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魔法書を作る人  作者: いくさや
少年編
4/238

3 模造魔法

説明回です。

 3


 結論から言うと僕の想像していた魔法とはかなり違った。


 僕が考えていたのは呪文を詠唱してぶっ放すようなの。

 いや、無詠唱でもいいけど。ごくごく一般的な魔法。

 だけど、この世界での魔法は少し特殊だった。


 呪文は唱えない。

 魔力を集めたりしない。

 子供でも老人でも誰でも使うことはできる。

 これだけ聞けば理想的な技術に思えるよね。けど、そうは甘くない。続く一言が重要だった。


 ただし、魔法は魔法書がないと使えない。


 最初から説明するよ。

 魔法の歴史は意外に浅い。

 1000年前まで魔法というものは存在していなかった。

 妖精や竜族や魔族の特殊能力はあるけど、それは人類には再現不可能な奇跡だった。

 そのため人類は他種族と比べて数こそ多いものの個人では対抗するのが難しい時代があったという。

 それを変えたのが始祖と呼ばれる最初の魔法使い。

 彼らは魔法を生み出し、当時侵略していた魔族を撃退し、人類の希望となった。

 やがて始祖たちは寿命を迎えて亡くなるが技術は遂に伝えられなかった。残されたのは彼らの魔法を記した数多くの魔法書だけ。

 これらの魔法書は原書と呼ばれ、国宝レベルの扱いを受けている。1冊で貴族並の一生を過ごせるほどの大金にもなるという。

 1原書=1ニート生活。働かないでいい生活とか憧れる。

 しかし、人類の求めに対して原書の数はあまりに少ない。

 そこで人類は総力を以て原書を再現しようとした。呪文の文句や魔法陣などの図式はもちろん。原書の紙、インク、書いた筆に至るまで試行錯誤した。

 結果、誕生したのが模造魔法。

 ありてい言ってしまえば原書の劣化コピー。

 原初と比べて威力は遥かに及ばず、使えば一度でページが灰になり、放っておくと折角の術式が霧散してしまうというお粗末な代物だった。

 それでも前述のメリットもある。

 魔法書を開いてページを杖で叩けば効果は発動。詠唱や魔力集中、個人差などもないというのは確かなメリットだった。

 そうして1000年。人類は原書を再現しようと努力を続けている。

 実際は原書の偽書のそのまた偽書みたいなことになっているようで再現度の高い魔法書は騎士団や宮廷魔導士しか持っていないみたいだけど。


 まとめると模造魔法とは、原書をできるだけ再現できるよう良い紙とインクと筆を用意し、呪文や図式を正確に再現し、損耗しないよう保存しながら使うもの。


 以上、興が乗りに乗ったおじいちゃんが教えてくれた内容だった。

 まさかここにきてお習字になるとは。しかも素材に拘らないといけない高級嗜好とか。

 それに再現ということは始祖の魔法しか使えないんだ。うー、夢が速攻で破れた。

 いや、諦めるのは早い。似たような魔法があるかもしれない。呪文詠唱は諦めて心の中で唱えればいいんだし。僕たちの戦いはまだまだこれからだ。


「おじいちゃん、教えてくれてありがとう」

「シズは本当にいい子だのう。それに7歳でこんな難しい話を覚えて天才かもしれん!」


 おじいちゃんはすっかり舞い上がってしまっていた。

 部屋の奥から小さな籠を持ってくると、なにやら中を漁り始める。


「おじいちゃん?」

「おお。これだ。いいかい、シズ。これは儂の魔筆の予備だ。これをシズにあげよう」


 そう言って差し出されたのは古い筆だった。

 赤茶色の軸に灰色の穂首。使い込まれているけど、ちゃんと大切に扱われていたのか骨董品のような重みを感じた。


「いいの?」

「これでたーんと字の練習をするんだぞ。魔法書を書くのに字は大切だからなあ」


 いくら孫のためとはいえいいのだろうか。

 予備とはいえ祖父の大切なものに違いない。

 確かに目標に向かって全力で向かうと決意はしているけど、何もかもを犠牲にするつもりなんてない。それではもうひとつの目標が果たせなくなるから。

 僕の迷いをおじいちゃんは優しそうな笑みで受け止めてくれた。


「道具は使わなければどんどん傷んでいく。大切なものだからこそ使ってほしい」

「でも」

「それに儂はシズがこれを継いでくれると嬉しいんだよ」

「おじいちゃん……ありがとう。大切に使うからね」


 これ以上、遠慮してはおじいちゃんの心意気を無駄にしてしまうと思った。

 遠慮は不安の表れにもなる。ここは期待に応えることで感謝を示すべきだ。

 おじいちゃんの気持ちを受け止めるつもりでそっと筆を受け取った。実際以上の重みを感じてしまう。


「でも、練習ってどうやればいいの?」

「シズは魔法を使いたいのかい?それとも魔法を作りたいのかい?」


 質問に質問が返ってきて、その内容も掴みきれずに首を傾げてしまった。

 使うか、作るか?


「魔法を使いたいなら魔法士。王国の騎士とかがそうだな。魔法を作りたいなら書記士。魔法士のために魔法書を作るのがお仕事だよ」


 なるほど。分業になっているんだ。

 確かに一人で全て作り上げるというのは難易度が高そうだし効率が悪い。

 改めて考えてみると僕の場合は。


「両方?」

「はっはっはっ!シズは魔導士になりたいんだな!すごいなあ!」


 よかった。両方とも扱う人もいるんだ。魔導士というらしい。

 僕が目指すのは魔導士。

 目標が確かな形になった。


「それで、どうすればいいの?」

「魔法士なら体が資本だ。よく鍛えないといかん」


 代表格が騎士だもんな。それはそうだ。研究ばかりのもやしでは折角の魔法を有効活用できなくなってしまう。


「書記士なら筆に魔力を通して字の練習だな」

「魔力?」

「筆を強く握って筆先をじっと見るんだ」


 言われたとおりにやってみると筆先が赤く光り始めた。

 おお。これが魔力か!すげえ!オラ、わくわくしてきたぞ!

 なんて興奮したせいですぐに光は消えてしまった。


「シズはちゃんと魔力を持ってるようだな。よかったの」


 ちょ、待って。おじいちゃん。


 危なく噴き出すところだった。

 魔力を持ってない可能性もあったのか。

 聞いてみると10人に1人ぐらいの割合らしい。危ない。スタートダッシュでこけて顔面から地面にダイブするところだった。

 そんなことも確認しないで筆を先に渡してくるおじいちゃん。もう少しで背景に「!?」とか浮かんじゃうところだったよ。


「テナの子なら大丈夫だと思っとったがの」


 ああ。遺伝するんだね。

 おじいちゃんの健忘症を疑わずにすんでよかった。


「その魔力を込めた状態でなんでもいいから文字を書くと文字に魔力が宿る。魔力は使えば使うほど成長していくから頑張るんだぞ?」

「すごーい!どんどん練習するね?」

「とはいえ、成長は人それぞれだからの。10までしか上がらん人もおれば、100や1000まで伸びる人もおる。シズはどんな魔法使いになるのか楽しみだよ」


 やっぱり個人差はあるんだ。

 大丈夫。僕の前世は魔法使い。素質は十分だ。

 ちくしょう。強がりなんかじゃないんだからね!ぼ、僕なんかに構っちゃその子がかわいそうだなって思って自分から距離を取ってたんだよ!

 ……泣いてなんかないやい。


 心を開いていけば恋人もできるんだろうか。

 子供の頃から僕のことを好きになるよう囲い込むとか、やろうとすればできるんだろうなあ。

 でも、それって洗脳だよね。そういうので恋心を操作するのってどうなんだろ?

 あ、童貞オタクはロマンチストだから童貞とか言わないで。心が折れちゃうからね?膝から崩れ落ちるから。まじで。

 でも、友達もほしいけど恋人だってほしいなあ。

 2代続けて童貞を生涯の友にするのは勘弁してください。それぐらいならどこぞのイカロスさんのように勇気だけ友達の方がいい。アンパン男を超える友達の少なささ。イカロスさん、まじリスペクトっす。


 ダメだ。

 思考が邪まかつ変な方向にずれてる。

 今は魔法に集中しよう。

 頭脳は大人でも体はまだ子供なんだから。思春期になったら考えればいいんだ。

 ……最低限の身嗜みだけは気を付けておこう。

 女子高生のバイトに『店長ちょっとにおいが……』なんて言われた時の記憶がフラッシュバックするから。徹夜だったんだよ。


 最後はあらぬ方向に行ってしまったけど魔法の知識は手に入れた。

 おじいちゃんはこの後、村長さんの所に行くそうなので僕も家に帰ることにする。本当は練習も見てもらいたかったけど邪魔しちゃ駄目ってお母さんにも言われてるしね。

 丁寧にお礼を言ってから手を振って帰る。


「気を付けて帰るんだぞー!」

「知らん人について行っちゃいかんぞー!」

「寂しくなったらおじいちゃんの所に来ていいんだからのうー!」


 数歩進むたびに声が飛んできた。

 おじいちゃん、寂しいのかなあ。

 これからは勉強の日以外も遊びに来よう。

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