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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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47 王都炎上

 47


 翌日、セラを見送ってから再び走った。

 30分ごとに効果が切れるけど、そのたびに掛け直して走り続ける。

 途中の町や村にも寄ったけど軍の惨状のような光景は見られなかった。魔造紙の補給の間にルネが情報を集めてくれたけど、夜中に何か大きな音がしたけど何かを目撃した人はいないようだった。

 大きな音が魔王の羽ばたきだとすれば向こうは夜間も飛んでいたのか。

 夜でも目が見える鳥って結構いるんだって。


 王都の途中の町や村は被害がない。

 軍との違いは何か?

 やはり戦力の有無が可能性は高い。

 けど、魔物にそんな判別がつけられるとは思えない。目の前に人間がいるなら襲い掛かるはずだ。

 もちろん被害者がいないのは喜ばしいけど、単純に喜べない不気味さがある。


 補充を終えるなり走行を再開する。

 ほとんど新幹線の有様なので抱えている2人の分の防御壁が必須だ。別に制御をミスっても大丈夫とか思ってないよ?

 でも、遠慮なく走れるのはありがたい。

 鳥の飛行速度が時速100キロを超えているとして、今の僕は4倍近い速さで走っている。20倍の時もそうだったけど、10倍でも音を通り越したみたいなので街道から少し離れたところを走ることにした。なんか衝撃波が出て大変だし。

 かなりの数の魔造紙を消耗してしまったけど、おかげで昼前には王都を目視できる位置まで戻ってこられた。

 まさか音速越えで城門に突っ込むわけにもいかないので一時停止だ。

 小高い丘陵となったところから王都を見下ろす。


 しかし、僕たちは帰ってきたと喜ぶこともできなかった。


「燃えてる」


 ルネの呆然とした呟きを黙って聞くしかなかった。


(どうしてこんなことに……)


 第4城壁からは城門が失われていた。

 巨大なハンマーで打ち抜かれたみたいに基部ごと内側で倒れていた。

 農牧場の方は大きな被害を見受けられないけど、その奥の第3城壁は酷かった。

 やはり城門が破られ、壁の方もボロボロに崩れている。近くにあった民家は潰れて、辺り一帯が炎に包まれていた。王都西部の玄関口は見る影もない。

 市民街にも火の手は回っている。大通りに面した商店たちは既に焼け落ち、奥の方にまで延焼していた。

 そして、第2城壁。

 そこで騎士団と巨大な怪鳥が壮絶な戦いを繰り広げている。


 セラの言っていた巨大な鳥。間違いなく魔王だ。

 姿は鷲に似ている。

 黒褐色の羽毛に包まれた威容。

 一撃で容易く家屋を破砕する爪と嘴。

 背中からは薄い帯のようなものが1対飛び出しているのが通常の鷲との違い。

 そして、あまりに大きい。ジャンボジェット機並だった。


 騎士団は城壁に防御系の結界を張って、そこからいくつもの攻撃魔法を放っているけど有効打にはなっていない。

 宙を舞う魔王の動きは鳥の機動さえも超越していた。

 あまりに速く、鋭い。

 騎士団の攻撃を躱して、隙ができると急降下で城壁の結界を打ち破り、口腔から豪火を吐き出して内部を焼き払う。

 それでも騎士団は攻撃を放ち、結界を張り直し、延焼を防ごうと魔法士も兵士も必死に戦っている。

 でも、それでも、なのだ。


「押し負ける」


 リエナの予測が正しい。このままでは遠くない未来、第2城壁も落ちる。

 空中に逃げられてしまうので決定機を作れないでいる。

 僕はバインダーから魔造紙を引き出した。


「リエナとルネは……」

「逃げない」

「隠れないよ」


 先を越された。

 とはいえ、あんな化け物の相手は僕でもないと無駄に犠牲が出るだけだ。

 どう説得しようかと迷う僕が考えをまとめるより先にリエナが槍を抜き、空を縦横無尽に舞う魔王に向けた。


「私がやる。ルネ、手伝って」

「うん。シズはその間に学園に行ってよ」


 魔法学園。

 2人も気づいているよね。

 ボクもこの状況下で師匠が出てこないのが気になっていた。

 正直、師匠なら魔王の1体ぐらいは鼻歌交じりで撃破してしまいそうなのに、ここにいないというのは異常だ。

 僕が最初に王都を見てどうしてこうなったのか疑問だったのは、どうしてこんなに被害が出るまで師匠は魔王を放置しているのか?という疑問だった。

 僕なんかが心配しても余計な気を回すぶんまで自分のことをしっかりしろなんて叱られそうだけど、やはり心配してしまう。

 そして、セラが目撃した緑の鎧もだ。

 あの戦いの舞台に該当する姿は見えない。距離があるせいかもしれないけど、少なくとも騎士団の対処は全て魔王に向けられている。


「……でも、2人は」

「大丈夫。やれる」

「ボクも頑張るよ」


 強がりはあると思う。でも、それだけでもないのだろうか。

 信頼と心配の狭間で悩むこと10秒。今は時間が惜しい。

 残っていた用紙に10倍の属性魔法を書いてリエナに渡した。


「2人は農牧地で待ってて」

『シズ……』


 声を揃えて悲しそうに見つめてくる2人。なんか変なところで息が合うよね。


「ああ、もう。2人してそんな顔しないで。あいつは2人に担当してもらうよ。その魔法なら確実に致命傷を与えられると思う。射程が短いから出来れば急所の至近で使って」


 渡した魔造紙を大切そうにバインダーの先頭に収納するリエナ。


「あそこで戦ったら街の被害が酷いでしょ」


 強化の魔造紙を発動させる。

 続けてもう1枚。正直、僕の魔法は周辺への被害が大きすぎる。魔王を倒したけど王都も壊滅しましたでは意味がない。ここで10倍の『流星雨』でも発動させれば王都は地図から消える。

 被害の拡大についてはあそこまで侵攻を許してしまった騎士団にも同じことが言える。騎士団が決定機を作れないのは極大魔法が使えない点大きい。

 指揮官が決断すれば大きな犠牲の元に魔王は倒せるだろう。

 そんなもの見たくもない。誰もがだ。


「だから、2人の所までふっとばす」


 『力・烈砲』の魔造紙を取り出す。

 昨日の赤い世界を思い出して使用に躊躇を覚えてしまうけど、あの時の10分の1の魔力量の今なら大丈夫だろう。


「2人とも、あー、うん……任せたよ」


 なんだよ。

 あー、なにそれ。2人して嬉しそうに笑って。

 相手わかってるの?魔王だよ?

 リエナ、そんな耳を立てて喜びすぎ。ルネ、涙ぐまないでよ。

 僕を何だと思ってるんだか。


「じゃあ、行くからね!」


 赤くなっていそうな頬を誤魔化して走り出す。

 2人も今頃は配置につこうと移動を始めているだろう。

 僕はいくらか速度を抑えて大通りを駆け抜けた。2つの壊れた城門を過ぎるけど、既に避難は済んでいるのか逃げ遅れた人は見当たらない。

 第2城壁の騎士たちが僕の接近に気づいた。

 誰何の声を待たずに叫ぶ。


「僕は魔法学園のシズ!そいつ、吹っ飛ばしますから!」


 あー、こんな名乗りとか恥ずかしい。しかも1部貴族以外には知られてないから、みんなポカーンとしてるし。

 ともあれ悠長に話し合っている暇はない。誤射だけは気を付けてもらえばいい。

 僕は最後の数歩だけ全力で走った。


 壁面を。


 爪先を突き刺して。

 空へと向かって。

 一呼吸の間に駆け上がった。

 最後に城壁上で両足に力を溜め込み、上昇のエネルギーに変換する。

 僕が大跳躍を果たしたところに丁度、魔王が急降下してきた。

 正面から激突する。


 爪と強化魔法の装甲が鎬を削る。

 赤い火花が散る中で睨み合った。


(10倍じゃ互角か)


 でも、今の目的は打倒ではないからいい。

 仰角よし。

 進路よし。

 準備よし。


「イタイのイタイの飛んでけー!」


 僕のことじゃないよ?

 交錯から離脱するまでの間に魔造紙を取り出し、それを杖でフルスイングした。

 赤い砲撃が魔王を一直線に農牧地まで吹き飛ばした。

 ライナー性の当たりだったので水切りみたいに転げまわる。大量の土砂が巻き上がって土煙になった。

 農家の皆さんすいません。

 悪いのはそいつです。


「ホームラン!じゃなくて弾丸ライナーか」


 城壁の上に着地を決める。

 辺りの騎士たちが唖然としていた。

 周りより立派な鎧を着た人がいるので話しかける。なんか熊が鎧着てるみたいな人だな。


「あの。向こうで僕の友達が魔王と戦いますので援護してもらえますか?空に飛ばれると厄介なので」

「あ?ああ。んあ?」


 いや、会話しましょうよ。

 確かに常識を疑う光景だったかもしれないけど。周りから見たら僕が魔王を杖で殴り飛ばしたみたいだったからね?

 それでも推定隊長さんはすぐに正気に返ってくれた。


「おう。助かった!援護は任せろ!君はどうするんだ?」

「僕は学園に戻ります」


 学園があるのは北側。西口のここからなら城壁の上を走った方が早いか。


「じゃあ、お願いします」


 僕は騎士団から離れたところで全力で走りだした。

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