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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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46 跡地にて

今回はちょっときつめの表現があります。

血とか死体が苦手な人はご注意ください。

 46


「リエナとルネはここにいて」


 現場に到着する前に僕は2人を置いて1人で向かった。


 現場というのは酷い破壊の跡が残った場所。

 出発から30分ほどだった。

 前方の街道が燃えている。

 雑草や近くの木が。

 そして、軍の人や荷物が。


 凄惨な現場に近づく前に覚悟をしておく。

 どれだけの人がいたのだろう。おそらく1000以上。

 それが物言わぬ骸となって転がっている。

 異臭と異形に吐き気を覚えたけど、なんとか胃の底に抑え込んだ。

 どれもが酷い有様だった。


 元の形がわからない程にバラバラになっている者。

 かなりの高温で焼かれたのか末期の姿のまま炭化した者。

 腐り果てて溶けかけたような死肉に小さな虫が覆っている者。


「……森で魔物を殺しまわった僕がいうものじゃないけどさ」


(これは酷い)


 辛うじて人の形を残している遺体から見て軍人なのは間違いなさそうだ。元は敵として戦う覚悟までしていた相手だけど、この惨状に憐憫を抱いてしまう。

 深呼吸して落ちつきたいところだけど、あまりの臭いに息を吸うのもつらい。


「誰か!生きてるなら返事しろ!」


 声を張り上げる。

 夜の中、残り火の明かりだけを頼りに声を張る。

 何度も声を上げて辺りを歩いた。


「……たす、け…て」


 掠れた声がした。

 正直、生存者は期待していなかったので驚いた。

 リエナがいれば居場所なんてすぐにわかるのだろうけど、こんな惨状を見させたくない。

 何度も声を出す余力はないのか、あまりにも細い声を見失いそうになりながらもなんとか声の主を見つけられた。

 壊れた馬車の残骸の下だった。僅かな地面との隙間に顔を煙で真っ黒に染めた子供がいた。

 おそらく兵ではない。雑用のための随伴員だ。高い声でまだ声変わりもしていない。

 僕1人でも簡単に引っ張り出せた。

 見たところ骨折はなさそうだけど焼けた空気を吸ったのか衰弱がひどい。


「よく頑張ったね。いま、治すよ」


 回復魔法を施した。5倍魔法でも十分な効果らしい。

 汚れているのでわかりづらいけど、顔色がずいぶんと良くなった。

 水筒を渡して水を飲ませるとようやく落ち着いて、居住まいを整えて深く頭を下げてくる。


「助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。僕はシズ。君は?」

「セラ。軍のお手伝いをしてた」


 平民かな。素直そうないい子だ。キラキラした目が眩しい。

 セラには先にリエナ達と合流してもらい、続けて生存者を探したけど見つからなかった。

 僕も3人の所へ戻る。

 左右をリエナとルネに挟まれて座り込んでいたセラと目線を合わせて、その手を取った。


「セラ。つらいことを聞くようで悪いけど教えてほしい。なにがあった?」


 相当の恐怖だったのかセラは震えだしてしまった。

 それでも事態を把握しないともっと大変なことになってしまう。

 軍にだって魔法士はいる。それもスタンピードに対応するための人員だ。かなりの精鋭たちだったに違いない。魔造紙も潤沢に用意していただろう。極大魔法だってあったはず。

 それが一方的に虐殺されていた。

 現場には人間の遺体しかない。

 相手も人間だった?

 いや、焼死体はともかく、腐乱死体の方がわからない。

 人間をあんなふうにしてしまう模造魔法なんてないのだ。

 5分ほども振るえていたセラだけど、僕が手を握り続けていると次第に落ち着いてきてくれた。


「空から、来た」

「なにが?」

「大きな。鳥。家よりも大きい。都の壁よりも大きい。鳥」


 魔物。いや、その大きさなら魔王クラスだ。セラの印象で話しているかもしれないから確定はできないけど。

 それにしても1日で魔王が次々と。

 あいつらも僕のことが好きなの?ああ、お母さんも襲われたというからうちの一族が好きなのかもしれない。

 傾国の血筋過ぎる。


「火を吹いて。みんな焼けて。でも、偉い人たちが魔法を使って」

「うん」

「鳥は空に飛んで行って」


 撃退した?

 でも、セラの震えは酷くなっている。


「そしたら、空から、あれが降ってきたの」

「あれ?」

「そう。緑の、鎧を着た、人」


 ひと?

 魔王と一緒に人間がいた?

 人のことは言えないけど前代未聞だ。人と魔物は共存できない。


「気づいたら馬車の下にいて。それで、みんな、あんなふうに……」


 セラの視線の先は現場。

 どうもそこで記憶が飛んでしまっているようだ。ショックのためか、それとも単純に攻撃の瞬間は見えなかったのか。

 だけど、聞く限りその緑の鎧が大量の腐乱死体を生み出したようだ。


「ありがとう。よく話してくれたね。少し休んでいていいよ」


 頭を撫でてセラを落ち着かせてから、ルネに任せてリエナを連れて離れる。


「正直、完全に予想外だよ」

「……シズもわからない?」


 リエナは僕を高く評価しすぎている。

 さっぱりわからない。

 緑の鎧が何者かも。

 どんな手段で人をあんな風にしてしまったのかも。


 それでも魔の森の1件とは関係あると思う。

 ただの偶然で居合わせた軍に襲い掛かったと考えるのは難しい。単純に魔王なんてこの辺りでは魔の森ぐらいにしかいない。

 なら、その緑の鎧と魔王はどこに向かったのか。

 頭の中で地図を思い浮かべて、魔の森と現在地を結ぶ線をまっすぐに伸ばしてみる。


「王都か」

「……行く?」

「2手に分かれるかな。クレアさんたちに報せないといけないし」


 リエナがじっと見つめてくる。『連れてけー』という意思がひしひしと伝わってきた。わかったから、そんなにしっぽをユラユラとさせないで。


「やだ。ボクも行くよ」


 方針を話すとルネも嫌がった。

 ぐう、滅多にわがままを言わない人がする主張は無碍にしづらい。

 とはいえ、ここから狩人の集落まで100キロはある。まさかセラを1人で歩いて行かせるわけにはいかない。


「馬がいればいいんだけど」

「セラは馬に乗れるの?」

「うん。軍でお手伝いしてたのも馬に乗せてもらえたりしたからだし」


 ふむ。

 馬なら数時間で着けるかな?

 とはいえ、あの惨状で無事な馬がいるわけもない。

 逃げ出した馬もいるだろうけど都合よく戻ってこないだろうし……。


「ちょっと待つ」


 リエナがふらっと歩いて行ってしまった。

 未だに食事をとっていなかったことを腹の虫で思い出して僕だけ食事を取らせてもらった。

 正直、あの光景を見た後では食欲はわかなかったけど、気持ち以上に体が限界を訴えていたので頑張って食べた。

 そうやって1時間もしないうちにリエナが帰ってきた。

 当たり前みたいに馬を連れて。


 いや、軍馬って戦えるように調教されてるはずなんですけどなんでリエナさんに完全服従なんですかね?

 猫と馬って相性いいの?


 ともあれ、これで問題は解決した。

 セラにはクレア宛の手紙を持って集落まで向かってもらおう。

 まあ、夜間行軍なんて危ないからさせないけどね。僕たちも休憩は必要だ。

 緑の鎧も気になるけど、今は休む。

ちなみにシズ君はセラを男の子と思っていますが、女の子だったり。

弱っている子を助けてる最中は無駄に頼もしいので、変なところでフラグを立ててます。

いや、今後のセラの登場予定はないのですがね?

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