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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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42 現地調達

 42


 熱した空気が流されるまで結界を解除できずに留まるしかなかった。

 疲れきっていた体を魔法と睡眠で癒して、おそるおそる結界を解除して外に出たのは4時間後だった。


 まずここだけが高台みたいに残っているのでそこから降りるのに苦労した。

 一夜にも及ぶ魔物との死闘の最後に転落死とか勘弁してほしい。ロープもなしに素手のみでの降下とか自殺行為でしかない。ファイトー、いっぱーつ!手を滑らした時に助けてくれる方を募集中です。

 それでも師匠の特訓で鍛えた肉体と意地だけで降りきった。

 降りてみると地面は掘り返した土が積もっていて意外に柔らかく、足を滑らせても落ち方を間違わなければ大丈夫だったかもしれない。

 そこから太陽の位置を頼りに東へ向かう。

 確か地平線は5キロぐらい先で発生するという。

 森の外縁部が見えるようになれば残り5キロということだ。

 いくら魔法で回復しようと仮眠を取ろうと、緊張から脱した体は疲労しきっている。

 ゲームと違って魔王を倒しても自動的にお城には帰れない。

 準備の時間がなかったとはいえ、現在の僕は食料も水も持っていない上に、魔造紙もない。

 素材となるものがあれば強化魔法を作るのだけど、完全に荒野と化した深部には土しか残っていなかった。

 正直、帰りは魔物を素材に魔造紙を作ればいいなどと捕らぬ狸の皮算用をしていたので、かなりきつい状況だ。まさか残骸も残らず消滅するとか誰が思うのか。

 体力が残っているうちに帰還しなければ餓死もあり得る。


 ただ無心になって歩く。

 リエナの猫耳としっぽはどこだ。

 俺、戻ったらリエナの耳としっぽをモフモフするんだ。

 戦いって虚しい。

 どんな強大な力を持っていても最後は自分の2本の足で歩くしかないんだよ。

 いや、杖をついてるけど。

 これって遭難とどう違うの?

 まっすぐ歩けてる?

 ははは。

 のど乾いたなあ。

 おなか減ったなあ。

 ふふふ。

 疲れたよ。パト〇ッシュ。

 …………………………………………………………お前の肉が食いたい。


 だいぶ思考が狂い始めてきたところで遥か遠くに緑色が見えた。

 砂漠の真ん中でオアシスを見つけた人の気持ちがよくわかった。道も標もない荒野を孤独に歩くのは苦行そのものだ。

 目的地が見えれば折れかけていた心も復活する。


「僕は帰ってきたぞー!」


 森の中に到着するなり叫んでしまった。

 途端に膝から崩れ落ちる。

 疲れた。本当に疲れた。

 昨日からの移動距離を計算したらギネスに載るのではないだろうか。魔法による回復のおかげで体力は回復しても気力は自前でどうにかするしかないのだ。

 でも、こういう時のコツはわかっている。

 熱があるなと思っても熱を測ってはいけない。数字となって確定しなければ気のせいですませられる!

 社畜の皆さんにおすすめですよ?

 なんて強がってみても、その気力も無尽蔵ではない。

 まだゴールではないとはいえ変化が皆無な荒野から森に入ったために気が緩んだ。


「そんなところに魔物とかってどうよ」


 木々の向こうから飛び出してきた巨大な馬の体当たりをギリギリでかわした。

 師匠の教えがなかったら直撃していたよ。常在戦場の心構えの大切さが身に染みた。

 まあ、師匠の攻撃全てが死角から襲いかかってくるので咄嗟の反射が鍛えられただけだけど。どうしてあの人は目の前にいたのに瞬きしたら背後に回ってるんだろう?不思議。

 ともあれ深部は消滅しても外縁部にいた魔物は無事だ。

 正直、どれだけの数が残っているのか想像できない。

 多くても少なくても不思議ではなかった。

 攻撃手段は限られている。

 基礎魔法の2種が10枚程度。

 節約しないと脱出できないだろう。

 僕は木々の茂る方へと駆け出した。

 馬が追いかけてくる音がするけど巨体が災いして距離は詰らない。

 とはいえ、そう簡単に逃げられるわけもなかった。前方や横からも次々と魔物が襲ってくる。

 昨晩ほどではないもののまだまだ魔物の数が多い。

 いくら『流星雨』でも範囲外の魔物まではどうしようもない。

 囲まれるたびに魔法を使わされる。

 閃光と砲撃で道を切り開いていくけど、その道もすぐに埋められていった。

 残り3枚。


「ってところでお前らかよ!」


 前後左右から甲殻竜が押し寄せてくる。

 昔からこいつは僕に恨みでもあるのか。それとも好きなの?愛が重いんだよ。さては食べてしまいたいほど愛してるんだな!だったら擬人化してから出直して来い!

 内心で愚痴っても現実はやってくる。

 木であっても圧し折ってしまう甲殻竜には障害物を利用した逃走が出来ない。


(やるしか、ない!)


 決意は一瞬ですませ動く。

 左右の2体を『力・進弾』で貫く。

 続けて背後の1体ごと周辺の魔物を『力・烈砲』で消し飛ばす。

 これで攻撃魔法は使い切った。

 正面からの1体に向けてバインダーから魔造紙を取り出し、顔面に向けて即座に放った。

 解毒の魔造紙を。

 無論、20倍したところで攻撃力が宿りはしない。過回復攻撃するにしてもそれは回復魔法だ。

 それでも僕の莫大な魔力を宿したそれは強烈な閃光を放った。

 光に目を潰された甲殻竜の攻撃がわずかに逸れる。

 おかげで頭突きが左手を掠めただけで済んだ。

 このチャンスは逃せない。単体の甲殻竜にとって死角となる場所は身をもって学んでいる。

 一気に背中の甲羅までよじ登った。


 甲殻竜は暴れるけど簡単に落ちてやるものか。暴れている間は他の魔物も近づけないでいる。不用意に近づいた数匹が踏み潰され、尻尾に薙ぎ払われた。

 だけど、このままではジリ貧だ。力尽きれば甲羅から落ちるし、そうでなくてももう1匹でも甲殻竜が来れば終わりだ。


 しかし、バインダー内の魔造紙は0。

 なら、新しく作るしかない。


「背中、借りるぞ」


 愛用の筆を取り出し、左腕の傷口から流れる血をインクに、20倍の魔力を込める。

 集中しろ。

 魔力だけはいくらでもある。

 術式崩壊さえ起こさなければいい。

 生き残りたければ意地でも描ききれ!


「エレメンタルの名の元に示す。

 氷の理を遍く刻むもの、

 四方彼方に其の支配を以て君臨せよ、

 氷・静峡・終結界、

 八元、万象を改竄せよ。

 其は新たなる世界の法なり」


 歪む魔法陣と汚い文字。

 それでも赤い魔力は暴走せずに定着した。

 即座に杖を突く。


「いくよ。『氷・静峡・終結界』!」


 赤い波紋が広がる。

 続けて白氷が甲殻竜を中心に広がり、大地を白色に埋めていった。

 触れるものは魔物も植物も関係ない。

 全てが時を止めたように動かなくなる。

 一気に冷却された空気が気管を刺激して痛む。

 魔造紙として消耗された甲殻竜の甲羅が灰となって散った。

 その衝撃で氷漬けになっていた甲殻竜が氷の粒になって砕ける。


(なんとか、なった)


 荒い息が白く空気に溶ける。


 見渡す限り続く氷の世界。

 近くにいた魔物はこれで倒したはずだ。

 できることなら20倍合成魔法で一掃してしまいたいところだけど、あの術式は複雑なので落ち着いた状況でなければ書き切れない。途中で魔物に襲われて中断。放置して術式崩壊なんてパターンは勘弁してほしい。

 となれば属性魔法か強化系がほしいところだけど、先程の甲殻竜は氷漬けで使えない。

 氷を解かす算段もないので諦めるか。

 考えながらも少しは休めた。外縁部を脱出するまでもう1時間ほどだろう。

 後は杖を武器に逃げ切るか、今みたいに隙を見て臨機応変に対処しよう。

 再び歩き出そうとしたところだった。

 不意に森が影に覆われて暗くなる。

 雲でも出たのかと空を見上げて絶句した。


 それは空から降ってくる。

 ふわり、ふわりと。

 風に吹かれているかのように。

 黒い綿毛が揺れて。

 黒い種子が狙いを定めて。

 高さにして1メートルはある巨大な蒲公英の種が。


 驚きから回復するなり背を向けて走り出した。

 あんな巨大なものが自然に浮遊するわけがない。

 なら、何かしらかの力が働いているのなら、それはきっと種族特性に他ならない。

 それもただの魔物とは違う。


(あんな種族特性を持つ奴がいるとすれば、そんなの……)


 ありがたくないことに予想は的中した。

 僕が走り出すのを感知したのか、それともたまたまなのか、種子が急降下してくる。

 走るのが遅れていたら直撃していた。

 重い音を立てて接地する。


 それでも油断なんかできなかった。

 もし、これが僕の予想通りなら種を振らせて終わりなんて甘い攻撃方法なんかじゃない。

 そして、自慢にもならないけど僕の嫌な予感はよく当たる。


 役目を終えたはずの綿毛がパッと宙に舞った。

 黒い無数の繊維が舞う様に美しさは見いだせなかった。

 その綿毛がチリッと火花を散らして、一斉に爆炎を噴き上げたのだから当然だ。


 背後から押し寄せてきた爆発に飲まれて僕は吹き飛ばされた。

 凍りついた地面に叩きつけられて激痛に歯を食いしばる。


 くそう。

 痛い痛い痛い!

 左手が、動かない。

 折れた、か?


 ……大丈夫だ。痛みに強いのが僕の自慢だろう。

 悲鳴を我慢できないと何度でも根性焼きを思い出せ!

 やせ我慢だけで立ち上がる。

 座り込んでなんかいられない。

 爆発で開けた木々の向こう側。

 その空にはいくつもの綿毛が浮いていた。

 更に向こうには漆黒の巨大な花のシルエットが見える。


 黒い蒲公英。

 それは毒々しい花を咲かせていた。


 魔王。

帰るまでが遠足です。

シズ君の計算通りに進むほどこの世界はシズ君に甘くありませんよ?

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