然ないし、裕福という様子ではなかったけど。


「我が国ができることならばなんなりとお申し付けいただきたい。ですが、どうか、再び同盟国としてご協力けるようご一考いただけませぬか」


 伏して願うテュール王子。


 少しだけ覚悟を試させてもらおうか。

 僕はバインダーの上から白木の杖を当てて強化魔法を発動させた。


「テュール王子。命を懸けるといったのは本当ですか?」

「無論」


 僕と目を合わせて断言するテュール王子。


「では、その原書がなかったために命を落とした我が師の償いをしてもらいましょう」


 細心の注意を払って静かに踏み込んだ。

 それでも豪風が室内を吹き荒れる。

 テュール王子には僕が瞬間移動したように見えただろうか。

 1秒以下の瞬間で王子の目の前に立った僕は白木の杖を振り下ろした。


 テュール王子の眼前を貫いた杖の先端が床を穿つ。

 超高速の一閃で床には絨毯ごと綺麗な穴ができている。罅割れもない綺麗な貫通痕だ。

 それが鼻先を掠めたというのにテュール王子は僕の目を見続けたまま。


「……揺らがない、か」

「この場に立った時から命は捨てております。わたくしの命ひとつでブランが許されるなら喜んで捧げましょう」


 はあ、かっこいいなあ。

 本当に普段からそうしてろよ。

 少なくともテュール王子には覚悟あり、だ。

 僕の魔法を目の前で体感して恐れないのだから間違いない。

 テュール王子が少しでも怖気づくなら僕は2打目を放つつもりだった。師匠の死に全く関係なかったとは言えないのだから。

 まあ、武王は知らないけどね。

 とりあえず、テュール王子の本気は疑えない。


「この場は預けましょう」

「ありがとうございます」


 始祖の行動に凍り付いていたスレイア一同が事態に追いつく。

 とはいえ、僕とテュール王子のやり取りは終わっていたので、今さら何か言ったところで遅い。

 精々、今のテュール王子の態度も参考にしてください。


 王様も家臣たちも結論は即断できないので、協議や独自調査の後に返答となった。

 スレイア国としてもブランに倒れられれば魔物の襲撃を受けることになるのだから、落としどころを模索するという方が正しいのかな。

 それにこちらもガインという不備がある。ニルヒム家をガインが唆したという線だってあるのだから、スレイア側にも一切の不義がないとは言えないのだ。


 僕個人としても師匠の恩人の物だった原書が返ってきた段階で奪い返さなければという気持ちが霧散してしまった。

 或いはテュール王子とレイア姫と話してしまった段階で復讐の矛先にならなくなってしまったのかもしれない。


 結局、謁見はこれで終わり、返答は後日改めてとなり僕らは王宮(仮)を辞した。

 疲れたー、慰めてくださいーとテュール王子が帰り際に抱き着こうとしてきたので関節を極めてやった。

 さっきまでの真面目な顔はどうした。

 ていうか痛がりながらも嬉しそうにするな。

 罰がご褒美になるって変態強すぎだよ!



 そして、国交再開が決まったのは1か月後のことだった。

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