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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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45/238

40 開戦

 40


 走る。

 夜の森の中、20倍『力・浮漂』を先行させて進む。

 20倍にすると赤い光が照明の代わりになる。持続時間も一晩ぐらいは超えるはずだ。

 案内もなく未知の森を進むのは迂闊にも程があるけど、今は案内の代わりに方向を教えてくれるものがある。

 ずっと先で巨大な魔法の炸裂音がした。

 深部を目指す連中の魔法だろう。

 さすが大貴族が用意しただけあって凄まじい効果だ。

 今まで通り過ぎてきた道の何ヶ所か。森に更地が出来上がっていた。魔物の死骸は一部でも残っている方が珍しいぐらいだった。


 かなり無茶な行進速度だ。

 おそらく速力強化系の付与魔法を使っている。

 その上で接敵した魔物はできるだけ無視して、避けられない時のみ魔法で蹂躙しているのだろう。


 正直、迷った。

 僕も身体強化魔法を使うべきか否か。

 あれから王都の郊外でいくつかの20倍魔法を試しているので易々と制御を失うことはないと思う。

 けど、バインダー内に用意したのは1枚だけ。虎の子の1枚だ。追いつけなかった時のリスクが高すぎる。

 効果時間は限られている。

 どれだけ先行しているのか、音だけが頼りでは易々と使えない。

 それに加減を間違えて僕が深部を刺激してしまっては元も子もなかった。追跡のつもりが追い越して、深部に突撃なんてしてしまった日には目も当てられない。


 既に森の中に入って2時間近くが経過している。

 魔の森の広さは東京都を優に超える。

 外縁部と呼ばれる地帯が20キロほどで、そこから奥が深部となっている。この進行速度ならもう先行組が目的地に到着する頃か。


「……見えた!」


 焦燥に駆られながら走り続けると前方に3人の少年が見えた。

 1人が照明と補助。1人が魔物の撃退。1人が10枚もの魔造紙を地面に置いている。

 極大魔法。

 複数の強力な魔造紙をこのためだけに微細な調整を施し、それらを同時起動させる模造魔法、最大規模の魔法。

 術式崩壊と同じく人工災害と呼ばれる破壊の権化。

 師匠の合成魔法はこれを1枚でまとめたものともいえる。とはいえ効率の面で性能差は歴然としている。


「やめろ!」


 僕の声が届いたのか否か。

 少年たちは泣き笑いのような表情をしていた。

 極大魔法を準備していた少年が10枚の魔造紙を続けて杖で突いた。


「いけえっ!『風火・絶層・炎獄・葉刃・相乗式=朱皇創生』」


 赤い柱が地と天を繋ぐ。

 生み出されたのは炎の竜巻だった。


 森の夜闇を火影が焼き払った。

 風が木々を斬り飛ばした。

 炎が風に触れた物を燃え上がらせた。

 内部に生み出された数百枚の刃物が吐き出された。

 天空まで巻き上げられたものたちが地面に叩きつけられて潰れていった。


 深部と呼ばれる森が、闇に潜む魔物が、区別なく刻まれ、焼かれ、駆逐されていく。

 竜巻は数分も進み続けただろうか。

 後に残ったのは焦土。

 熱の籠った空気が撒き散らされている。

 何も知らなければそこが森の1部だったなどと想像もできない有様だった。


 炎熱地獄。


 そんな言葉が思い浮かんだ。

 壊れた笑いを浮かべる3人の下にようやく辿り着く。

 有無を言わさずに殴り飛ばした。


「呆けてる場合じゃない!すぐに逃げるよ!」


 追いつけなかった以上、次善に切り替えるしかない。

 地面に転がったまま僕を見上げてくる3人を無理やり引き起こす。

 燃える木々の明かりの中からゆっくりと魔物たちが姿を現してきていた。獣や虫や鳥、中には竜の巨体まで見える。

 どれだけ数が増えていくのか。

 極大魔法はかなりの数の魔物を殲滅していた。それこそ100や200は超えていたかもしれない。

 なのに、森の奥から現れる魔物の数は際限がない。

 100?

 200?

 500?

 そんな規模じゃない。

 もう1000に届くのではないか?

 それなのに増加はまだ止まる気配がない。

 魔物の集団は号令を待つかのようにこちらを見たまま森の跡地に集まってくる。

 得体の知れない不吉さに背筋が震えた。


「走れ!」


 恐怖を払うように声を張った。

 3人が思い出したように走り始める。

 それがきっかけとなったのか、他の要素があったのかはわからない。

 魔物の集団が動き始めた。

 初めはゆっくりと。

 徐々に速度を上げていく。

 次第にそれは暴走と呼ぶべき津波となった。


 これが平地であればすぐに追いつかれていただろう。

 森という立地が集団の追撃を遮ってくれたおかげで波に飲み込まれることだけは避けられた。

 しばらくは何事もなく走っていられた。背後から聞こえる凶声と木々がへし折られる音を無視できれば。

 だけど、易々と逃げられるわけもない。

 30分も走った辺りで巨体の魔物に先行した虫や鳥の魔物が襲い掛かってきた。


「そっちの魔造紙は?」

「もう、ほとんど、残って、ねえよ」


 使えない。

 本当に片道分しか渡されてなかったんだな。


「いくよ。『力・進弾』」


 なるべく多くを巻き込むように閃光を撃つ。

 射線上の魔物は絶命するなり負傷するなりするけど数が多すぎた。

 魔法の無駄遣いはできない。

 僕は襲い掛かってきたものを杖で打ち払いながら3人を急がせた。幸い、速度強化の魔法が残っているらしく貴族子弟にしては走れている方だ。

 それも30分ほどで終ってしまった。

 赤い魔力光が消えた途端に速度がガクッと落ちる。


「もう、ダメだ」

「泣き言いってる暇があるなら走るんだ」


 座り込もうとする尻を蹴りあげた。師匠直伝の気合注入法だ。

 とはいえ、気合だけで体は動かない。次第に獣のような魔物が背後に見えてきた。

 これが限界か。

 残り15キロ以上。

 単純に外へ出るだけなら難しいことではない。

 『力・烈砲』で近くの魔物を打ち払って時間を作る。


「防御系の魔造紙はある?」

「い、1枚だけなら」


 なら、いける。

 3人が入るように使わせる。


「来るんだ。『封絶界――積鎧陣』」


 3人が赤い球体に包まれた。

 これも用意された魔造紙なのかなかなか頑強そうだ。それに球体なのが素晴らしい。

 僕も魔造紙を抜き取る。切り札の1枚。

 身体強化の付与魔法。無論、20倍。


「いくよ。『刻現・武神式・剛健』」


 赤い彗〇モードだ。まあ、実際は3倍どころじゃないけどね?

 僕は3人の入った赤い防御球を担ぎ上げた。少年3人分の体重など軽いものだ。


 そして、投球モーションに移る。


 大きくふりかぶって、後ろ足から前足に体重を移動させ、絶妙のタイミングで肩・肘・手首・指先へと力を連動させ、渾身のストレートを投げ放つ!


「とんでっけー!」


 この世界にスピードガンがないのが悔やまれる。

 距離にして15キロにも及ぶ大遠投。その速度は既に新幹線さえも凌駕していただろう。

 中は大変な惨状になっていそうだけど大怪我をするほどではあるまい。

 衝撃波が森の木々と一緒に魔物たちも吹き飛ばした。


「あ、ちょっと曲がった」


 途中で進行方向がずれてしまって行方が見えなくなったけど、勢いが失われたわけじゃない。

 高価な魔造紙だけあってなんとか耐えてくれたようだ。

 森から出てしまえば逃げられるだろう。今ので距離も稼げている。

 ……気を失っていないことを祈ろう。


 僕は続けてバインダーから魔造紙を引き出した。

 逃げ切るだけなら簡単だ。このまま全力疾走すれば先に逃げているリエナ達だって追い抜ける。

 だけど、僕はこの魔物の大軍を倒さなければならない。

 王都まで馬車で10日。魔物の足なら馬車以上の速度で辿り着くだろう。

 おそらく、背後から迫っている魔物の総数は万を超えている。軍が到着したところで討伐できるとは思えない。

 少なくとも半分以下まで削らなければ王都は壊滅する。

 もちろん、スタンピードが途中で治まる可能性はあるけど、それは分が悪すぎる賭けだ。

 おじいちゃんの時の魔物は結局、ほとんどが死ぬまで暴走を続けたという。

 なら、まずはこいつらの足を止める。


「いくよ。『縛鎖界――断崖郷』」


 僕の前方に広大な、それこそ森を覆い尽くしかねない程に、広大な規模の結界が生まれた。

 効力が切れるまで半日は掛かる。


 僕はドーム状に立ち昇った赤い壁を内側・・から見上げた。


 できることなら、応援が来るまで結界の外で待っていたいところだけどね。

 或いは以前のように1ヶ所から砲台みたいに撃ち続けるようにしたかった。


 とはいえ、これだけの広さと期間を封じるには強度を犠牲にするしかない。

 だから、結界の強さは少し硬いぐらいだ。大量の魔物が集中攻撃でもすれば破られてしまうだろう。

 ひとつ所に留まるには分が悪い。

 中から結界を破られないように撹乱しなければならない。

 リエナもルネも連れてこなかった理由は簡単だ。

 僕が全力で魔法を使うとすれば敵も味方もない。絶対に巻き込んでしまう。


 振り返る。

 魔物たちの群れがすぐそこに迫ってきていた。

 折角の身体強化魔法だ。時間がもったいない。

 戦闘の狼っぽい魔物を一撃で消し飛ばした。

 派生した衝撃波が爆撃のように魔物たちを吹き飛ばす。

 それでも魔物の突撃は止まらない。

 無尽蔵という言葉が脳裏を過ぎる。


 恐怖はある。

 どんなに鍛えたところで僕は13歳の子供だ。

 魔造紙が尽きればそこで終ってしまう。

 けど、逃げればもっと多くの人が大変なことになる。

 正直、ケンドレット家の奴らなんかはどうなっても気にならない。

 だからといって、その他の人たちまで巻き込まれて死んでしまうのは嫌だった。

 いや……違う。

 違いはしないけど、本当でもない。

 馬鹿なことをするしかなかった3人たちを救うまでは我慢していた。

 それを達成した今は胸の中で溢れかえりそうな怒りが渦巻いている。


「怒りのぶつけ先に丁度良かっただけかもね」


 さあて、僕の八つ当たりに付き合ってもらおうか。

 なあに、自棄ではないんだ。

 勝算はある。

 奥の手もね。

 使いたくないけど。

さて、また悪い癖が出ているのか、勝算があるのか。

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