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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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50/238

45 合流

 45


「森の方がすごい光って、地面が揺れたから、クレアとルネに頼んで戻った」


 ああ。きっと『流星雨』のことだ。

 確かにあんな破壊を巻き起こせば遠くても気づく。

 そこから戻ってくるまでかなりの速さで走ったのだろう。

 速力を強化したリエナの疾走は僕の窮地に間に合ってくれた。

 かなりシビアなタイミングだったと思う。

 もうちょっと早ければあの赤い消失世界に巻き込んでいたかもしれないと思うと背筋が冷たくなった。

 反面、失態を演じてしまった以上は文句なんて言いようがない。

 素直に感謝するばかりだった。


 意識を回復させると既に夕方になりかけていた。

 その間、ずっとリエナは僕の傍にいて治療と警戒をしてくれていたらしい。

 おかげで起きた頃には歩ける程度になっていた。

 魔の森の中で治療というのも危険なので、この段階で1度外縁部を脱出。


 うん。リエナさん無双でした。

 耳をぴくぴく動かして敵に気づくと先制攻撃。魔法も使わずに槍のひと突きで撃破。即座に転身して隣に戻ってくる。

 さすがの魔の森も駒が尽きたのか、エンカウントすること自体少なくなっていた。或いはリエナが居場所を察知して避けていたのかも。


 そうして30分ほどで無事に森から脱出できた。

 日の光は更地で何度も見ているけど、森から出た後に見る太陽は眩しかった。


 昨晩の野営地の辺りで本格的に治療を始める。

 全身の打撲と擦り傷、右足の裂傷。右腕の火傷。左腕の骨折。

 それに消耗した体力。

 正直、魔力も回復しきっていないので、リエナには申し訳ないけど眠らせてもらった。

 次に起きると空には星が広がっていた。


「……リエナさん?」

「シズ。起きた?」


 起きました。

 起きましたから説明してください。

 なんで僕は膝枕されてるの?


「寒そうだったから」


 ああ。それでしっぽを首に巻いてくれてたんだ。気が利くなあ。ところでそろそろ鼻血噴いちゃうよ?

 起き上ろうとするとリエナに肩を押さえつけられる。

 最も傷の酷かった両腕はまだ治療中。

 抵抗は許されないのか。

 まあ、たくさん心配させてしまったし甘んじて受けよう。

 役得だし。恥ずかしいけど。


「……とはいかないよね」

「ん」


 右腕の回復魔法の効果が尽きたところで起き上る。リエナも今度は止めなかった。

 いや、春が近いとはいえちょっと厚着しただけじゃ夜は越せないから。

 うん。リエナのしっぽは最高だけどね。

 ルネとクレアも心配しているだろうから早く合流しよう。

 もうスタンピードの心配もないと報告しないといけないし。

 なんとか右手は動くようになっていた。左腕はまだ駄目かな。動かそうとすると痛む。リエナが次の回復魔法を発動してくれた。


「リエナ、魔造紙は持ってる?」

「……無地?」

「うん。僕の方は完全に0だから」


 漆黒のバインダーが虚しく腰で揺れている。

 リエナがバインダーから未記入の用紙を2枚出してくれた。


「ごめん。あと筆も貸してくれないかな」

「……いつものは?」

「ああ。壊れちゃったよ」


 なるべく、何でもないように言ったつもりなのになあ。

 リエナは僕の手を握りしめて見つめてくる。

 耳としっぽが不安そうに揺れていた。

 わかっちゃうか。そうだね。ずっと一緒だったからね。無理に笑ってる方が不自然だよね。


「仕方なかったし。後悔してないし、おじいちゃんだって怒らないだろうけどさ」

「ん」

「ちょっとだよ?ちょっとだけなんだけど……つらかった」

「ん」


 リエナは何も言わずに手を握ってくれていた。

 ああ。1人の時に向き合っていたらダメだったな。リエナがいてくれてよかった。

 何度かの深呼吸で気持ちを落ち着ける。


「リエナの筆を借りてもいい?」


 リエナが無言で差し出してくれた筆とインクを受け取る。

 さて、準備するのは身体強化の付与魔法。

 ただし、魔力は5倍で書く。

 既に2度の睡眠で魔力は全快しているけど、僕の使い慣れていない筆で20倍を試す気にはなれなかった。というか5倍でも怖いぐらいだ。

 今まであの筆にどれだけ助けられていたのか、失ってから実感してしまった。

 それでも感傷を振り切って筆に魔力を通す。違和感は無視だ。

 なるべく淡々と魔法陣と術式を書き上げて、リエナの槍を借りて発動させた。

 使い慣れた20倍との差を感じるものの制御を失うほどではない。


「リエナ、掴まって」

「ん」


 お嬢さん。

 普通は背中に乗りませんか?

 なぜに前から来るのでせうか?

 右腕1本でも余裕で持ち上げられるけどさ。

 まあ、今の僕に拒否権はないので素直に抱き上げた。

 ぐう。この体勢で首に腕を回されると……ストップ!考えるな!感じるんだ!ノン!感じてもダメ絶対!

 あれこれと考える暇があるのがいけない。

 僕は走り始めた。いつものように抑えて走らなくていいのは新鮮だった。

よく考えてみればいつもの20倍で追いつこうとして皆を吹き飛ばしでもしたら笑い話にもならない。


 そのまま走ること30分。

 レースカー並みの速度で駆け続けたおかげで追いつけた。

 いや、まさか追いつけるとは。

 効果時間内には追いつけないでもう1回使わないとダメだと思っていたんだけどね。

 それにしても昼にも思ったけど僕は走りすぎだと思う。メロスとか呼ばれたらどうしてくれるんだ。

 や、強化したリエナに抱えられて運ばれるわけにはいかないからいいんだけどね?


 高速で接近する人影に警戒していた先生方に説明していると、


「シズ!」


 ルネが僕を見つけるなり胸の中に飛び込んできた。

 ああ、ごめんね。泣かないでよ。ほら。今は無事でしょ?……リエナさん。怖い怖い怖い!そんなに見つめたら僕の顔に穴が空きますからね?というか強化も解けたし、もう到着したんだから下りようよ。あ、嫌ですか?もう少しこのままで?了解っす。

 3人で騒いでいたのですぐにクレアも気づいてやってきてくれた。


「シズ。無事と信じていましたわ」

「まあね。正直、リエナが来てくれなかったら危なかったけど」


 互いに笑い合ってすぐに切り替える。


「では、魔物の襲撃は?」

「ないと思う。あそこまでやって外に出る余力はないだろうし」


 寧ろ魔の森を棄てて移住しようとする可能性の方が高そうな気もする。

 あそこ。生物が住めるように戻るのかなあ?

 そんな僕の暢気な内心とは裏腹にクレアとルネの表情は晴れない。


「どうしたの?」

「……わたくしたちの進みが遅いのには気づいてまして?」


 ああ。やっぱり遅かったんだ。

 ルネが僕を見上げながら引き継いだ。涙目の上目遣いとルネは僕を殺すつもりだろうか?


「途中で狩人の集落に寄って、そこで早馬を王都に送って報せてもらって、ボクたちは他の人たちと一緒に避難していたんだけど」

「ああ。だから、見たことのない人がいるんだ」


 魔の森の近くには狩人たちの集落があった。そこの人たちとも合流しているのか。

 まあ、見捨てるわけにもいかない。それで進行速度が遅くなったのかな?


「夕方ごろ、この辺りで酷い地震がありまして」


 地震?

 まあ、そういうこともあるのかな。

 いや、その時間帯なら僕は違うからね。

 朝だったら僕が犯人だけど。


「それと一緒にこの先で爆発の音が何度も」

「……穏やかじゃないね」


 警戒したクレアは一時、進行を止めてどうするか協議していたらしい。

 森からの襲撃は進行方向から逃れられれば被害は少なくできるので無理にまっすぐ逃げる必要もなかったのだ。

 今は僕たちの報告によって森からの魔物は警戒しなくてもよくなったので、集落の人たちは戻っても大丈夫だろう。

 後は別の早馬で解決したと伝えればいいだけだったのだけど、その爆発音と地震が不吉な予感を連れてくる。


「でも、シズのおかげで狩人の方は戻れますわ」

「ボクたちはどうしようか?」


 ルネに見つめられて考える。

 正直、何もかもを放り出して狩人の集落で休みたい。どう考えても今日の僕は働きすぎだ。社畜時代でもこんなハードワークはなかった。


 でも、やっぱり爆発音が気になるよ。

 爆発と聞いて連想するのは軍だ。僕の予想よりも魔の森に近い場所まで来ていたということだろうか?

 だとして、爆発は何に対して?

 ……まさか王都への早馬を攻撃した?

 そこまでするのか?

 する。もうケンドレット家には完全に後がない。スタンピードが不発に終わり、実行犯はクレアたちが確保。向こうにとって今の状況は最悪だろう。

 いくら大貴族でも王都を危険に曝すような真似をしたのだから、血族の処刑と家の断絶は避けられない。

 なら、後は関係者を抹殺してでも、か。


 でも、地震というのはなんだろう?

 まさか早馬を相手に極大魔法でも使うなんて真似はない。僕が言えたものではないけど完全にオーバーキルだ。


 結局、見に行くしかないか。


「クレア、まだ無地の用紙は残ってる?あと余ってる筆と杖はないかな?」

「いきますの?」


 気遣わしげなクレアに肩をすくめてみせた。


「適役でしょ?大丈夫。今度はリエナにもついてきてもらうから」

「ボクも行くよ!」


 ルネは強い意志の目で見つめてくる。

 昨晩は完全に意思を無視して置いていったせいか珍しく強硬だ。僕が折れよう。

 20倍の魔法が使えない今なら巻き込む心配は少ない。

 それに人間が相手なら5倍の魔法でもまだ過剰なぐらいだから、軍が相手でも油断さえしなければ対処できるだろう。

 うん。遠くから一方的に5倍魔法の乱れ撃ちとかね?


「シズ、これを使ってください」


 そういってクレアは自分の筆を出してくれた。


「いいの?」

「悪い筆ではありませんわ。それとも不服かしら?」


 正直、おじいちゃんの筆と比べると頼りない。それでもルミナス家が用意しただけあって十分すぎるほど貴重な品だ。

 クレアにとって大切なものに違いないのにわざとからかうような口調で気を遣われてしまった。ここは素直に感謝しておこう。


 僕はすぐに魔造紙の作成に掛かった。

 思い切って10倍にする。

 魔力は潤沢だ。属性魔法の8種。強化魔法は多めにしておこう。回復魔法と召喚魔法と法則魔法の防御と結界。あとは基礎魔法。

 ……秘密に合成魔法を2枚だけ。師匠にはないしょだよ?5倍なら大丈夫だよね?

 それにしてもいつもより魔力に余裕がある。10倍で作ったのに魔力が尽きる気がしない。成長は止まっていないとはいえ、こんなに余裕はあったっけ?

 今は余裕があるなら助かる。一応、予備の用紙も持っておこう。


 準備を終える頃には左腕の治療も終わっていた。

 強化魔法を発動して右手にリエナを、左手にルネを抱え上げる。


「わたくしたちは集落に戻りますわ」

「すぐに戻るつもりだけど、1日待っても戻らなかったら王都に来て」


 方針を確認して頷き合う。


「じゃあ、いってきます」

「ん」

「またあとでね」

「3人ともお気をつけて」


 クレアに見送られて僕たちは出発した。

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