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魔法書を作る人  作者: いくさや
王宮編

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68 対決

 68


 決闘、というと問題が大きくなりそうなので手合せという形になった。

 もちろん武器も僕は杖で、あちらは木刀だ。

 魔法もなし。というか魔法を使ったら蹂躙劇になってしまう。

 勝負は相手が降参するか、武器を落とすまで。

 立ち合いは学長先生。


 場所は訓練場。

 急遽決まった対決なのにすぐにギャラリーができてしまった。皆して僕の動向を気にしすぎだよ。

 師匠のおかげで下手な魔法士よりは強いけど、それでも上には上がいくらでもいるんだから。


「始祖、様だからって手加減しないぞ、ません」

「僕はしてあげるから安心して全力で来ていいよ」


 いや、別にヒートアップさせたいわけじゃなくて年齢差を考えたらね。

 10歳ぐらいの小さな子をボコボコにして悪評が増えたらたまらない。『児童虐待』なんてふたつ名ができたら嫌だよ。


「両者、よろしいか?」

「おう!」

「いつでも」

「では……始め!」


 学長先生の合図と同時に王子が走り込んできた。

 かなり早い。予想よりもずっと。

 地を這うような低い体勢を維持しながら真っ直ぐに突っ込んでくる。


 双剣の使い方にはいくつかある。

 一方を武器として一方を盾とするか、両方を武器として攻めるか。

 この王子の戦法は後者だろう。守りとか考えているようには見えない。


 その時の強みは手数の多さによる火力だ。

 機先を制して圧倒しようとしてくるだろう。出だしを潰してしまうのが手っ取り早いけど、ここはおじいちゃんの方式を採用してみよう。

 左から掬い上げる一撃を一歩下がって躱す。右からの横薙ぎも退避。突きを肘側に回って避ける。突きから変化した薙ぎと同時に蹴りが来たのでやはり回避。

 王子の攻めは多彩だった。順手・逆手に目まぐるしく持ち替えながら上・中・下段を使い分けつつ、時折体術まで混ぜてくる。

 10歳でもこの国の平均的な魔法士を上回るだろう。前回の使者よりよほど強い。

 ブランの強兵というのはスレイアの思い込みではないようだ。


 まあ、何度も言ってくどいだろうけど、師匠と比べれば全然だけどね。


 守りに徹していれば余裕がある。

 最初から打ち合っていたら厳しかったかもしれないね。


 王子はかなり頑張って攻め続けたけど、どんなに鍛えていても人間の限界はやってくる。

 動きに精彩が欠けてきたところで攻めに転じてみた。


 不用意に突いてきた右の木剣を杖で打つ。

 衝撃に手を離さなかったのはえらいけど痺れてしまったのか完全に勢いがなくなった。

 左手に攻防が集中してしまえば後は簡単だ。

 王子の突きのタイミングに合わせて再び杖を振り上げると慌てて左手に集中する。

 左手も封じられたら終わりだからね。意識が集中してしまうのも無理はない。


「はい、下」


 素早く軸足を払うと辛うじて躱すもののバランスが崩れた。

 そこを狙って左手の木剣を叩き落とす。

 体勢を立て直そうとしていた王子の左手から木剣が落ちた。


「そこまで!」


 学長先生の一声が入った。

 勝負あり、と。

 などと思っていたら王子は右手で強引に剣を振ってきた。


 あー、頭に血が上りすぎてルールが飛んでるな。子供だとこんなものか。

 仕方ないので躱しながら右手の剣も杖で払う。握力が十分ではないので簡単にすっぽ抜けてしまった。


 それでも、止まんないですけど。バーサーカーかよ。


 素手で飛びかかってきたのを胸倉をつかんで容赦なく投げ飛ばした。

 背中から地面に叩きつける。なんとか受け身は取ったものの衝撃に全身がしびれて立てないだろう。

 その眼前に白木の杖を突きつけた。


「今度こそ終わり」


 いくら興奮していてもここまで白黒がはっきりしてしまえば頭も冷めるだろう。

 呆然と杖の先端を見ていた王子は起き上ろうともがいていた手足を放り出し、搾り出すような声を出した。


「参った、ました」

「ルール無用は危ないよ?」

「……ごめん、なさい。いつものくせで」


 いつもどんな訓練してるんだよ。

 肩で息をしているけど意識ははっきりしているようだ。

 怪我とかもしてないよね?


 あのー、どうしてこの子もテュール王子と同じキラキラした目で僕を見て来るの?


「始祖様!オレ、感動した、しました!」


 無駄に情熱を滾らせて両手を握りしめてくる。


「始祖様なのに魔法使わなくてもこんなに強いなんて思わなかった!です!」

「あ、無理に言葉づかい気をつけなくていいから」


 話しづらそうだし、こっちも聞きづらいし。


「うん。わかった!じゃあ、罰をちょうだい!」

「は?罰?」


 なに、この子もどMなの?

 ブランの王族は変態だらけなの?


「父様が言ってた。ダメなことしたら怒られないといけないって」


 うーん。

 僕の抱くブラン武王のイメージと違うんだけど。

 原書を手に入れようと策を巡らせる人の言うことだろうか。それとも公私混同しないタイプなのかな。


 でも、罰か。

 まあ、ルール破りはしたので何かしら罰を与えるというのは納得できる話だ。

 ここは師匠に倣って拳骨でも落とすべきだろうか?いや、僕の拳はまだあの重みに達しているとは思えない。


 僕が子供の頃に受けた罰……お姉ちゃんから受けたお尻100叩き。


 あれか。

 あの後、3日は椅子に座れなかったな。歩く時もヒョコヒョコとなって村の友達に笑われたものだ。


 相手は王子だけど僕は始祖なので多少の無茶でも問題にはなるまい。


「じゃあ、痛い目に遭ってもらおうかな」

「おう!……おう?」


 威勢の良かった王子も僕が抱え上げられて、膝の上に腹ばいになったところで戸惑いだす。

 やはり拳骨とか訓練場10周とかだと思ったのだろうか。脳筋系の人が喜びそうなことを指示しても罰にならない。


「お尻100叩き、はこっちもきついから20回で」

「え、ええっ!おしり、おしり!?」


 驚きすぎだ。さてはお尻叩きが苦手と見た。

 ついつい悪い顔になりつつズボンを下げてお尻を出す。

 王子が子供らしい高い声で悲鳴を上げるけどここは容赦なくいこう。


「はい、1回!」

「ひやあっ!」

「2回、3回、4回!」

「ひっ!やめ!せめてズボンの上から!」

「まだまだ。5回、6回!」

「ふあ!だめえ!」


 無視して20回叩き切りました。

 途中から手首の使い方を学んで卓球のスマッシュのように綺麗なフォームでやってしまった。

 お尻を赤く腫らして憔悴しきった王子は地面にうつ伏せたまま泣いている。


 ……やりすぎただろうか。


 せめてお尻はしまってあげようとズボンを戻してあげた。

 王子は真っ赤な顔で僕を見て再びうつ伏せてしまう。


「ブランではお尻叩きは最高の辱めだったりするのだろうか?」

「……そうじゃない」


 ガツン、と強烈な一撃が後頭部に入った。

 何事かと振り返ればリエナが槍を片手に僕を睨んでいる。

 しっぽがピンと立っていてかなり不機嫌だとわかった。


「えっと、なにが?」

「シズ、勘違いしてる」

「勘違い?」


 まったく、心当たりがない。

 実はルール破りではなかったとか?そんなまさか。

 不思議そうにしている僕にリエナは深々と溜息をついた。

 槍の石突の方で王子を指して、小さく決定的な一言。


「この子、女の子」

「………………………………………………………………………………………………………ゑ?」


 言われて改めて見る。

 ボブカットの綺麗な顔の、男の子じゃなくて、女の子?


 涙を拭いながら王子、じゃなくて王女が居住まいを正す。

 消え入りそうな声で名乗った、


「オレ、レイア・ブラン・ガルズ。ブラン第4王女だ」


 いや、オレとか言うから。

 言葉づかいも乱暴だったし。

 王家って美形が多いみたいだし。

 ルネで見慣れていたから。

 色んな言い訳が頭の中を過ぎっていった。


 そして、僕は土下座した。

 きっと歴史上、初めて土下座した始祖だろう。

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