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魔法書を作る人  作者: いくさや
王宮編
70/238

番外10 猫のいたずら

ちょっと筆休めに。

 番外10


 わたしは王都北門の外で人を待ってる。


 クレアが持ってきた服は窮屈で動きづらいくて嫌。

 でも、シズに頼まれたから我慢。

 隣にはわたしと同じ服を着たルネもいる。

 ルネはいつものように落ち着いていてすごい。

 こういうのを器が大きいっていうんだっけ?

 わたしは周りが気になって耳がぴくぴくしちゃう。


「リエナさん、あれ」

「ん」


 ルネが指差す向こうに馬影が見えた。

 無駄に綺麗な鎧を着た男の人が乗ってる。


「鎧、見える?」

「ん。クレアが言ってたのと同じ。あいつ」


 他の行商人さんとか、農家の人とかのことも考えないで馬を走らせているから危ない。

 わたしは槍を握って、馬にじっと視線を向けた。


 弱い動物はわたしと目が合うと何故か萎縮しちゃう。

 どうしてだろ?

 でも、こういう時は便利。


 その馬は急停止した。

 そんな止まり方して怪我しないといいけど……。

 もちろん、急に止まったりしたら乗り手が前に吹き飛んでしまう。


「危ない!」


 咄嗟にルネが準備していた魔造紙を発動させた。

 男の人が落ちそうなあたりの地面が泥の池になる。

 べちゃりと泥に顔から落ちたけど、大怪我はしなかったからいいよね?

 本当はこの魔法は別の使い方をするつもりだったけど、結果は同じなので大丈夫。


「な!な!な!?」


 なに言ってるの?

 ちゃんとお話ししないとダメだよ?

 泥から抜け出した男の人は驚いていて何が起きたかわかってないみたい。


「ご無事ですか?」

「え?は?はあ、無事。まあ、怪我はしていないな」


 ルネが話しかけるとようやく落ち着いてきた。

 こっちをジロジロと見てくる。んー。よく感じるやな感じ。ルネとかクレアとかと一緒だと多い。


「ああ。その服、スレイア軍の出迎えか。ご苦労」


 そう。

 わたしとルネが着ているのはクレアがどこからか準備した軍の服だった。

 着慣れない服だけど、ちゃんと軍の人と思われたからよかった。


「ふん。少しはわかっているようだ。出迎えに女を2人もとはな。スレイアにしてはなかなかの上玉じゃないか」


 ルネ。また女の子って思われてる?

 これ、ちゃんと男の人の服なんだけど。


「どうした。見てないで助けないか」


 なんか偉そうでもっとやな感じ。

 わたしはじっと見ているだけでいた。


 シズに頼まれたのは北の門にいる軍の人と入れ替わること。

 クレアの言っていた鎧の人が来たらルネが魔法で足止めすること。

 話しかけてきたらいつも通りに相手すること。


「早く起こさんか!」

「汚い人はさわりたくない」


 うん。汚いのは、いや。

 えっと。それに……


「弱い人も嫌い。変な目で見てくる人も嫌い。だから、いや」


 正直に言ったよ。シズ、喜んでくれるかな。


「な、んだと!スレイアの弱兵ごときが!」


 あ、うるさいのもいやだった。

 のろのろと泥から起き上った男の人が剣を抜いた。

 たしか、襲い掛かってきたら怪我させない程度に痛い思いをさせるんだっけ。


 うーん。

 この国の軍の人とか騎士の人より少し強そうだけど、レグルスと比べたらぜんぜん足りない。この前の黒い人の方がまだ強いかも?


 わたしは槍の柄で剣を払い落として、鎧の上から何度も石突で打った。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 あ、やりすぎちゃった。

 全部、鎧の所を叩いたし加減はしたから大丈夫だよね?あ、目が回ってる?

 八つ当たりはかっこ悪いってシズも言ってた。反省。


 最近、シズが変だ。

 悪い感じじゃないけど。

 レグルスがいなくなっちゃってからすごい落ち込んで、それから色々と考えごとしてる時間が増えた。

 シズがどれだけレグルスを大事に思っていたかわかって胸の中がごちゃごちゃする。そういう時のわたしは嫌い。


 レグルスはずるい。

 わたしは1度も勝てなかった。勝ち逃げだ。

 たくさん戦って、たくさん技を見させられて、すぐにその技ができるようになったら別の技を使ってきて、真似しても真似しても勝てなくて。

 そして、シズにあんな顔をさせる。


 もしも、もしもわたしがいなくなったら、シズはあんな顔をするのかな?


 ……ダメ!

 それはダメ!


 頭を振って嫌な考えを追い出した。

 今のわたし、嫌な子だった。自分が嫌になんかなっちゃいけない。

 耳としっぽの毛が逆立つほどの悪寒に目をつぶる。

 黒い人を倒した後、蒼白な顔で駆け付けたシズの顔を思い出す。

 シズにあんな顔してほしくない。


「リエナさん?」

「……なんでもない。これで、よかった?」


 心配して声をかけてくれたルネに聞く。

 ルネは目を回している男の人の様子を見てから頷いた。


「うん。シズの言ったとおりにできたね。起きたらすごい怒ると思う」

「よかった。じゃあ、いこ?」

「その前に、これを」


 ルネはメモ紙を男の人の手に握らせた。


「なに?」

「仮の王宮にしているお屋敷への地図。もともとここにいた人はこの人をそこまで案内する係だったみたいだから」


 意識が朦朧としている男の人はもうしばらく立てなさそう。

 所在なくしている馬に近寄って首を撫でてあげる。

 なんで、緊張しちゃうのかな?


「わたし達がいなくなったらお前の主人を起こしてあげて?」


 言葉が通じるわけないけどお願いしておく。

 そうしてルネと町の中に戻った。


 シズは今頃、パーティだろうか。

 少しは楽しめてるのかな?

 楽しくしてるならいいんだけど……。

ブランの人がどうして泥パックだったのか。舞台裏です。

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