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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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31/238

26 師匠

 26


「このあほうが」


 ゴツンと頭の中で音がした。

 くうっ、痛い。お父さんの拳骨ほどじゃないけど、痛い。

 師匠の拳骨が落とされた頭頂を押さえて痛みに耐える。


「なんですか、いきなり」

「いきなりじゃねえよ。お前の間抜けさに呆れかえっただけだ」


 この人は呆れたら人の頭を叩くのか。


「違う。俺が腹に据えかねたのはお前の性格だ」


 いきなり人格批判とか勘弁してほしい。

 魔造紙の模写を最後まで終わらせて、しっかりバインダーに収納してから向かい合う。まったく、術式が少し歪んだじゃないか。いや、嘘です。師匠は字を書いている最中は叩いていません。歪んだのは僕の腕前のせいです。言い訳しました。


 しかし、なにがなんだかわからない。今日は師匠の所有する魔造紙を模写させてもらっていて、その合間の筆休めに途切れ途切れの世間話をしていただけだ。

 性格を責められる心当たりがない。


「お前、なんて言った?」

「え?もっと友達が欲しいなあって」


 いや、ルネはできたけどね。1人だけっていうのはつらいなあって。

 そしたら師匠が「なんの冗談だ?」と聞いてきたので、さすがにムッとしたので「本気ですけど」と返したら拳骨をくらった。


 師匠は吸っていた煙草の煙を僕に吹き付けてくる。

 って、不健康なものを!ん?あれ?臭くない。むしろいい匂い!これ……香木だ!?

 なんてものを吸ってるんだ。さすがは妖精。ファンタジーな生態をしている。


「お前、自分の現状を何もわかってないな」

「いや、みんなにハブられているのはわかってますけど」

「それがわかってないって言ってるんだよ。責任転嫁すんな」


 もう1発、はいりましたー!

 くうう。毛根が死んだらどうしてくれるんだ。


「その様子じゃあそもそも学園内の抗争にも気づいてねえな。性根が歪んでるとは思っていたがここまでとはな」

「学園の抗争?」


 ここはいつから『雑誌』とか『王者』に連載している不良高になったの?背景は常に『!?』なんですか?ローブだと思っていたけど、あれって実は長ランだったの?

 レグルスは舌打ちをひとつすると黒板に何かを書き始める。


「この魔法学園には貴族が多いのは知ってるな?」

「まあ、大半の生徒は貴族ですよね」

「なんでだ?」


 レグルスに師事してもう1ヶ月。師匠の方針はわかっているので素直に考える。

 この人の基本方針は「甘えるな」だ。


「優秀な魔法使いは貴族に多いからです」

「貴族の好きなもの、挙げてみろ」

「金と美女と権力」

「即答かよ。まあ、間違っちゃいねえ。全員がそうとは言わねえがな。それが欲しいならどうすればいい?」


 色々あるだろう。

 でも、話の流れからすると……、


「力を持つ?」

「そうだ。この王都じゃあ話し合おうが取引しようが、願望を通すには力がいる。力があれば無茶も通る」


 そこは貴族の得意分野だろう。

 縮図は学園でも見られる。


「その貴族から見てこの学園はどうだ?」

「……宝の山ですね」

「なら、どうする」

「スカウト、ですか?」

「だろうな。優秀な手駒は多ければ多いほどいい。後ろ盾のない貴族も有力な陣営に入れれば安泰だな。後は決まってる。優秀な生徒の取り合いだ」


 うわあ。学園に貴族の抗争が蔓延ってる。


「そんなこと少し考えりゃあわかるだろうが」

「それは……そうですけど僕の村じゃ……」

「けどじゃねえ。つまらない言い訳するな。ここは王都でお前の故郷じゃねえのは最初からわかってんだろ」


 また頂きましたー!

 手が早すぎる。暴力教師め。PTAに訴えるぞ。すいません。睨まないで。嘘ですから。

 それにしても権力抗争か。考えもしなかった。師匠の言うとおり考えてみればすぐに答えが出てくることなのに。


「考えないのはお前の性根が歪んでるからだ。根本的なところで他人に興味を持っちゃいないんだよ」

「そんなこと!」

「ないか?じゃあ、お前の知ってる学生の名前を言ってみろ。何人言える?」

「……でも、村じゃ」

「話を逸らすな」


 ゴツン!

 頭の形が変わりそうだ。体罰はんたーい!


「お前は友達が欲しいなんて言いながら向こうから来てくれるのを待ってるだけで何もしちゃいねえんだよ。それどころか自分の置かれている立場も把握していねえと来たもんだ。どの口で言いやがる」

「……僕の現状?」

「先に言っておくが酷いもんだぞ?

 ひとつ、バカげた魔力量で模造魔法の常識を覆した異端児。

 ひとつ、王都じゃ伝説級の魔法使いの肉親が後ろ盾。

 ひとつ、没落した『灰のエルサス』の後継者と懇意。

 ここまで混沌とした奴はお前ぐらいなもんだよ。おかげで貴族の連中もどう接触すればいいかわからねえったぁ、大したもんだ」


 おまけに師匠が学園の異端教師ときたもんだ、と付け加えた。それは師匠が言っちゃダメじゃなかろうか。

 ルネのことまで絡んでるなんて。本人にそんなつもりはないけど、周りがどう見るかは別なんだ。


「で、友達はできるのか?」

「……できるわけがないですよ」

「あほう」


 ハイ、キター。


「なんですか!こんな厄介な奴と関りたい人がいるわけないじゃないですか!」

「なら厄介な状況をどうにかしろ。その前から腑抜けたこと言うんじゃねえ」


 正論だ。

 でも、そんなの。どうしろって。

 師匠が盛大な溜息を吐いた。


「まずは現状を確認して来い」

「もう認識は改まりましたよ」

「違う。お前はようやくスタートラインに立っただけだ。酷い状況だから諦めるのか?違うだろ。改善すればいい。そのためには?」


 現状を確認する、なのだろうか。

 そうだ。今まで僕が考えていたことは根本的なところからずれていた。徹底的にその辺りから確かめないといけない。

 なら、まずは情報収集からだ。


「あー。今日はここまでだ」

「え?でも、まだ師匠の魔造紙、今日の分を書いてませんよ」

「いらん。急がんからな。それに気もそぞろな奴に書かれたくねえんだよ」


 さっさと行けとばかりに手を振られた。

 素直じゃない人だよ。

 くそう。

 口は悪いし、手は早いのに、意味もなく暴力を振るったりはしないから嫌いになりきれないんだよなあ。

 結構、今みたいに優しいところもあるし。


「決めたならさっさと動け!お前らの時間は短いんだぞ!」

「はいぃ!」


 もう。怒鳴らないでよ。

 本当に妖精なの?そっちはせっかち過ぎだ!

現代日本では確実に訴えられますね。

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