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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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52 対策

 52


 ないものは仕方ない。後で考えればいいことはあとで考えよう。

 今の問題は目の前の魔神だ。

 まさか魔神の眼前で作戦会議になるとは。


「あの結界が解けるまでどれぐらいありますかね?」

「何もなきゃ1時間。まあ、なんかやたら溶けてっから20分もねえだろうな」


 師匠が機嫌悪そうに断定した。

 目的をはっきりさせよう。


 最低でも原書の魔力補充が完了するまで足止め。

 可能なら結界解除直後に総攻撃を決めて撃破。


 問題は火力だ。


「10倍の『流星雨』をもう5発ぐらい叩き込みますか?」

「……そんだけやりゃあいける気もするが、相性が悪い気がすんな。それに範囲が広すぎて威力が分散する」


 相性?


「得意と苦手があるんですか?」

「そりゃそうだ。魔神にだって元となった魔王の特徴は残んだよ。あの巨体が人間サイズまで凝縮する過程で大概がわからなくなるんだがな」


 ならば弱点を責めない手はない。

 となると、あの魔神は何が元となっているのだろうか。


「あの鎧は?」

「外装だろ。本体は中身だ」


 中身。茶色の体。土?土の魔物っているのか?ゴーレム?それって魔物なの?どちらかというと魔法の領域じゃなかろうか。

 茶色……茶色。木、とか?

 蒲公英の魔王を思い出す。


「植物系の可能性は?」

「……ありだな。となると緑の鎧は硬化した葉かなんかか?」


 植物と仮定すると光や水系の魔法は鬼門だろう。

 そういえば最初の光の属性魔法はノーガードで次の火と風に対しては防御行動を取っていたよな。

 樹妖精の師匠も感じるところがあるのか肯定してくれた。


「じゃあ、光の属性は」

「火に燃料ぶっかけるようなもんだろ。そりゃあ、あんだけ光を浴びかければハッスルするだろうさ」

「いやいや、さすがにあの熱量を吸収とかは無理ですよ」


 どんな葉緑素だよ。

 というか鎧にも中身にも熱は徹って炭化させているんだ。木の性質だけでは『流星雨』を防ぎきれない。


「なら、何か種があんだろ」

「すごい葉っぱとか?」

「コレが欲しいならくれてやるぞ?」


 すいません。拳をしまってください。

 学長先生が腕組みしながら話を進めてくれた。


「腐蝕、かの?」

「だろうな」

「腐らせるっていうと……」


 なんだろう?

 腐るって現象だからな。

 それと関連する物と言えば細菌とかだけど。細菌の魔王?なにそれ。巨大化してもひと踏みでしょ?いや、体内に侵入されたらとか考えると恐ろしいな。無敵じゃないか。

 ……違う。現代日本の知識を参考にするのはいいけど、それを基準にしてはいけない。

 細菌の魔物……いるじゃん!


「師匠。スライムってわかります?」

「植物系の魔物の体液が元に生まれる魔物だろ。ああ……なるほどな。あいつらは獲物を溶かして食うか」

「腐らせるというのが過程なら」

「ありかもな」


 スライムなら粘性を持った液体だ。

 あの熱量を防ぐのに一役買った可能性は高い。水の膜とか。屈折を利用した回避とか。


 スライムの魔王と木の魔王が混じった魔神か。

 どちらがどちらを食ったのかまではわからないけど、特徴から推察する限り可能性は高そうだ。


「なら、火と雷の合成魔法を10倍で!」

「術式、覚えてんのか?」

「……師匠は?」

「作りまくったからな。全部までは覚えてねえよ。今の手持ちにも……ねえな」


 僕もです。

 『流星雨』以外にも暗記しているのはあるけど都合よく火と雷の属性ではない。

 今から急いで学園まで戻って、魔造紙を作ってまた帰ってくる?

 間に合うわけない。


「なら10倍の属性魔法を連続して叩き込みましょう」

「……それしかねえな。無地の用紙は何枚だ?」

「あと、8枚です」

「火と雷を4ずつだ。急げ」


 師匠が踵を打ち付けると地面から植物が生えてきて即席の机になった。便利だ。

 最初に落とした大樹も樹妖精の種族特性を使ったのだろうか?

 今はそんなことを気にしている場合ではないか。


 素早く10倍魔力の属性魔法を仕上げる。

 それでも時間は掛かってしまう。

 4枚まで書き上げたところで結界に罅が入り始めた。


「今あるので仕掛けますか!?」

「威力が足りませんでした、じゃ話にならねえ。俺が時間ぐらい作ってやる。お前はお前の役目を果たせ」


 師匠が原書を学長先生に預けて前に出る。

 結界の罅はどんどん広がっていった。表面に細かい罅が覆い尽くしたところで硝子みたいに硬質の音を立てて砕ける。

 そのタイミングで師匠が仕掛けた。


「いけ、百年樹」


 師匠が足を地面に叩きつけると魔神の足元から急成長した木が飛び出した。

 魔神を飲み込んで締め付けようとするけど、すぐに幹が変色して腐り落ちていく。


 それでも師匠に動揺はなくバインダーから魔造紙を取り出す。


「火が嫌いなんだろ?」


 通常の火属性の魔法を放つ。

 人間サイズもある火炎球が魔神に襲い掛かった。

 けど、それも魔神に片手で受け止められると大気に溶けるように崩れ散る。

 その時には師匠が次の魔法の準備を終えていた。


「燻製になるまで付き合ってやるよ」


 立て続けに火の属性魔法。

 僕の魔法のような威力はないけど様々な角度とタイミングで放たれる波状攻撃に魔神は前に進めない。

 おまけに時々、足元から樹木が伸びて足を絡めてとっている。

 戦い方がうまい。


「準備ができたら2人がかりでぶちかませ。余波は俺が何とかしてやる」


 予定枚数まであと2枚。

 師匠なら魔神相手にも十分時間を稼いでくれるだろう。


 そんな信頼は油断に繋がってしまった。


 火と木の連携に足止めを余儀なくされていた魔神が大きく後ろに下がった。

 そして鎧の胸甲が左右に裂ける。

 鎧の下には洞のような口があった。


「百年樹!」


 師匠がその大口に向かって樹木を突き込もうとするけど、それよりも早く口腔から何かが吐き出された。おそらく出ている。


 それは見えない。

 でも、この背筋を這い上がる感覚はやばい!

 無意識のうちにバインダーへ手を伸ばすけど間に合わなかった。


 視界が歪む。

 体が痙攣する。

 とても立っていられない。


(まさか、毒ガス!?)


 スライムの腐蝕にばかり気を取られていた。

 植物の方が持っていた種族特性が失われたわけではなかったんだ。

 しかも、毒なんて。

 隣で学長先生も倒れている。

 即死性のものでないのが唯一の救いだけど、このまま吸引していれば致命的なダメージにもなり得る。

 バインダーの解毒の魔法を使わないと死ぬ。


 師匠だけは毒に倒れず平然としていた。

 樹妖精は毒に強いのか。

 しかし、これはまずい。ガスの正体がわからないうちは迂闊に火の魔法が使えない。可燃性のガスだったら共倒れだ。


 幸い、魔造紙は切りよく書き上がっているので術式崩壊の恐れはないけど。

 あの化け物を相手に師匠は1人で戦わないといけなくなってしまった。

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